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第九章 黒曜塔の夜、封筒の行き先
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黒曜の塔の石壁に、黒いインクの雨粒がしみ込みはじめた。
ぽたり、ぽたり。
目には見えないはずの呪文のしずくが、ポポにははっきり見える。
――黒曜の怪物をここに縫いつけよ。
――いなくなる前に、鎖で囲え。
塔そのものを、一枚の“辞表”に変えようとするみたいな、しつこい文字たち。
「……ぜんっぜん可愛くない」
ポポは、ふくらはぎまでの階段を一段飛ばしで駆け上がりながら、息を吐いた。
廊下のすみでは、塔の猫たちが一斉に背中の毛を逆立てている。
「にゃ!」
「わかってる。やな感じだよね」
ポポの目には、塔の内側の壁にも、うっすらと黒い網目が浮かんでいるのが見えていた。
――黒曜宰相、離席禁止。
――怪物として固定。
――甘さへの寄り道、無効。
「……“残業無限”みたいな呪文ですね」
思わず漏れた本音に、自分で顔をしかめる。
(宰相さま、絶対これ嫌いだ……)
いや、嫌いどころか――今、あの人の胸の内側では、この呪文と、自分で刻んだ“いなくなってもいい”呪文が、最悪の混ざり方をしているはずだ。
塔のいちばん上。
黒曜宰相の執務室の扉は、インクの鎖のような文字で固く閉ざされている。
――開くな。
――誰も入れるな。
――怪物は一人でいろ。
「……失礼します、黒曜塔・まちがい後始末課です」
ポポは、冗談半分、本気半分でそう名乗って、扉の前に立った。
「宰相さま、聞こえますか?」
返事は、ない。
だが、扉の向こうに、微かな気配を感じる。
いつもより荒い息の音。
ペン先ではなく、指輪の文字が擦れるような、きしむ気配。
(間に合った)
ポポは、そっと扉に手のひらを当てた。
冷たさといっしょに、インクのざらつきが伝わってくる。
「……よし」
指先に、可愛い置換の魔法を集める。
ただし今回は、猫や綿あめに変えるつもりはない。
(“全部可愛くする”のは、やめるって決めた)
今必要なのは、“可愛く直す”ことじゃない。
“余白をあける”ことだ。
――黒曜宰相、離席禁止。
その文字列の間に、小さく、「※ただし、自主的な休憩を除く」と書き足すような。
「……“開くな”」
扉に浮かぶ文字を、ポポはじっと見つめた。
“開”の字の、一画分だけ、線が細くなっている。
そこに、外からのためらいが混ざっている。
――本当は、助けに行きたい。
――でも、“怪物に手を出すな”と言われてきた。
塔全体に染みついた、古い決まりの声。
「あなたも、縫いつけられてたんですねえ……」
ポポは、扉のインクに向かって、小さく笑いかけた。
「じゃあ、ここ。“開くな”の“な”だけ、ちょっと薄くなってもらいます」
指先から、ふわりと光が流れ込む。
――開くな。
命令形の“な”が、かすかににじみ、
――まだ、開かない。
という、時間を含んだ言葉に変わる。
扉の黒が、ほんの少しだけ、灰色に薄くなった。
* * *
一方その頃、執務室の中では――。
黒曜の塔の最上階。
厚いカーテンの内側で、オルガは机に両手を突いていた。
黒曜指輪が、焼け鉄のように熱い。
壁という壁に、文字が滲み出している。
――怪物。
――宰相。
――黒曜の盾。
――恐怖の象徴。
過去に受けた呼び名たちが、黒曜石の壁を覆い尽くしていた。
耳元で、いくつもの声が囁く。
“黒曜の怪物がいる限り、この国は安泰だ”
“お前が怖がられることで、誰かが安心する”
“愛される必要などない。役に立てば、それで良い”
どれも、かつて自分が“救い”だと信じていた言葉だ。
(……そうだ。私は、そのためにここにいる)
黒曜指輪の文字――
――愛されぬことを選べ。
――恐れをまとうことで、皆を遠ざけよ。
それが、今、壁の文字と共鳴している。
机の引き出しの中では、一通の封筒が、かすかに音を立てて震えていた。
――万が一の補足説明。
“いなくなったときのための手引き”。
“怪物が不在になったあとの帳尻”。
塔を包む呪文の網は、その封筒を、塔ごと巨大化させたようなものだ。
――いなくなる前に、文字にしておけ。
――感謝だけ置いて消えろ。
「……くだらん」
オルガは、低く吐き捨てた。
くだらない。
そう思う一方で、胸の奥では、そのシナリオに「それが一番、周囲に迷惑がかからない」と頷いている自分もいる。
