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   レイモンド視点

 意外な答えが返ってきた。
「私は嬉しいです。
 執着されるのも嫉妬されるのも私の事が好きだからですよね。
 私は誰よりも愛されたいから。」
「だが、異常だとは思わないか?」
 いつか取り返しのつかない事をしてしまうかもしれないのに、怖くはないのか。
「実際に犯罪行為をしたらいけないけど、変態的な願望なら多かれ少なかれみんなあると思いますよ。」
「…あれは犯罪に近かった。」 
 いやむしろ犯罪だった。
 血を流し、痣だらけで横たわる姿は暴行を受けたとしか見えなかった。
「あれはあれで気持ち良かったからいいですよ。」
「は?…痛かっただろう?」
「痛いの好きですから。」
 いやちょっと待て。
「私、ずっとひとりぼっちだったんです。
 だからどんな形でも誰かに強く求められるのは快感なんです。それが好きな人ならなおさらでしょう?
 レイモンド様が私を監禁したいならしてもいいんですよ?縛ってもいいし、打ってもかまわないですよ?」
「ま、まて。そんな事までは望んでいない。」
 何を言っているんだ?
「そうですか?
 ちょっと残念です。
 でも、レイモンド様にいじめて欲しくなったら誰かとイチャイチャしたらいいんですね?」
「駄目だ!」
「うふふっ。」
「からかっているのか?」
 両手を首に回して抱きついてくる。
 鎖骨にリリアンの吐息を感じる。
 唇が触れるか触れないほどにしてゆっくりと首筋を伝い上がって耳たぶに。
「はっ…ぁ。」
 しまった。
 変な声が…。
「やめなさい。私は真面目な話をしている。」
「嫌?」
 舌が耳を弄ぶ。
 ぴちゃぴちゃといやらしい音をたてて。
「うっ…あ…。」
 嫌か?
 いつも私がリリアンに聞いていた事だ。
 リリアンは拒んだ事はなかった。
「嫌…じゃない。」 
「いい子ね。」
 歯をたてて噛みついた。
「ああっ!」
 駄目だ、こんなのは。こんな屈辱的な。
「あら?やだレイモンド様ったら。
 お尻に硬いものがあたってますよ?」
「リリアン…もう我慢できない。」
「うふふっ、残念。もう邸に着いちゃったみたい。」
 馬車が止まる。
「せっかく最初からやり直すんだったら、次は優しくして下さいね。」
 さっさと立ち上がり扉に手をかける。
「待ってくれ、このまま帰るのか?次っていつ?」
「私、新婚初夜って憧れてるの。
 うんとロマンチックにしてくれるの期待してますね。」
 まさか結婚するまでおあずけなのか?
「リリアン、待て。」
「あっ、そうそう。呼び方ですけど、レイはちょっと難しいです。
 レイモンド様はレイモンド様なので。」
「待ってくれ。」
 くそっ、立ち上がろうにもアレがもう限界で前屈みになってしまう。
「うふふっ、おやすみなさい。」
 額にキスをして馬車を降りてゆく。
 からかわれてしまった。
 私にとっては深刻な悩みだったのに、リリアンにしたらとるに足らない事だったのか?
 だが不思議と腹は立たない。
 そわそわと落ち着かない気持ちは思春期の頃に感じたものに似ている気がした。
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