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 レイモンド視点

 リリアンは疲れたのか私にぐったりともたれかかったままシュガー男爵邸に着いた。
「歩けるか?」
 立ち上がり馬車を降りようとするがふらふらしている。
 先に馬車を降り、抱きかかえて、
「部屋まで送ろう。」
「えっ?ダメです…あの、ちょっとちらかってて…。」
「歩けないのだろう?」
 頷いた。
 小さな邸で年老いた執事が出迎えた、
「お嬢様はどうなさったのですか?」
「間違えてお酒を飲んでしまったようだ。部屋まで送りましょう。」
「申し訳ございませんが、お願いいたします。
 この年寄りではお嬢様を抱えて二階までは上れませんので。」
 リリアンの部屋は?
「ここはドレスルームか?」
「…部屋です。侯爵邸のドレスルームより狭いでしょうけど、私の部屋です。いただいたドレスがクローゼットに入りきらないんです。」
 隅にある、これもまた小さなベッドへ寝かせキスを…このベッドは二人乗っても大丈夫なのだろうか?
 ドンドンとか弱い拳で私の胸を叩く、
「だっ、だめです。すぐ隣がメイドの部屋で、壁がすごく薄いんです。」
 なるほど、メイドらしき人物のイビキが聞こえる。
 すっかり萎えて冷静を取す事ができた。
「これは早急に引っ越しが必要だな。」
 
 年明けを待たずに新居へと移ってもらった。
 リリアンの養祖母である男爵夫人は最初は恐縮していたが、部屋を見た途端躍りだしそうに喜んでくれた。以前リリアンからおばあ様は乙女チックが好きだと聞いていたので令嬢のようなロマンチックな部屋を用意した。大きなクマのぬいぐるみはやり過ぎかと思ったが気に入ってくれたようだ。
 一階はおばあ様と以前からの使用人である執事とメイドが主に使うようにし、リリアンの部屋は二階へ。
 食堂やバスルームは両方に用意した。
 もちろん私がいつ泊まってもよいようにだ。
 ベッドはキングサイズにし、内装は落ち着いたものにしたが、少し自分本意だっただろうか。
「部屋もベッドも大き過ぎじゃないですか?私一人でこんな…あっ。」
 気がついたようで赤くなった。
 使用人も増やさねばならない。
 リリアンの髪やメイクの世話もできるメイドを二人と、男手が無いと物騒なので私の従者だったトゥーイを執事として住まわせる事にした。 
 トゥーイは代々我が家に使える子爵家の者でザカリーの恐ろしさをよく知る者だ。リリアンに邪なきもちを抱く事は無い。念のため黒髪の地味メガネの男を選んだ。
 他にも馬車を使わせる為に御者も必要だし、下働きもいるだろう。
 以前からの使用人には主におばあ様の世話をしてもらう。執事のセバスはもう年なので助かると言ってくれた。
 リリアンはおばあ様と何を見ているのだ?
 トゥーイ?
「おばあ様、若い執事の方って新鮮ね。メガネがお似合いだわ。」
 …ちっ!
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