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2章
34話 寮食
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リュクスは、喫煙所にいた厳つい兵二名につれられて食堂に入った。
食堂は白く明るく、軍寮とは思えぬほど清潔だった。
磨かれた床には天井の灯りが細く流れ、壁際には銀色の大トレーが整然と並ぶ。野菜、スープ、三種のメイン、焼きたてのパン──湯気が立ちのぼり、香りが静かに混ざり合っていた。
兵の一人が周囲を軽く見渡し、即座にルーカスの姿を見つけて声をかけた。
「おい、ルーカス」
その呼び声に応じ、ルーカスは一旦手に持っていたトレーを近くのテーブルへ置いた。音を立てずに呼び立てた兵の前へ歩み寄る。その動きはスムーズで何の迷いもなく淡々としている。
どうやら、この二人は彼の上官らしい。
「こいつに寮食の取り方、教えてやってくれ」
「……御意」
短いやり取りののち、上官たちは散っていき、ルーカスは残された。
視線が自然とリュクスへ向けられる。
「……またお前」
リュクスはただ、にこりと微笑んだ。
初めて訪れる顔に注目していた周囲の兵がわずかに息を飲む。
「まず、そのトレー持って」
ルーカスは自分のトレーを取り直し、整った動きで案内を始める。
「パンとスープ。スープは三種類あるね。おかわり自由」
「どれでも?」
「どれでも」
リュクスは香る大鍋に顔を向け、ふわりと漂う香草の匂いに自然と目を細めた。
「次。メイン料理。今日はハンバーグ、フライ、ソーセージ。
一種類につき一個。同じの3つは駄目で全部ひとつずつは可」
リュクスは迷ったが、フライに手を伸ばす。ルーカスはためらわず三種を並べた。
「次、野菜」
「野菜……」
露骨に警戒する声に、ルーカスの口元がわずかに緩む。
照明に透けるレタスや冷えたトマトは瑞々しく光り、リュクスはしぶしぶブロッコリーを一つ皿に乗せた。
「ドレッシングはここ。チーズが一番人気」
その案内に頷くと、リュクスは一欠片のブロッコリーが隠れるほどチーズのドレッシングをかけた。
「あとデザート。今日は苺」
「えっ!? 俺いちご大好き!!」
リュクスの声は自然に弾んでいた。周囲の兵の肩が同時に揺れたのは偶然ではない。
その笑顔が、むさ苦しい軍の食堂に咲く一輪の花のようだったのだ。
「飲み物はミルク、水、コーク」
「コーク? 黒い炭酸の?」
「そう」
「あとはここに名を書いて、カトラリーを取って好きな席で食べる」
リュクスは興味のままにコークを注ぎ、言われるがままに名簿の板に名前を記す。
「あんがと!」
リュクスはそのままルーカスの後に続き、ためらわず隣に座った。
ルーカスも特に意を唱えなかった。
スプーンで三種のスープを交互に口へ運ぶ。
温かさと風味が舌へひろがるたび、リュクスのまなざしはわずかに緩んだ。
視線の先で、ルーカスのフォークがハンバーグを切る。肉汁がじゅわりと弾ける。
「わ、それうまそ……」
「うまいよ。なんで取らなかったの」
「俺の知ってるハンバーグって、硬くてかさかさして筋ばっかりでまずいから」
「……ふっ」 どこかから吹き出す声が聞こえた。
聞き耳を立てている兵は多いが、若き将軍位であるルーカスが親しげに隣にいるせいで、誰も簡単には突っ込めない。
「お前、貴族じゃないんだな」
「だな~」
リュクスは気に留めず、スープを次々味わう。
そのとき、前の席の強面から声がかかった。
「よかったら、いちごいる?」
差し出された小皿を、リュクスは嬉しそうに受け取った。
「いいの? あんがと❤️ 腕太くてかっこいいね!」
舞台で身につけた愛想は、こうして自然に湧き出るのだった。
兵の耳が一気に赤くなる。
「あ、俺も……!」
「自分も……!」
周囲から次々と苺が積まれていき、気づけばデザートの小皿が五皿並んでいる。
リュクスはただ、それを前に揃えて微笑んだ。人生でこんなに苺を並べたことはない!
