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Gifted Beginning

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ここらでこの世界における魔法や、国立魔法専門学校について詳しく説明しておかねばなるまい。
この世界における魔法は人間の体に先天的に備わっている元素(エレメント)をもとにして発生させるものである。その6つとは

炎(playable element)…主に身体強化や回復ヒールなど、人間の身体機能に干渉し、その機能に直接影響を与える性質を持つ。


大地(fixed element)…こちらも身体に干渉する元素だが、こちらは人間の脳や精神に干渉し、最終的に脳機能に定着、結びつくことで精神干渉や念力といった人間の脳機能を超えた働きを促す性質を持つ。


水(alter element)…流動的な構造をしており、元素そのものを変質させることによって体の一部または全身を変化させるなど、変化にまつわる魔法を主とする性質を持つ。


光(divine element)…いわゆる召喚魔法や加護による強化を、主とする元素。


風(burst element)…元素エレメントそのものに大きなエネルギーが宿っており、それを解放させることによって炎や雷など、極めて強力な破壊力をもった魔法を繰り出すことが可能。


空(freedom element)…上記5つに当てはまらない、もしくは似てはいるが、発動までのプロセスが異なるものなど、元素の持ち主の素質によって性質が変化する極めて珍しい元素。一番所持者が少ない。


の6つを指す。
人は個々人の持つ元素をもとに魔法式や呪文を組み、魔法を発動させることができる。元素は一部の例外を除いて一人に一種類、多くても二種類であり、同じ魔法でも個々人によってその出力や精度、魔法の方向性は異なる。
また、魔法が開発された当初は極めて単純かつ非力な魔法しか行使できず、その種類も数えるほどしか存在しなかったが、魔法の社会に対する有用性に気付いた国が中心となって魔法式、呪文といった魔法発生のトリガーとなりうる物の研究が進み、今では無限大ともいえるほど魔法の様式は多様化した。それこそ、数世紀前までの漫画やアニメに出てきたような魔法が、今では当たり前のようにありとあらゆる場所で使われているのだ。

そして、ある程度魔法に関する研究が進んだと判断した国は、国際社会における自らの立場を確立すべく、次世代を担うエリートの育成に着手し、それが国直轄の教育機関という形で実現した。この体制ができたのはつい数年十年前のことである。
今では世の学生の憧れの的であり、入学するだけでも将来の成功が約束されているとまでいわれるこの教育施設は、統括本部のある東京都を除く関東圏の県庁所在地に1校ずつ配置されている。
それぞれ、


国立炎陽学園…神奈川県横浜市に位置する。
ベースとなる色は赤、紋様は獅子。


国立星創学園…群馬県高崎市に位置する。
色は紫、 紋様は熊。


国立海宝学園…埼玉県さいたま市に位置する。
色は青、紋様は鮫。


聖グロリア国立学園…栃木県宇都宮市に位置する。
色は黄、紋様は天使。


国立風紋学園…茨城県水戸市に位置する。
色は緑、紋様は龍。


国立空ノ宮学園…千葉県千葉市に位置する。
色は白、紋様は鷹。


当初、国は元素毎に分担して教育を行うため、それぞれの学園に色を与え、それに準じて生徒を集めていたが、魔法形態の多様化によってその体制は形骸化し、今ではどの学園にも差はあれど様々な元素持ちが存在している。


他にも細かな設定や学園についての補足はあるが、ここでは割愛させてもらう。随時補足説明をするので、見逃さないように。それでは、本編に戻ろう。

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入学式の翌日。
僕は宿舎への引越しをすませ、午後からの魔力基礎能力測定に備えて体操服に着替えた後、1人で少し早めの昼食をとっていた。

神山さんには「ここは自由な校風だから、君もすぐ馴染めると思うよ」と言われたが、本当にここは自由度が高い。
学園の敷地内にはスポーツジムやいくつもの食堂、計10つある魔法実技演習場、広大な屋外フリースペースなど、様々な施設があり、学生たちは思い思いの場所で羽をのばし、勉学、そして魔法の修練に励んでいる。

