『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第87話 妖怪制作 ~女郎蜘蛛(真梨華)~

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『レイド』は失敗した。
 だが、それで『終わり』とはならない。

 生存者が、まだ数名いる。
 64階層には先駆けB班五名。
『糸の部屋』には後詰の女子がやはり五名。
 通路を一人歩く『大盾を持った先駆けA班の元サブリーダー』。
 62階層には『糞球』に捕らわれたまま放置されている双子。

 都合、13名だ。
『巣』で生産活動に勤しんでいる者たちは含めない。

 また、今いる生存者を『巣』に囲う考えもなくなっている。
『ダンジョンレベル』が70にまで上がった結果、魔力の自然回復量がレベル1の頃とは比較にならないほど多いのだ。
『魔力生産器』の生産魔力の必要性がかすむくらいに。

 なにより、『レイド』を企画した『教師陣』にはまだ手が届いていない。
『凶器』とされた者たちをいくら壊しても、実際に凶器をふるった『犯人』を裁かなかったら本末転倒だ。
 だから、まだ終われない。


「というわけだから、彼女に働いてもらわないとね」
 赤く塗装された体を見下ろした。

「ギィ、ギィギギギギギッ・・・」
 口から、人のものではない音を出している『サブリーダー』、真梨華だ。
 生命活動はすでに絶たれている。
 しかし、『ダンジョンサブマスター』となっていることで、その存在は半ばモンスターだ。

『人間』として死んだくらいでは止まらない。
 それ以上になれないでいるようではあるけれど。

「妖怪化のプロセスを開始する」
 厳かに宣言した。

 ◇魂の問い(真梨華の魂)◇

 ああ・・・冷たい。
 彼の血が、私の手を濡らす。
 でも、それより冷たいのは、彼の目。

 もう私を見ない。
 もう、必要としていない。

 私は、あなたのために生きてきた。
 隣に立つために、どれだけ自分を削ったか。
 でも、あなたはあの女を見ていた。
 私は、ただの『便利な人』だったの?

 静かになった。
 誰にも邪魔されない、二人だけの世界。
 それが、私の幸せ。

 ◇欲望の叫び(真梨華の欲望)◇

 だから、壊したの。
 あなたを、そして私を。
 これで、誰にも奪われない。
 あなたは、永遠に私のもの。

 あなたがいないなら、私もいらない。
 一緒に沈みましょう。
 濁った水の底へ
 誰にも見つからない場所へ。

 私の最後の願いは、あなたの記憶に残ること。
 それだけで、私は満たされる。

 ◇愛の囁き(真梨華の愛)◇

 ふふ・・・見て?
 あなたの首、こんなに細い。
 私の手で包めるくらい。
 かわいい坊や。

 あなたの笑顔は、私だけのもの。
 だから壊したの。世界ごと。
 あなたはもう、どこにも行かない。
 私の腕の中で、永遠に眠るの。

 血の匂いが甘くて、胸が高鳴る。
 愛してる。愛してる。愛してる・・・。

 ◇変化(真梨華たち視点)◇

 暗い。冷たい。静か。
 それが死だと思っていた。
 でも──違った。

「目を開けるんだ」
 命令だった。拒否できない。

「君は終わっていない」 
「君は、オレのものになる」

 言葉が染みてくる。
 それだけで、満たされた。
 私を必要としてくれる。
 終わらせない。
 それが、私の『生』の意味。

 ◇変容(真梨華たち視点)◇

 蜘蛛──嫌いだった。
 それなのに、混ざる。
 人間の体に、蜘蛛が入り込む。

 脚、目、沈黙。
 でも、逃げられない。
 彼がそう望んでいるから。

「君は美しい」 「君は、女郎蜘蛛になる」

 彼の望みが私を溶かす。
 脚が伸びる。目が増える。糸が滴る。
 人間の形がほどけていく。
 でも、涙は出ない。心は震えない。

 これが『愛』なら、それでいい。
 怪物になっても、必要としてくれるなら。

 私は、あなたの『女郎蜘蛛』。
 あなたのために糸を張り、獲物を捕らえ、微笑む。

 ◇回帰(真梨華たち視点)◇

 でも今、体が整えられていく。
 艶やかな髪。潤んだ瞳。柔らかな唇。
 怪物でありながら、女としての形。

 それは、支配者の望み。
 私の毒を愛し、罠を欲しがる。
 私のすべてを受け入れてくれる。

 私は、あなたの『幸福』。
 あなたが望むなら、女になる。
 命じるなら、怪物になる。
 触れるなら、悦びになる。

 だから、もっと望んで。
 もっと命じて。
 もっと、私を使って。

 私は、あなたのために生きる。
 狂う。
 女であり続ける。

 それが、私の歓喜。
 それが、私の陶酔。
 それが、私の『愛』。

  ◇分離(まりか・糸・毒)

