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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第138話 流れゆくもの 前編
しおりを挟む同時刻、水に流された最後尾4名は、水の中にいた。
白いタイル張りの床――だが、濁った水に沈んだそれは、灰色とも黒ともつかない色に濁っていた。
水深は意外と深く、男子の腰まで届く冷たい水が、ズボンの中にまで染み込んでくる。
「な、なにかいる?!」
誰かが叫んだ。
その声が反響し、天井の蛍光灯の残光が揺れる。
指さす先、水面がわずかに盛り上がり、黒い影が視線を横切った。
「戦闘用意!」
沙羅の号令が響く。
水音をかき分けるように、仲間たちが武器を構える。
だが、水の抵抗が、動きを鈍らせる。
ザバン!
水面が跳ねた。
一瞬、誰かの足が見えたかと思うと――
「キムラが消えた!」
水柱が立ち、泡が弾ける。
その中心に、男子A――キムラの姿はもうなかった。
「水中戦?!」
カノンがスカートを必死に押さえながら、腰まで沈んだ水の中で悲鳴を上げる。
裾が水に広がり、足が絡まる。
動けば動くほど、冷たさと重さが増していく。
「冗談じゃないわ! 何とか水の中から出ないと!」
沙羅も、同意のうなずきとともに辺りを見渡す。
だが、壁は滑りやすく、出口らしきものは見当たらない。
そのとき――
「ゲハッ!」
水面が割れ、キムラが顔を出した。
肩で息をしながら、何とか浮上してきた。
だが、その隣に、黒いシルエットが立っていた。
人の形をしている。
けれど、輪郭が揺れている。
水に溶けかけた墨のように、その存在は不確かで、それでも確かに『そこにいる』。
「【フレアランス】!」
沙羅の魔法が、水面を裂いて放たれた。
直撃。
シルエットが揺れ、水が一瞬、沸騰したように泡立つ。
いける!
だが――水の中で、何かが蠢いていた。
「【フレアランス】!」
好機と見た沙羅が、炎槍を連続で撃ち込む。
水面が爆ぜ、熱と蒸気が立ち上る。
その残り火が、黒いシルエットを照らし出した。
「「か、カッパ?」」
声が重なった。
そこにいたのは、確かに『河童』だった。
彼女――そう、女性だ。
肌は、雨上がりの葉に宿るアマガエルのように、しっとりと濡れ、水面の光を受けて、やわらかく艶めいていた。
その肌の下、筋肉の動きが水越しに透けて見える。
人間のようで、人間ではない。
長く流れる髪は、深い森の影のような緑。
その中に、皿が浮かんでいた。
皿の水が、波紋を描きながら揺れている。
手足には、水かき。
指の間に張った薄膜が、水を切るたびに、まるで羽ばたくように広がる。
それなのに――彼女は、黒のセーラー服を着ていた。
それは、私たちと同じ制服。
濡れて肌に張りつき、その下の輪郭をあらわにしている。
「学校の怪談で、妖怪?」
「ふざけてる!」
怒声とともに、攻撃が増える。
水を裂く剣、魔法の閃光。
だが――
「は?」
すべて、防がれた。
奇妙な形の大盾。
水中での動きには不向きなはずのそれを、彼女はまるで羽のように扱っていた。
「あ、あんなもの持ってて、水中でどう動くんだよ!」
男子B――クドウが苛立ちを隠せず叫ぶ。
その声に応えるように、河童はくるりと背を向け、大盾を見せつける。
「ああ、甲羅か。……じゃねぇわ!」
クドウが斬りかかる。
水が割れ、剣が唸る。
ようやく呼吸を整えたキムラも、背後から斬撃を加える。
前後からの挟撃――だが、河童は滑るようにスライドし、水を味方につけて、キムラの背後へと回り込んだ。
その動きは、まるで水そのもの。
人間の筋肉では再現できない、『水棲の理』に従った動きだった。
「ゲッ?!」
クドウの剣が、鈍い音を立てて、キムラの肩を裂いた。
血が、水に溶ける。
赤が、ゆっくりと広がっていく。
「なっ……!?」
クドウの手が震える。
目の前で、仲間の体が崩れ落ちる。
その背後――河童が、静かに手を引いていた。
背中を押したのだ。
ほんの少し、剣の軌道に乗るように。
キムラの体が、水面に吸い込まれるように沈んでいく。
泡も立てず、音もなく。
「キムラ……? おい、キムラ!?」
返事はない。
水面には、ただ赤い渦が残るだけ。
カッパの姿も、もう見えなかった。
まるで、最初からそこにいなかったかのように。
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