上 下
56 / 127

56

しおりを挟む
   レイモンド視点

 ワインを飲んだせいか椅子に座ったままリリアンはうとうとし始めた。
 起こそうとするクラウディアを止め、ベッドへ運んだ。
「リリアンは特別な娘だな。」
「今頃お気づきになられましたの?」
 なせかクラウディアが自慢気だ。
 葡萄の栽培から携わっているという事は、ほとんどはリリアンが進めている事業なのだろう。さらに次の展開まで計画しているとは。
 クランセン伯爵と私はまんまと利用されている訳だ。なんと愉快な。
 それなりの地位がある男性ならばさぞかし成功しただろうに。
 私は今までこの娘の何を見ていたのだろう。
 学園での成績が良いのは知っていたが、それだけの可愛らしい娘だと思ってはいなかったか?
 身分が低いと馬鹿にしてはいなかったか?
 振り返れると恥ずべき態度をとっていたようで気になる。
 もっと一人の人として尊重すべきだったのかもしれない。
「リリアンはいったいどこでこんな知識を?」
「…さあ?…図書館?」
 歯切れが悪いな。
 そう言えばクラウディアも度々突拍子もないアイデアを出してきたな。
 そのほとんどは法律に関する事だか、それで父に認められている。
 実は私は幼い頃からクラウディアに劣等感を感じていた。
 言葉を発すると同じくして文字を覚え、本を読みあさり父に意見した。
 父もこの娘は天才だと。
 私も優秀だとは言われていたがクラウディアに比べれば凡人だ。
 あれが弟でなくて良かった。
 平静を装おってはいたがどす黒い感情が常に胸に渦巻いていた。
 リリアンに感心を抱いたのも側妃にさせたくないのも、クラウディアに対する対抗心からだったのかもしれない。
「はぁ…むしろかわいいだけの女なら気を揉む事もなかったのに。」
「煩わしいならば手放して下さいませ。」
 ニヤニヤと鼻に付く笑い方をする。
「…それよりもかわいいが勝る。」
 クラウディアはこんなに表情の豊かな娘ではなかった。
 生まれる前から皇太子妃になる事が決まっていたからか、いつも何かに追われているかのように自分を律していた。
 笑顔はいつも作られたような微笑で、泣いたり怒ったり慌てる事も無かった。
 学園に入り、リリアンと過ごすようになり変わった。これが本来の彼女なのかも知れない。
「クラウディア、リリアンを紹介してくれた礼を言って無かったな。感謝する。」
「後悔してるわ。ただの当て馬でしたのに。」
「当て馬か…本来の役目はメス馬の発情を促すためなのだが、成功したか?」
「最低!」
 クッションを投げつけ席を立ち、部屋を出て行こうとしたが、
「お兄様も部屋から出て!」
 ぐいぐいと背中を押す。
 私に触れる事など一生無いと思っていたのに愉快だ。
 妹をやっとかわいいと思えた。
 

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

要注意な婚約者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,088pt お気に入り:426

私のバラ色ではない人生

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:104,023pt お気に入り:5,005

拝啓、今日からモブ、始めます!

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:314

あなたにはもう何も奪わせない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:44,170pt お気に入り:2,779

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,705pt お気に入り:466

幽霊の姉が鬱陶しい

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

浮気妻に心霊的恐怖を喰らわせてやる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

【完結】好奇心に殺されたプシュケ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:54

処理中です...