王都祭の企画屋さん、事故るたびに恋が進む!?

星乃和花

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9話:王都祭の目玉企画、オーナーが勝手に巨大化!

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その朝、レオンは“嫌な予感”で目が覚めた。

嫌な予感は、にこにこ企画堂に常駐してから日常になった。だが今日は質が違う。胃の奥が「来る」と言っている。監査官の直感は、こういう時に外れない。

店に着くと、すでに空気が祭りだった。

扉を開けた瞬間、紙吹雪が舞った。舞うな。

「監査官さーん! おはようございます!」
ミアが走ってくる。走るな。

「今日はいい知らせがあるんです!」
「嫌な予感しかしない」
「いい知らせです!」

店の奥では、オーナーが巨大な巻物を広げていた。地図だ。しかも、王都の地図。しかも、赤い線がぐるぐる引いてある。

レオンは目を細めた。

「……何だ、その線」
オーナーが、いつもより誇らしげに笑った。

「目玉企画だ! 王都祭の主催から正式に依頼が来た!」
「は?」
「“今年の目玉を、にこにこ企画堂に”とな!」

ミアが胸を張る。

「わたし、企画を出したんです。『星灯の道しるべラリー』っていう、ゆるかわのスタンプラリー!」
レオンは、企画書を受け取った。

《星灯の道しるべラリー》
・街の数カ所に“星灯ランタン”
・集めると小さなご褒美
・迷子対策にもなる
・夜でも安全

……内容は、まともだった。まともすぎて逆に怖い。

「で?」

レオンが言うと、ミアが少し照れた。

「えへへ、今回は事故らないように、ちゃんと“範囲”を小さくしました。中央広場と、商店街だけ!」
「よし」
レオンは頷いた。頷いてしまった。

その瞬間、オーナーが巻物をどん、と叩いた。

「それを――王都全域にした!!」
「……は?」

レオンの声が低くなった。

「全域?」
「全域! 王都じゅうに星灯ランタンを置く! 路地も屋根も橋の下も、全部だ!」
「橋の下に置くな! 水路管理課が泣く!」
「泣かせるほど祭りは盛り上がる!」
「盛り上げるな!!」

レオンは企画書を見直した。

確かに、ミアの原案は“小さく安全に”。なのに、オーナーの追記ページが後ろに綴じられている。

《拡張案:王都全域イベント化》
《星灯ランタン 1000基》
《参加者:全市民》
《夜通し開催(特別)》

夜通し開催!? 特別!? 誰が許可した!?

レオンは震える手で、命令書を探すように机を叩いた。

「……聞いてない!!」

叫びに近い声が出た。監査官として、非常に良くない。だが今日は良くないことだらけだ。

ミアが慌てて手を振る。

「違うんです! わたしは広場と商店街だけって!」

オーナーが笑う。

「ミアの企画が良すぎるからだ! 王都は良いものを広げたがる! それが祭りだ!」
「良いものを広げるな! 広げると事故る!」
「事故ったら恋が進む!」
「進めるな!!」

