『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

ゴウキ・ファミリー

マリスの出合い その１

勇者パーティーが解散した後、マリスは一人実家の子爵家への帰路についていた。


「はぁ・・・」


思わずため息が漏れる。
マリスは基本的にあまり感情を表に出さないが、ここ最近は溜め息を漏らしてしまうことが多くなっていた。それもこれも最近パーティーのやることなすことうまくいかないからである。
以前のように思うように戦闘が出来なくなった、詐欺に遭って大金を失った、パーティー内が何となくぎこちない・・・そして、先ほど起きたリフトとミリアの衝突。

以前はミリアは基本的にパーティー内の出来事についてはどれほど感心を示さなかった。あるとすれば、懸想するリフトに関係のあることだけ。だが、最近は無関係を装いきれないくらいにトラブルが多い。
それはマリスの神経をすり減らし、多大なストレスを蓄積させていた。


「少し・・・発散が必要ですね」


まっすぐ家に帰ってさっさと休もうとしていた予定を変更し、マリスは道中外食でたらふく食べてストレスを発散させようと考えた。
元々やる予定だった打ち上げで気兼ねなく食べようと考えていたからというのもあるが、家に戻ればあまり品なく食事をすることができない。後腐れも何もない飲食店で、食べ応えのある肉をとにかくがっつりと腹に溜め込みたい・・・安酒を飲んで少し現実を忘れてみたい・・・そんな欲求がマリスの足を大衆酒場へ向けさせていた。

だが・・・


「あぁん、なんだてめぇらは！？俺達はただ美味しく酒を飲んでただけだぜぇ！！？」


店内から外まで響く空気を震わせるような大きな声が、マリスの足を止めた。


（酔客か・・・私はただ食事をしたいだけなんですが・・・）


一応勇者パーティーとして活動している以上、トラブルがあるようならお節介の一つでも焼くかとマリスは気が重くなりながらも怯むことなく、大声のした酒場へ入っていった。

マリスが中に入ると、そこでは酒で顔を真っ赤にし、剣など武器を構えた男達数人と、それを囲む倍以上の数の集団が睨みあっていた。


（どういう状況でしょう・・・）


酒場でのトラブルは王都では珍しいことではない。そういった場に居合わせたことも何度もあるマリスだが、これまでに見たことのない光景に思わず首を傾げる。


「酒を楽しむんなら自分達だけでやりな！他人を巻き込むもんじゃねーぜ」


囲んでいる集団のリーダー格と思わしき男が酔客達に言った。
そこでマリスはふと酔客達に交じって震えている給仕の女がいることに気付く。どうやら酔客達が給仕の女に絡み、そこからトラブルが発生したのかなとマリスは判断した。


「てめぇらに関係ねぇだろ！こっちはこっちの問題だからよ、さっさと引っ込んでな！」


酔客達は激昂するが、リーダー格の男は怯むことなく真正面から言い返した。


「この店の安全を守るのが俺達ゴウキ・ファミリーの仕事なんでな。関係あるんだなこれが。大人しく退店しねぇと痛い目に遭わせたうえで憲兵に突き出すぜ？」


リーダー格の挑発的な言葉に、酔客達が怒鳴り返す。
一触即発の雰囲気に店内の空気が凍り付くが、そんな中、マリスだけが呆然としていた。


（ゴウキ・ファミリー・・・？）