Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

第十七話 ~馴染みの店で朝ご飯を食べながら、ツキに異世界転移者の話をした~

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 第十七話



『小鳥の憩い場』

 温かみのある文字で書かれた看板が扉の前に掛けられている。
『営業中』と書かれた看板も一緒に出ていた。

「良かったわ。やっぱりこの店はこの時間からやっていたわね」
「クエストで忙しかったから、しばらく来てなかったけどやっぱりこの看板を見ると落ち着くな」
「ふふふ。私は今からどんな料理が出てくるのか楽しみです」

 そんな話をした後に、俺は馴染みの店の扉を開いた。

「おはようございます。チヒロさん」
「おはよう、おばぁちゃん」
『おぉ良く来たね、ベル坊。それにリーファちゃんも』

 前に見た時よりもシワの増えた顔を笑顔にして、チヒロさんは俺たちを出迎えてくれた。

『おや、ベル坊。リーファちゃんの隣に居るべっぴんさんは誰なのかえ?』
「お初にお目に掛かります。私はベルフォードの『妻』のツキと申します。夫が若い頃から慣れ親しんだ味を今日は楽しみにしてまいりました」

 首を傾げるチヒロさんに、ツキはそう言って自己紹介をした。

『おやおやベル坊、結婚したのかい?リーファちゃんのことはどうしたのさ』
「あはは!!おばぁちゃん。ベルは女たらしだから私のことも『妻』にしてるわよ。全く。こんな美女を二人も妻にするなんて幸せ者よね!!」
「俺にはもったいない位だけど、二人を幸せにする覚悟はあるよ」

 俺がそう言うと、チヒロさんは安心したように息を吐きながら言ってきた。

『はぁ……私たちが昔居た世界では珍しい事じゃったけど、この国では一夫多妻制?が認められておるからの。良かったのぉベル坊』
「あはは……」

「ベルフォード。私たちが昔居た世界とはどういう意味ですか?国とは違うのですかね?」
「あぁ、それはね……」

 少しだけ気になる発言だったようで、ツキが俺の耳元で聞いてきた。
 今は厨房に居るから姿が見えないが、チヒロさんの旦那さんはシュウゾウさんと言う。

 この二人は『異世界転移者(いせかいてんいしゃ)』と呼ばれている。

 この国ガルムや隣国のトウヨウ、西の大陸ウェストなどこの世界にはたくさんの国がある。だが、チヒロさん達はこの世界とは別の世界からやって来た人達だ。
 三十年ほど前に、いきなりこの店ごとこの地に突然現れたんだ。

 何年かに数人。そういった事例が確認されていて、チヒロさん達が初めてという訳でも無い。
 店ごと転移してくるのは珍しい事だったけど。

 俺たちが飲み食いしていた緑茶や最中や大福も、隣国の異世界転移者生み出したものと言われている。

 どうやらチヒロさん達と『同郷』のようで『ニホン』と呼ばれる国からやって来たようだ。

 その他にも『イタリア』や『アメリカ』や『チュウゴク』と呼ばれるところからも来ているようで、主にこの世界の食文化の発展に寄与している人材が多い。

 あとは大抵の異世界転移者は『スキル』と呼ばれるものを所持している。

 ちなみにチヒロさんとシュウゾウさんは『給仕者(きゅうじしゃ)』と『料理者(りょうりしゃ)』のスキルを持っているようだ。

 チヒロさんは『出来上がった料理をいちばん美味しい状態でお客に提供するスキル』

 シュウゾウさんは『作りたいと思った料理の材料と道具を生み出せるスキル』

 このスキルがあるからこそ、この店の料理は美味しいし、価格も手頃で提供する事が出来ているらしい。

 魔物の肉を焼いて調味料を掛けるだけ。

 だったこの世界の食事事情。ほんの百年の間に食文化が急速に進化して行ったのは、異世界転移者の功績が非常に大きいと思うよな。

 そんな説明を軽くツキにすると、かなり神妙な表情で頷いていた。

「なるほど。この世界に無い料理なのですね。やはり勉強になりそうです!!早く食べてみたいところですね」
「あはは。じゃあ椅子に座って待ってることにしようか」

 そして、椅子に座って待っていると、奥から料理を持ったチヒロさんとニヤニヤと笑みを浮かべたシュウゾウさんが俺たちの元にやって来た。

「おはようございます、シュウゾウさん。お久しぶりです」
『いよう、ベル坊!!美人の妻を二人も手に入れるなんてやるじゃないか!!昔からたくさんの女に好かれてたからな!!やっぱりとんだハーレム野郎だな!!』