(“いなくなってもいいように”――)
自分で自分に刻んだ、その呪文。
それは、“愛されぬことを選べ”とセットで、指輪の内側に沈んでいた。
――いなくなってもいい。
――いなくなったあとの道筋だけ整えておけ。
塔の壁に滲む文字が、その呪文を増幅してくる。
「……」
ペンを握る手に力が入る。
机の上には、真っ白な一枚の紙。
“辞表”という言葉は、どこにも書かれていない。
だが、その余白全体が、「ここに“さようなら”を書け」と言っているみたいだった。
“黒曜宰相オルガは、その職を――”
ペン先が、一画だけ、紙を汚す。
その瞬間。
――コン。
扉の向こうから、軽い音がした。
かすかな声。
『宰相さま、聞こえますか?』
ポポの声だった。
塔を包む文字の網に、外から小さな波紋が走る。
『黒曜塔・まちがい後始末課です。
ただいま、怪物固定呪文の後始末に参りましたー』
「……何だ、その課は」
がくり、と肩の力が抜ける。
ペン先から、インクのしずくがぽたりと落ちて、白紙に小さな丸い点を作った。
――黒曜宰相オルガは、その職を……
まだ、何も続いていない。
オルガは、紙から目を離し、扉の方向を見やった。
魔術的な封印の文字が、扉の表面でぎしぎしときしんでいる。
外から、ポポの魔法が、少しずつ線の形を変えようとしているのがわかった。
「……まったく」
笑ってしまいそうになるのを、ぎりぎりでこらえる。
「この状況で、ふざける余裕があるとは」
だが、その余裕が、塔の中の空気を、ほんの少しだけ変えた。
* * *
ポポには、扉の向こうで、文字の色が変わるのが見えた。
――黒曜宰相、離席禁止。
その文字の周りにあった、“怪物でいろ”という命令の棘が、少しだけ丸くなっている。
(宰相さまの中で、何か動いた)
ポポは、扉に体を預けたまま、指先をインクに滑らせた。
「宰相さま。
今、そっちで“なにか書こうとしてる音”がします」
返事はない。
「“さようなら”って書こうとしてません?」
扉の向こうの空気が、ぴたりと止まった気がした。
「……」
「もしそうだったら、その“さようなら”の前に、“まだ途中だけど”って一行、書き足してください」
可愛い置換ではない。
ただの、お願いだ。
「“黒曜宰相オルガは、その職を……”の前に、“まだ途中だけど”って」
「……なぜ、それを知っている」
低い声が、扉越しに返ってきた。
ポポは、頬を緩めた。
「さっき、紙が泣きました。
“書かれたくない言葉が乗りそうで、怖い”って」
「紙まで喋るのか、お前の目は」
「文字はだいたい喋ってます」
軽口を交わしながらも、ポポの指先は忙しく動いている。
塔全体を包む呪文の網から、“命令形の棘”だけを選り分けて、小さな星形の紙吹雪に変えていく。
――恐怖を纏え。
――笑うな。
――愛されるな。
棘の強い言葉ほど、星の形になりやすい。
猫たちが、それをぴょん、と飛びついて、ぺろりと舐めていく。
「猫は、怖い言葉の味がわかるんです」
「そんな猫を塔に集めるな」
「もう集まってます」
塔は今、“怪物固定呪文”の外側を、猫と星形紙吹雪の行列がぐるぐると回るという、よくわからない光景になっていた。
それでも、確かに呪文の網は薄くなっている。
「宰相さま」
ポポは、真剣な声で呼びかけた。
「外側の“怪物でいろ”って呪文は、私と猫たちでだいぶ薄くできます。
でも、中の“いなくなってもいいように”ってやつだけは、どうにも触れません」
扉の向こうで、黒曜指輪がかすかに鳴る。
「……そうだろうな」
「それ、宰相さま本人の字ですから」
ポポは、扉に額をくっつけた。
「“いなくなってもいいように”って書いたとき、どんな顔してました?」
「……覚えていない」
「覚えてないくらい、追い詰められてたんだと思います」
少しだけ息を飲んでから、続ける。
「でも今は、“いなくなってもいい”って前提で考えるの、やめませんか」
塔を包む文字の網が、ざわ、と音を立てる。
「“いなくなってもいいように”って、優しさに見えるけど――
けっきょく、“ここにいてもいい”って言ってくれる可能性から、先に目を背けてる呪文です」
沈黙。
ポポには、その沈黙の形が見えている。
――そんな可能性は、ない。
――あってはいけない。
オルガ自身の、根っこにこびりついた声。
“自分は愛されない”という自己呪詛の芯。
「……宰相さま」
ポポは、指をぎゅっと握った。
「私、その可能性、聞きたいです」
「可能性?」
「“いなくならなくていいかもしれない”って可能性。