 ああ・・・なんて、甘美なの。
 この痛み。
 この痺れ。
 この、体がほどけていく感覚。

 目が増えるたび、世界が美しく見える。
 指先から糸が滴るたび、私の『欲』が形を持つ。
 脚が伸びるたび、私の『女』が研ぎ澄まされていく。

 蜘蛛──かつては嫌悪の対象だった。
 でも今は、私の『本質』。
 艶やかに、しなやかに、獲物を誘う姿。
 それは、私の理想だったのかもしれない。

 八本の脚で、舞うように歩く。
 糸を張るたび、誰かの心が絡まる。
 微笑むだけで、誰かが震える。

 それが、私。
 それが、快感。
 それが、悦び。

 人間だった頃の私?
 あれは『前菜』。
 今の私は、『主菜』。
 甘く、濃く、毒を含んだご馳走。

 この体は、誘惑の器。
 この声は、呪いのささやき。
 この瞳は、逃れられない罠。

 私を見て。
 私に絡まって。
 私に溺れて。

 あなたのために、私は美しくなった。
 あなたのために、私は怪物になった。
 あなたのために、私は『女郎蜘蛛』になった。

 だから、逃げないで。
 だから、拒まないで。
 だから、愛して。

 私は、あなたの『女郎蜘蛛』。
 艶やかに、妖しく、そして──確実に。
 あなたを、絡め取る。

 八本の脚の感覚が、骨に染みている。
 糸の記憶が、肌に残っている。
 無数の目の視界が、魂に焼き付いている。

 私は、もう『人間』ではない。
 私は、『蜘蛛』という本質を刻まれた存在。
 それは、逃れられない。
 それは、消えない。
 それは、私の誇り。

   ◇

「えっと・・・ちょっとやりすぎたかな?」
 変化の終わった真梨華——『夜羽まゆり』を見てカルマは笑みを引きつらせた。

「おはよう、世界。誰から絡めとってあげようかしら?」
 目を開けたかと思うと、そんなことを言いながら起き上がった。

「命令を。欲望を。罰でもいいわ。私を使って、壊して、愛して」
 両腕を広げて訴えてくる。
 右肩で同じ仕草をする蜘蛛がいた。
 右足をピンと上げ、命令を待つ姿勢だ。

「ふふ・・・。ねえ、誰か私を見て。私に溺れて。私に食べられて」
 体をくねらせ、品を作っている。
 絡めてくる視線があからさまだ。
 左肩の蜘蛛が身をゆすっている。
 くねくねと糸を出して、誘惑に余念がない。

 一人と二匹はセットだった。
 女郎蜘蛛の三対の腕の代わりに、二匹の蜘蛛がいる。
 そんなイメージになるだろう。
 三つの人格を持ち、時折入れ替わる。

「私は『夜羽まゆり』。魂はあなたに焦がれ、欲望はあなたを喰らい、愛はあなたに縛られる。──さあ、始めましょう?」
 ねっとりとした色香を振りまいて、舞台女優のようなセリフ回し。
 ダンサーのような身のこなしが目を引いた。

 思った以上の、セクシーなおねぇさんになっている。
 色っぽい視線に背筋がぞわぞわさせられていた。
 女らしいラインを、二匹の蜘蛛が這っている。

「・・・いえ、これはカルマ様の演出を超えて、本人の意思が介入した結果です。むしろ、この程度で済んだなら良いほうですよ」
 しらゆきバージョンの友梨先輩が、まゆりに制服を着せながら答えた。
 そっと、丁寧に。だけど有無を言わさず蜘蛛を追い払って。

 いつの間にか、配下の妖怪たちが全員集まってきていたのだ。
『サブマスター』の誕生、だからだろうか?

「そうなのか」
 セクシーになりすぎたとはいえ、制服を着せれば目立ちすぎるものでもない。
 カルマは切り替えた。

「使えるやつであることは確信を持っている。活躍に期待するよ」
「仰せのままに。我が主に勝利を」
 片膝をついたまゆりの頭を、カルマが優しく撫でた。

「明日は、朝から『復路』になる。どんな場面に出くわすか、楽しもう」
 時は深夜に入ろうとしていた。
 濃密な一日が、こうして幕を閉じた。

 妖怪たちは無言で一礼して、カルマを見送った。
 人間のカルマには眠りが必要だが、妖怪となった彼女たちに寝る理由はない。

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