Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

第十八話 ~馬車に乗って移動していると魔物の群れに襲われた~

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 第十八話




「ご馳走様でした」
「ふぅ……ご馳走様。やっぱり納豆以外は美味しかったわね」
「私は辛子の入ってない納豆は好物になりました!!あのネバネバが好きです」

『小鳥の憩い場』で提供された食事を全て食べ終わり、俺たちは『ほうじ茶』と呼ばれるお茶を飲んでいた。

 緑茶の親戚みたいなものらしく、紅茶より濃い茶色をしたお茶だ。
 チヒロさんたちの故郷のニホンで、食後によく飲まれるものらしい。

「さて、そろそろ馬車が来る時間だな。お会計をしてから向かうとしようか」
「そうね。和食定食は一人五百Gだったわね、本当に安いわね」
「こ、これがたったの五百Gなんですか……やはり『スキル』と言うのはすごいのですね」

 もっと儲けよう。なんて考えればいくらでも出来そうなスキルだけど、チヒロさん達の夫婦はそんなことは微塵も考えていない。

 自分たちの料理を少し安い値段で提供して、たくさんの人に食べてもらいたい。

 そういう風に考えているからだ。

 だからこそ、駆け出しの頃にこの料理で育ち、収入が多くなってここを卒業したが、ここの味が恋しくなった頃にまた戻ってくる。

 そんな冒険者が後を絶たない。

 こんな早朝だからこそ空いていたが、昼時になれば若手からベテランまでたくさんの冒険者で溢れかえる人気店だ。

「チヒロさん、ご馳走様でした。今日も美味しかったです」

 俺はそう言った後に、食事の代金をチヒロさんに支払う。
 その時に、お金とは別に『差し入れ』を手渡す。

 若い頃からお世話になっているので、そのお礼だ。

『あらあらベル坊。いつもありがとうね』
「中にはチヒロさんが好きな『お煎餅(せんべい)』が入ってます。歯に気をつけて召し上がってください」

『ふふふ。気遣ってくれてありがとう、ベル坊。それじゃあまた来なね』
「はい。では失礼します」

 俺はそう言ってお店を後にした。

「お待たせ。支払いを終えてきたよ」
「おかえりなさい。ちょうど馬車もやって来たところよ。乗っていきましょう」
「私、この身体で馬車に乗るのは初めてなので楽しみです」

 馬車の停留所で俺たちは待っていてくれた馬車に乗り込む。

 乗客は俺たちだけだったようだ。

『こ、これはSランクのベルフォードさんとリーフレットさんじゃないですか!!今日はとても運がいい!!』
「あはは。そう言ってくれると嬉しいな。行先は終点のセルティックまで。料金は1.5倍払うから貸し切りでお願い出来るかな?」
『了解しました!!』

「あと万が一魔物に襲われることがあっても、討伐に料金を取ることはしないから安心して欲しい」
『良いんですか!!ありがとうございます!!とても助かります!!』

 冒険者と言うのはランクが上がる事に雇う金額が上がっていく。Sランク冒険者ともなればとてつもない金額が掛る。
 だからこそ、こういう所では『無償である』と示しておかないといけないからな。

