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幕間D(庭師回)『本質を言う係の罪――庭師が「恋って言えば?」と刺したら、執事が「言語化は未着手です」と真顔で返す』
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庭師という仕事は、余計なところまで見えてしまう。
芽吹く前の芽。
枯れる前の葉。
人が言葉にする前の顔。
だからこそ――叱られる。
「君!」
親族のひとりが、庭の小道に庭師を呼び止めた。
声は上品、内容は厳しい。
「先日の席で、余計なことを言ったそうだな」
庭師は土のついた手を軽く拭き、頭を下げた。
「余計なこと、ってのは……『抱きしめてほしいんでしょ』の件ですか」
「そうだ。
ああいうことは慎むべきだ。屋敷には品位がある」
庭師は首を傾げた。
「品位はありますよ。
ただ、品位のせいで、言うべきことが言えないこともあるだけで」
親族の眉がぴくりと動いた。
「……口が過ぎるぞ」
「すみません」
庭師は謝った。
謝ったが、納得はしていなかった。
(本質って、言わないと進まないんだけどな)
親族が去り際に、もう一度釘を刺す。
「とにかく、これ以上“火種”を増やすな」
庭師は、深く頭を下げたまま、ぽつりと返した。
「火種って、もう燃えてるやつですよね」
親族が振り返る前に、庭師は立ち去った。
足取りは軽い。
罪悪感は薄い。
庭師はそういう生き物だ。
・♢ー♢ー♢・
午後。庭の端。
レオン(執事)は、薔薇の剪定を点検していた。
点検――というより、角度と距離と高さを測っている。
庭師はそれを眺めて、内心で小さく笑う。
(この人、植物にも手順書作りそうだな)
庭師はわざと足音を立てて近づいた。
「執事さん」
レオンが顔を上げる。
真顔。
いつも通りの“温度一定”。
「庭師。何か」
「何か、じゃなくてさ」
庭師は手を腰に当てて言った。
「さっき親族に叱られた。余計なこと言うなって」
「適切な指示です」
「そうかな」
庭師は肩をすくめた。
「本質言わないと進まないじゃん。
花だってさ、剪定しないと咲かないよ」
レオンは一拍置き、淡々と言った。
「剪定は必要です」
「でしょ?」
庭師はにやりと笑い、間を詰めた。
「じゃあさ。執事さんも、余計な枝、切ったら?」
「余計な枝、とは」
「言い訳」
庭師は即答した。
レオンの眉が、ほんのわずかに動く。
「“ティータイムの安定運用”とか、“規律”とか。
もちろん大事だけど、押し切れない日もあるんでしょ」
レオンは沈黙した。
沈黙の質が、いつもより重い。
庭師は、その沈黙を切るように、直球を投げた。
「恋って言えば?」
レオンが瞬きを止めた。
庭師は続ける。
「お嬢様のこと、好きなんでしょ。
隣の椅子、守ってるの、それでしょ」
レオンは動かなかった。
動かないまま、真顔で答えた。
「言語化は未着手です」
庭師は、しばらく黙った。
そして、笑った。
「……未着手って何だよ」
レオンは真顔のまま、補足する。
「現時点で、適切な言葉が定義できていません」
「定義とか、やめなさい」
庭師は頭を掻いた。
この人は、真面目にずれている。
ずれているのに、守り方は本気だ。
「じゃあさ」
庭師は、少しだけ声を落として言った。
「言えないなら、席で示せ」
レオンの視線が、わずかに揺れる。
庭師は続ける。
「隣の椅子、引くんでしょ。
戻さないんでしょ。
お嬢様が“ここが好き”って言える場所、作るんでしょ」
レオンは、しばらく何も言わなかった。
手帳も開かない。
視線だけが、遠くのティールームの窓を見た気がした。
そして――
無言で、頷いた。
その頷きは、いつもの「承知しました」よりずっと重い。
行動の承知。
言葉の前に、守る方の承知。
庭師は、ふっと息を吐いた。
「よし。
じゃあ俺はまた叱られる役、やるわ」
レオンが一拍置いて言う。
「無理はなさらず」
「無理はする。だって本質係だから」
庭師は笑って去り際に、振り返った。
「執事さん。
言語化、いつか着手しなよ」
レオンは真顔のまま、少しだけ声を落とした。
「……はい」
