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59 サロン
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学園生活が始まったわけだが、学園は勉強だけしてればいいって訳じゃない。
後の貴族社会へ繋がる人脈を作ったり、人材を集めたり、まあ色々あるわけで。
そのひとつに学生サロンなるものがある。
休憩時間や放課後に集まって交流を深める場だ。
有力貴族のサロンには個室が与えられるのだけど、だいたいは先輩方のサロンに入れていただいて代々引き継いでいくらしい。
けれど、先輩方より強い権力を持つ方が入学し、個室をあけわたすよう申し付けられた場合は従わなければならない。
例えば王族とか。
けれどウィル様が部屋をあけわたせなんて理不尽な事を言うはずもないし、その気になれば理事長室を使ったっていいわけだ。
そもそもウィル様はサロンにこだわってはいないだろう。
王様が派閥を作る必要もない。
けれどグロリア様はウィル様を筆頭とする派閥が欲しい。
しかし上級生に頭を下げてサロンに入れてもらうなんてしないし、あけわたせと命令するのも反感を買うので出来ない。
そこでロズウェル侯爵家の財力にものを言わせて学園に温室を寄贈したのだ。校舎の東側にあつらえられたその中には年中快適な温度を保つ豪華なグロリア様専用サロンを特注で作らせた。
だがしかしだ。
ここに更に権力と財力に物言わす奴が一人いる。
そいつは学園になんと新校舎を寄贈した。
それは旧校舎の西側に建てられた。
当然新校舎からグロリア様のサロンのある温室まで行くには旧校舎をぐるっと迂回しなければならない。すなわちすっごく遠い。
「なんてこと!あんまりですわ、このような嫌がらせをなさるなんて見損ないましたわ!」
怒り心頭のグロリア様。
「言いがかりも甚だしい。
だいたい学園側には、温室とだけ申請されていたではありませんか。」
そう受け答えたのは理事長。
うちのハルト君だ。
「サロンの空きはまだ4部屋ありますから抽選に応募なさったらいかがです?」
ハルトは元々10あったサロン用の部屋を5部屋増やした。
「あのような小部屋で王様がくつろげるとお思いなんですの?
それに抽選では確実にいただけないではございませんか!」
「王様におくつろぎいただくなら理事長室にお招きいたしますよ。温室より警護は万全ですし。」
ハルトは新校舎は王様の身辺警護強化の為と寄贈したらしい。
けど絶対嘘だね。
このあたしに充てられたサロンの豪華な事。
「抽選とおっしゃいながらも、リノス男爵令嬢は特別扱いですのね。」
「当たり前ではないですか。
私が後ろ楯になっているお嬢様ですよ?
私が寄進した校舎のこの一部屋は私個人の所有となっていますから、私の自由なのです。
ねっ、レティ。」
こっちに振らないで。
「あーよかったら、王様にこのサロン使っていただいてもいいですよ?」
「なんですって!
バカになさるおつもり?」
いや、してないし。
あんたに使っていいって言ってないよ?ウィル様にだよ?
