戦鬼は無理なので

あさいゆめ

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 引き止めて欲しいのかな?
「リオ…歩けないかも?」
 早っ!引き返すの早っ!
「大丈夫ですか?突き放した時どこかお怪我を?」
 いや、さすがにそんなに柔じゃない。
「歩きすぎたかな?冷たい水に入ったから?」
 さっき臭いって言ったからか近くまでは来ない。
「…抱っこ。」
 両手を広げて見せる。
「はいっ!あ…でも。」
「リオがいないと帰れないんだけど?」
 何度も抱き上げられた事はあるけど自分から抱っこをお願いするなんてな。
 この村に来てから健康的になりずいぶん筋肉も増えて重くなっただろうけど、大丈夫だろうか。
 少しだけ楽になるよう首に手を回す。
「…帰って来る?」
「はいっ!」
 顔は見えないけれど嬉しそうだ。
「帰って来ても一生私の下僕だよ?」
「構いません。」
「虐待とか性欲の捌け口にするかもよ?」
「…望む所です。」
「変態。」
「はい。」
 馬鹿な子だ。
 私も馬鹿だ。
 すっかり情がわいている。
「帰ったらお風呂に入ろう。」
 二人ともびしょ濡れだ。やっぱり微妙に臭うし。
「…いいんですか?」
 今生唾飲み込んだよ。
「いつも勝手に入ってくるくせに。」
「…そう…だけど。」
 いつもそうだった。勝手に側にいて勝手に世話を焼く。
「私がこの世界に来て初めて見たきれいなものはリオだった。
 一度死んだからね、天使かと思ったんだ。」
 耳が赤い。
「…も…駄目。」
 ゆっくりと座り込む。
「やっぱり重かったか。
 私、けっこう健康になったからね。」
「ちが…耳…話…。」
「何?」
 小声で聞き取れない。
 顔を見ると真っ赤、いや赤いというよりピンクに染まっている。 
「耳元で話されると力が抜けます。」
 そういえば腿に硬いモノが当たる。
「…すまなかったね。」
 立ち上がろとしたが、離されなかった。
「離れないで下さい。
 …それから、胸元の空いたシャツはしばらく着ないで下さいね。」
 ああ、色々跡が残っていたんだった。
 ボタンが面倒でカクシュールにしてしまった。
「ずっと…ずっとシオン様が好きでした。
 あなたを想うほどに僕は狂っていって。
 あなたがマティアス陛下にボロボロに傷つけられて捨てられればいいと思っていたのに、捨てられたのは僕のほうで。
 何度も未練を断ち切って首都に向かおうとしたけど行けなくて。
 苦しくて。
 僕はもう、あなたの側じゃないと息も出来ない…。」
 しがみつき肩を震わせ泣いているのか。
 抱きしめずにはいられなかった。
「いつか…今はまだ無理だけど、いつか君を愛せる日が来るかもしれないから…。」
「…いつまで?陛下の付けたこの傷が消えるまで?」
 心の傷は消えないから。その傷さえも愛しく思ってしまう今はまだ無理だな。
「一生消えないよ?」
「では、マティアス陛下を殺しましょうか?」
「じゃあ、その前に私がリオを斬る事になるな。」
「シオン様に斬られて死ねるなら幸せです。」
 あー、病んでるな。
「馬鹿。」
 何故だか笑えた。
 この子を更正させるまでは目が離せないな。
「愛して欲しいなんて言いません。ただ、生きていて下さい。僕は勝手に側にいますから。」
「うん、そうするよ。」
 こうやって毎日、少しの幸せを感じて生きていこう。
 つらい事はこの先また訪れるかもしれない。
 だけどまた日はのぼり、明日は来る。
 つたない足取りでも一歩ふみだせば前に進める。
 隣にあの人はいないけど、遠くであの人も前に進んでいることを喜ぼう。
 愛した事を過ちだとは思わない。
 私は幸せなのだから。


 

あとがき

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 ずっと女性目線だったのでBL?と感じた方もいらっしゃるかと存じます。
 この後は少しおまけを書き足してまいります。
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