無自覚聖女、魔女になる。

宮下ほたる

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ろく

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 起きた時、見慣れない白い天井が視界に広がった。

(ここどこ……だっけ)

 ふんわりとしたお日様の匂いが優しい布団に包まれて、寝ぼけている頭を働かす。

 そうだ、昨日はピステルに案内してされて一室を借りたんだった。



 庭先から、とりあえずついてきてと言われるままに館に入り、ホールを抜けて階段を上がると、廊下が左右に延びていた。

 少し悩む様子を見せて、それでも納得したように先導されつつ追いかけていくと、そのまま左側の奥から二つ手前の扉を開けるように促される。

 人が使っていないにしては埃っぽさもなく、綺麗に保たれている部屋に驚いて。クローゼットの中身も自由にしていいと言われ開けてみると、上等な衣類が並んでいて、どれもあつらえたかのようにサイズがピッタリだったことにさらに驚いた。

「これ、本当に使わせてもらっていいの?」

「ライが自由に過ごしていいって言ってたでしょう。大方、先に館に戻ったのも大急ぎで用意してたんだろうし。好きにしていいわよ。他にも必要なものがあったら言ってね。それと、私にはピステルって名前があるから。よろしくね」

 ニッコリと笑う妖精さん、ピステルは相変わらずふわふわと飛んでいて、リューナに視線を合わせてくれる。
 差し出された小さな手に指先で握手をした。

「改めまして、リューナよ。これからお世話になります。よろしくね」


 詳しくはまた明日にでも案内することとして、と。ひとまず水場と炊事場を教えてもらった。
 何よりも喉が乾いていたのは事実で、台所でなら火も使えるだろうと思い、身体を拭くためのお湯を沸かしたかった。

 道なき道も歩いてきたリューナは、実は満身創痍もいいところだと思う。つくづく、よくこんな女に口付けができたな、と呆れる。

 ピステルは案内役として、一緒に回ってくれた。彼の名前、ライというんだということも彼女から教えてもらった。お互いに自己紹介すらしていない。

 洗濯や庭先の水撒き用の井戸とは別に、炊事場の中にも水が湧く小さな井戸があった。外にではなく、屋根の下に水瓶ではなくポンプ式の井戸があることに驚く。

 無事にお湯も沸かせて、部屋で簡易的に湯浴みを終えた頃には、外はすっかり暗くなっていた。そんなに時間が過ぎたとは思えなかったけど。

 今、何時?
 そう聞くと、ここでは時間の流れが違っているから時計は意味がないのだとピステルは言う。

 この館の敷地内では、時間の基準がライの生活サイクルなのだそうだ。
 彼が起き出す頃に日が昇り、昼食時に高くなる。そこから次第に落ちてきて、寝付く頃が深夜だという。
 もっとも、彼も規則正しいわけではないので、あまりに基準にはできないそうだ。日が昇ったら一日の始まり、くらいに考えろとのこと。
 

 ということは、すでに彼は起きているのか。
 ぼーっとしたまま昨日のことを反芻した。


 いつまでも寝ているわけにもいかない。時間が曖昧でも、普段以上に寝ていた気がする。
 今から畑に向かわなくていいというのは不思議な気分。村ではもう私は死んだことになっているだろう。それで雨が降ったようには思えないけど。

 寝間着から着替えながら、姿見の鏡で全身をあらためる。

 見慣れた髪色に左右で不揃いの毛束。
 擦り傷だら毛の腕に脚。
 今までになかった左胸の、あざ。

 こぶし大の花弁が二枚重なったようなあざは、これがおそらくライとの契約のしるしなのだろう。
 触っても痛くはない。擦っても薄れない。押さえつければ当然圧はかかるが、昨日のような痛みが襲うわけでもない。

 クローゼットから動きやすそうなワンピースを選んで、部屋から出ると。

「やっと起きたのね! おはようリューナ!」

 扉を開けた途端に、勢いよくピステルが飛び込んできた。

 あれ、なんか昨日もこんなことがあったような。

「おはよう、ピステル。ごめんね、そんなに寝坊してた?」

 普段以上に寝ていた自覚はある。

「二日は寝てたかな! 起きてこないんだもの、ライがさらに退屈そうにしててそばにいられないよ」

「そんなに⁉︎」

「そうなの、せっかく楽しめると思ってたのにって。ぜんぜんリューナが起きてこないから不機嫌よー。それでも無理に起こそうとしないで、不貞寝するあたりがまだ優しいよねー」

 リューナは二日も眠っていたことに驚いたのだが、ピステルは不機嫌最高潮のライに驚いたのだと思い、フォローする。

 さすがは時間の流れが不規則すぎるだけはある。どうにも自分の体感時間を信じても、ずれていくだけのようだ。

「一日三回の解答権って、ここでの一日換算よね? ということは、私、六回分損しちゃった?」

「そうなるねー。どうする? ライのとこに案内しようか?」

 正直に言えば、療養と身の振りを考える時間があると思えば、急いで契約を解く必要性も感じない。それでも一方的に与えられるだけでは、申し訳ないとも思う。
 せめて私にもできることを、契約を解こうとする姿勢くらいは見せるべきだろう。

「そう、ね。どこにいるのか教えてもらえる?」

 ピステルは、任せて! と、一段と高く飛び上がった。

 さて、はじめての直接対決といこうじゃないの。

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