「え~せっかくレティに喜んでもらおうと思ったのにー。」
公爵のキャラ作るの忘れてるよ。
最近あたしといる時間が増えたからかだんだん素のハルトになってきてるみたい。
「まあ夏期休暇が終わる頃には旧校舎は取り壊す予定ですので、そうすれば距離もさほど遠くはなくなるでしょう。それまで多少不便でしょうけど我慢していただくしかございませんね。」
グロリア様は不満そうだけど諦めるしかない。
「では、王様。まいりましょう。」
「どこへ?」
ウィル様は皆と一緒に食堂で昼食をとるつもりだった。
食堂といってもかなり広いホールで、その並びにサロンとして使われる個室もある。
入学して二日目、あたしはハルトにサロンの存在を教えられた。
ハルトもそこで一緒に昼食をとるつもりでいたのだけれど、王様が食堂で一般生徒と食事をするのも落ち着かないだろうからと、あたしの為のサロンに招待したのだ。
まあ、グロリア様は黙っていられないわよね。
そこで先ほどまでのやり取りが始まってしまった。
「私のサロンに決まっておりますでしょう?」
「…遠いな。」
うんうん、歩くの面倒だよね。
「あの、よかったらグロリア様もこちらでお召し上がりになりません?」
気をきかせたつもりで言ってみたが、
「もうけっこうですわ!」
プリプリと取り巻きを引き連れて行ってしまった。
しょうがないか。
「さあ、お弁当にしよう。」
一番嬉しそうなハルト。
食堂では多彩なメニューがあるが、自分で持ってきてもいい。
個室を使うような貴族ならば世話をする使用人も出入りさせてよい。中には専属のシェフがいる部屋もあるらしい。
我が家からはステファンさんとアンネが来ている。ステファンさんは常にハルトと一緒だ。アンネはあたしの専属メイド。
ステファンさんは空間収納の魔法を使えるので調理した出来立てのものを容易く持ち運びできる。
けど今日はハルトの希望でお弁当だ。
サロンにはミーシャと双子を招待した。学園であたしの仲間っていったらこの子達くらいしかいないのに無駄に広い部屋だな。
「ウィル様もお弁当でよろしいですか?」
「ああ、いただこう。」
お弁当のメニューはあたしが決めた。
公爵邸のシェフはだいぶ日本食が作れるようになった。
今日は卵焼きとから揚げとひじきの煮付けにホウレン草のごま和え。ひじきとホウレン草はそれに似た植物の代用だけど。
「これはまた珍しい料理だな。」
そうね、食材は同じでも和食は馴染みがないでしょう。
「なんだかわからないけど公爵様んとこの食べ物はみんなおいしいねー。」
「ねー。」
双子も嬉しそう。
「卵焼きはあたしが作ったんだよ。」
ハルトの好きな甘いだし巻き。
「やっぱりばーちゃんの作った卵焼きが一番おいしい。」
「…。」
うーん…。
「あ、あー…レティがおばあさんに教えてもらった卵焼きなんだよね。」
「そ、そう。」
後の貴族社会へ繋がる人脈を作ったり、人材を集めたり、まあ色々あるわけで。
そのひとつに学生サロンなるものがある。
休憩時間や放課後に集まって交流を深める場だ。
有力貴族のサロンには個室が与えられるのだけど、だいたいは先輩方のサロンに入れていただいて代々引き継いでいくらしい。
けれど、先輩方より強い権力を持つ方が入学し、個室をあけわたすよう申し付けられた場合は従わなければならない。
例えば王族とか。
けれどウィル様が部屋をあけわたせなんて理不尽な事を言うはずもないし、その気になれば理事長室を使ったっていいわけだ。
そもそもウィル様はサロンにこだわってはいないだろう。
王様が派閥を作る必要もない。
けれどグロリア様はウィル様を筆頭とする派閥が欲しい。
しかし上級生に頭を下げてサロンに入れてもらうなんてしないし、あけわたせと命令するのも反感を買うので出来ない。
そこでロズウェル侯爵家の財力にものを言わせて学園に温室を寄贈したのだ。校舎の東側にあつらえられたその中には年中快適な温度を保つ豪華なグロリア様専用サロンを特注で作らせた。
だがしかしだ。
ここに更に権力と財力に物言わす奴が一人いる。
そいつは学園になんと新校舎を寄贈した。
それは旧校舎の西側に建てられた。
当然新校舎からグロリア様のサロンのある温室まで行くには旧校舎をぐるっと迂回しなければならない。すなわちすっごく遠い。
「なんてこと!あんまりですわ、このような嫌がらせをなさるなんて見損ないましたわ!」
怒り心頭のグロリア様。
「言いがかりも甚だしい。
だいたい学園側には、温室とだけ申請されていたではありませんか。」
そう受け答えたのは理事長。
うちのハルト君だ。
「サロンの空きはまだ4部屋ありますから抽選に応募なさったらいかがです?」
ハルトは元々10あったサロン用の部屋を5部屋増やした。
「あのような小部屋で王様がくつろげるとお思いなんですの?