レオンは深呼吸をして、仕事の声に戻そうとした。

「中止だ」

オーナーが即座に言う。

「無理だ! 今日の夜だぞ!」
「今日!?」

ミアが青くなる。

「今日って聞いてない……!」

レオンは眉間を押さえた。

今日の夜に、全域に1000基。設置、運用、撤収、誘導、消防。無理だ。無理の上に無理。

だが、王都の祭りは“無理”の上で回っている。最悪だ。

レオンは決断した。

「……止める」

オーナーがにやにやする。

「止められるか?」
「止めるために、走る」

レオンが言うと、ミアがきらりと目を上げた。

「走るなら、わたしも」
「当然だ。お前の企画だ」
「……はい!」

オーナーが満足そうに頷いた。

「よし! 夫婦で走れ!」
「違う!!」
「違います!!」

声が揃ってしまったのが、悔しい。

 *ーーー*

夕方、王都はすでに“星灯の気配”で満ちていた。

路地に小さなランタン。橋の欄干にランタン。屋台の軒先にランタン。子どもが持って走るランタン。いつの間に準備した。

オーナーが手配した“設置隊”が街に散っている。勝手に散るな。

レオンとミアは、地図を片手に走った。

「まずは危険箇所! 水路! 階段! 風の通り道!」
「はい! ランタンは“地上”限定にする! 屋根は撤去!」
「撤去札、持て!」
「持ってます!」

二人は、ほとんど言葉を交わさずに動く。

ミアが上を見て危険を見つけ、レオンが人の流れを見て導線を作る。

そして、周囲がまた言い出す。

「あっ、夫婦で走ってる」
「夫婦だ……」
「今夜、告白イベントなの?」
「空の“すき”の続き?」

やめろ。

今日の相手は噂じゃない。1000基だ。

 *ーーー*

事件は、開始一時間前に起きた。

星灯ランタンが“連動”し始めたのだ。

ランタン同士が光を送り合い、道しるべの矢印が夜空に伸びる。美しい。美しすぎる。

そして美しいものは、王都ではだいたい危ない。

「……ミア」
レオンが立ち止まる。
「これ、勝手に繋がってる」
ミアが目を丸くした。

「えっ、繋げる魔法は入れてないです!」
「入れてないなら、オーナーだ」
「オーナーさん……!」

その瞬間、広場の中心に巨大な星形の光が立ち上がった。

街のランタンが全部、それへ向かって光の糸を伸ばしている。

1000基が、一つの巨大魔法陣になっている。

人々が歓声を上げる。

「うわああ! すごい!」
「王都が星になった!」
「今年の目玉、やばい!」

やばい、の使い方が違う。

レオンは走り出した。ミアも走る。

広場へ。オーナーのいる場所へ。

人波をかき分け、ステージの裏へ飛び込むと――

オーナーが、両手を広げて満足そうに立っていた。

「どうだ! 王都全域イベント! 最高だろう!」
「最高じゃない!!」

レオンの叫びが、今日二回目の「監査官として良くない声」だった。

「聞いてない!!」
「聞いたら止めるだろ?」
「止める!!」
「だから聞かなかった!」

理屈が悪い意味で完璧だ。

ミアが前へ出る。

「オーナーさん! これは……これ、危ないです!」

オーナーは肩をすくめる。

「危ないの一歩手前が、祭りの感動だ」
「一歩手前で止めろ!」

レオンは光の糸を見た。

連動魔法が暴走すると、光が一気に集中して、熱になる。熱になると、燃える。燃えると、終わる。

王都が終わる。

常駐命令の文面が脳裏によぎる。

――この店、放置すると王都が終わる。

今だ。

レオンは短く言った。

「ミア、止める。核を探せ」
「核……中心の星、ですよね」
「そうだ。だが人が多い。導線を作る。避難誘導を優先」
「はい!」

二人は頷く。

“止める”ための動きが、もう体に染みている。

レオンが衛兵に叫ぶ。

「中央広場の周囲、通行規制! ランタンには触れるな! 子どもを先に外へ!」
「了解!」

ミアはスタッフに指示を飛ばす。

「解除札を配って! ランタンの糸を切らないで、まずは“光量”を落として!」

二人が同時に動くと、現場が整う。

それが悔しい。頼もしい。悔しい。

そして、その中で、ふっとオーナーが笑った。

「ほらな。止めるなら、一緒に走るだろう?」

レオンは睨んだ。

「お前のせいだ」
「うん」
「反省してない顔だな?」
「反省してるとも。次はもっと上手く――」
「次を作るな!!」

ミアが横から、珍しく低い声で言った。

「オーナーさん。次は、ちゃんと申請してください」
オーナーが一瞬だけ黙り、そして笑った。

「……はいはい。夫婦に叱られた」
「夫婦じゃない!!」

また声が揃ってしまった。

最悪だ。

だが最悪を嘆く暇はない。光の核へ向かわなければ。

レオンはミアの腕を軽く引いた。

「行くぞ」
「はい」

二人は、人の流れの隙間を縫って走った。

止めるなら、一緒に走る。

王都が、目玉企画の光で眩しくなるほど――

二人の“息の合い方”も、眩しくなっていくのが困った。
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