完結)マサシのチョコレート

岩兎希 光 イワトキ ヒカル

文字の大きさ
5 / 25
第1章 神童

ゴメンな

しおりを挟む
一方、あけみは自分の家で家事をしていた。本当はマサシがちゃんと家に帰っているのか電話をかけてみたかったが、なんとなく恥ずかしくて止めておいた。それに自分の両親の為に、晩御飯の仕度をしなくてはならない。
あけみの両親は病弱で、いつも仕事から帰って来るとフラフラと倒れてしまう。だからあけみは、少しでも身体に良い物を両親に食べさせてあげたいと思っていた。
あけみが、今夜の晩御飯
『日本料理中華料理イタリア料理インド料理タイ料理ベトナム料理沖縄料理台湾料理フランス料理スペイン料理その他ありとあらゆる料理の盛り合わせ』
という料理をせっせと作っていると、寝室から不気味な声がする。
「め、飯はまだかい?」
あけみの母、好子の(よしこ)の唸り声だ。そして、その声に反応して、父、拓也の低くこもった声がウゴ~ンと鳴り響く、どうやら
「母さん、飯ならさっき食べたたりょ」
と言っているそうだ。
「そうだったかしら?」
この拍子抜けた二人の会話に我慢出来なくなったのか、あけみが、
「今作ってるわよ!!」
と怒鳴ると、
「ああ、そうなの!?」
「ああ、そうかりゃ!?」
と、声のタイミングぴったり同時に返事をする。そして、いよいよ料理が出来ると三人で食事をとった。
「それにしてもあけみ、料理上手くなったりょ」
そう言ってあけみを誉めているのは父、拓也だが、勿論、普通の人間にはウゴ~ン!としか聞こえない。
「そうね、二年ほど前はとっても不味かったもの…それもすごく…とても大胆に…思い出しただけでウェ~ゲロッパ!」
「ほっといて!」
「母さんはそれほど今の料理が美味しいって誉めているりょ…ウェ~ゲリョッパ!(ウゴ~ン)」
あけみは二人の話にあきれたのか、無視してさっさとご飯を食べる。すると電話が鳴り出して、あわててあけみは電話に出た。…きっとマサシからじゃないかしら?
「あっもしもし、田崎マサシって言うんですけど」
思った通り、マサシからの電話である。
「あら?どうしたの?」
あけみは、電話がかかってくるのをずっと待っていたかの様に思われたくなかった為、わざととぼけた感じの対応をした。
「あけみ?」
「そうよ。」
「…今日はゴメンな。」
あけみはマサシに素直に謝られて、戸惑ってしまった。本当は許したりせずに、文句を散々言ってやって、少しの間からかってやりたかったのだ。
どうやら好きな相手に対して、お互いに素直になれない性格のようである。
「い、いいのよ。それよりマサシは大丈夫なの?」
「うん…いや、大丈夫じゃないかもしれへん」
そう言ってマサシは電話の向こうで苦笑いを浮かべたのか、小さく笑った。
「元気出して、私も力になるから…。」
「そんなこと言うなよ。あけみにそんなこと言われたら無理にでも頑張らなあかん…でも、ありがとうな。」
いつもあけみの前では強気なマサシだったが、今日ばかりは何か違っていた。
そう、いつもは勝手なことばかり言って、冗談にしてしまうマサシは、頼りなくとも、必ずなんとかなるんだと信じてしまえるような、そんな不思議な魅力があった。
その為か、マサシの傍にいると、あけみはどんな時も不安になるようなことはなかったのである。
けれど、今のマサシは弱気で、何か不安げな感じがした。そしてあけみはマサシに対して初めての感情が込み上げてきたのだった。
それは、胸に何かが入り込んできた様な感じで、それが零れ落ちてしまわない様に、心が締め付けられてゆく感じだ。そして、守ってあげたいという思いを大切な何かに約束する。そんな不思議な感情なのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...