“怪物じゃない形で、ここにいてもいいかもしれない”って可能性。
――それを、一文字だけでいいから、宰相さま自身の字で見てみたい」
そのお願いは、可愛い置換でも何でもない。
ただの、まっすぐな願いだった。
* * *
オルガは、紙の前で立ち尽くしていた。
扉の向こうから届くポポの声が、塔の壁に滲んだ文字を、少しずつ溶かしていく。
(“いなくなってもいいように”――)
その呪文は、確かに、自分の手で刻んだ。
“愛されぬことを選べ”という自己呪詛とセットで。
誰かに「ありがとう」と言われながら、いなくなる筋書きのほうが、まだ楽だと思っていたから。
――いなくなってもいい。
――いなくなったあとの道筋だけ整えておけ。
その文字のすぐ隣で、いま、別の文字が震えている。
――いなくならなくてもいいのではないか。
扉越しに聞こえた、ポポの声が置いていった“余白”。
それは、まだ、言葉になっていない。
「……」
オルガは、机の引き出しをゆっくり開けた。
封蝋の押された封筒が、一通。
“万が一の補足説明”。
ポポに預けそこねたまま、ここに残っている。
中には、“いなくなったときのための言葉”だけが詰まっている。
――いなくていい前提の、自分の仕事。
封筒を指先で持ち上げる。
黒曜の指輪の文字が、じり、と焼けるように熱を帯びた。
(“私がこの封筒を、いつか自分で破り捨てたら”――)
ポポの瞳が、蘇る。
――そのときは、お前の自己呪詛を無効とする。
そんな約束を、してしまった。
(馬鹿げた取引だ)
オルガは、自嘲気味に口元を歪めた。
封筒を破ったところで、“自分は愛されない”という呪文が、全部消えるわけではない。
それは、もっと深い場所に染み込んでいる。
それでも――。
「……」
指先に力を込める。
封蝋が、ぱきりと鳴った。
中の紙が、わずかに覗く。
そこには、既に書き出された一行目があった。
――黒曜宰相オルガは、その職を――
外では、塔を巻く文字の網が、さらにきしんでいる。
――怪物でいろ。
――辞めるなら、消えろ。
――感謝だけ置いていけ。
(黙れ)
オルガは、心の中で呟いた。
(私が決める)
“いなくなってもいいように”という呪文も、
“怪物でいろ”という外側の呪文も、
どちらも、“自分以外の誰か”が考えたラクな筋書きだ。
――“存在し続ける”苦しさを避けるための。
「……ポポ」
オルガは、小さく息を吸い込んだ。
「お前の“まちがい後始末課”とやらに、ひとつ仕事を出す」
扉越しに、ぴく、と気配が動くのがわかる。
『はい!』
「この封筒を、二度と誰にも読ませないようにすることだ」
『……それって』
「そうだ」
オルガは、封筒を両手で掴んだ。
「自分で破る」
びり、と音がした。
封蝋ごと、封筒が真ん中から裂ける。
中の紙も、黒曜の印章も、一緒に。
――黒曜宰相オルガは、その職を――
途中まで書かれていた行が、宙に舞い、破片になって散った。
同時に、塔を包む黒い文字の網が、一斉に悲鳴を上げる。
――筋書きが変わる。
――予定が狂う。
“いなくなってもらう前提”で組み上げられた呪文が、足場を失って崩れていく。
塔の壁に貼りついていた“怪物固定”の文字たちも、次々と剥がれ落ちた。
――黒曜の怪物は眠るな。
――恐怖を纏え。
それらは、ポポが作った星形の紙吹雪に変わり、猫たちの足元に積もっていく。
* * *
「――っ」
ポポは、塔の揺れに思わずよろめいた。
扉の上で、黒いインクが一気にひび割れ、剥がれ落ちていく。
“開かないはずだった”魔術の鎖が、きれいに砕ける音がした。
扉の前で丸くなっていた猫が、一斉に「にゃあ」と鳴く。
「……今の、宰相さま?」
ポポは、胸を押さえた。
塔全体を揺らしたのは、外からの魔法じゃない。
中から放たれた、“筋書き拒否”の一撃だった。
――いなくなってもいいように。
――その呪文を、自分の手で破った。
それは、可愛い置換では到底届かない場所にある、本人の選択だ。
「……っよし」
ポポは、扉の取っ手に手をかけた。
今度は、開いた。
ぎぃ、と重い音を立てて、黒曜宰相の執務室が、夜の空気を吐き出す。
中では、オルガが机のそばにしゃがみ込んでいた。
足元には、破れた紙片が雪のように散らばっている。
「宰相さま!」
ポポは駆け寄った。
オルガは、額に汗をにじませながらも、いつものように姿勢を正そうとする。
「……塔に勝手に入るなと、いつも言っているだろう」
「はいはい、“どうせ私なんかには守れない塔だから”って顔してますね」
「言っていない」