本当に、僕にはもったいないくらいだ。
昔から僕は昼休みになっても1人で静かに考え事なんかをしながらご飯を食べ、食べ終わったら本を読んで過ごすのが日課だった。
ここでは澄んだ空気の中で本が読めるなぁなんて考えていると、


「は、白導くん!隣いいかな?」


突然、背後から話しかけられて危うくカレーが鼻から出てしまうところだった。カプサイシン系のツーンとした辛味を抑えつつそちらに目をやると、文月さんが立っていた。そう言えばさっきまで引越しの手伝いをしてもらってたっけ。彼女も体操服姿だ。

「せっかく一緒に荷物入れしたんだから、誘ってくれればよかったのに…」

「ご、ごめん!今度から、気をつけるよ…」

自信なさげにそういう僕を後目に、彼女は目の前に座ってスパゲティを食べ始めた。昨日に比べて大分砕けた話し方になっててびっくりしたというのもあるが、女子と2人でご飯を食べるなんて、初めてだったので柄にもなくドギマギしてしまったのだ。

考えてみれば、僕は恋愛経験は愚か、女子との友達付き合いもほとんどしてこなかった。僕が気軽に話せる女子なんてずっと昔、引っ越していった幼なじみくらいだ。僕にとってはこうして何気なく話しかけてくれる女子の存在そのものが新鮮に見えたのだ。
この子とは仲良くできるかも…なんて考えていると、文月さんは顔を僕にずいと近づけた。そして彼女はありふれた、しかし僕には核弾頭級のタブーともいえる質問をしてきた。

「ねえ、白導くんてさ、どんな魔法が得意なの?」

「え?ぼ、僕は…」

答えられるはずがない。でも、ここで魔法が使えないといえば馬鹿にされるのではないか?その話が広まって、僕はまた、のけ者扱いされてしまうのだろうか?魔法が使えない、 ただの屑呼ばわりされるのだろうか?

「白導くんもしかして…」

ずっと黙っていると、彼女は何かを察したかのようにそういった。僕は唇をかんだ。きづかれたのか?僕が魔法を使えないことに。ああ、もうこれで僕の学園生活は終わりだ…せっかく、打ち解けたと思ったのに…


「…体調、悪いの?」


「…へ?」


思わず素の声が出てしまった。
女子に体調の事を心配されてるだけならともかく、盛大な勘違いをされている所に柄でもなくぽかんとしてしまった。


「え、ああ。うん。ちょっと、昨日の今日で疲れがたまってきててね…」

「大丈夫?魔力基礎能力測定、結構体力つかうよ?」


ここは彼女には申し訳ないが嘘を着くことにした。
無論、僕が魔法が使えないことは遅かれ早かれ皆にバレることになる。でも今は、もう少しだけ、彼女に勘違いを続けて欲しかった。

「ほらいくよ?何ボケっとしているの?」

彼女に促され、僕は測定が行われる第4魔法実技演習場へ向かった。

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演習場には既に他の面々は揃っていた。
「あ!白導くんと文月さんきたよー!やっほー!」

大声で手を振っているのは五十寅さんだ。相変わらず元気がいい。

「お、おはよう、五十寅さん。」

「むー。晴ってよんでっていったよねーボク?」

「い、いやぁ…僕はあまり名前呼びはなれなくて…」

彼女は僕に走りよるとふくれっ面でそう言った。
こうしてみると改めて中学生と間違えてしまいそうなくらい 幼い顔立ちをしていることがわかる。唯一、白のメッシュが辛うじて幼さをかき消している。

「おはようございます。文月さん、白導さん」

「2人ともどうもー。」

藍桐さんと進藤くんも来ていた。藍桐さんは礼儀正しく挨拶をすると、すぐに五十寅さんに抱きつかれていた。もう既にお母さんポジションが確立しているようだ。
進藤くんは相変わらず飄々としている。よく見ると片耳にピアスの穴が空いているのがみえた。この学園は身だしなみに関しては自由なのだろうか。

