『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第61話 妖怪制作③ ~垢嘗め~ 中編

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「どうしたのです? いつものことですよ?」

 薫様の声は、絹のように柔らかく、冷たい。
 白魚のような指が、静かに自身の肌を叩く。
 その場所は、視線を誘うために選ばれた『祭壇』のようだった。

 透き通るような白い肌。
 それは、ただの美しさではない。
 祈りを捧げるための『神聖な布』のように、光を受けて輝いている。

 天上の肌触り。
 春の陽だまりのようなぬくもり。
 それは、触れることが許される者だけが知る感触。

『シルクスキン』。
 その言葉が、自然と浮かんだ。

 信仰と支配が織り込まれた霊布。
 今、彼女はそれを誇示している。

 誘惑ではない。
 反応を試す儀式の一部。

『無限魔力』による供給。
 それは、彼女の身体を通じて行われる『契約の更新』だった。

 普段は、布の仕切り越しに行われる。
 手を伸ばすと、信者の一人が手を取って位置を固定する。
 合図を受けてから、作業に入る。
 まるで、神像に触れるための儀式の手順。

 薫様の周囲には、彼女を守る女子たちの派閥がある。
 儀礼の場は、常に彼女の意志で動いていた。

「始めます」

 数歩進み、手の位置を確認する。
 目を閉じる。
 視線を交わすことすら、儀式の妨げになる。

「今回のレイドは、普段と趣が違いますからね。いろいろと考えたのです。あなたの使い方、とかもその一つよ?」

 副音声が、空気に刺さる。
 上から押さえつける言葉。
 それは、彼女の支配が『声』によっても行われている証。

「終わりました」

 魔力の供給が完了した。
 目は閉じたまま。

「目を開けて?」

 その声音は、命令を包んだ絹。
 優しさの仮面をかぶった支配の言葉。

 ゆっくりと目を開く。
 息が詰まる。

 目の前に、薫様の足がある。
 素足が、神像の台座のように静かに迫っていた。

「あなたは弱いですし、ダンジョンは危険ですからね。あなたを一人にさせておくのは、可哀想に思えたのですよ。ね?」

「・・・はい」

「何よりあなたは、忠誠心が篤いですから」

 薫様は、ゆっくりと片方の靴を脱いだ。
 その所作は、儀式の始まりを告げる鐘の音のように静かで、重い。

 生足が、音もなく前へ差し出される。
 その肌は、触れることを許された者だけが知る、神聖な領域。
 彼女は、優しい目で見上げてくる。
 けれどその瞳には、慈しみではなく、選別の光が宿っていた。

「ですよね、お馬さん?」

『お馬さん』。
 名札に記された『戸脇駆馬』からの、彼女なりの呼び方。
 けれど、そこに名前としての意味はない。
 それは、人ではなく“役割”としての呼称だった。

 彼女は、オレを名で呼んだことがない。
 動物として、道具として、信仰の器として。
 その認識が、言葉の端々に滲んでいる。

 オレは、膝をついた。
「やっぱり、やるのか」
 そんな諦念が、胸の奥で波紋を広げる。
 普段なら、布の仕切り越しに突き出された足に触れるだけだった。

 今は違う。
 直に、見られている。
 試されている。

 跪き、顔を前へと差し出す。
 空気が、肌にまとわりつく。
 視線が、所作の一つひとつを測っている。

「変わらぬ敬意を、見せていただけますか?」

 その言葉は、命令ではなく、誓約の更新。
『敬意』とは、すなわち『隷属』。
 祈りの形をした服従。

 お姫様の甲に親愛のキスを捧げるように。
 素足へ、神愛を示す。
 それが、この世界で生きるための『儀式』だった。

 中学二年の頃から、これが日常になった。
 最初は、抵抗した。
 抗議もした。
 助けも求めた。

 けれど、誰も動かなかった。
 親も、教師も、教育委員会も、警察も、児相も。
 声を上げるたびに、糸が絡みついた。

 その糸は細く、冷たく、見えない。
 けれど確かに、心と体を締めつけていった。

 今では、もう受け入れるしかない。
 この世界は、こういうものなのだ。
 祈りは届かず、沈黙だけが生き残る。

 かつて声を上げた。
 けれど、誰にも届かなかった。
 その記憶が、今の沈黙を形作っている。

「清めます、卑小なる我が身を、尊き存在に捧げます」

 その言葉は、空気を撫でるように静かだった。
 まるで『見代わり地蔵』を撫でる手つきで、言の葉が、薫様の輪郭をなぞっていく。

 所作は、祈りの形。
 動きは、信仰の証。
 触れることなく、包み込むように。

「ふふふ、変わらぬ敬意の証をありがとうございます。これで、私も安心してあなたを守ってあげられますね」

 その声は、慈悲という名の鎖。
 優しさの仮面をかぶったまま、逃れられない契約を更新する。

「尊き御身に、奉仕する誉れの慈悲に感謝を」

 繰り返される『聖句』は、祈りという名の呪文。
 言葉を重ねるたびに、空気が静かに沈んでいく。
 沈黙の深さが、信仰の深さを測る。

「ご安心ください。大切なあなたのことはみんなで守ってあげますからね? 最下層で活躍して、目的が果たされるまでは絶対に安全ですよ?」

 それは、誓約のような囁き。
 けれど、答えは求められていない。
 ただ、所作を続けること。
 それが、唯一の返答。

「あらら? どうしました? 動きが、止まっていますけど。大丈夫ですか? あなたの敬意が揺らいでいるのでわ? とても不安になりますね」

 その声に、空気がわずかに震える。
 沈黙は許されても、停滞は許されない。
 わかっていたはずなのに、指先が止まっていた。

 慌てて再開する。
 所作を整え、静かな波を重ねるように動きを戻す。

「はい、素晴らしい敬意をいただいてます! ん~、とっても心地がいいですわ。この光景。なんて美しいのかしら? 今まで損をしていましたわね?」

 その言葉に、空気がわずかに甘くなる。
 けれど、その甘さは毒を包んだ蜜のようだった。

 儀礼の動きに集中していたそのとき、 薫様の足が、そっと伸びてきた。
 頬に触れる。
 まるで祝福のように、静かに、柔らかく。

 彼女は寝そべった姿で、慈悲深い神像のような微笑を浮かべていた。
 その表情には、満足と支配の静かな余韻が滲んでいた。

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