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  リリアン視点

 ハウゼン子爵は穀物の販売をしている。
 子爵家としては裕福なほうだ。
 仕事がら社交界でも顔は広い。だがそれは仕事上の付き合いで中流より下の貴族とのつながりばかりだ。上位の貴族とは会話する事さえ許されない立場だ。
 レイモンド様は普段あまり感情を表に出したりしない。
 怒りも同じだ。
 使用人達は小さな表情の変化を読み取り不満が無いよう心がけている。
 それが珍しくお怒りになられたのでもう、顔面蒼白だ。
「レイモンド様、ごめんなさい叔母様達がこんな事してしまって!トゥーイさん達を叱らないで。」
「リリアン?…使用人は呼び捨てなさいと言っているでしょう?」
 いまそこ?
「あなたは被害者でしょう。謝ってはいけません。」
 そこへ空気を読まない叔母様がトーン高めの声で、
「まあまあ~小侯爵様ぁ!お会いできて光栄ですわぁ~お前達もご挨拶なさい。」
「わぁ~小侯爵様、お初にお目にかかりますぅ。」
 二人の娘が前に進み出るが、
 …。
 レイモンド様はトゥーイさ…っと、トゥーイを睨みつける。
「ひっ、控えなさい!ザカリー小侯爵様は発言も挨拶も許可なされておりません!」
 一人空気が読めていたジルベルトは部屋の隅で膝をついて頭を下げて震えていた。
 落ち着いた声で、
「その者達が触れた物はすべて破棄するように。」
「えっ?ドレスも宝石も?」
「ああ、また買ってあげるから捨てなさい。」
「だめよ、みんな思い出があるんだから!」
 その言葉に少し表情が和らぎ、
「だけど、あれはもう着れないだろう?」
 と娘達のぱっつんぱっつんになったドレスを指差す。
「だけど、これだけはだめ。」
 床から拾い上げた水色のドレスは初めてレイモンド様がプレゼントしてくれた物だ。
「…いちいち覚えているのか?」
「当たり前じゃないですか。」
 その後無事なドレスはクリーニングし、宝石は消毒、寝具や化粧品は廃棄することになった。
 その間叔母様達は無視。
 さすがにまずい事になったと気がついたようで無言で待っていた。
「さてと、確かジルベルト・ハウゼン子爵令息でしたね。」
「は、はい!」
 ジルベルトが顔を上げる。
「ハウゼン子爵からの謝罪は受けますが、その者達は今後一切わが恋人であるリリアンには近づけないでいただこう。」
「はい!ご温情ありがとうございます。この者らには我が家にて必ず罰を与えます。」
「はあっ?お兄様何言ってんの?」
「だまれっ!」
 ジルベルトには分かったようだ。
 謝罪を受けるというのは上位貴族としては甘い処置だ。普通ならば有無を言わさず制裁を与える。まあ、謝罪の内容によってはさらに怒りを買うことになる場合もあるけど。
「今晩は侯爵邸で休みなさい。」
 手を取り邸を出た。
 出際にトゥーイが小声でありがとうございましたと言ったのでウィンクしたらレイモンド様に見られていた。
「もうっ、トゥーイを睨まないであげて。」
「あれはまだ執事として日が浅い。甘やかしては彼の為になりません。」
 そういうもんか。
 侯爵家の執事ってたいへんなんだな。
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