「あれ?沼神さんは?」

「ああ、沼神さんならあそこっすよー」

進藤くんの指さした先にいたのは、演習場の隅の方で震えている沼神さんの姿だった。まだこの環境になれないらしい。ついさっきまでまた逃亡していたらしく、いつの間にか現れたようだ。
ちなみにもう1人、昨日欠席していた彼は今日も来ていないようだ。

「諸君。揃っているようだね。」

これまたいつの間にか、僕達6人の目の前に神山先生が現れた。神出鬼没とはまさにこの事だ。

「では改めて。特別科giftedの担任を務める、神山依織だ。よろしく。早速だが、魔力基礎能力測定を始める。」

後ろの方で五十寅さんが「っしゃー、」と言っていたが、僕にとっては見せしめの刑にも等しいものだった。

魔力基礎能力測定とは、基本は特別な装置を用いて身体の中にある元素がどの種類のものか、またどのような動きをしているのかを測定することで、個々人にあった魔法形態を見出す基準を測定するものだ。通常は測定器の前で自身の使える魔法を発動し、読み取らせるという体系になっている。
判定は色によって示される。赤なら炎の元素、青なら水の元素といった具合だ。

僕が魔法を使えないと断言する根拠は、僕は今までに1度も、色が変わったことがなかったからだ。
装置のデフォルトの色である黒からそれぞれの色に変わっていくのが普通なのだが、僕の場合はどれだけ力を込めても黒色のまま変わったことはない。これまでの一度も。

ひとり絶望している僕をおいて、沼神さん以外の四人はやる気十分だ。

「あー。やる気十分なところ悪いが、さっそく始めるぞ。よし、とりあえず…


全員脱げ。」

…ん?
神山先生、いまなんて?

