ひだまり婚約録 ― 可愛い彼と現実主義令嬢

星乃和花

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(イリス視点)

夕刻、王都の空が柔らかく色づくころ、わたしたちは屋敷に戻った。
玄関ホールで一度立ち止まり、わたしはレビュー表を持ち直す。

「本日のまとめです。“共歩速度:中~ゆっくり”“会話の温度:温”“ひだまり時間:二十五分”“可愛い自己申告:ちょっと可愛い”。総合評価は——」

「総合、あるんだね」

「“晴天”。婚約は晴天、心は観測開始」

ローラン様は、少年のように笑った。
「次は、いつ観測する?」

「日曜日。わたしの研究室で“幸福指標”の試作を。ひだまりがよく入る時間帯です」

「了解。じゃあ僕も、ひだまりに似合う服を準備しておく」

「可愛いですね」

「……っ。イリス、それは急所だ」

わたしは思わず吹き出した。
笑い合う声が、天井の装飾にやわらかく反射する。
それから、ほんの小さな沈黙。甘く、やさしい沈黙。

(わたしは、自分でコントロールできない“不確か”が嫌い。なのに——)

“あなたの気持ち”を、求めている自分に、少しだけ戸惑う。
でも、戸惑いは悪いことじゃない。観測すべき現象が増えただけ。

「日曜日、楽しみにしていますね」

「うん。僕も」

わたしたちは、日向の方へ歩き出す。
レビュー表の最後の欄——“可愛いの自己申告欄”は、彼の字で“ちょっと”のまま。
その空白の余白に、ひだまりが満ちていく。

――婚約は晴天。観測は、これから本番。

(つづく)
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