姫宮瑠璃

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アクセサリー①

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「よー、葵。」

2限と3限の合間の休み時間。
女子だけしか居ない、うちのクラスに体操着姿の男子2人が訪ねて来た。

「あれ?久しぶり。どうしたの?」
「いや~、教科書忘れちゃってさ。生物の教科書貸してくれない?」
「うん。いいよ。」

私は机から生物の教科書を出し、廊下に居る2人まで持って行った。

「はい。」
「ありがと。」

訪ねて来たのは、同じ中学だった三輪洋平ようへいと篠宮克樹かつき
教科書を借りに来た洋平に、克樹が付き添って来たようだ。

「でも、何で女クラに?共クラで借りれば返すの楽じゃん。」
「いや、やっぱ、興味あるじゃん。女の園。」
「なんか、言い方がいやらしい。」
「まあまあ、同中の居ない葵の事を心配して、来てやったんだ。」
「絶対嘘だ。」

洋平が、私の頭にポスポスと手を乗せる。

「3限は体育?」
「いや、終わったとこ。更衣室寄る前に借りに来た。」
「そうなんだ。」

「ところで・・・」とようやく克樹が探るように教室の中を見て、私に声をかける。

「友達は出来たか?」
「は?出来たけど?」
「絡まれたり、イジメられてないか?」
「無いけど?」
「けど?・・・あるのか?」
「絡まれてはいるけど。」

2人は「やっぱり」というように顔を見合わせて、うなずく。

「何かあったら、言え。」
「何も出来ないかもしれないが、相談にはのれるから。」

真剣に顔を覗き込んでくる2人に、私は首を傾げた。
あんた達は、私の保護者か!

「よく分からないけど、何かあったら相談するね。」
「ああ。友達だからな。」

今度は克樹が、私の頭にポンポンと手を乗せる。
「友達」
その言葉に、胸の奥で小さくチクリと針が刺さったかの様な痛みを感じた。
篠宮克樹は、私が何度も告白を失敗している初恋の相手だ。
私は、恋愛対象として見られていない。
洋平は、ちょっと可哀想な子を見るような視線を向けると、手を振りながら克樹と体育館の方へ戻って行った。

「ちょっと、日下部さん!」

呼ばれて振り返ると、栗山さんが加藤さんと遠藤さんを引き連れて、仁王立ちで立っていた。

「バレー部の三輪君と、バスケ部の篠宮君とどういう知り合い?」
「・・・同じ中学の友達ですけど?」
「友達?本当にそれだけ?」
「それだけって?」
「だって、頭ポンポンされてるじゃない!」
「別にあれは何の意味も無いっていうか・・・。」
「はあ⁈
同じ中学のよしみを利用して、人気の2人を手に入れようとしてるんでしょ!
私より可愛くないくせに、いい気にならないでよね!」

「フンッ」と鼻息荒く、髪を後ろに振り払い、席に戻って行く。
私、すぐ近くなんで、戻り辛いんですけど・・・。
授業中も、チラチラ睨まれて、後ろからも熱気?冷気?の様な視線を感じて、とても居づらい。

「なんなら、『紹介して』とでも頼んで来ればいいのにね。」

昼休み、教室に非常に居づらい状況に、私は瀬戸さんと中庭のベンチでお弁当を広げていた。
中庭からは私達の教室前の廊下が見える。
すぐに教科書を返しに来ると思っていたのに、洋平は4限前の休み時間までに返しに来なかったのだ。
たぶん、昼休みに来るだろうと、教室前を確認しながら、お弁当を食べている。

「まあね。紹介しても、後で『ヤバイ奴だから付き合うな』って警告させてもらうけど。」
「ははは。」
「だって、ただ教科書貸しただけなのに、『いい気にならないでよね!』だよ?
ああいう人が『◯◯君は、皆の物』とか言い出すんだよね。
まじ、その考え、わかんない。」
「それには、激しく同意。」

ちらほらと廊下を歩く生徒は見えるが、洋平の姿は見えない。
結局、昼休みが終わるまで、洋平は教室前には姿を現さなかった。
しかし、教室に戻ると、私の机の上には洋平に貸した生物の教科書が乗っていた。
教科書の上には紙のパックのジュースも。

「あ。日下部さん。
さっき、7組の黒川さんが教科書返しに来たよー。」
「黒川さん?」
「ジュースはお礼だって。」

クラスメイトが教えてくれたが、『黒川』という名前に心当たりは無い。
教科書をひっくり返してみると、私の名前がある。
確かに、洋平に貸した私の教科書だ。
洋平は自分の為でなく、『黒川』という人の為に借りに来たのだろうか?
なんだか胸の辺りがモヤモヤして嫌な気分になった。
洋平が教科書を借りに来た所為で絡まれたのに、アイツは私を出汁に、恋の引き立て役にしたのか⁈
ジュースをお弁当と一緒に鞄にしまい、私は席に着くと次の授業の、生物の教科書を机の上に戻した。
授業前に返ってきたのは良かったとはいえ、釈然としない。
栗山さん達は、誰が返しに来たのか知っているらしく、ニヤついた視線を向けてくる。
それが更にモヤつきを増加させていた。
7組は保育科だし、うちのクラスの2つ隣だ。
共学棟のクラスでない保育科の人が、何故、洋平から教科書を受け取っていたのか?
教科書をめくると、最初の単元の処に大きめの付箋が貼ってあった。

  『教科書ありがとう!
   教室移動があって、すぐに返せなくて悪かった。
   何かあったら、ちゃんと言えよ?
   葵は確かオレンジ好きだったよな?
   洋平より』

洋平からのメッセージには、『黒川』という人に対しての記述は無い。
鞄にしまったジュースはオレンジだったから、洋平からのお礼だろう。
誰かは知らないが『黒川』という人は、洋平と親しいのだろう。
私は付箋を外し、折り畳んでペンケースに入れた。
そして、授業が進むにつれ、その名前を段々と忘れていった。


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