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第14話 レイドバトルってヤツだ!!
【2】
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それは“戦い”と呼べない、一方的に嬲られるだけの行為であった。呼称するとするなら、そう、私刑だ。
“ジャッジ”の拳に捉えられ、アスヴェルは弾かれるように後方へ吹っ飛ばされた。
倒れたところを踏みつけられる。くぐもった息が漏れた。さらに腹を踏み抜かれて吐血する。
顔を掴んで持ち上げられ、再度地面へ叩きつけられた。
ぐったりしたところへ、頭部をサッカーボールよろしく蹴り上げらる。その身体が再び宙を舞った。
(嘘……アスヴェルさんが……そんな……)
いつも自信満々だった青年が。
いつも頼りになった青年が。
いい様に弄ばれている。
苦悶に顔を歪ませている。
みるみる血で染まっていく。
(私だ……私のせいだ……)
後悔が胸を焼いた。何故、自分は彼をここに連れてきてしまったのか。こうなることは分かり切っていたではないか。“ひょっとしたらなんとかなるかも”なんて、そんな妄想をどうして抱いた?
結果、悠の大事な友人は2人とも命を落とすことなった。
(嫌、嫌、嫌、嫌、嫌――!!?)
腕を爪で掻き毟る。まだなんとかなる。きっとなんとかなる。何か手はある筈――!
(……私が、助命を嘆願すれば)
そんな思いが頭を過ぎった。
仮にも司政官の娘である悠が頼み込めば。泣き喚いて助けを請えば。
(アスヴェルさんだけは、見逃される、かも……?)
ミナトは無理だ。“ゲーム”に選出された人間を助けることは、司政官にすら不可能なのだから。
しかし、アスヴェルなら? ただのNPCに過ぎない、ただのゲームキャラに過ぎない彼なら。“愚かな小娘の悪ふざけ”として片付けてはくれないだろうか。
当然、そんなことをすれば悠は屈辱に塗れることになる。父からは勘当を申し渡されるかもしれない。周囲の人々にも見捨てられるだろう。彼女の人生は、これまでと一変するのは間違いない――それも、悪い方向に。
(……でも、それであの人が助かるなら)
そうだ。
もうそうするしかない。
己の軽率な行動が原因でアスヴェルを危険な目に遭わせてしまったのだから。彼ために身を捧げるのは、自分の義務とも言える。
……そんな“妄念”に、悠は囚われてしまった。
(やらなくちゃ……!)
覚悟を決める。決めてしまう。少女が何をしたところで運営が応えることなど無いと、少し考えれば分かりそうなものなのに。追い詰められた悠は、己の身を投げ出す決意をしてしまった。
――しかし。
彼女が運営との交渉のため席を立とうとした、その瞬間。
「なあ、このNPCのHP、なんか減りづらくないか?」
そんな呟きが聞こえてくる。さらに鑑賞者達の雑談は続いた。
「でゅふ、それはあれですなぁ。あのNPC、攻撃される度にダメージが最小限になる位置へ“移動”しているんですな。スキルが封じられていても、基本行動はとれますからぁ」
「むむむ、なんと小癪な!」
(――え)
ハッとさせられた。急いで確認する。
「……本当、だ」
アスヴェルがまだ殺されずにいるのは、単に嬲られているからだと思っていた。いや、それもあるのかもしれないが、それだけでは無かった。
彼は“ジャッジ”の攻撃に合わせ、少しでも被害が少なくなるよう位置取りや体勢を調整していたのだ。その行動は“回避”などと呼べる代物では無かったが、それでもアスヴェルを延命させるに足る効果を発揮した。
「アスヴェルさん――」
勇者は抵抗していた。絶望的な状況に陥りながら、諦めていなかった。
己を超える強大な敵を前にしても。自分の力を全て封じられても。
その目はしかと敵を見据え、勝機を窺っている。
(……思い違いしていました)
その姿を見て、彼女はギリギリで思い出すことができた。
彼が“勇者としての責務を全うしたい”と語ったことを。自分が“信じ抜く”と誓ったことを。
もし万に一つ、ここから救い出せたとしても――そうなったらアスヴェルは悠を許さないだろう。
「見届け、なければ」