いつもの応酬。
そのやりとりができるだけの余裕が、まだ残っていることに、ポポは心の底から安堵した。
黒曜指輪に目をやる。
刻まれた文字は、相変わらずそこにある。
――愛されぬことを選べ。
だが、その隣に、ごく小さな新しい文字が刻まれているのが、ポポには見えた。
――いなくならなくてもいい。
まだ、か細い。
書きかけの一画で止まっているみたいな、心もとない文字。
それでも、それは確かに、“本人の字”だった。
「……破ったんですね」
ポポは、足元の紙片を見下ろした。
「“いなくなってもいいように”って封筒」
「ああ」
オルガは、短く答えた。
「お前の言う通り、“開ける必要がなくなる未来”を、選ぶほうに賭けてみた」
「……っ」
胸が、きゅっと鳴る。
「それは、“黒曜宰相を辞めない”ってことですか?」
「まだ決めていない」
即答。
「だが、“いなくなってもいい前提で辞める”という筋書きだけは、捨てた」
その言い方は、オルガらしい、慎重なものだった。
――自分がここにいるかどうかを、“怪物であるかどうか”だけで決めない。
その曖昧で、でも確かな一歩。
ポポは、にやりと笑った。
「じゃあ、さっきの紙片、後で猫砂に混ぜておきますね」
「そんな再利用の仕方はやめろ」
「“いなくなってもいいように”って呪文、猫のトイレに流しておきましょう」
「……」
笑うべきか、呆れるべきか、判断に迷う。
だが、その下らないイメージに、指輪の文字がほんの少し居心地悪そうに身じろぎしたのを、オルガは感じていた。
“自己呪詛が猫砂にされる”――
それは、意外と悪くない終わり方だ。
* * *
「宰相さま」
ポポは、少し真面目な顔に戻った。
「“愛されない”って呪文は、まだそのまま残ってます」
「ああ」
「それは、私の魔法じゃ触れません」
「知っている」
オルガは、指輪を見下ろした。
「それは、おそらく――」
彼は、ゆっくりと言葉を選んだ。
「“誰かに愛されるかどうか”の問題ではなく、“愛されるかもしれないと信じてみるかどうか”の問題だ」
それは、ポポの言う“可能性”に、少しだけ触れた言葉だった。
「私は、まだそこまで書き換える覚悟がない」
「……はい」
ポポは、素直に頷いた。
「それは、宰相さまの仕事ですから」
“本人しか解けない自己呪詛”――
物語の山場に残された、最後の一行。
今夜、封筒は破られた。
塔を縛っていた呪文の網も、かなり薄くなった。
でも、指輪の文字は、まだ全部は消えていない。
「だから、私の仕事は――」
ポポは、くるりと身を翻し、窓の外を見やった。
黒い雲はほとんど消え、代わりに、星がぽつりぽつりと顔を出し始めている。
「宰相さまが、“愛されてもいい”って書き換える日までの、余白づくりですね」
「余白?」
「はい。“まちがい後始末課”としては、そこに小さな星や猫や綿あめを詰めておきます」
「それは余白とは呼ばん」
「えへへ」
笑いながらも、ポポの目には、涙がにじんでいた。
「宰相さまが、“いなくならなくてもいい”って書いてくれて、嬉しいです」
「……まだ一画だけだ」
「その一画が大事なんです」
ポポは、机の上のインク壺をそっと指で弾いた。
「これからの文字は、その一画から生まれるんですから」
オルガは、窓の外の星を見上げた。
塔のまわりに、猫たちの影がふわふわと動き回っているのが見える。
星形の紙吹雪が、どこからともなく舞い上がり、夜空に溶けていく。
(“怪物”であることをやめるかどうか――)
答えは、まだ出ていない。
だが、“いなくなる前提”の呪文を破った以上、
自分の在り方を、もう一度最初から書き直す責任が生まれた。
――愛されぬことを選べ。
その一文の横に、今夜、書き足された、かすかな一画。
――いなくならなくてもいい。
それは、まだ誰の目にも見えない。
ポポの目と、猫と、指輪だけが知っている、ごく小さな変化。
けれど、黒曜の塔の夜風は、その一画の存在を、確かに祝福するように吹いていた。
「……ポポ」
「はい」
「“いい怪物だ”という言い方は、やはりやめろ」
「ええ~、気に入ってたのに」
「まるで、“飼い猫のよくできました”のようだ」
「じゃあ、“まだ途中の怪物さま”で」
「余計ひどい」
ひどい、と言いながらも。
オルガの声は、どこか軽かった。
塔に染みていたインクの匂いが薄れ、
代わりに、夜の冷たい空気と、台所からかすかに漂う蜂蜜茶の香りが混ざりはじめる。
黒曜塔の夜は、いつもより少しだけ、甘かった。
――封筒は、もうない。