 そして、俺たちは馬車に乗って街道を移動していく。

「な、なるほど……結構馬車は揺れるのですね……お、おしりが痛いです……」
「ははは。慣れないとこの揺れはキツイよね」

 少しだけ表情を歪めるツキに、俺は少しだけ微笑みながらそう言葉を返す。

「リーファのおしりが大きいのは、この馬車に鍛えられたからでしょうかね」
「なんてことを言うのよツキ……許さないわよ……」

 剣呑な瞳でツキを睨みつけるリーファ。
 そんなに大きなおしりでは無いと思うし、とても魅力的だから気にしなくても良いと思うけど。

 そんなことを考えていると、少し離れたところに魔物の気配を感じた。

「リーファ。どうやらお喋りはここまでみたいだな」
「そうね。まぁあの気配からして『中型ウルフが三体』ってところかしら?」

 そして、俺はツキに声を掛ける。

「これから戦闘に入る。ツキは刀になってもらえるかな?」
「はい!!共に戦いましょうベルフォード!!」

 ツキはそう言うと、人の姿から月光の姿に変化する。

「魔獣の気配を感じ取った。これより討伐に入る」
『わ、わかりました!!』

 俺は運転手にそう声を掛ける。

「中型のウルフが三体だ。まぁ油断しなければ大した敵では無いから安心して欲しい」
『はい!!ではよろしくお願いします!!』

 すると、俺たちの目の前に三体の中型ウルフが姿を現した。

「リーファ!!『拘束魔法(バインド)』だ!!」
「了解よ!!」

 馬車の中で詠唱を既に済ませていたリーファの杖から、魔力の鎖が中型ウルフに伸びる。

 その鎖はウルフの身体に巻きついて、この魔獣の特性の素早さを奪い取る。

「守護(しゅご)の太刀(たち)・月天流(げってんりゅう)……一(はじまり)の型(かた)。三日月(みかづき)の舞(まい)」

 魔物の群れへと一気に距離を詰めたあと、俺は月光を流れる様に閃かせる。
 剣閃が描くのは銀色の三日月。

 月光の切れ味も相まって、ウルフの首を一太刀で斬り飛ばして行った。

『こ、これが……Sランク……』
「まぁ中型ウルフならCランクの魔獣だからな」
「群れると厄介だけど、三体なら楽勝ね」

 そんな会話をしてから俺は懐から『回収袋(かいしゅうふくろ)』を取り出す。
 この袋にはリーファの『空間魔法』が込められており、魔獣の死骸を回収することが出来る。

 命があると入れられないという縛りがあるが、ほぼ無限に物を収容出来るとんでもないアイテムだ。

「よし、死骸の回収も終わったし……いや、もう一体居たか」
「そうね。この機会だから討伐しておきましょう」

 俺とリーファはそう言ったあと、視線を合わせて頷き合う。

『ど、どうかしましたか?』
「ここから少し離れたところで『大型ウルフ』の気配を感じた」
「ギルドから討伐依頼が出ていてね。発見した冒険者が討伐して欲しいという話なのよ」

『大型ウルフ』はAランクの魔獣だ。
 基本的には単体では行動しないで中型を数体連れて行動する。
 その用心深さが討伐ランクを引き上げている最大の要因だ。

 今回の中型はその大型ウルフの連れ、偵察だった可能性が高い。

 だとするならば、今が大型ウルフ討伐のチャンスと言える。

「ここで少し待ってて欲しい。すぐに討伐を終えて戻ってくる」
『わ、わかりました!!』

 俺は運転手にそう言うと、リーファと共に街道から外れて森の中へと進んで行った。

「ふふふ。ねぇベル、タダ働きになるけど良いのかしら?」
「お金なら腐るほどあるからな。正直な話をすれば使い切れないし」

 大型ウルフを討伐すれば一千万Gになる。
 一般人の二年分の年収だ。
 馬車の運転手とは道中に魔獣を討伐しても『無償』と言う契約にしている。

 だが、そんなお金なんかより国民の安全のために今ここで対象を討伐する方が大切だと思ってる。

 すると、俺たちの目の前に、先程のウルフよりも三回り程大きいウルフが現れる。
 どうやら俺の月光から放たれている、中型ウルフの血の匂いを嗅ぎ取ったのか、かなり怒りに満ちているのがわかった。

「さて、見付けたぞリーファ」
「そうね。それじゃあベル。少し強めの拘束魔法の詠唱に入るから、時間稼ぎを宜しくね」

 リーファはそう言うと杖を構えて詠唱に入った。

「さて、それじゃあ行くぞ、ツキ!!」
『はい!!リーファの拘束魔法なんて要りません!!私たちだけで倒してしまいましょう!!』

 月光を構えて俺は大型のウルフと向き合う。
 ツキの固有能力『永遠不滅』のお陰で先程のウルフの血糊のせいで切れ味が落ちるということも無い。

 油断さえしなければ問題なく討伐出来る対象だ。

 俺は油断無く月光を構えながらウルフへと駆け出した。
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