立ち直れた訳では無い。身体は未だ震えているし、胸は不安に溢れている。
それでもなお、最後まで付き合わなければならないのだ。それが事を始めた自分の責任なのだと、悠は腹をくくるのだった。
―――――――――――――――――――
(はてさて、どうしたものか)
“ジャッジ”と呼ばれる男に殴られながら、アスヴェルは冷静にそう考えていた。
(……そろそろ、まずいな)
致命傷こそ何とか防げているものの、全身くまなく傷を負っていた。打撲・切り傷・擦り傷・出血、無事な箇所などもう存在しない。骨にもあちこちヒビが入っているだろう。いや、逆に折れていないことを喜ぶところか。
(しかし遠くない内に動けなくなるぞ)
右から左から拳の連打を受け、脳が揺さぶられる。それでも意識を手放さない。縋りつく。ここで気絶したら正真正銘おしまいだ。幸い、全身を激痛が駆け巡ってくれているので、“気付け”には事欠かない。
(話には聞いていたが――ここまでやれるものなのだな、運営というのは)
敵が急に強くなったのも驚いたが、何よりも体の自由が奪われたのが厳しい。こちらから攻撃したくてもできず、相手の攻撃を避けようとしても動けない。魔術や魔法はおろか、拳で打ち据えることすら不可能なのだから徹底している。
ミナト曰く、“全てのスキルが封印された”そうだが、いやはや動きづらいことこの上ない。正しく、神の如き力だ。
「――ぐ、はっ!?」
考えているところで、腹にいいのを貰ってしまった。ふんばりなど効かず、宙に投げ出される。気持ち悪い浮遊感を数瞬味わった後、地面に激突した。スキルを封じられた影響か受け身すら取れず、無様に転がる。
(立て、るか――?)
すぐさま体勢を整えようと試みても、身体がついてこなかった。立ち上がろうと意識しても、手足がのろのろとしか動かない。スキル封印のせいではなく、単純にダメージ蓄積が原因か。
(はてさて、どうしたものか)
今一度、自問する。いや、考えるまでも無い。
――もう、無理だろう。
敵の性能は間違いなく己を超えている。その上で、こちらは攻撃手段も防御手段も剥ぎ取られた。
控えめに言って絶望的な状況だ。この期に及んで悪あがきしても仕方がない。生き汚さなど見せず、すっぱりと諦めるべきだ。これだけ粘れば、もう十分だろう?
「は、ははははは――」
浮かんできたその思考に、つい笑ってしまった。
絶望? 諦める? 馬鹿か。この程度の事態で、ふざけたことを言ってはいけない。
遠い。諦観の境地から、余りにここは遠すぎる。
何故なら、守るべき人は未だ健在だ。加えて、身体は少々不備こそあるもののまだ作動する。
こんなところで終わってしまっては――如何にアスヴェルがこの世で最も偉大な勇者とはいえ――失笑されることは免れまい。
「ぬ、ぐぐ――!」
上半身を起こす。手・腕・肩・胸・腹から危険信号のごとく痛みが流れ込んでくるが、無視して堪える。
だがここで問題発生。“ジャッジ”が歩いてくる。歩みは遅いが、それでもこちらが構えるより先に到着することだろう。流石に碌に体勢が整わないまま攻撃を食らうのは危険だ。
なんとか時間稼ぎを――と思いを巡らせていると、
「<ピアッシング・ショット>!!」
銃声が響き、一発の弾丸が“ジャッジ”に着弾した。ミナトの仕業だ。
「オレが相手だぁっ!!」
“ジャッジ”に向かい、彼女は叫ぶ。自身を囮にしようというのか。
無謀とも言える――いや、無謀でしかない行動。しかし狙い通り“ジャッジ”は少女の方に向き直り、そちらへと歩き始める。もはや身動きとれないアスヴェルより先に、ミナトを始末しようと考えたのか。それとも、自分の目の前で彼女を嬲ってやろうと考えたのか。
どちらにせよ腸煮えくり返る行動だが、アスヴェルの去来したのは別の感情だった。
(……流石、私が惚れた女)
それは、満足感。
勇者と共に歩む女性は、こうでなくてはならない。
自分では勝てないことを理解した上で、それでも抗う。他者を助けようと挑む。そんな勇気ある行為を取ってくれたことが、何より嬉しかった。そんなミナトの善性が誇らしかった。
――さあ、彼女は根性を見せたぞ。
自分はどうだ。
まだ振り絞れる気力は残っているか。
(当然だ!)