――そのかわりに、余白がひとつ、増えた。
その余白に、どんな文字を書き込むかは、これからの話だ。
ぽたり、ぽたり。
目には見えないはずの呪文のしずくが、ポポにははっきり見える。
――黒曜の怪物をここに縫いつけよ。
――いなくなる前に、鎖で囲え。
塔そのものを、一枚の“辞表”に変えようとするみたいな、しつこい文字たち。
「……ぜんっぜん可愛くない」
ポポは、ふくらはぎまでの階段を一段飛ばしで駆け上がりながら、息を吐いた。
廊下のすみでは、塔の猫たちが一斉に背中の毛を逆立てている。
「にゃ!」
「わかってる。やな感じだよね」
ポポの目には、塔の内側の壁にも、うっすらと黒い網目が浮かんでいるのが見えていた。
――黒曜宰相、離席禁止。
――怪物として固定。
――甘さへの寄り道、無効。
「……“残業無限”みたいな呪文ですね」
思わず漏れた本音に、自分で顔をしかめる。
(宰相さま、絶対これ嫌いだ……)
いや、嫌いどころか――今、あの人の胸の内側では、この呪文と、自分で刻んだ“いなくなってもいい”呪文が、最悪の混ざり方をしているはずだ。
塔のいちばん上。
黒曜宰相の執務室の扉は、インクの鎖のような文字で固く閉ざされている。
――開くな。
――誰も入れるな。
――怪物は一人でいろ。
「……失礼します、黒曜塔・まちがい後始末課です」
ポポは、冗談半分、本気半分でそう名乗って、扉の前に立った。
「宰相さま、聞こえますか?」
返事は、ない。
だが、扉の向こうに、微かな気配を感じる。
いつもより荒い息の音。
ペン先ではなく、指輪の文字が擦れるような、きしむ気配。
(間に合った)
ポポは、そっと扉に手のひらを当てた。
冷たさといっしょに、インクのざらつきが伝わってくる。
「……よし」
指先に、可愛い置換の魔法を集める。
ただし今回は、猫や綿あめに変えるつもりはない。
(“全部可愛くする”のは、やめるって決めた)
今必要なのは、“可愛く直す”ことじゃない。
“余白をあける”ことだ。
――黒曜宰相、離席禁止。
その文字列の間に、小さく、「※ただし、自主的な休憩を除く」と書き足すような。
「……“開くな”」
扉に浮かぶ文字を、ポポはじっと見つめた。
“開”の字の、一画分だけ、線が細くなっている。
そこに、外からのためらいが混ざっている。
――本当は、助けに行きたい。
――でも、“怪物に手を出すな”と言われてきた。
塔全体に染みついた、古い決まりの声。
「あなたも、縫いつけられてたんですねえ……」
ポポは、扉のインクに向かって、小さく笑いかけた。
「じゃあ、ここ。“開くな”の“な”だけ、ちょっと薄くなってもらいます」
指先から、ふわりと光が流れ込む。
――開くな。
命令形の“な”が、かすかににじみ、
――まだ、開かない。
という、時間を含んだ言葉に変わる。
扉の黒が、ほんの少しだけ、灰色に薄くなった。
* * *
一方その頃、執務室の中では――。
黒曜の塔の最上階。
厚いカーテンの内側で、オルガは机に両手を突いていた。
黒曜指輪が、焼け鉄のように熱い。
壁という壁に、文字が滲み出している。
――怪物。
――宰相。
――黒曜の盾。
――恐怖の象徴。
過去に受けた呼び名たちが、黒曜石の壁を覆い尽くしていた。
耳元で、いくつもの声が囁く。
“黒曜の怪物がいる限り、この国は安泰だ”
“お前が怖がられることで、誰かが安心する”
“愛される必要などない。役に立てば、それで良い”
どれも、かつて自分が“救い”だと信じていた言葉だ。
(……そうだ。私は、そのためにここにいる)
黒曜指輪の文字――
――愛されぬことを選べ。
――恐れをまとうことで、皆を遠ざけよ。
それが、今、壁の文字と共鳴している。
机の引き出しの中では、一通の封筒が、かすかに音を立てて震えていた。
――万が一の補足説明。
“いなくなったときのための手引き”。
“怪物が不在になったあとの帳尻”。
塔を包む呪文の網は、その封筒を、塔ごと巨大化させたようなものだ。
――いなくなる前に、文字にしておけ。
――感謝だけ置いて消えろ。
「……くだらん」
オルガは、低く吐き捨てた。
くだらない。
そう思う一方で、胸の奥では、そのシナリオに「それが一番、周囲に迷惑がかからない」と頷いている自分もいる。
(“いなくなってもいいように”――)
自分で自分に刻んだ、その呪文。
それは、“愛されぬことを選べ”とセットで、指輪の内側に沈んでいた。
――いなくなってもいい。
――いなくなったあとの道筋だけ整えておけ。
