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65 過ぎたるは

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さわ

『ブルッ』

さわさわ

『ブルッブルッ』

頭に感じる柔らかであたたかな感触

条件反射的に、ワタシのお耳が応答しています

「ん~ん」
「ん?」

目を開けると、視界は仄暗く、

離れたところにあるオレンジに灯るやさしい光が視界を確保してくれます

(あれ?)
(ワタシ、いつの間にか寝てた?)
(というか、ここ、どこ?)

まさしく知らない天井状態のワタシ

(天井? というより、布?)

視界には、布のようなモノ

まるで天幕の中ようです


「あら? 起こしちゃったかしら?」

頭の上の方から、聞きなれた声が聞こえてきました

そちらに目を向けると、やさし気な微笑みを湛えているジェニー姐さんが、

ワタシの顔を覗き込んでいます

どうやら、寝ているワタシの頭を撫でてくれていたようです



「急激なレベル上昇に対する拒否反応のようね」
「今は、それに伴うショック状態、そんなところかしら」

ジェニー姐さんが今のワタシの状況を説明してくれました


急激なレベルアップにワタシの体がついていけなくなり、

一時的に全てがなかったことになったような状態

そしてそれに伴い、身体機能が著しく低下して昏倒

それが今のワタシのようです

「たぶん、今のあなたは、ステータスが物凄く低下していると思うわ」


ジェニー姐さんの説明によると、

不相応な器(体)に対して急激なレベル上昇があった場合、

レベル上昇が行われないだけにとどまらず、

一定期間、レベル及び身体能力が低下する現象が起きるみたいです

数日から数か月で元のレベルにまでには回復するそうですが、

急激なレベル上昇はなかったことになるとのこと

つまり、ワタシの【アントン】討伐の経験値は、水泡に帰するようです

(はは、まさに骨折り損のくたびれ儲け、だね?)
(それとも、悪銭身に付かずって感じなのかな?)
(それにしてもワタシの体、そんなにレベルアップできないってこと?)

過ぎたるは猶及ばざるが如し

薬も過ぎれば毒になる

ワタシの今の状況は、そんな感じみたいです


「私もはじめて目の当たりにする現象で、驚いているのよ?」
「以前文献で見て、こういう現象が極まれにある、ということだけは知っていたのだけれど」
「まさか本当に起きるとは、しかもこんな身近で・・・」

(長年生きている)ジェニー姐さんでもはじめて見る現象のようです

(おっと、お歳のお話はしてはいけません、いけません)

ワタシを見つめる眼光が一瞬ちょっと鋭くなったジェニー姐さん

それは一瞬だけで、すぐ何事もなかったようにお話を続けてくれます

「極まれに、人族の間で【賢者】と呼ばれる者が現れるのだけれど」
「その【賢者】だった人物の体験談をまとめた文献に記されていた症状と同一なのよね」

「【賢者】です?」

「ええ。豊富な知識を有していて、斬新なアイデアを次々と形にしていく人物」
「国から正式に【賢者】の称号を与えられている、人族の知識人よ」

「凄い人なのですね?」

「ええ。ただ、欠点があるのよね」

「欠点です?」

「そう。【賢者】と呼ばれる人物は、得てして意思伝達があまり達者ではないのよね」
「最初は言葉自体が通じなかったみたいなの」
「どうやら【賢者】とよばれる人物は、そのほとんどが別の言語を使っていたみたい」
「だから、【賢者】直執の書物は皆無に等しいわ」
「たしか、【賢者】関連の書物は、その大部分が彼の弟子による著書だったはずよ」

「凄い知識があるのに、それをみんなに伝えられない?」
「なんだか勿体ないのです」



ワタシの状況のお話から、【賢者】のお話へと大分横道にそれてしまいましたが、

ワタシの昏倒の原因とその状態が分かったので、あとはそれを確認するだけです


ということで、口ずさむのはこの言葉、

「ステータス!」

Lv.1

HP 100
MP 100
攻撃 10
防御 10
魔力 10
速度 10
幸運 10

スキル
 【言語理解 Lv.32】
 【インベントリ Lv.32】
 【買い物履歴 Lv.32】

テクニック
 【猫脚】



「ぎゃ~!」
「レベル1になってますぅ~!」

思わず声を出してしまうほどのショックです

下がっていると聞いてはいましたが、まさかのレベル1

ふりだしに戻ってしまいました

(残念です~! 悔しいです~!)
(でも、スキルのレベルは下がっていないのですね?)
(というより、凄く上がってる?)
(これって、不幸中の幸いかも)

これでスキルまでレベルが下がっていたら目も当てられませんでしたが、

スキルはレベルが9から32にまで上昇していました

スキルはワタシの生命線だけに、少しほっとしたワタシです

(でも本来だったら、レベル32になれるほどの経験値をゲットできていたってこと?)


そんなことを思いつつ、ついでにチャージ魔力量も確認しておきます



【買い物履歴】画面のチャージ魔力量【59630930】


(わお! お金じゃないけど、メッチャお金持ち!)

【買い物履歴】の軍資金は、当分使いたい放題のようです


「大丈夫よ?」
「時間がたてばもとに戻るわ」

そう言いながら、ジェニー姐さんがワタシの頭を撫でてくれます

そして、ジェニー姐さんから、こんなご提案です

「近くの街で、あなたのレベルが戻るまで、しばらくのんびりしない?」
「レベルが戻るまで魔物の討伐はダメだけど、それ以外なら好きなことをするといいわ」
「とは言っても、体を動かすことは控えた方がいいかもしれないわね」

「いいんです?」

「もちろんよ」
「別に急ぐ旅ではないのだし」
「あなたの体が第一だわ」

「ありがとうです!」


ということで、ここから一番近くにある街を目指すことになったワタシたち

結局ワタシは、目覚めてからこの会話が終わるまで、

ずっと起き上がることができずに横になったままなのでした


体に力が入らず、横になったまま記憶を整理するワタシ

(ワタシ、急に倒れたんだ)
(ひとり旅だったら、大変だったよね)
(命にかかわる問題だったよね)
(ジェニー姐さんがいてくれて、本当によかった)

(それにしても、何か忘れているような・・・)
(目が回る前に大切なことがあったような・・・)
(やり残したことがあったような・・・)
(何だっけ?)


なお、ワタシが手にしていたおっぱい富士山は、

スタッフ(ジェニー姐さん)が美味しく頂きました

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