『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第30話 誕生『縫緋まとい』~祈りを纏う者、声を縫う衣~

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「これからは、君がオレに敬意を捧げるんだよ」
 顔を上げさせ、真摯に説いた。
 輝いていた神像は泥に埋もれ、歪んでいた。

 水の防壁を張っていたようだ。
 それが、派閥の女子たちによって乱されて様子がうかがえた。

 意図的に邪魔されたということではなく。
 良かれとしたフォローに足をすくわれた。
 魔力の流れの残滓が、そんな風に見えている。

『水神の流れ、信者の手を知らず』。
 そんな故事成語ができそうだ。

 かつては崇められていた彼女。
 舌を巧みに動かす彼女が、今は儀式の中で沈黙を守る側となった。
 まさに『神像』というところだ。

 さて、舌を動かすと言えば、この『妖怪』!
 もうなににするかは決まっていた。
 水に愛され、水に呪われたのが彼女だったわけだし。

『垢嘗(アカナメ)』さん、である。
 夜中の風呂場に侵入して、洗い残しの垢やカビを舐めとる妖怪だ。
 一般に『赤い肌で醜い顔、長い舌で風呂桶をペロペロ嘗める』そう言われている。

 風呂場、つまりは水場の妖怪なのだ。
 水魔法がさらに得意になってくれることを期待したい!



「さーてと。今回もビジュアルにはこだわりたいよね~」
 しらゆきちゃんが素晴らしい出来だったからね!
 アイテム制作機能で、装備品も作れるのはありがたい。

「君たちにも手伝ってもらおうかな~?」
 周辺で倒れている『薫様』の取り巻き女子を見下ろした。
『薫様』を代表とするギルド、『蒼の抱擁』のメンバーたちだ。

『妖怪』には『指定制服』が基本衣装とする。
 これは、沢辺みどりで決まった話だ。
『探索者』と同じ。

 だから、アカナメさんにも『制服』を着てもらう。
 その制服を、彼女たちの祈りと記憶を縫い合わせて仕立てる。

 装備品としての制服を作りながら思う。
 この『制服』もまた『妖怪』。
 キャラクターの一人だと。

 やっていることはゲームのキャラクリ。
 しかし、その裏には儀式的な意味も編み込まれる。

 キャラクターには『背景』が必要。
 それが、深みをもたらす。
 これから作られる制服は、信仰の証であり、犠牲の記録でもあらねばならない。

 縫い目のひとつひとつに、かつてお嬢様を崇めた少女たちの『崇拝の証』。
 物質的要素も含んでの『布らしきナニカ』が縫い込まれている。 
 毛穴は記憶を語り、血管は祈りを流し、遺志在る者の顔が布地に浮かび上がって、次の犠牲者を待っている。

 制服の繊維は、通常の布ではない。
 物質化した信仰と記憶である。
 着用者と融合し記憶を吸収することで、縫い目が脈打ち、布が呼吸を始める。
 生きているかの如く。
 それは『信者』たちの想いが反映されている証。

 この制服を着る者は、もう人ではない。
 主は、かつて『信者』と呼ばれた少女たちの信仰を束ねて身に纏う。
 胸元の縫い目は、儀式のたびに増えるだろう。

 呼吸の名残は今も健在で、血の管は月光に脈打つ。
 制服の布地に浮かぶ顔は、彼女を讃えながら死んだ者たちの魂の残滓。
 彼女の動きに呼応して、縫い目がささやく。
「次はどんな『想い』を縫い合わせる?」

 その制服は、崇拝の証。
 そして、永遠の契約

 崇拝は物質を伴って切り取る。
 純粋な『想い』に穢れが吸い寄せられる前に、崇拝対象者に近づかんとした彼女たちの意思をもって製作される『シルクスキン』へと昇華させる。
『シルクスキン』とは『信仰と記憶が織り込まれた霊布』だ。

 まず、胸元の布地を作る。
 心臓の上にあった『シルクスキン』に至るものは、最も信仰が濃い。
 かつての祈りの残響と記憶の波はまだ脈打っている。
 それを丁寧に伸ばし、縫い目を隠すようにリボンで覆う。

 次に、袖とスカート。
 腕と太腿の『シルクスキン』は、動きに合わせてよく伸びる。
『遺志』在る者の顔が浮かび上がるよう、縫い目の下に想いを仕込む。

 制服は目覚め、次の信者を待ち始める。
『蒼の抱擁:学衣』=『蒼衣』の完成である。

 こうして『装備』はできた。
 その器に収める魂は?



 温和そうな造作の顔。
 その裏に冷酷な心を宿した少女が、『妖怪』に生まれ変わる。

 彼女の舌は、夜の静けさをなぞる。
 長く、湿り気を帯びて、忘れられた穢れに、静かに口づける。

 かつては、『お金持ちのお嬢様』。
 そう呼ばれていた娘が、一流のグルメを味わった舌で人の垢を貪る。

 肌はぬめり、瞳は濁り、爪は月光を弾く。
 夜の湯殿に潜み、誰にも知られず穢れを拭う。
 それが、彼女の新たな役目だった

 それが、アカナメの本来の姿
 湯殿の闇に潜み、誰にも知られず、誰にも語られず。

 けれど今、彼女は制服を纏う。
 信者の『崇拝』を縫い合わせた、儀式の布。
 呼吸が語り、血が祈り、遺志在る者が胸元に浮かぶ。

 制服は彼女を隠さない。
 むしろ、彼女を讃える。

 微笑の奥で、舌が祈りをなぞり、遺志が背に張り付く。
 その姿は、もはや妖怪ではない。

 それは、信仰の象徴。
 それは、肉体の神話。

 彼女が袖を通した瞬間から、制服は彼女の鼓動に呼応し、静かに語り始める。
 意志をもって語り始める。

『わたしたちは、彼女の制服になった。
 彼女に憧れ、彼女に尽くし、そして彼女に喰われた。
 今、わたしたちは彼女の胸元に浮かび、彼女の舌が垂れるたびに、次の『わたしたち』を呼び寄せる』。

