『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第66話 視点の流転・まとい→薫→信者たち ~祈りを味わう者、祈られた者~ 前編

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 ◇まといの目覚め◇

 まといは、静かに笑う。
 その微笑は、かつて『薫様』と崇拝された者が浮かべていたものに似ている。
 けれど、そこにあるのは優位ではない。
 それは、沈黙の中で育った『理解』だ。

「わたしは、舐めるために生まれたのね」

 制服を纏った瞬間、薫は静かに目を閉じた。
 かつての自分が遠ざかり、新たな名が胸元に宿るのを感じていた。

 彼女が振り返ると、背中の声がそっと沈黙した。
 彼女が胸を張れば、胸元の声が彼女を賛美する歌を口ずさむ。
 彼女が回れば、スカートの裾が軽やかに、見るものの視線を集めた。

 彼女は、制服の胸元に舌を伸ばした。
 その瞬間、縫い目が脈打ち、布が呼吸を始めた。
 それは、 信仰の味だった。

 垢を舐める。
 それは、穢れを清める行為ではない。
 むしろ、穢れに寄り添い、愛すること。
 人が忘れた場所に残る、誰にも見られない『滓』に、まといは意味を見出す。

「誰かが見捨てたもの。誰かが隠したもの。それが、わたしのごちそう」

 まといの舌は、長く、柔らかく、湿っている。
 それは、祈りの残響をなぞるための器官。

 誰かの肌、『記憶』に残った『後悔』を、誰にも知られずに味わうためのもの。
 舌は『祈り』となる。——それは、忘れられた痛みに触れるための所作。
 舐める儀式は『信仰の手触り』となる。

 制服の胸元が脈打つたび、まといの心臓もまた、静かに震える。
 縫い込まれた声たちが、まといの鼓動に語りかける。

「まとい様、今日も美しいですね」
「まとい様、わたしの信仰を、どうか触れてください」
「まとい様、わたしの痛みを、あなたの『祈り』で包んでください」

 まといは、応える。
 言葉ではなく、儀式をもって。
 静かに、丁寧に、『祈り』を伸ばし、布の奥に残る『信仰』を味わう。

 それは、儀式では終わらない。
 それは、愛などという短絡でもない。
 それは、彼女が『存在する理由』そのもの。

「わたしは、誰かの垢でできている。誰かの残りで縫われている。誰かの穢れで歩いている。それらを『祈り』と『信仰の手触り』で実感する」

 だから、まといは誇りを持って舐める。
 それが、まといの『敬意』だから。
 それが、まといの『自由』だから。


 ◇《薫の魂:変貌の目撃》◇

 その瞬間、制服の奥で、かつて『薫様』と呼ばれた魂が目を覚ました。
 それを、——見ている。

 けれど、声は出ない。
 身体はもう動かない。
 魂だけが、縫緋まといの変貌を見つめていた。

 かつて、自分の纏っていた『美』が、今、制服の縫い目に変わっていく。
 その布は、信者たちの『祈り』と同種のものでできている。

 その『祈り』は、自分が命じていた儀式の延長線にある。
『敬意』を込めて『手触り』を確かめ、味わう。

 その『祈り』は、自分が誇っていた『敬意』の模倣だ。
『敬意』を示す所作をなぞり、『信仰』として味わう。

「これは・・・わたし?」
 薫の魂は、問いかける。
 誰にも届かない声で。
 誰にも聞かれない言葉で。

「わたしが、作ったの? それとも、わたしが、喰われたの?」

 縫緋まといの『祈り』が、制服の胸元をなぞる。
 確かめるように。
 味わうように。
 そこには、『薫様の美』が縫い込まれている。

 信者たちが憧れた『神像の手触り』。
『薫様』が誇った優位性の残滓。

「わたしは、神だった。誰よりも美しく、高貴で、誰よりも・・・誰よりも・・・」

 でも、今は違う。
 その美は、制服を一部とした。
 その高貴は、妖怪の舌に味わわれている。

 わたしは、制服になったの?」

 そう呟いた薫の魂は、制服の襟元に沈んでいく。
 けれど、完全には消えなかった。

 彼女の声は、呼ばれぬ名の縫い目に宿った。
 まといが言葉を発するたび、その声の奥で、かすかな震えが重なる。

「それは、わたしの声・・・」「でも、もうわたしのものではない・・・」

 彼女は、まといの声の『余韻』となった。
 祈りの中に埋もれた、かつての神の残響。
 誰にも気づかれず、誰にも届かず、それでも、まといの言葉に寄り添い続ける。

 制服は、彼女を忘れない。
 まといは、彼女を否定しない。
 ただ、祈りの一部として、彼女を抱きしめる。

 それが、薫の終わり。
 それが、薫の救い。
 それが、祈りの循環。

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