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66 街道を目指して

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結局昨夜は【アントン】の巣穴にほど近い開けた場所で野営をしたワタシたち

急激なレベル上昇に耐えられず、一時的に著しく身体能力が下がってしまったワタシ

更にその能力低下の影響でワタシの体がショック状態になり、

昏倒して起き上がれなくなってしまったので、ここで一夜を過ごすことになりました


「ジェニー姐さん、ごめんなさいです」

「何を謝っているの? あなたは何も悪くないわよ?」

「でも、ワタシのせいでこんな安全じゃない場所で野宿することになっちゃって・・・」

「旅の途中で具合が悪くならない人間なんていないわ」
「だから全然気にすることではないのよ?」
「それに、この天幕の中は、安全よ? 私が保証してあげるわ」

「もしかして、ジェニー姐さんが不寝番してくれるのです?」

「いいえ? そんなことしないわよ?」
「そもそも夜警なんてしたことないもの。いつも魔法で対応しているわ」


ジェニー姐さんの説明によると、

現在ワタシたちがいる天幕の周囲には、直径2メートルちょっとの絶対不可侵の領域ができているそうです

ジェニー姐さんが使った魔法は、聖域(サンクチュアリ)というそうで、

ドラゴン級の魔物が来ない限り安全なのだそうです

「まあ、かなり燃費の悪い魔法なんだけれどね」
「私でも丸1日使い続けるのが限度かしらね?」

保有魔力量が豊富な種族でないと扱えない、かなり使う人を選ぶ魔法のようです

(そんな魔法が使えるなら、ほぼ無敵だね)
(だからジェニー姐さんって、いつも余裕なんだね)


「とにかく今夜はゆっくりお休みなさい?」

「ありがとうです」


そんなことがあった昨夜

安心してぐっすりなワタシなのでした



そして明けて今朝、体調は万全とは言い難い状態のワタシです

レベルダウンの影響なのか、それとも、まだ体がショック状態から抜け切れていないのか、

なんとも体が鈍いというか、重いというか、

体中にバネ付きの魔球養成ギプスでも付けられちゃってる感じです

ん?
大リーグボール?
ひゅーま?



「体調はどう?」
「動けるかしら?」

ワタシが用意したいつもの朝食後、ジェニー姐さんが心配そうに聞いてきます

「体が重たいです」
「でも、ゆっくりなら移動はできると思うのです」

「そう? それじゃ、ゆっくり街道まで戻りましょうか」
「でもあなたの体調が一番だから、無理そうならすぐに言ってね?」

そんな会話をしている時でした


『お客様すいませ~ん』
『いつもお世話になっておりま~す』

頭の中に、直接音声が響いてきました

『お客様すいませ~ん』
『今の[あなたにお勧め]の商品はこちらで~す』

そんな声と共にいきなり目の前に現れる、【買い物履歴】画面

その中央[あなたにお勧め]には、



【みっつビシッ パジェラジュニオ 1100 4WD 978,000円】


これはアレです。中古で買ったワタシのはじめてのマイカーです

軽自動車の車体に、オーバーフェンダーで車幅を拡張

エンジンも乗せ換えて1100㏄

基本が軽自動車だからねぇ~、なんてことはありません

大きなタイヤと4WDによる悪路走行性能は言うに及ばず、

オンロードでは意外と乗り心地がよく、しかも高速安定性もソコソコでした

ボディカラーは、ワインレッドで

フェンダー部と車体下部はベージュのツートンカラー

背面にスペアタイヤを背負った無骨な四駆の割に、色使いは割とオシャレさん

ちっちゃな車体も相まって、全体的に可愛らしくまとまっている感じです



「お? おぉ」

いきなりすぎて面食らってしまい、マトモに声が出ないワタシ

(え? 声? そして【買い物履歴】画面?)
(もしかして、レベルアップした【買い物履歴】の新機能、なの?)


『お客様すいませ~ん』
『その通りでございま~す』

ワタシの思考にお返事をくれる【買い物履歴】の新機能らしき声

どうやらワタシの思った通りのようです

そして、説明らしきことを始める新機能の声

『お客様すいませ~ん』
『手前ども音声ガイダンスには、モードがございま~す』
『モード選択はいつでも可能で~す』

そう言って、モードの詳細を説明しだした新機能の声

その内容をまとめると、



【営業のスズキさんモード】 Lv.30以上で選択可能

お勧め商品の情報を迅速かつ丁寧にご報告いたします
時事ネタ程度の会話があります
お客様のパーソナル領域へ踏み込むことはありません



【寡黙なイシワタくんモード】 Lv.20以上で選択可能

お客様からの問いかけがない限り、発言することはありません
応答のみの会話があります



【近所のアオヤギさんモード】 Lv.10以上で選択可能

終始しゃべくりまくりです
噂話から噂話まで、真偽不明のガセネタのオンパレードです
お客様のパーソナル領域にズケズケと踏み込んできます


ざっとこんな感じでした

(え? スキルのレベルが10上がるごとにモードが追加されてるの?)
(最初はおばちゃんで、次が無口くん、そして、今は営業さんかな?)
(でももし、ワタシのスキルのレベルが10台だったら?)
(四六時中、ずっとおばちゃんトークを聞かされていたってこと?)


『お客様すいませ~ん』
『その通りでございま~す』

(あ、危にゃ~)
(スキルのレベルが10台だったら、たぶんワタシ、ノイローゼになってたよ~)
(スキルに関しては、一気にレベルが上がってくれて、ホントよかったよ~)



そんな驚きのイベントがありましたが、しっかり[あなたにお勧め]商品を購入したワタシ

もちろんガソリンの給油も忘れません

そして今、ワタシは助手席に座っています

そう、運転席にはジェニー姐さんが我が物顔でハンドルを握っています

(あれ? ここは普通、ワタシが運転するのでは?)

たしかに、ワタシは病み上がり? で、ちょっとばかり体調不良

ですが、自動車の運転に支障が出るほどではありません


「自動車の運転ぐらいなら、ワタシ、できますよ?」

「何言ってるの」
「昨日倒れたあなたに、こんな楽しそうなこと、任せられるわけないじゃない」

「あれ? なんだか本音が駄々洩れですよ?」
「楽しそうなこと、と、大変そうなこと、言葉のチョイス間違ってません?」
「本音と建前、使い分けできてませんよ?」

「いいからいいから、大人しく私に任せておきなさいって」

(まあ、助手席に座っているだけで楽ちんなので、文句はありませんけどね)


そんな、いつも通りな感じで、

街道までのサバンナチックな道なき道を

可愛らしい四駆で駆け抜けるワタシたちなのでした

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