ならば、血潮を燃やせ!
魂を奮い立たせろ!
今こそ叫べ!
――我こそが、英雄であると!!
「オオォォオオオオオオオッ!!!」
雄叫びを上げ、アスヴェルは突進する。狙いは勿論、“ジャッジ”。こちらは何もできないと高を括った相手へ突貫する。タイミングは、歩行のため片足を上げる――最も不安定になるその一瞬。
「――――っ!!」
そして、激突。反動でたたらを踏んでしまうが、渾身の体当たりに相手はバランスを崩し転倒する。想定以上の成果だ。やはり天才か。
「アスヴェルっ!!」
自分の才能へ悦に入るアスヴェルへ、横からミナトが声をかけてきた。
「逃げろ! コイツの狙いはオレ達だ! オマエが逃げても、きっと追いはしない!」
「それはできない相談だ。その行動は実に勇者的ではない」
彼女の提案をやんわりと否定する。しかし納得はされず、
「今更、勇者とかなんとか言ってる場合か!? 別に勇者だからって――」
「勇者だからだよ」
額から流れる血を拭いながら、アスヴェルは強い口調で断言した。
「いいか、ミナト。よく覚えておけ」
以前にも言ったことのある台詞を、もう一度繰り返す。
「勇者とは、職業でも、ましてや運命でもない。勇者ってのは――」
少女の双眸をしっかりと見つめる。
「――生き様だ」
言い終えるのと同時、“ジャッジ”が襲いかかってきた。
剛腕が唸りを上げて迫り来る。
これまで同様、アスヴェルには成す術も無い――が。
「こなくそぁああっ!!」
動こうとしない腕を、全力の気合いを込めて無理やり動かした。
寸でのところで拳の軌道を逸らし、攻撃を受け流す。
「――――!?」
初めて、“ジャッジ”に感情らしきものが浮かぶ。有り得ない結果に一瞬戸惑ったのだ。
その隙を見逃すアスヴェルではない。脳の血管がブチ切れかねない気力で拳を固く握ると、
「オラぁっ!!!」
相手の顔面へ叩き込む!
無防備なところへ不意の一撃貰った“ジャッジ”は、またしても大地に転がった。
――勇者の反撃が始まる。
“ジャッジ”の拳に捉えられ、アスヴェルは弾かれるように後方へ吹っ飛ばされた。
倒れたところを踏みつけられる。くぐもった息が漏れた。さらに腹を踏み抜かれて吐血する。
顔を掴んで持ち上げられ、再度地面へ叩きつけられた。
ぐったりしたところへ、頭部をサッカーボールよろしく蹴り上げらる。その身体が再び宙を舞った。
(嘘……アスヴェルさんが……そんな……)
いつも自信満々だった青年が。
いつも頼りになった青年が。
いい様に弄ばれている。
苦悶に顔を歪ませている。
みるみる血で染まっていく。
(私だ……私のせいだ……)
後悔が胸を焼いた。何故、自分は彼をここに連れてきてしまったのか。こうなることは分かり切っていたではないか。“ひょっとしたらなんとかなるかも”なんて、そんな妄想をどうして抱いた?
結果、悠の大事な友人は2人とも命を落とすことなった。
(嫌、嫌、嫌、嫌、嫌――!!?)
腕を爪で掻き毟る。まだなんとかなる。きっとなんとかなる。何か手はある筈――!
(……私が、助命を嘆願すれば)
そんな思いが頭を過ぎった。
仮にも司政官の娘である悠が頼み込めば。泣き喚いて助けを請えば。
(アスヴェルさんだけは、見逃される、かも……?)
ミナトは無理だ。“ゲーム”に選出された人間を助けることは、司政官にすら不可能なのだから。
しかし、アスヴェルなら? ただのNPCに過ぎない、ただのゲームキャラに過ぎない彼なら。“愚かな小娘の悪ふざけ”として片付けてはくれないだろうか。
当然、そんなことをすれば悠は屈辱に塗れることになる。父からは勘当を申し渡されるかもしれない。周囲の人々にも見捨てられるだろう。彼女の人生は、これまでと一変するのは間違いない――それも、悪い方向に。
(……でも、それであの人が助かるなら)
そうだ。
もうそうするしかない。
己の軽率な行動が原因でアスヴェルを危険な目に遭わせてしまったのだから。彼ために身を捧げるのは、自分の義務とも言える。
……そんな“妄念”に、悠は囚われてしまった。
(やらなくちゃ……!)