塔の壁に滲む文字が、その呪文を増幅してくる。
「……」
ペンを握る手に力が入る。
机の上には、真っ白な一枚の紙。
“辞表”という言葉は、どこにも書かれていない。
だが、その余白全体が、「ここに“さようなら”を書け」と言っているみたいだった。
“黒曜宰相オルガは、その職を――”
ペン先が、一画だけ、紙を汚す。
その瞬間。
――コン。
扉の向こうから、軽い音がした。
かすかな声。
『宰相さま、聞こえますか?』
ポポの声だった。
塔を包む文字の網に、外から小さな波紋が走る。
『黒曜塔・まちがい後始末課です。
ただいま、怪物固定呪文の後始末に参りましたー』
「……何だ、その課は」
がくり、と肩の力が抜ける。
ペン先から、インクのしずくがぽたりと落ちて、白紙に小さな丸い点を作った。
――黒曜宰相オルガは、その職を……
まだ、何も続いていない。
オルガは、紙から目を離し、扉の方向を見やった。
魔術的な封印の文字が、扉の表面でぎしぎしときしんでいる。
外から、ポポの魔法が、少しずつ線の形を変えようとしているのがわかった。
「……まったく」
笑ってしまいそうになるのを、ぎりぎりでこらえる。
「この状況で、ふざける余裕があるとは」
だが、その余裕が、塔の中の空気を、ほんの少しだけ変えた。
* * *
ポポには、扉の向こうで、文字の色が変わるのが見えた。
――黒曜宰相、離席禁止。
その文字の周りにあった、“怪物でいろ”という命令の棘が、少しだけ丸くなっている。
(宰相さまの中で、何か動いた)
ポポは、扉に体を預けたまま、指先をインクに滑らせた。
「宰相さま。
今、そっちで“なにか書こうとしてる音”がします」
返事はない。
「“さようなら”って書こうとしてません?」
扉の向こうの空気が、ぴたりと止まった気がした。
「……」
「もしそうだったら、その“さようなら”の前に、“まだ途中だけど”って一行、書き足してください」
可愛い置換ではない。
ただの、お願いだ。
「“黒曜宰相オルガは、その職を……”の前に、“まだ途中だけど”って」
「……なぜ、それを知っている」
低い声が、扉越しに返ってきた。
ポポは、頬を緩めた。
「さっき、紙が泣きました。
“書かれたくない言葉が乗りそうで、怖い”って」
「紙まで喋るのか、お前の目は」
「文字はだいたい喋ってます」
軽口を交わしながらも、ポポの指先は忙しく動いている。
塔全体を包む呪文の網から、“命令形の棘”だけを選り分けて、小さな星形の紙吹雪に変えていく。
――恐怖を纏え。
――笑うな。
――愛されるな。
棘の強い言葉ほど、星の形になりやすい。
猫たちが、それをぴょん、と飛びついて、ぺろりと舐めていく。
「猫は、怖い言葉の味がわかるんです」
「そんな猫を塔に集めるな」
「もう集まってます」
塔は今、“怪物固定呪文”の外側を、猫と星形紙吹雪の行列がぐるぐると回るという、よくわからない光景になっていた。
それでも、確かに呪文の網は薄くなっている。
「宰相さま」
ポポは、真剣な声で呼びかけた。
「外側の“怪物でいろ”って呪文は、私と猫たちでだいぶ薄くできます。
でも、中の“いなくなってもいいように”ってやつだけは、どうにも触れません」
扉の向こうで、黒曜指輪がかすかに鳴る。
「……そうだろうな」
「それ、宰相さま本人の字ですから」
ポポは、扉に額をくっつけた。
「“いなくなってもいいように”って書いたとき、どんな顔してました?」
「……覚えていない」
「覚えてないくらい、追い詰められてたんだと思います」
少しだけ息を飲んでから、続ける。
「でも今は、“いなくなってもいい”って前提で考えるの、やめませんか」
塔を包む文字の網が、ざわ、と音を立てる。
「“いなくなってもいいように”って、優しさに見えるけど――
けっきょく、“ここにいてもいい”って言ってくれる可能性から、先に目を背けてる呪文です」
沈黙。
ポポには、その沈黙の形が見えている。
――そんな可能性は、ない。
――あってはいけない。
オルガ自身の、根っこにこびりついた声。
“自分は愛されない”という自己呪詛の芯。
「……宰相さま」
ポポは、指をぎゅっと握った。
「私、その可能性、聞きたいです」
「可能性?」
「“いなくならなくていいかもしれない”って可能性。
“怪物じゃない形で、ここにいてもいいかもしれない”って可能性。
――それを、一文字だけでいいから、宰相さま自身の字で見てみたい」
そのお願いは、可愛い置換でも何でもない。
ただの、まっすぐな願いだった。
* * *