庭師は満足して歩き出した。
庭には風が吹く。
葉が揺れる。
(芽が動いたな)
庭師はそう思った。
言葉にならない芽が、確かに動いた。
芽吹く前の芽。
枯れる前の葉。
人が言葉にする前の顔。
だからこそ――叱られる。
「君!」
親族のひとりが、庭の小道に庭師を呼び止めた。
声は上品、内容は厳しい。
「先日の席で、余計なことを言ったそうだな」
庭師は土のついた手を軽く拭き、頭を下げた。
「余計なこと、ってのは……『抱きしめてほしいんでしょ』の件ですか」
「そうだ。
ああいうことは慎むべきだ。屋敷には品位がある」
庭師は首を傾げた。
「品位はありますよ。
ただ、品位のせいで、言うべきことが言えないこともあるだけで」
親族の眉がぴくりと動いた。
「……口が過ぎるぞ」
「すみません」
庭師は謝った。
謝ったが、納得はしていなかった。
(本質って、言わないと進まないんだけどな)
親族が去り際に、もう一度釘を刺す。
「とにかく、これ以上“火種”を増やすな」
庭師は、深く頭を下げたまま、ぽつりと返した。
「火種って、もう燃えてるやつですよね」
親族が振り返る前に、庭師は立ち去った。
足取りは軽い。
罪悪感は薄い。
庭師はそういう生き物だ。
・♢ー♢ー♢・
午後。庭の端。
レオン(執事)は、薔薇の剪定を点検していた。
点検――というより、角度と距離と高さを測っている。
庭師はそれを眺めて、内心で小さく笑う。
(この人、植物にも手順書作りそうだな)
庭師はわざと足音を立てて近づいた。
「執事さん」
レオンが顔を上げる。
真顔。
いつも通りの“温度一定”。
「庭師。何か」
「何か、じゃなくてさ」
庭師は手を腰に当てて言った。
「さっき親族に叱られた。余計なこと言うなって」
「適切な指示です」
「そうかな」
庭師は肩をすくめた。
「本質言わないと進まないじゃん。
花だってさ、剪定しないと咲かないよ」
レオンは一拍置き、淡々と言った。
「剪定は必要です」
「でしょ?」
庭師はにやりと笑い、間を詰めた。
「じゃあさ。執事さんも、余計な枝、切ったら?」
「余計な枝、とは」
「言い訳」
庭師は即答した。
レオンの眉が、ほんのわずかに動く。
「“ティータイムの安定運用”とか、“規律”とか。
もちろん大事だけど、押し切れない日もあるんでしょ」
レオンは沈黙した。
沈黙の質が、いつもより重い。
庭師は、その沈黙を切るように、直球を投げた。
「恋って言えば?」
レオンが瞬きを止めた。
庭師は続ける。
「お嬢様のこと、好きなんでしょ。
隣の椅子、守ってるの、それでしょ」
レオンは動かなかった。
動かないまま、真顔で答えた。
「言語化は未着手です」
庭師は、しばらく黙った。
そして、笑った。
「……未着手って何だよ」
レオンは真顔のまま、補足する。
「現時点で、適切な言葉が定義できていません」
「定義とか、やめなさい」
庭師は頭を掻いた。
この人は、真面目にずれている。
ずれているのに、守り方は本気だ。
「じゃあさ」
庭師は、少しだけ声を落として言った。
「言えないなら、席で示せ」
レオンの視線が、わずかに揺れる。
庭師は続ける。
「隣の椅子、引くんでしょ。
戻さないんでしょ。
お嬢様が“ここが好き”って言える場所、作るんでしょ」
レオンは、しばらく何も言わなかった。
手帳も開かない。
視線だけが、遠くのティールームの窓を見た気がした。
そして――
無言で、頷いた。
その頷きは、いつもの「承知しました」よりずっと重い。
行動の承知。
言葉の前に、守る方の承知。
庭師は、ふっと息を吐いた。
「よし。
じゃあ俺はまた叱られる役、やるわ」
レオンが一拍置いて言う。
「無理はなさらず」
「無理はする。だって本質係だから」
庭師は笑って去り際に、振り返った。
「執事さん。
言語化、いつか着手しなよ」
レオンは真顔のまま、少しだけ声を落とした。
「……はい」
庭師は満足して歩き出した。
庭には風が吹く。
葉が揺れる。
(芽が動いたな)
庭師はそう思った。
言葉にならない芽が、確かに動いた。
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