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第1章 前編

最終話 ~『血』で繋がった幼馴染との仲直りの仕方・彼女が俺と姉弟になりたいと言った理由を知りました~ 中編

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 最終話  中編



 静流さんを説得して、俺は凛音の部屋の前にやって来た、

 ……居る。それも……泣いているのがわかる。

 俺は、一つ息を吸ってから、部屋の扉を叩く。

 コンコン

「……誰よ」
「俺だよ」

 俺のその声に、凛音が緊張したのが伝わってくる。
 あはは……こんな所でも、十年の月日を感じるよ。

「……何しに来たのよ。話したくないんでしょ、会いたくないんでしょ、北島永久とよろしくしてなさいよ」
「俺をここに来させたのは、他ならぬ北島永久さんだよ」

 その言葉に、凛音が驚いたように思えた。

「……入れば」
「わかった」

 俺はそう言って、扉を開いて中に入る。

「……っ!!」

 そこには、さっき以上にボロボロになっている凛音がベッドの上で座っていた。顔には……泣いたあとがたくさんあった。

「……ねぇ、なんで私を無視するのよ」
「……ごめん。俺が大人気なかったよ」

 俺のその言葉に、凛音の頬を涙が伝った。

「バカ……バカ……バカ……無視されたら、何も言えないじゃない……何も……伝えられないじゃない……」
「ごめんな」

 本当に、何をやってんだよ、俺は。
 凛音が『泣く』これは本当に深刻なことなんだよ。



 凛音は、実の親から虐待を受けていた。
 笑えば叩かれる。
 泣けば叩かれる。
 感情を表に出せば叩かれる。

 そんな虐待を五歳まで受けていた。

 一夜の過ち。では無く、本気で避妊をしたのに出来てしまったのが凛音だったようだ。
 そして、凛音の生みの親は、仕方なく凛音の父親の雅紀(まさき)さんと結婚した。
 だが、まだまだ遊びたかった凛音の生みの親は、雅紀さんが仕事に出掛けると、毎日のように結婚の原因になった凛音を虐待していた。

 そして、自分も浮気を繰り返していた。

 そんなある日。仕事人間だった雅紀さんが、たまたま半日で仕事を終え、家族奉仕をしようと家に帰ると、

 縄で縛られた凛音と、自分のベッドの上で性行為をしていた凛音の生みの親を目撃したそうだ。

 その後、叩いた痕や縛られた痕などが凛音の服の下からいくつも見付かった。

 凛音の生みの親は、女の子だから。と言う理由で、雅紀さんに凛音の肌を見せることをさせて無かったようだった。
 お風呂なども自分と一緒に入れていたそうだ。
 お風呂場では溺死寸前まで追い込まれるようなこともあったらしい。

 そのせいで小さい頃の凛音は、湯船に入れない子だった。


 そして、虐待と浮気の証拠を持って離婚をした雅紀さん。
 親権を自分が確保出来たのが幸いだった。と言う。財産は半分になったが、後腐れは無かったようだ。

 そして、マンション暮らしをしながら、仕事と子育てをしていた雅紀さんだが、やはり限界を感じていたようで、仕事先の同僚だった静流さんに、預けていた幼稚園が休みだったので一日だけ凛音の面倒を見てもらいたい。そう話したらしい。

 そして、虐待を受けたせいで感情を表に出せなくなっていた凛音を一目見た静流さんが、

『この娘の母親には私がなります』

 そう言って、凛音を抱き締めて、交際ゼロ日で雅紀さんと結婚したのは武勇伝だと思う。

 そして、静流さんの

『いつまでも虐待の記憶がある部屋に住ませるのは可哀想』

 その言葉で、俺の家の隣に一緒に引越してきた。


 最初に会った頃の凛音は感情を表に出さない女の子だった。
 正直な話。妹が二人に増えたような感じだった。

『この子を笑わせるのが俺の使命だ』

 そんな気持ちが俺に芽生えた。
 そして、それはいつしか

『この子を俺の手で幸せにしたい』

 そう思うようになった。

 これが、俺の恋心の始まりだ。

 そして、凛音に新しい世界を見せようと、俺の家族と凛音の家族で夏場はキャンプに、冬場はスキーにと、旅行を繰り返した。

 押し入れに閉じ込められるとかもされてたため、暗闇を怖がる凛音が、夜中にトイレに着いてきて欲しい。なんて言って俺を起こしてきたのは、あの時のファミレスで話さなかった、俺とこいつの思い出だ。

 だが、ある時。不思議なことが起きた。

 それは小学生の三年生の時だった。

 突然。凛音の人が変わった。

 今のような性格に変わったのだ。

 俺は不思議に思ったが、『元気になったのなら別にいいか』そんな風に楽観的に思っていた。

 そして、俺が持っていた恋心はそんな凛音の変化にも影響されることなく、スクスクと育っていき、あの日の告白に繋がったわけだ。
 気が強く、わがまま。そんな今の凛音は、昔を知ってる俺からすれば、

 ようやく感情を出してくれるようになったんだな。

 としか思えなかったんだよなぁ


「なぁ、凛音。お前が言ってた『血の繋がった家族』の意味はわかったよ。でもさ、なんでそこまで俺と『姉弟』にこだわるんだよ」

 俺のその言葉に、凛音は目を伏せた。

「アンタと一生一緒に居たいからよ……」
「……え?」

 凛音は少しだけ視線を逸らす。その先を見ると、
『俺と凛音と美鈴が一緒に写った写真』
 が机の上にあった。

 同じものが、俺の机の上にもある。


「アンタと恋人になんかなりたくなかった。だって別れたらおしまいだもの。私は『家族』になりたかった」

「それもただの『家族』じゃないわ。永遠不滅。一生、死ぬまで一緒に居られる『家族の絆』が欲しかったのよ」

「アンタと『夫婦』になることも考えたわ。でも、夫婦は離婚したらそれまでよ。私のお父さんと産んだ女だけのことじゃ無い。離婚なんて星の数ほどあるわ」

「でも、兄妹(きょうだい)は別よ。だって、アンタが結婚しようが離婚しようが、美鈴はアンタの妹。家族よ」

「そして、美鈴が結婚しようが離婚しようがアンタは美鈴の兄。家族よ」

「兄妹の絆は死ぬまで切れない、永遠不滅のものよ。だから私はアンタと兄妹(きょうだい)になりたいと思った。でも、アンタの妹には既に美鈴が居たわ。だから、私には……『姉』になるしか道が無かったのよ」

「それに気が付いたのが……そうね、小学校の三年生くらいの時かしら。そして、アンタの『姉』として絶対に自分の弱さを見せない。更に、『姉』とは畏怖される者。そんなことを聞いた私は、最も私が畏怖していた存在の真似を演じたわ」

「演じていたつもりが、段々とそれが素になってきてしまった気もするけどね」

「これが、私がアンタの『姉』になりたかった理由よ」

 その言葉を聞いた俺は、凛音に言った。

「そうか。お前の理由はわかったよ」

 そして、俺は続けた。

「今度は俺の話を聞いてくれないか?」
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