『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第145話 相翼の競演 前編

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    ◆比翼ふげん(満島小夜)視点◆

 風は、今日もよく吹いている。
 羽根は乱れず、詠唱は淀みない。
 命令は明確。
 対象は、かつての『仲間』。

「……問題ないわ」

 その声に、迷いはなかった。
 少なくとも、表面には。

 完璧であること。
 それが、私に課された役割。
 それが、私が『私』であるための条件。

 かつて、私は選んだ。
 誰かを守るために、誰かを切り捨てることを。
 その選択を、もう後悔しないと決めた。

 だから、今さら迷う理由はない。
 たとえ、相手が『あの子』でも。
 たとえ、あの時、私の手を取ろうとしてくれた子でも。

「完璧であることは、感情を捨てることじゃない。でも、感情に従うことでもない」

 それが、私の結論。
 風は、私の意志を映す。
 ならば、私は風に恥じないように、ただ正確に、ただ美しく、ただ冷たく。

 仲間を殺すことになるかもしれない。
 でも、それは『任務』だ。
『命令』だ。
 そして、『私が選んだ道』だ。

「私は、比翼ふげん。完璧であることを、私自身に課した者」

 だから、私は迷わない。
 だから、私は振り返らない。
 だから、私は『彼』のために、風を吹かせる。

 たとえ、その風が、かつての仲間の命を奪うとしても。
 たとえ、その羽根が、かつての自分を切り裂くとしても。

「私は、完璧である。だから、私は美しい。……そうでなければならない。そうでなければ、私は——」

 そう言い聞かせるように、風を巻き起こす。
 その風は、誰かの叫びをかき消し、誰かの涙を乾かし、誰かの命を奪う。

 でも、私は振り返らない。
 なぜなら、私の背後には——『私の影』が、すべての痛みを引き受けてくれているから。

 私は、ただ前を向いていればいい。
 私は、ただ命令に従えばいい。
 私は、ただ——完璧であればいい。

 それが、私の『赦し』であり、『罰』であり、『存在理由』。

 ◆比翼みれん(満島小夜の魂)視点◆

 ふげんの背は、まっすぐだった。
 風を纏い、羽根を揃え、命令に忠実。
 誰かを守るために、誰かを切り捨てることを、躊躇わない。

 その姿は、美しい。
 でも、私は——怖かった。

 あれは、私の『器』。
 かつての私が、なりたかった『理想』。
 誰にも怯えず、誰にも縋らず、ただ正しく、ただ強く。

 でも、私は知っている。
 その強さの裏に、どれだけの『痛み』があるかを。
 その正しさの中に、どれだけの『嘘』があるかを。

 ふげんは、仲間を殺すかもしれない。
 それを『任務』として受け入れている。
 でも、私は——受け入れられない。

 あの子は、私を庇ってくれた。
 私の魔法を信じてくれた。
 私の風に、希望を託してくれた。

 なのに、私は—— 風を、私自身のために使った。
 仲間を見捨てて、自分だけを守った。

 その罪が、私を『みれん』にした。
 完璧になれなかった私。
 赦されなかった私。
 でも、忘れられなかった私。

 ふげんは、私の『完成形』。
 でも、私は——あれに混ざれない。

 あれは、痛みを切り捨てた私。
 私は、痛みを抱えたままの私。

 ふげんが風を巻き起こすたび、私は、かつての仲間の声を思い出す。
「助けて!」「お願い、守って!」
 その声が、風にかき消されていく。

 ふげんは、振り返らない。
 でも、私は——振り返ってしまう。
 そのたびに、風が私を裂く。
 羽根が、私の体を貫く。

 それでも、私は後ろを歩く。
 ふげんの背を見つめながら。
 それが、私に残された唯一の『意味』だから。

 私は、ふげんに嫉妬している。
 でも、同時に——哀れんでいる。

 あれは、痛みを知らない強さ。
 私は、痛みを知ってしまった弱さ。

 どちらが『正しい』かなんて、わからない。
 でも、私は——仲間を殺す風には、なりたくない。

 だから、私は風に混ざれない。
 だから、私は羽根になれない。
 だから、私は——みれんのまま。

 ふげんが前を向くたび、私は、後ろで泣いている。
 その涙は、誰にも届かない。
 でも、風は——知っている。

 風が、少しだけ揺れた。
 それは、私の痛みが、ふげんに届いた証かもしれない。

 でも、ふげんは振り返らない。
 それが、あの子の『完璧』だから。

 私は、ただ歩く。
 半歩後ろで。 風に削られながら。
 仲間の名前を、心の中で呼びながら。

「ごめんね」。
 その言葉だけが、私の詠唱。
 誰にも届かなくても、私は、それを唱え続ける。

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