ルーカスは横目でその光景を一瞥したが、特に何も言わずコークを口にする。
「寮食って豪華なんだな!」
リュクスが興奮した様子で言った。
「……ヴァルター閣下の改革でこうなった。」
ルーカスは淡々と説明する。
「飯、風呂、冷暖房、設備。全部改善された。給金も」
リュクスは口を止めずに聞く。
「……だから皆、軍属の奴は閣下が好き。指揮も知識も剣技もすごいし──あの美貌だし」
リュクスの瞳にわずかな興味が宿る。
噂に聞く名は、どこか遠い存在のようでもあった。
周囲の兵たちは、二人の様子をそっと見守っていた。
ルーカスの隣で苺を五皿抱え、嬉しそうに食事をする新顔。
その存在に、抑えきれぬ興味の火が揺れていた。
食堂は白く明るく、軍寮とは思えぬほど清潔だった。
磨かれた床には天井の灯りが細く流れ、壁際には銀色の大トレーが整然と並ぶ。野菜、スープ、三種のメイン、焼きたてのパン──湯気が立ちのぼり、香りが静かに混ざり合っていた。
兵の一人が周囲を軽く見渡し、即座にルーカスの姿を見つけて声をかけた。
「おい、ルーカス」
その呼び声に応じ、ルーカスは一旦手に持っていたトレーを近くのテーブルへ置いた。音を立てずに呼び立てた兵の前へ歩み寄る。その動きはスムーズで何の迷いもなく淡々としている。
どうやら、この二人は彼の上官らしい。
「こいつに寮食の取り方、教えてやってくれ」
「……御意」
短いやり取りののち、上官たちは散っていき、ルーカスは残された。
視線が自然とリュクスへ向けられる。
「……またお前」
リュクスはただ、にこりと微笑んだ。
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「まず、そのトレー持って」
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「パンとスープ。スープは三種類あるね。おかわり自由」
「どれでも?」
「どれでも」
リュクスは香る大鍋に顔を向け、ふわりと漂う香草の匂いに自然と目を細めた。
「次。メイン料理。今日はハンバーグ、フライ、ソーセージ。
一種類につき一個。同じの3つは駄目で全部ひとつずつは可」
リュクスは迷ったが、フライに手を伸ばす。ルーカスはためらわず三種を並べた。
「次、野菜」
「野菜……」
露骨に警戒する声に、ルーカスの口元がわずかに緩む。
照明に透けるレタスや冷えたトマトは瑞々しく光り、リュクスはしぶしぶブロッコリーを一つ皿に乗せた。
「ドレッシングはここ。チーズが一番人気」
その案内に頷くと、リュクスは一欠片のブロッコリーが隠れるほどチーズのドレッシングをかけた。
「あとデザート。今日は苺」
「えっ!? 俺いちご大好き!!」
リュクスの声は自然に弾んでいた。周囲の兵の肩が同時に揺れたのは偶然ではない。
その笑顔が、むさ苦しい軍の食堂に咲く一輪の花のようだったのだ。
「飲み物はミルク、水、コーク」
「コーク? 黒い炭酸の?」
「そう」
「あとはここに名を書いて、カトラリーを取って好きな席で食べる」
リュクスは興味のままにコークを注ぎ、言われるがままに名簿の板に名前を記す。
「あんがと!」
リュクスはそのままルーカスの後に続き、ためらわず隣に座った。
ルーカスも特に意を唱えなかった。
スプーンで三種のスープを交互に口へ運ぶ。
温かさと風味が舌へひろがるたび、リュクスのまなざしはわずかに緩んだ。
視線の先で、ルーカスのフォークがハンバーグを切る。肉汁がじゅわりと弾ける。
「わ、それうまそ……」
「うまいよ。なんで取らなかったの」
「俺の知ってるハンバーグって、硬くてかさかさして筋ばっかりでまずいから」
「……ふっ」 どこかから吹き出す声が聞こえた。
聞き耳を立てている兵は多いが、若き将軍位であるルーカスが親しげに隣にいるせいで、誰も簡単には突っ込めない。
「お前、貴族じゃないんだな」
「だな~」
リュクスは気に留めず、スープを次々味わう。
そのとき、前の席の強面から声がかかった。
「よかったら、いちごいる?」
差し出された小皿を、リュクスは嬉しそうに受け取った。
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「あ、俺も……!」
「自分も……!」
周囲から次々と苺が積まれていき、気づけばデザートの小皿が五皿並んでいる。
リュクスはただ、それを前に揃えて微笑んだ。人生でこんなに苺を並べたことはない!
ルーカスは横目でその光景を一瞥したが、特に何も言わずコークを口にする。
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「……ヴァルター閣下の改革でこうなった。」
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「飯、風呂、冷暖房、設備。全部改善された。給金も」
リュクスは口を止めずに聞く。
「……だから皆、軍属の奴は閣下が好き。指揮も知識も剣技もすごいし──あの美貌だし」
リュクスの瞳にわずかな興味が宿る。
噂に聞く名は、どこか遠い存在のようでもあった。
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