「脱げといったんだ。わからなかったか?これからお前らの体の元素の動きをみるためにパッチをつけさせてもらう。つべこべ言わずさっさと裸になれ。」

僕は二つの意味で混乱した。一つは今まで魔力基礎能力でそんなものをつけたことはなかったことだ。もう一つは…

「ん。そっか!じゃーぬいじゃおーっと!」

そういうと五十寅さんは体操服を脱ぎ捨てー

「い、いけないですよ五十寅さん!みんながいるところで…って、五十寅さん!!し、下着は…」

「つけてないよ?必要ないもん」

「わー!ふ、二人とも、こっちをみちゃダメー!」

2人というのが僕と進藤くんのことであると理解するのに数秒かかった。

「え、あ。ご、ごめん!!」

「ういーす…」

僕と進藤くんはパッチを受け取ると駆け足で更衣室へと向かった。
やれやれ、とんだハプニングだった…

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女子更衣室にて

「あ、危なかったですわね…もう。五十寅さん、今後はあんな女の子らしからぬ行動はつつしんd

「さてさてー!雅ちゃんはどんな下着つけてるのー?」

五十寅さんは藍桐さんの体操服をまくしあげた。
グラマラスな胸部と…見慣れない、白い布が巻いてあった。

「な、な、晴さん、何をして…」

「ん!ボク知ってるよこれ!サラシってやつでしょ!?ふむふむ、大きなおっぱいといい、ほんとにえっちな体だねぇー!」

「え、えっちだなんて、そんな…ハレンチな…ううう…」

藍桐さんは今にも泣きだしそうだ。

「は、晴さん!藍桐さんいやがってるじゃない!」

「でも薫ももっと見たいでしょ~?雅のおっぱい」

「そりゃあみたいけど…うーん、でもいいなぁ、なんで神様はこんなにも非情なんだろ…」

文月さんは自分の歳の割には控えめな胸を擦りながら、自分の物と藍桐さんの物を交互に見た。そしていたずらっ子のような目をして

「よ、よし!私も藍桐さんの胸の秘密を解き明かすぞー!一緒に行くよ!晴さん!!」

「うん!僕は後ろからいくから、薫は前からお願い!」

「うう…うううう…2人とも…やめ…」

藍桐さんは後ずさった。しかしもう逃げ場はない。

「「とりゃあー!」」

「あっ…はぁ…ひぅぅ…」

前後から抱きしめられ、胸をもまれた藍桐さんは抵抗むなしくその場に崩れ落ちてしまった。

「うひゃ~この触り心地、たまらないねぇ~男の人がおっぱいが好きな理由がわかる気がするよ~」

「ほ、ほんとだ…はわあ…マシュマロみたい…これから毎日お風呂で揉んでもらおうかなぁ…」

「あ!それ賛成!というわけで雅!今日からよろしくね~!」

「い、い…


いい加減になさーい!!」

更衣室に顔を真っ赤にした藍桐さんの悲鳴が轟いた。2人に揉みしだかれた藍桐さんは気を失いかけていた。

「ありゃあ。やりすぎちゃった?僕たち?」

「あはは…そうかも…?」

「そうかもじゃありません!全くもう、2人とも…」

「でも、藍桐さんきもちよさそうでしたよ?」

「そうだよ~あんな顔しちゃってぇ~本当は気持ちよかったんじゃないのぉ~」

「そ、そんな訳ありませんわ!」

ぎゃーぎゃー騒ぎつつも、パッチを装着し、演習場へと3人は向かっていった。
着替えを終え、3人が出ていったあと、遅れて沼神さんが更衣室へ到着した。

「わ、私も着替えなきゃ…ううう…」

1人演習場の隅にいた沼神さんは、派手な桃色の下着を腕で隠しながら、そそくさと着替えを終えた。


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30分後。

藍桐さんがどことなく息が上がっているように見えたが、無事(?)6人がパッチを装着して戻ると、神山さんは測定装置の調整をしていた。
僕が知っている装置よりもずっと大掛かりなものだ。

「よーし。では文月から始めるぞー。1人ずつ装置の内側に入って、私の指示通り動け。」

こうして、魔力基礎能力が始まった。

ここからが、後の異端者達、イレギュラーズの伝説の始まりであるなんて夢にも思わずに。

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さて…と。


お手並み拝見といこうか。
私こと神山依織は柄にもなく少し興奮している。

なにせ私が見込み、私がスカウトし、私が無理やり推薦状を送り付けた子達の魔法の素質を、この最高の装置で分析できるのだ。研究者の血が騒がないわけが無い。
ここにある装置は全国の学校に必ず数台ずつ設置されている凡庸型の魔力測定機ではない。
最高度の解析度を持つ、世界的に見ても希少な装置だ。ここまでの装置は6つの国立魔法学園の中でもここにしかない。

いや。正確にはこの装置はここにないと意味がない。
なぜなら、この超高性能魔力測定機は私の固有魔法と連動することで初めて測定機としての機能を果たすものだからだ。

私の固有魔法は万象を解析し、元素の種類や性質は勿論、対象の秘めた可能性をも解析出来るというものだ。基本的には大地の元素を基とした魔法だが、私のもつ大地の元素は風の元素のような大きいエネルギーを内包しており、そのエネルギーが脳に干渉することで次元を超えた可能性をも観測しうるまでになったのだ。要するに詳しい分析も可能な未来視のようなものだ。もともとは別の用途に使っていた能力だったが、ある時をきっかけにこのような使い方をするようになった。無論、次元を超越した力は長くは使えない。さらにデータとして残すことは出来ないという2つの問題点を改善すべく、この巨大な装置を開発したというわけだ。

そして、この能力の極めつけは特異な魔法形態、つまり既存の魔法社会には存在してない、あるいは存在し得ない異端者を見つけると、その者の情報が私の記憶に刻まれるという所にある。無論、この魔法が発動した例は極めて少なく、これまでにたったの2件しかない。2件とも、政府の裏組織による人体実験によって異常な力を得てしまった被験者によるものだった。