オルガは、紙の前で立ち尽くしていた。
扉の向こうから届くポポの声が、塔の壁に滲んだ文字を、少しずつ溶かしていく。
(“いなくなってもいいように”――)
その呪文は、確かに、自分の手で刻んだ。
“愛されぬことを選べ”という自己呪詛とセットで。
誰かに「ありがとう」と言われながら、いなくなる筋書きのほうが、まだ楽だと思っていたから。
――いなくなってもいい。
――いなくなったあとの道筋だけ整えておけ。
その文字のすぐ隣で、いま、別の文字が震えている。
――いなくならなくてもいいのではないか。
扉越しに聞こえた、ポポの声が置いていった“余白”。
それは、まだ、言葉になっていない。
「……」
オルガは、机の引き出しをゆっくり開けた。
封蝋の押された封筒が、一通。
“万が一の補足説明”。
ポポに預けそこねたまま、ここに残っている。
中には、“いなくなったときのための言葉”だけが詰まっている。
――いなくていい前提の、自分の仕事。
封筒を指先で持ち上げる。
黒曜の指輪の文字が、じり、と焼けるように熱を帯びた。
(“私がこの封筒を、いつか自分で破り捨てたら”――)
ポポの瞳が、蘇る。
――そのときは、お前の自己呪詛を無効とする。
そんな約束を、してしまった。
(馬鹿げた取引だ)
オルガは、自嘲気味に口元を歪めた。
封筒を破ったところで、“自分は愛されない”という呪文が、全部消えるわけではない。
それは、もっと深い場所に染み込んでいる。
それでも――。
「……」
指先に力を込める。
封蝋が、ぱきりと鳴った。
中の紙が、わずかに覗く。
そこには、既に書き出された一行目があった。
――黒曜宰相オルガは、その職を――
外では、塔を巻く文字の網が、さらにきしんでいる。
――怪物でいろ。
――辞めるなら、消えろ。
――感謝だけ置いていけ。
(黙れ)
オルガは、心の中で呟いた。
(私が決める)
“いなくなってもいいように”という呪文も、
“怪物でいろ”という外側の呪文も、
どちらも、“自分以外の誰か”が考えたラクな筋書きだ。
――“存在し続ける”苦しさを避けるための。
「……ポポ」
オルガは、小さく息を吸い込んだ。
「お前の“まちがい後始末課”とやらに、ひとつ仕事を出す」
扉越しに、ぴく、と気配が動くのがわかる。
『はい!』
「この封筒を、二度と誰にも読ませないようにすることだ」
『……それって』
「そうだ」
オルガは、封筒を両手で掴んだ。
「自分で破る」
びり、と音がした。
封蝋ごと、封筒が真ん中から裂ける。
中の紙も、黒曜の印章も、一緒に。
――黒曜宰相オルガは、その職を――
途中まで書かれていた行が、宙に舞い、破片になって散った。
同時に、塔を包む黒い文字の網が、一斉に悲鳴を上げる。
――筋書きが変わる。
――予定が狂う。
“いなくなってもらう前提”で組み上げられた呪文が、足場を失って崩れていく。
塔の壁に貼りついていた“怪物固定”の文字たちも、次々と剥がれ落ちた。
――黒曜の怪物は眠るな。
――恐怖を纏え。
それらは、ポポが作った星形の紙吹雪に変わり、猫たちの足元に積もっていく。
* * *
「――っ」
ポポは、塔の揺れに思わずよろめいた。
扉の上で、黒いインクが一気にひび割れ、剥がれ落ちていく。
“開かないはずだった”魔術の鎖が、きれいに砕ける音がした。
扉の前で丸くなっていた猫が、一斉に「にゃあ」と鳴く。
「……今の、宰相さま?」
ポポは、胸を押さえた。
塔全体を揺らしたのは、外からの魔法じゃない。
中から放たれた、“筋書き拒否”の一撃だった。
――いなくなってもいいように。
――その呪文を、自分の手で破った。
それは、可愛い置換では到底届かない場所にある、本人の選択だ。
「……っよし」
ポポは、扉の取っ手に手をかけた。
今度は、開いた。
ぎぃ、と重い音を立てて、黒曜宰相の執務室が、夜の空気を吐き出す。
中では、オルガが机のそばにしゃがみ込んでいた。
足元には、破れた紙片が雪のように散らばっている。
「宰相さま!」
ポポは駆け寄った。
オルガは、額に汗をにじませながらも、いつものように姿勢を正そうとする。
「……塔に勝手に入るなと、いつも言っているだろう」
「はいはい、“どうせ私なんかには守れない塔だから”って顔してますね」
「言っていない」
いつもの応酬。
そのやりとりができるだけの余裕が、まだ残っていることに、ポポは心の底から安堵した。
黒曜指輪に目をやる。
刻まれた文字は、相変わらずそこにある。
――愛されぬことを選べ。