覚悟を決める。決めてしまう。少女が何をしたところで運営が応えることなど無いと、少し考えれば分かりそうなものなのに。追い詰められた悠は、己の身を投げ出す決意をしてしまった。
――しかし。
彼女が運営との交渉のため席を立とうとした、その瞬間。
「なあ、このNPCのHP、なんか減りづらくないか?」
そんな呟きが聞こえてくる。さらに鑑賞者達の雑談は続いた。
「でゅふ、それはあれですなぁ。あのNPC、攻撃される度にダメージが最小限になる位置へ“移動”しているんですな。スキルが封じられていても、基本行動はとれますからぁ」
「むむむ、なんと小癪な!」
(――え)
ハッとさせられた。急いで確認する。
「……本当、だ」
アスヴェルがまだ殺されずにいるのは、単に嬲られているからだと思っていた。いや、それもあるのかもしれないが、それだけでは無かった。
彼は“ジャッジ”の攻撃に合わせ、少しでも被害が少なくなるよう位置取りや体勢を調整していたのだ。その行動は“回避”などと呼べる代物では無かったが、それでもアスヴェルを延命させるに足る効果を発揮した。
「アスヴェルさん――」
勇者は抵抗していた。絶望的な状況に陥りながら、諦めていなかった。
己を超える強大な敵を前にしても。自分の力を全て封じられても。
その目はしかと敵を見据え、勝機を窺っている。
(……思い違いしていました)
その姿を見て、彼女はギリギリで思い出すことができた。
彼が“勇者としての責務を全うしたい”と語ったことを。自分が“信じ抜く”と誓ったことを。
もし万に一つ、ここから救い出せたとしても――そうなったらアスヴェルは悠を許さないだろう。
「見届け、なければ」
立ち直れた訳では無い。身体は未だ震えているし、胸は不安に溢れている。
それでもなお、最後まで付き合わなければならないのだ。それが事を始めた自分の責任なのだと、悠は腹をくくるのだった。
―――――――――――――――――――
(はてさて、どうしたものか)
“ジャッジ”と呼ばれる男に殴られながら、アスヴェルは冷静にそう考えていた。
(……そろそろ、まずいな)
致命傷こそ何とか防げているものの、全身くまなく傷を負っていた。打撲・切り傷・擦り傷・出血、無事な箇所などもう存在しない。骨にもあちこちヒビが入っているだろう。いや、逆に折れていないことを喜ぶところか。
(しかし遠くない内に動けなくなるぞ)
右から左から拳の連打を受け、脳が揺さぶられる。それでも意識を手放さない。縋りつく。ここで気絶したら正真正銘おしまいだ。幸い、全身を激痛が駆け巡ってくれているので、“気付け”には事欠かない。
(話には聞いていたが――ここまでやれるものなのだな、運営というのは)
敵が急に強くなったのも驚いたが、何よりも体の自由が奪われたのが厳しい。こちらから攻撃したくてもできず、相手の攻撃を避けようとしても動けない。魔術や魔法はおろか、拳で打ち据えることすら不可能なのだから徹底している。
ミナト曰く、“全てのスキルが封印された”そうだが、いやはや動きづらいことこの上ない。正しく、神の如き力だ。
「――ぐ、はっ!?」
考えているところで、腹にいいのを貰ってしまった。ふんばりなど効かず、宙に投げ出される。気持ち悪い浮遊感を数瞬味わった後、地面に激突した。スキルを封じられた影響か受け身すら取れず、無様に転がる。
(立て、るか――?)
すぐさま体勢を整えようと試みても、身体がついてこなかった。立ち上がろうと意識しても、手足がのろのろとしか動かない。スキル封印のせいではなく、単純にダメージ蓄積が原因か。
(はてさて、どうしたものか)
今一度、自問する。いや、考えるまでも無い。
――もう、無理だろう。
敵の性能は間違いなく己を超えている。その上で、こちらは攻撃手段も防御手段も剥ぎ取られた。
控えめに言って絶望的な状況だ。この期に及んで悪あがきしても仕方がない。生き汚さなど見せず、すっぱりと諦めるべきだ。これだけ粘れば、もう十分だろう?