だが、ある時、一気に7名の情報が頭に刻まれた。その時はまた政府の裏組織が人体実験でもしたのだろうと思ったが、入ってきた情報を見て驚いた。全員、健全な学生たちなのだ。この7人にはきっと何かあるに違いない。そう思った私は比較的自由な校風である空ノ宮学園に直談判し、特別科giftedの設立を許可して貰ったのだ。

私の能力が異端者と認識した者たちがどのようなものなのか。自分でスカウトしておいて何だが、正直不安もあった。私の思い違いだったのかもしれない。そう思うと少しだけ冷や汗をかくような感覚が体を駆け巡った。

「…夢を見させてくれよ?gifted諸君。」

1人呟くのと、最初の被験者、文月薫が入ってくるのが、ほぼ同時だった。

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なんということだ。

私の目論見は外れてしまった。




いい意味で。


こいつらは異端者の中でも特に異端だ。
検査を終え、なぜか医務室で横たわっている私は、先程の測定での出来事を回想していた。

まず、1番手の文月薫。
元素は風。
通常、風の元素は個々人によって解放できるものが異なり、限られている。数種類繰り出せるものはそうはいない。

だが、どうやら彼女の風の元素は水の元素のもつ変容の性質を含んでいるようなのだ。炎から雷、風、水に至るまで、彼女はなんでも解放させて見せた。その威力も最大まで出させた時には高層ビルなら楽々と木っ端微塵にできるほどになると予測が出た。

これだけでも十分異端だが、普通の風の元素持ちはそれの持つエネルギーの莫大さ故に、長ったらしい呪文を詠唱しないと魔法の発動はできない。そうしないと魔法式の組み立てが不十分で、元素が体内で暴走する恐れがあるからだ。しかし、彼女の魔法は現行のアプローチとは異なり、彼女の持つイメージのみの力でそれを行っているようなのだ。無詠唱による風の元素由来の魔法行使ができるのは、私が知る限りではこの世界広しと言えども片方の指で足りる数ほどだ。

ただ、細かい操作は苦手なようで威力調節に難があるのと、イメージのみで発動している分体の負担が大きいらしく、測定が終わるとへなへなとその場に崩れてしまった。課題は魔法形態の最適化と解放の威力、精度の強化か。
彼女に関してはもともと他の学園からの推薦も来ていたらしく、かなりの使い手なのは知っていたが、正真正銘の実力者である。



次に進藤麻亜也。

元素は光、大地、風。
まず、3つの属性持ちという時点で十二分に異端である。本人は光のみと言っていたが、恐らくこの装置で測らなければ分からなかったことであろう。3つの属性を持つものはほぼ例外なく国直轄の魔法軍隊に入るか、第一線級の研究者になるなど、国の重要な戦力として重宝されている者ばかりだ。

彼は日本の陰陽道に通ずる家系の出身のようで、呪詛の札を用いた召喚術を使う。
正直、魔法運用に伴う元素の使い方の効率が良くなかったが、私は彼によって召喚された獣を見て、思わず目を疑った。見たことも無い合成獣キメラのような獣を使役していたのだ。前述した通り、光の元素で召喚できるのは既存の動物のみだ。もしや合成獣の生成を行う不正魔法かと一瞬目を疑ったが、その可能性は次の彼のアクションによって否と断定されることになる。

どうやら、彼は呪詛の札そのものに獣を収納しているようなのだ。それも獣ははるか昔、日本で猛威をふるった妖怪、鵺ぬえに酷似していると、私の解析でわかった。サイズはかなり小さかったが、あの見た目からして間違いないだろう。
呼び出しているのではない。彼が生み出しているのだ。

彼は現実に存在しない、空想の魔物を使役できる。私の解析でも詳しい発動プロセスは解明できなかったが、こんな魔法が存在すると世界に知られたら、各国は躍起になってより強力な魔物の召喚を目指して研究を進めるだろう。

無論、まだ召喚術としての完成度は高くなく、使役する魔物も現段階ではそこまでの強さではない。だが、彼の秘めた可能性は言葉通り無限大である。その気になれば、単身で国家の脅威となりうる存在となるかもしれない。彼もまた推薦を受けていたそうだが、「遠くに行くのがめんどくさい」と、地元である千葉のこの学園に通うことになったのだそうだ。彼が千葉の民であってくれたことに心から感謝している。