だが、その隣に、ごく小さな新しい文字が刻まれているのが、ポポには見えた。
――いなくならなくてもいい。
まだ、か細い。
書きかけの一画で止まっているみたいな、心もとない文字。
それでも、それは確かに、“本人の字”だった。
「……破ったんですね」
ポポは、足元の紙片を見下ろした。
「“いなくなってもいいように”って封筒」
「ああ」
オルガは、短く答えた。
「お前の言う通り、“開ける必要がなくなる未来”を、選ぶほうに賭けてみた」
「……っ」
胸が、きゅっと鳴る。
「それは、“黒曜宰相を辞めない”ってことですか?」
「まだ決めていない」
即答。
「だが、“いなくなってもいい前提で辞める”という筋書きだけは、捨てた」
その言い方は、オルガらしい、慎重なものだった。
――自分がここにいるかどうかを、“怪物であるかどうか”だけで決めない。
その曖昧で、でも確かな一歩。
ポポは、にやりと笑った。
「じゃあ、さっきの紙片、後で猫砂に混ぜておきますね」
「そんな再利用の仕方はやめろ」
「“いなくなってもいいように”って呪文、猫のトイレに流しておきましょう」
「……」
笑うべきか、呆れるべきか、判断に迷う。
だが、その下らないイメージに、指輪の文字がほんの少し居心地悪そうに身じろぎしたのを、オルガは感じていた。
“自己呪詛が猫砂にされる”――
それは、意外と悪くない終わり方だ。
* * *
「宰相さま」
ポポは、少し真面目な顔に戻った。
「“愛されない”って呪文は、まだそのまま残ってます」
「ああ」
「それは、私の魔法じゃ触れません」
「知っている」
オルガは、指輪を見下ろした。
「それは、おそらく――」
彼は、ゆっくりと言葉を選んだ。
「“誰かに愛されるかどうか”の問題ではなく、“愛されるかもしれないと信じてみるかどうか”の問題だ」
それは、ポポの言う“可能性”に、少しだけ触れた言葉だった。
「私は、まだそこまで書き換える覚悟がない」
「……はい」
ポポは、素直に頷いた。
「それは、宰相さまの仕事ですから」
“本人しか解けない自己呪詛”――
物語の山場に残された、最後の一行。
今夜、封筒は破られた。
塔を縛っていた呪文の網も、かなり薄くなった。
でも、指輪の文字は、まだ全部は消えていない。
「だから、私の仕事は――」
ポポは、くるりと身を翻し、窓の外を見やった。
黒い雲はほとんど消え、代わりに、星がぽつりぽつりと顔を出し始めている。
「宰相さまが、“愛されてもいい”って書き換える日までの、余白づくりですね」
「余白?」
「はい。“まちがい後始末課”としては、そこに小さな星や猫や綿あめを詰めておきます」
「それは余白とは呼ばん」
「えへへ」
笑いながらも、ポポの目には、涙がにじんでいた。
「宰相さまが、“いなくならなくてもいい”って書いてくれて、嬉しいです」
「……まだ一画だけだ」
「その一画が大事なんです」
ポポは、机の上のインク壺をそっと指で弾いた。
「これからの文字は、その一画から生まれるんですから」
オルガは、窓の外の星を見上げた。
塔のまわりに、猫たちの影がふわふわと動き回っているのが見える。
星形の紙吹雪が、どこからともなく舞い上がり、夜空に溶けていく。
(“怪物”であることをやめるかどうか――)
答えは、まだ出ていない。
だが、“いなくなる前提”の呪文を破った以上、
自分の在り方を、もう一度最初から書き直す責任が生まれた。
――愛されぬことを選べ。
その一文の横に、今夜、書き足された、かすかな一画。
――いなくならなくてもいい。
それは、まだ誰の目にも見えない。
ポポの目と、猫と、指輪だけが知っている、ごく小さな変化。
けれど、黒曜の塔の夜風は、その一画の存在を、確かに祝福するように吹いていた。
「……ポポ」
「はい」
「“いい怪物だ”という言い方は、やはりやめろ」
「ええ~、気に入ってたのに」
「まるで、“飼い猫のよくできました”のようだ」
「じゃあ、“まだ途中の怪物さま”で」
「余計ひどい」
ひどい、と言いながらも。
オルガの声は、どこか軽かった。
塔に染みていたインクの匂いが薄れ、
代わりに、夜の冷たい空気と、台所からかすかに漂う蜂蜜茶の香りが混ざりはじめる。
黒曜塔の夜は、いつもより少しだけ、甘かった。
――封筒は、もうない。
――そのかわりに、余白がひとつ、増えた。
その余白に、どんな文字を書き込むかは、これからの話だ。
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