戦鬼は無理なので

あさいゆめ

文字の大きさ
109 / 112

109

しおりを挟む
 引き止めて欲しいのかな?
「リオ…歩けないかも?」
 早っ!引き返すの早っ!
「大丈夫ですか?突き放した時どこかお怪我を?」
 いや、さすがにそんなに柔じゃない。
「歩きすぎたかな?冷たい水に入ったから?」
 さっき臭いって言ったからか近くまでは来ない。
「…抱っこ。」
 両手を広げて見せる。
「はいっ!あ…でも。」
「リオがいないと帰れないんだけど?」
 何度も抱き上げられた事はあるけど自分から抱っこをお願いするなんてな。
 この村に来てから健康的になりずいぶん筋肉も増えて重くなっただろうけど、大丈夫だろうか。
 少しだけ楽になるよう首に手を回す。
「…帰って来る?」
「はいっ!」
 顔は見えないけれど嬉しそうだ。
「帰って来ても一生私の下僕だよ?」
「構いません。」
「虐待とか性欲の捌け口にするかもよ?」
「…望む所です。」
「変態。」
「はい。」
 馬鹿な子だ。
 私も馬鹿だ。
 すっかり情がわいている。
「帰ったらお風呂に入ろう。」
 二人ともびしょ濡れだ。やっぱり微妙に臭うし。
「…いいんですか?」
 今生唾飲み込んだよ。
「いつも勝手に入ってくるくせに。」
「…そう…だけど。」
 いつもそうだった。勝手に側にいて勝手に世話を焼く。
「私がこの世界に来て初めて見たきれいなものはリオだった。
 一度死んだからね、天使かと思ったんだ。」
 耳が赤い。
「…も…駄目。」
 ゆっくりと座り込む。
「やっぱり重かったか。
 私、けっこう健康になったからね。」
「ちが…耳…話…。」
「何?」
 小声で聞き取れない。
 顔を見ると真っ赤、いや赤いというよりピンクに染まっている。 
「耳元で話されると力が抜けます。」
 そういえば腿に硬いモノが当たる。
「…すまなかったね。」
 立ち上がろとしたが、離されなかった。
「離れないで下さい。
 …それから、胸元の空いたシャツはしばらく着ないで下さいね。」
 ああ、色々跡が残っていたんだった。
 ボタンが面倒でカクシュールにしてしまった。
「ずっと…ずっとシオン様が好きでした。
 あなたを想うほどに僕は狂っていって。
 あなたがマティアス陛下にボロボロに傷つけられて捨てられればいいと思っていたのに、捨てられたのは僕のほうで。
 何度も未練を断ち切って首都に向かおうとしたけど行けなくて。
 苦しくて。
 僕はもう、あなたの側じゃないと息も出来ない…。」
 しがみつき肩を震わせ泣いているのか。
 抱きしめずにはいられなかった。
「いつか…今はまだ無理だけど、いつか君を愛せる日が来るかもしれないから…。」
「…いつまで?陛下の付けたこの傷が消えるまで?」
 心の傷は消えないから。その傷さえも愛しく思ってしまう今はまだ無理だな。
「一生消えないよ?」
「では、マティアス陛下を殺しましょうか?」
「じゃあ、その前に私がリオを斬る事になるな。」
「シオン様に斬られて死ねるなら幸せです。」
 あー、病んでるな。
「馬鹿。」
 何故だか笑えた。
 この子を更正させるまでは目が離せないな。
「愛して欲しいなんて言いません。ただ、生きていて下さい。僕は勝手に側にいますから。」
「うん、そうするよ。」
 こうやって毎日、少しの幸せを感じて生きていこう。
 つらい事はこの先また訪れるかもしれない。
 だけどまた日はのぼり、明日は来る。
 つたない足取りでも一歩ふみだせば前に進める。
 隣にあの人はいないけど、遠くであの人も前に進んでいることを喜ぼう。
 愛した事を過ちだとは思わない。
 私は幸せなのだから。


 

あとがき

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 ずっと女性目線だったのでBL?と感じた方もいらっしゃるかと存じます。
 この後は少しおまけを書き足してまいります。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...