「は、ははははは――」
浮かんできたその思考に、つい笑ってしまった。
絶望? 諦める? 馬鹿か。この程度の事態で、ふざけたことを言ってはいけない。
遠い。諦観の境地から、余りにここは遠すぎる。
何故なら、守るべき人は未だ健在だ。加えて、身体は少々不備こそあるもののまだ作動する。
こんなところで終わってしまっては――如何にアスヴェルがこの世で最も偉大な勇者とはいえ――失笑されることは免れまい。
「ぬ、ぐぐ――!」
上半身を起こす。手・腕・肩・胸・腹から危険信号のごとく痛みが流れ込んでくるが、無視して堪える。
だがここで問題発生。“ジャッジ”が歩いてくる。歩みは遅いが、それでもこちらが構えるより先に到着することだろう。流石に碌に体勢が整わないまま攻撃を食らうのは危険だ。
なんとか時間稼ぎを――と思いを巡らせていると、
「<ピアッシング・ショット>!!」
銃声が響き、一発の弾丸が“ジャッジ”に着弾した。ミナトの仕業だ。
「オレが相手だぁっ!!」
“ジャッジ”に向かい、彼女は叫ぶ。自身を囮にしようというのか。
無謀とも言える――いや、無謀でしかない行動。しかし狙い通り“ジャッジ”は少女の方に向き直り、そちらへと歩き始める。もはや身動きとれないアスヴェルより先に、ミナトを始末しようと考えたのか。それとも、自分の目の前で彼女を嬲ってやろうと考えたのか。
どちらにせよ腸煮えくり返る行動だが、アスヴェルの去来したのは別の感情だった。
(……流石、私が惚れた女)
それは、満足感。
勇者と共に歩む女性は、こうでなくてはならない。
自分では勝てないことを理解した上で、それでも抗う。他者を助けようと挑む。そんな勇気ある行為を取ってくれたことが、何より嬉しかった。そんなミナトの善性が誇らしかった。
――さあ、彼女は根性を見せたぞ。
自分はどうだ。
まだ振り絞れる気力は残っているか。
(当然だ!)
ならば、血潮を燃やせ!
魂を奮い立たせろ!
今こそ叫べ!
――我こそが、英雄であると!!
「オオォォオオオオオオオッ!!!」
雄叫びを上げ、アスヴェルは突進する。狙いは勿論、“ジャッジ”。こちらは何もできないと高を括った相手へ突貫する。タイミングは、歩行のため片足を上げる――最も不安定になるその一瞬。
「――――っ!!」
そして、激突。反動でたたらを踏んでしまうが、渾身の体当たりに相手はバランスを崩し転倒する。想定以上の成果だ。やはり天才か。
「アスヴェルっ!!」
自分の才能へ悦に入るアスヴェルへ、横からミナトが声をかけてきた。
「逃げろ! コイツの狙いはオレ達だ! オマエが逃げても、きっと追いはしない!」
「それはできない相談だ。その行動は実に勇者的ではない」
彼女の提案をやんわりと否定する。しかし納得はされず、
「今更、勇者とかなんとか言ってる場合か!? 別に勇者だからって――」
「勇者だからだよ」
額から流れる血を拭いながら、アスヴェルは強い口調で断言した。
「いいか、ミナト。よく覚えておけ」
以前にも言ったことのある台詞を、もう一度繰り返す。
「勇者とは、職業でも、ましてや運命でもない。勇者ってのは――」
少女の双眸をしっかりと見つめる。
「――生き様だ」
言い終えるのと同時、“ジャッジ”が襲いかかってきた。
剛腕が唸りを上げて迫り来る。
これまで同様、アスヴェルには成す術も無い――が。
「こなくそぁああっ!!」
動こうとしない腕を、全力の気合いを込めて無理やり動かした。
寸でのところで拳の軌道を逸らし、攻撃を受け流す。
「――――!?」
初めて、“ジャッジ”に感情らしきものが浮かぶ。有り得ない結果に一瞬戸惑ったのだ。
その隙を見逃すアスヴェルではない。脳の血管がブチ切れかねない気力で拳を固く握ると、
「オラぁっ!!!」
相手の顔面へ叩き込む!
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