それに抽選では確実にいただけないではございませんか!」
「王様におくつろぎいただくなら理事長室にお招きいたしますよ。温室より警護は万全ですし。」
ハルトは新校舎は王様の身辺警護強化の為と寄贈したらしい。
けど絶対嘘だね。
このあたしに充てられたサロンの豪華な事。
「抽選とおっしゃいながらも、リノス男爵令嬢は特別扱いですのね。」
「当たり前ではないですか。
私が後ろ楯になっているお嬢様ですよ?
私が寄進した校舎のこの一部屋は私個人の所有となっていますから、私の自由なのです。
ねっ、レティ。」
こっちに振らないで。
「あーよかったら、王様にこのサロン使っていただいてもいいですよ?」
「なんですって!
バカになさるおつもり?」
いや、してないし。
あんたに使っていいって言ってないよ?ウィル様にだよ?
「え~せっかくレティに喜んでもらおうと思ったのにー。」
公爵のキャラ作るの忘れてるよ。
最近あたしといる時間が増えたからかだんだん素のハルトになってきてるみたい。
「まあ夏期休暇が終わる頃には旧校舎は取り壊す予定ですので、そうすれば距離もさほど遠くはなくなるでしょう。それまで多少不便でしょうけど我慢していただくしかございませんね。」
グロリア様は不満そうだけど諦めるしかない。
「では、王様。まいりましょう。」
「どこへ?」
ウィル様は皆と一緒に食堂で昼食をとるつもりだった。
食堂といってもかなり広いホールで、その並びにサロンとして使われる個室もある。
入学して二日目、あたしはハルトにサロンの存在を教えられた。
ハルトもそこで一緒に昼食をとるつもりでいたのだけれど、王様が食堂で一般生徒と食事をするのも落ち着かないだろうからと、あたしの為のサロンに招待したのだ。
まあ、グロリア様は黙っていられないわよね。
そこで先ほどまでのやり取りが始まってしまった。
「私のサロンに決まっておりますでしょう?」
「…遠いな。」
うんうん、歩くの面倒だよね。
「あの、よかったらグロリア様もこちらでお召し上がりになりません?」
気をきかせたつもりで言ってみたが、
「もうけっこうですわ!」
プリプリと取り巻きを引き連れて行ってしまった。
しょうがないか。
「さあ、お弁当にしよう。」
一番嬉しそうなハルト。
食堂では多彩なメニューがあるが、自分で持ってきてもいい。
個室を使うような貴族ならば世話をする使用人も出入りさせてよい。中には専属のシェフがいる部屋もあるらしい。
我が家からはステファンさんとアンネが来ている。ステファンさんは常にハルトと一緒だ。アンネはあたしの専属メイド。
ステファンさんは空間収納の魔法を使えるので調理した出来立てのものを容易く持ち運びできる。
けど今日はハルトの希望でお弁当だ。
サロンにはミーシャと双子を招待した。学園であたしの仲間っていったらこの子達くらいしかいないのに無駄に広い部屋だな。
「ウィル様もお弁当でよろしいですか?」
「ああ、いただこう。」
お弁当のメニューはあたしが決めた。
公爵邸のシェフはだいぶ日本食が作れるようになった。
今日は卵焼きとから揚げとひじきの煮付けにホウレン草のごま和え。ひじきとホウレン草はそれに似た植物の代用だけど。
「これはまた珍しい料理だな。」
そうね、食材は同じでも和食は馴染みがないでしょう。
「なんだかわからないけど公爵様んとこの食べ物はみんなおいしいねー。」
「ねー。」
双子も嬉しそう。
「卵焼きはあたしが作ったんだよ。」
ハルトの好きな甘いだし巻き。
「やっぱりばーちゃんの作った卵焼きが一番おいしい。」
「…。」
うーん…。
「あ、あー…レティがおばあさんに教えてもらった卵焼きなんだよね。」
「そ、そう。」
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