続いて元気印の五十寅 晴。
元素は炎。

彼女の異端たる所以は、測定を初めてすぐに分かった。彼女が何らかの拳法の構えをとったかと思うや否や、彼女の周囲に膨大な量、そして質の炎の元素がオーラのようにあふれ出したのだ。まるで、彼女自身の闘気が具現化したかのように。
普通、炎の元素は炎という名前とは裏腹に発動しても外観的には特に変化がないのが普通だ。だが、彼女の元素はどうだ。風の元素をもってしても、ここまで膨大な魔力量は出せない。魔力量の限界値を測定しようとしたが、すぐにエラーがでた。五十寅さんに失礼ではあるが、魔力量だけを見れば、人間のものではない。装置越しにいる私でさえ、その闘気に圧倒されていた。

だが、いざ演武のようなものを始めたとき、急激に彼女の纏う闘気が薄れていくのを観測した。それでも一つ一つの動きだけで周りの空気が軋むようであったが、構えをとった時の十分の一にも満たない量だった。力が強大過ぎるがゆえに、力の使い方を制御できないようだ。特別科の話を彼女の所属校にしたところ、ぜひお願いしますと即答された。恐らくだれも彼女を教えるすべを持たなかったのだろう。

今後の成長次第では本当に人間をやめてしまう恐れがあるので、彼女にはいろいろと気を使わなければいけないようだ。



4番手は藍桐 雅。
元素は大地、空。

通常、魔法は元素をを源として発生させるものであり、二つの元素を併用する場合も、二つの元素
から放たれたエネルギーを呪文などの式を通して一本化するのが普通だ。なのだが…


彼女は入って来るや否や、いきなり静かに空を飛んだではないか。それも、魔法を行使している気配もなく。
空を飛ぶことそのものは不可能ではない。だが、現行の魔法で空を飛ぶには、テレキネシスのような魔法を自身にかけるか、風の元素を用いて自身を風で浮き上がらせるといった方法が必要であり、それらの魔法は例外なく短時間のみしか使用できず、そして精密な魔法管理能力が必要なのでとても実用には程遠いといわれているのだ。

だが彼女はどうだ。なんの苦も無く飛んでいる。
そして優雅に着地したかと思えば、次の瞬間、装置の目の前に現れた。驚くまもなく、彼女は次々と別の場所に現れて見せた。瞬間移動など、西暦3000年代になった今でも不可能だといわれている技術だ。それをどうやって…

「うふふ?驚きましたか?」

突然、誰かに話しかけられた。もう大抵のことでは驚かないつもりでいたが…

「大抵のことでは驚かない。ですか…みなさん、さぞかし凄い魔法使いだったのですね…わたしも負けていられないです」

正面をみると、彼女はこちらを向いてニコッと笑ってみせた。間違いない。これは念話だ。念話そのものは珍しい魔法では無いが、ここまで送り手のニュアンスが再現される念話は初めてだ。飛行、瞬間移動、念話。特に飛行と瞬間移動に関しては固有魔法並の完成度だ。どうなっている?空の元素の力によるものなのは間違いないのだが、多様すぎる。水の性質を含んだ空の元素を持っているのか?そう思って解析を進めると、驚愕の事実が明らかになった。

なんと彼女は大地の元素の能力を用いて空の元素そのものに暗示をかけ、擬似的な性質変化を促すことで様々な種類の魔法使用を可能にしているのだ。元素そのものに暗示をかけるなど、私でも思いつかない発想だ。使い手の精神によって性質が変わる空の元素を、暗示をかけることによってさまざまな自身の可能性を引き出す。

