十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第2章 前編

第二十三話 ~交渉が上手くいったら凛音の家で夕飯を食べることになりそうです~

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 第二十三話



「では、これより第五十回 海皇高校体育祭に向けた実行委員の定例会議を始めます」

 定刻となったので、俺はそう言って会議の始まりを告げた。
 桐崎先輩と中心に、拍手が起きる。

 はぁ……ほんと、無茶ぶりが多いよな。桐崎先輩。

「昨年までは三年生から順に練習場所と道具を確保していき、学年が下がる事に練習場所や道具の確保が困難になる。そういう慣習がありました」

「しかし、今年より桐崎生徒会長を中心に、そのような『悪しき年功序列』は撤廃しよう。その動きが活発になりました」

「そして、そのお陰で今年より新しい方法での練習場所と道具を決めることになりました」

 俺はそう言って、桐崎先輩が用意してくれていたくじ引き箱二つとくじを机の上に乗せる。

「代表者一名にこのくじを引いてもらいます。こちらには『練習場所』が書かれたくじと『練習道具』が書かれたくじが入っています」

「そして、手にしたくじに書かれた場所や道具が皆さんに与えられます。ですが、ここからが重要なポイントです」

 俺はそう言うと『体育館』と『大縄跳びの縄』のくじ取り出す。

「体育館では大縄跳びの練習は出来ません。このふたつのクジでは効果を得ることは出来ません。ですがここで『交渉によるくじの交換』を出来るようにしてます」

『グラウンドの端』と『ドッチボールの球』のくじを取り出す。

「グラウンドの端のくじを持つ人と体育館のくじの交換を持ちかける。グラウンドの端なら大縄跳びの練習が出来ます。体育館ならドッチボールが出来ます。遊びになりますが。こうした感じで交渉と交換をして、運で手にしたくじを望みのものに変える。これが今年から始まった新しいルールです」

 俺はそこまで説明したところで周りを見渡す。

「何か質問はありますか?」

「桜井庶務。質問があります」
「三郷先輩、何かありますか?」

 放送部の部長。三郷先輩が質問のために挙手をした。

 どうやら先輩も実行委員のようだ。

「交渉の為に金銭を用いるのは許可してますか?」
「許可してません。ですが、金銭以外のものなら『可』としています」

 俺はそう言うと、食堂の食券を取り出す。

「ここに『大盛り』の食券があります。こういうものなら『可』としています」
「なるほど、理解しました。桜井庶務。ありがとうございました」

 三郷先輩はそう言って席に座る。
 その時にパチンと一つウィンクをしていた。

『君の説明が足りてない部分を補完しておいたよ?』

 って意味だろうな。

 今ので永久さんの目のハイライトが消えてるし、凛音からは凄い視線が飛んできてる。

 流は……現実逃避して、スマホでゲームをしてるよ……

「他に質問はありますか?」

 今度は挙手は無かった。

「では、くじ引きをしてください。順番は一年一組、二年一組、三年一組。一年二組と言うよう順番になります」

「では、一年一組の方からどうぞ」

 そして、一年一組の人がくじ引きを終えると、俺の元に永久さんがやってくる。

「はい。どうぞ、永久さん」
「ふふふ……三郷先輩とは随分と仲がよろしいんですね?」

「い、いや……そんなことは……」
「後で……ゆっくりと……お話を聞かせてくださいね?」

「……はい」

 そして、永久さんはくじ引きを終え、二枚のくじを持って席へと戻って行った。



「はい。では全員のくじ引きが終わりましたので、ここから三十分間の交渉の時間になります」

「先程も言ったように、金銭以外のものでしたら、交渉の道具にしてもらって構いません」

「それでは始めてください」


 俺はそう言うと、自分のクラスへと戻る。

「ただいま」
「おかえり、霧都。司会進行、お疲れ様」

「ありがとう、流。いきなり桐崎先輩に振られて驚いたけど何とかなったよ」

 労ってくれた流に俺は笑顔で返した。

「その、永久さん?」
「はい。なんでしょうか?」

 ふわりと笑って俺に返事をくれる。
 そ、その笑顔が怖い……

「えと、何を引いてきたのかな?」
「はい。このくじになります」

 永久さんが引いたのは

『グラウンドの端』と『綱引きの綱』

 だった。

「……あれ。これなら交換しなくても練習場所と練習道具が揃ってるよね?」

 運が良い。と言ってた永久さんらしいヒキの強さだった。

「ふん。確かにこれなら練習場所と練習道具が揃ってるわ。でもね、あんたが年上の先輩を相手に鼻の下を伸ばしてる時に話してたのよ」

 凛音はそう言うと、俺の前に来る。
 鼻の下を伸ばしてなんかないと思うんだけどな……

「私たちは配点の大きい『男女混合リレー』の練習をしたいと思ってるのよね。だからこのくじを『グラウンドのトラック』と『バトン』に変える必要があるのよ」
「その……出来るのか?」

 俺がそう聞くと、凛音はニヤリと笑う。

「はん!!私を誰だと思ってるのよ!!南野凛音様にかかればそんなの余裕よ!!」

 周りを見ると『グラウンドのトラック』を持ってる人は、
 放送部の部長三郷先輩が
『グラウンドのトラック』と『ドッチボールの球』
 を持っていた。

 そして、バスケ部の副部長で桐崎先輩の彼女。藤崎先輩が、
『体育館』と『バトン』
 を持っていた。

「この状況でどうやって望みのくじを手に入れるんだよ?」
「まぁ、見てなさいよ。私の実力を示してあげるわ!!」

 凛音は薄い胸を反らせながらそう言うと、俺の隣に来る。
 そして、耳元で囁いた。

『これが上手く行ったら今夜は私の家に来て夕飯を食べていきなさい。私の両親もあんたに会いたがってるわ』

 そう言って、凛音は『体育館』のくじを持つ一年生の所へと向かって行った。

「……南野さんの家で夕飯を食べることは私が了承を出しましたから、構いませんよ?」
「……永久さん」

 俺の所に来た彼女に、俺は言葉を返した。

「私は、霧都くんを信じてますからね」
「永久さんを裏切ることはしないよ。それは誓うから」

 その言葉に、永久さんはふわりと微笑んでくれた。

「ありがとうございます。では、南野さんの交渉を見ていることにしましょうか」
「そうだね。あれだけ自信満々だったんだ。期待してようか」

 そう言って俺と永久さんは凛音の後ろ姿を見ていた。
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