 ニヤリと笑いながらそんなことを言う初老の男性がシュウゾウさんだ。
 穏やかなチヒロさんとは対照的に、とても賑やかな人だ。

「ハーレム!!やはりベルフォードはハーレムを目指しているんですか!!ベルフォードは女たらしですからね!!」
「目指してないし、そんな事実も無いから……シュウゾウさん。本当に勘弁してください……」

『ははは!!まぁリーファちゃんとキチンとくっついたのは良かったぜ!!さぁ!!しっかりと食べていってくれ!!』
「はい。ご馳走になります」

 シュウゾウさんたちが持ってきてくれたのは『和食(わしょく)』と呼ばれる料理だった。

『白米(はくまい)』と呼ばれるものを炊きあげた真っ白なご飯が主食で、卵をかき混ぜないでそのまま焼く『目玉焼き』。
 そして、『焼き魚』に『煮物(にもの)』や『味噌汁(みそしる)』が着いている。

 そして、俺が大好きだけどリーファがめちゃくちゃ嫌いなものがコレだ。

「やっぱりここに来たら『納豆(なっとう)』を食べないとな!!」
「私、これは本当に無理なのよ……貴方が食べた匂いは我慢するわ。でもこれは譲るわよ」
「納豆……なかなか強烈な匂いをしてますね。私は挑戦してみますよ!!」

 表情を歪めているリーファは小さく拳を握っているツキに言う。

「完全に好き嫌いが別れる食材よ。無理だと感じたらベルに渡しなさい。この男とシルビアは大好物だったけと、私とエリックは無理だったわ」
「まずは食べる前にこの『箸(はし)』を使って小皿の中で二十から三十回かき混ぜるんだ。持ち方はこんな感じだな。そしてこの『醤油(しょうゆ)』と『辛子(からし)』を少し垂らして食べるといい」
「はい!!ではかき混ぜますね!!」


 ツキはそう言うと、箸を俺の持ち方を器用に真似て初めてにも関わらず手際よくかき混ぜ始めた。

『おぉ!!嬢ちゃん、箸の使い方が上手いな!!』
「お褒めいただいてありがとうございます」

 シュウゾウさんの褒め言葉に返事をしたあと、白くなった納豆にツキは醤油と辛子を垂らす。

「そしたら少しだけかき混ぜて、一口食べてご覧。美味しかったらご飯にかけてるのが主流だな」
「はい!!ではいただきます!!」

 ツキはそう言うと、食べ頃になった納豆を一口食べる。

 そして……


「………………なるほど。そうですか」


 神妙な顔でそう言ったあと、ツキは俺に納豆を差し出してきた。

「やっぱりダメだったか?」
「いえ……納豆は大丈夫だと思います。ですが、私はコレがダメだったみたいです」

 ツキはそう言うと辛子を指さした。

「か、辛いです……」
「あはは、そうか。これを入れたらもう取り返しがつかないからな」

 俺はそう言うと、まだ手を付けてない納豆をツキに渡す。

「今度は辛子を入れないで作るといい。それなら食べられるだろ?」
「はい!!ありがとうございます、ベルフォード」

 そして、俺はツキが作ってくれた食べ頃の納豆をご飯にかけて食べていく。

「この匂いとネバネバがたまんねぇよな」
「……いつもの事だけど、食事が終わったら『消臭』の魔法を掛けるわよ」
「ははは。助かるよ、ありがとうリーファ」

 こうして、俺たちは『小鳥の憩い場』での食事を楽しんでいった。

 ツキは辛子を入れない納豆はお気に召したようで、美味しそうに食べていた。
 煮物や味噌汁にも興味を示したようで、作り方の研究をするとも言っていた。

 彼女の料理レパートリーを増やす旅。みたいなのを新婚旅行も兼ねてするのも悪くないな。

 そんなことを考えながら、俺は煮物の蓮根(れんこん)を口に運んだ。
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