ある意味では既に魔法の使い方に関しては高みに達しているともいってよい段階にいる。彼女の在り方そのものが異端といってよいだろう。

ただ、あまりにも効率が悪い。進藤のように魔力消費の点ではなく、あくまでも使い方の話だ。ここまで強力な暗示を使えるのなら、別の使い方をすることもできるだろう。事実、彼女自身も推薦を貰う際に、書類に様々な魔法形態を知りたいといっていた。彼女にはあるだけの知識を託し、さらなる高みを目指してもらうとしよう。



5番手、沼神 優。
元素は水。

彼女は演習場に入ったとたん、泣き出してしまった。緊張してるのかもしれないが、これでは解析ができん。やむなく、解析を中断して話しかけようと思ったその時だった。

彼女の姿が忽然と消えた。

また瞬間移動か?
だが、その割には出現が遅い。別室に逃げたのか?いや、そもそも水の元素しか持たない彼女に、瞬間移動は不可能なはずだ。じゃあ、どこに…

「うう…先生…いきなりジロジロ見ないでくださいよう…」

念話?いやいやいや。無理な話だ。それとも藍桐がいたずらでもけしかけてきたのか?でも彼女の姿はない。ではどこに…

「ここです…先生…ううう、帰りたい…」

彼女は私の後ろにいた。
いや。訂正しよう。
測定機の運用に当たって電脳空間に一時的にダイブしていた私の後ろに、現れたのだ。

解析の結果、彼女は体を電子に変換させることで電脳空間を自在に移動出来るようだ。前の学校でもすぐ脱走して見つけるのが大変だったと言っていたが、電脳空間に逃げられては見つけるのはむりだろう。
まず、この測定機に楽々と入れる時点で彼女は異端と言えるだろう。何重にも保護プロテクトがかけられている上に、ハッキング対策も万全であったからだ。

水の元素が変容の性質を持つのは承知していたが、こんな使い方ができたとは…。こんな魔法使いがいれば、国家間の情報戦に関しては無敵といえるだろう。西暦3000年になった今でも、国の情報は必ずインターネットを通して行われる。そこにセキュリティも何もなしで入り込めるなど悪質もいいところだ。彼女の性格が歪んでいたら、国1つ滅ぼすことくらい容易いことだろう。

だが、彼女の欠点は言うまでもなく、その奥手な性格だ。魔法の世界では何もしなければただ埋もれていくだけの弱者にすぎなくなる。例え、才能があったとしても。
彼女には他の奴らとは違う教育が必要なようだ。



そして、白導 調。
学園長室に魔法が使えない事を理由に直談判をしに来た奴だ。
確かに魔法は使えないようだ。だが、私の魔法に引っかかった以上、何かあるに違いない。

さてさて…彼は何を…み…せて…


私の記憶はそこでとだえた。

最後に見たのは




図書館のような場所で、1人本を読んでいる少女の姿だった。

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気がつくと私は、医務室のベットで寝ていた。曰く、突然、装置が警報をならして私を切り離したが、何らかのショックを受けて気絶したようだ。
白導の魔法系統と元素の色が分からなかったが、まぁ結果表は出てるので、それを見れば良いだろう。

そういうと私は痛む頭を抑えながら、彼の結果を色の変化測定を録画した映像と共に確認することにした。

なのだが…


「これは、一体…?」

結論から言うと、彼の色は黒だった。だが、どうやら変化していないというわけではないようだ。
そこに映されていたのは…


まるで全ての絵の具をごっちゃ混ぜにした結果、生まれたような黒色が、蠢いている映像だった。
黒色の元素なんて聞いたことがない。だが、国の何百年にも及ぶ魔法研究の結果、元素は6種類のみだと、それ以外はありえないと結論づけられたのだ。だが、この映像を見るからに、明らかに他の元素とは違う何かが、ある。

解析した時に見えた映像も違和感がある。通常は色の変化やその性質が見えるのだが、はっきりとものが写ったことなど、これまでに1度もない。


「やはり…


君は異端者中の異端者だね。白導 調。」


この事実を彼にどう話すか、はたまた話したところで信じるのか…いずれにせよ、今回の測定で分かったことは。


このクラス、giftedは、間違いなくこの世の中に革命を起こす存在である。ということだ。
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