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  リリアン視点


 三曲続けて踊り終わるとさすがに疲れて椅子に腰かけた。
 レイモンド様は飲み物を手渡して、
「初めて私の贈ったドレスを着てくれた日の事は今でも鮮明に覚えている。
 それまではかわいいとは思ってはいたが、確かにハトに豆を撒く程度の事だった。
 キョロキョロとよく動く好奇心に満ちた目も、ひたすら食べ続けるリスのような口もただかわいらしいだけだった。
 だがあの日、ドレスを着て現れた君に心を奪われた。君を手に入れたくなった。
 今日のドレスはあの日からやり直したい私の気持ちだ。」
 その気持ちを受け取ろう。
 わだかまりは簡単には消えないだろうけど、私はまだこの人を愛しているから。
「今日はよく話しますね。」
「ああ、君にだけは心に想う事を口にすると決めたのだ。
 言わなくてはならない事を言わず、君を傷つけ失う事はもう繰り返したくないから。
 その指輪は今日の為に用意したものではない。
 ずっと前、君を深く傷つけたあの日、君を愛人にはしないと言った日だった。
 私は君を愛人ではなく妻としてザカリー家に迎えると告白する予定だった。」
「そんな…。」
 じゃあ私は勘違いで逃げ出したの?
「それも今さらだが。
 おめでたいことにそれでもまだ許してくれると思っていたのだ。
 ドレスをプレゼントし、エスコートを申し出れば受け入れてくれると。
 私は君に愛されていると自惚れていたからね。
 結果は知ってのとおりだ。
 もう取り返しがつかないほど君を傷つけ続けていたから。」
 そうだ、あの時の私だったらこの指輪さえ投げ捨てていたかも。
「すべてをやり直す事は出来ないが、新しく始めるにあたり、私達は対等の関係にならないか?
 私の事を呼び捨ててごらん。」
「無理。」
「愛称でも構わない。」
「愛称?」
「レイだ。」
「子供の頃呼ばれていたんですか?」
「いや、そう呼んだのは母だけだ。」
「クラウディア様は?」
「クララだ。」
「ぷっ!」
 クララ!今度会ったら呼ぼう。
「どうかしたのか?クラウディアは嫌がって呼ばせなかった。」
「なんでもないわ。かわいい愛称なのにね。」
 そう言えばクラウディア様は無事に皇子様を出産なさったそうだ。
「そうだ、クラウディア様と皇子様にお祝いを贈ってなかったわ。」
「…話をそらしてないか?」
「え?」
「レイだ。」
「あ…レイ?様?」
「…。」(圧)
「レイ。」
「そうだ。」
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