 そして、次の犠牲者を呼ぶ、月下の微笑み。

 《胸元の声》
 わたしは、彼女を一番近くで見ていた。
 憧れは鼓動になり、鼓動は編みこまれ『布』になった。
 今、わたしは彼女の胸元に縫われている。
 リボンの下で纏われ、彼女の心臓の音を聞いている。

 《左袖の声》
 わたしは、彼女の手を握ったことがある。
 その温度を忘れたくなくて、自らの腕を差し出した。
 今、わたしは左袖に縫われている。
 彼女が誰かに触れるたび、わたしもそこにいる。

 《スカートの裾の声》
 わたしは、彼女の後ろを歩いていた。
 いつも一歩下がって、影の中にいた。
 今、わたしはスカートの裾に縫われている。
 風に揺れるたび、彼女の足元を守っている。

 《背中の声》
 わたしは、彼女に裏切られた。
 でも、それでも離れられなかった。
 今、わたしは背中に縫われている。
 彼女が振り返るたび、わたしは沈黙する。

 《襟の声》 わたしは、彼女に名前を呼ばれたことがない。
 でも、彼女の声が好きだった。
 今、わたしは襟に縫われている。
 彼女が話すたび、わたしは震える。

 制服は、彼女のもの。
 でも、わたしたちのものでもある。
 わたしたちは、縫い目の中で生きている。
 そして、次の声が加わるのを待っている。

 わたしは、彼女の肌に触れている。
 わたしは、彼女の鼓動を聞いている。
 わたしは、彼女の歩みを導いている。

 わたしは、胸元の憧れ。
 わたしは、袖の温度。
 わたしは、裾の忠誠。
 わたしは、背中の沈黙。
 わたしは、襟の呼ばれぬ名。

 わたしは、彼女の信仰。
 わたしは、彼女の罪。
 わたしは、彼女の力。

 わたしは、制服。
 でも、布ではない。

 わたしは、纏。
 わたしは、記憶。
 わたしは、遺志。
 わたしは、契約。

 彼女が笑えば、わたしも笑う。
 彼女が舌を垂らせば、わたしは次の声を呼ぶ。

 わたしは、彼女のもの。
 でも、彼女もまた、わたしのもの。

 あなたが歩くたび、わたしたちは、あなたの背中で震えている。
 あなたが笑うたび、わたしたちは、あなたの胸元で泣いている。
 

 こうして、『薫様』の取り巻きたち『蒼の抱擁』数人から得た『シルクスキン』を縫って制服『蒼の抱擁学衣=蒼衣』を作り上げた。
 実際は何人かのデータを組み合わせて『制服』の形にしたということだが、同じことだ。
『素材』という意味ではオリジナルと遜色ないものに仕上がるのだから。

 形状は、一般的なセーラー服の外観を保っている。
 長袖の上衣とプリーツスカート、胸元にはリボンが結ばれている。

 ただし、素材は繊維による布ではなく、『崇拝』によってもたらされたもの。
 そのため、色は紺ではなく白でもない。
 語られぬ記憶を滲ませた、垢の緋。

 表面には呼吸の痕跡が開いていて、部分的に血の記憶が透けて見える。
 縫合痕のようなステッチが各部に施されていて、特に襟元と袖口には、複数の『布』が継ぎ接ぎされていることが確認できるだろう。

 胸元はV字に開いており露出部分は控えめだが、質感が生々しい『シルクスキン』、生者の光沢が光を反射している。
 リボンは赤く、やや色ムラがあり、命の色がにじむような赤。

 スカートの裾には、微細な皺とともに、沈んだ瞳が、布の奥からこちらを見ている。
 これは『蒼の抱擁』メンバーの遺志を示す視覚的表現。
 複数の顔が布地に埋め込まれるように配置されている。

 全体として、制服は人体の一部としての質感を持ちながらも、衣服としての構造を保っている。
 着用者の動きに合わせて、皮膚のように伸縮し、光沢と陰影が生々しく変化する。

 この制服は、単なる衣装ではなく、信仰と犠牲の象徴として機能しているのだ。
 ゆえに、その強度は『高レベル探索者』の皮膚を上回る。

 物理耐性、魔法耐性ともに高い水準にあった。
 その来歴から、着用者とのズレも少ない。
 衣服としても装備としても、最高のものだと言えるだろう。

 なにより・・・。

「生きたているから、当然に垢が出る。それは祈りの滓。信者たちの供物。アカナメちゃんは喜ぶ。『縫緋まとい』は喰らう。すべてが繋がった。ああ、なんて滑らかなんだ」
「『縫緋』は、縫い合わされた祈りの緋色。
『まとい』は、纏う者と纏われる者の契約。

 彼女に寄り添い、担ぎ上げていた者たちが彼女を支えていく。
 生前の悍ましく歪な形が、『妖怪』となって正される。

 そうだ。
 彼女たちは『元から』こうだった。
 オレはよりシンプルに『形』にしただけ。

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