王都祭の企画屋さん、事故るたびに恋が進む!?

星乃和花

文字の大きさ
11 / 14

10話:多発事故解決“最高コンビ“に拍手

しおりを挟む
王都の夜は、星になっていた。

いや、ついさっきまで、巨大化した“星灯ランタン網”が暴走しかけて、レオンとミアが全力で止めた。止めたはずだ。止めたのに。

王都は、止めたところで終わらない。

祭りは、止まらない。

そして“事故”は、よく連鎖する。

 *ーーー*

中央広場。

ランタンの光量は落とした。導線も作った。衛兵も配置した。人の流れも整った。ここまでは、完璧。

レオンは地図を広げ、息を整えた。

「……よし。全域の状況を確認する」
ミアが頷く。

「はい。星灯の道しるべ自体は、今なら“きれい”です。事故ってないきれい!」
「事故ってない、を強調するな」

オーナーが後ろで腕を組み、なぜか誇らしげに言う。

「見たか! 王都全域イベントは――」
「黙れ」
「――黙る!」

その瞬間。

地図の端に、走ってくる衛兵が見えた。

「監査官! 第一報! 南通り、ランタンが“鳴く”!」
「鳴く?」
「鳴くっていうか……“ぴよぴよ”って……」
ミアが目を見開く。
「かわいい……!」
「かわいがるな」

続けて別の衛兵。

「第二報! 水路沿い、ランタンが反射して“眩しすぎ”! 船が前見えない!」
「第三報! 商店街、道しるべ矢印が全部“逆”になった! 人が逆走してる!」
「第四報! 北の広場、スタンプ台が暴走して、手に押すはずが“顔”に押されてる!」

報告が、同時に来る。

同時に来ると、事故は“仕事”になる。

レオンは一度、深く息を吸った。

監査官の顔が、指揮官の顔に切り替わる。

「……ミア。聞け」
「はい」
「俺が采配する。お前は“瞬間の解”を出せ」
「はい!」

返事が迷いなくて、レオンはほんの一瞬だけ安心した。

怖いくらいに頼もしい。

レオンは指を折って指示を出す。

「南通り。鳴くランタンは、子どもが群がる。危険箇所が増える。優先度:中」
「はい」
「水路沿い。船が見えないのは危険。優先度:最優先」
「はい!」
「商店街の矢印逆は、将棋倒しの危険。優先度:高」
「はい」
「顔スタンプは……」
「かわいいけど、嫌です」
「優先度:中だ」

オーナーが横でぼそっと言う。

「全部最優先でよくないか?」
「よくない。優先度がないと人が死ぬ」
オーナーが黙った。珍しい。

レオンは衛兵を三隊に分け、さらに企画屋スタッフにも動員をかける。

「第一隊、水路。反射遮光。導線確保」
「第二隊、商店街。矢印修正。逆走停止。誘導札を置け」
「第三隊、北広場。スタンプ台を止めろ。顔に押すな」

そしてレオンはミアを見る。

「お前は俺と水路へ行く」
ミアが一瞬だけ目を丸くして、すぐ頷いた。

「はい。水路は“今すぐ”ですね」
「ああ」

 *ーーー*

水路沿いは、光で満ちていた。

ランタンの光が水面に反射し、きらきらが暴走している。きれい、だけど危ない。船頭が目を細め、舟が減速している。減速が渋滞になる。

「見えない!」
「前が光!」
「星になったのはいいけど、目が星になる!」

ミアがランタンを見上げ、歯を噛む。

「反射を計算してなかった……」
「今は反省じゃない。止める」

レオンは水路管理課の者を呼び、交通規制をかける。

「舟はここで止めろ。徒歩へ誘導。危険区画を一時封鎖」

その間に、ミアが瞬間のアイデアを出した。

「監査官さん! 遮光布、屋台の“のれん”借ります!」
「借りられるか」
「借ります!」

ミアは走って屋台に飛び込み、のれんを数枚借りてくる(ちゃんと一言断っている)。戻ってくる速さが怖い。

「これを、ランタンの下に“影”として貼れば、反射が散ります!」
「やれ」

ミアはスタッフと一緒に、のれんを風よけのように設置していく。光が柔らかくなる。水面の眩しさが落ちる。

船頭が「あ、見える……」と呟いた。

レオンは即座に声を張る。

「よし、舟の運航再開! 速度制限! ここは“静かに進む道”だ!」

ミアが小さく笑う。

「監査官さん、言葉がかっこいい」
「言葉はどうでもいい。安全だ」

だが、止めたと思った瞬間。

別の報告が飛び込む。

「監査官! 商店街、矢印逆のせいで人が“戻る波”になってます!」
レオンは地図を見た。

波がぶつかると、危険だ。

「ミア、商店街へ! お前の“矢印修正”が要る」
ミアが頷く。

「はい! 瞬間で直します!」

レオンは彼女の背を見送りながら、衛兵に指示を飛ばす。

「水路はここで抑える。俺は指揮を続ける。連絡係を一人、俺につけろ」

彼はもう、“現場の一人”じゃなくなっていた。

指揮官だ。

 *ーーー*

商店街は、確かに“逆走”していた。

道しるべの矢印が、なぜか全部反転している。人が「こっち!」と言って押し合う。押し合いのテンションが高い。祭りの勢いは、危険と相性が悪い。

ミアは走り込み、矢印ランタンを見上げた。

「……これ、オーナーさんが“遊び心”で反転魔法足したな」
言い切りが強い。だが当たってそうだ。

ミアは、解除札を貼る――のではなく、別の札を取り出した。

《矢印変換札:くるり》

そして、矢印ランタンの根元に貼った。

ぺたり。

矢印が、くるり、と回転して正しい方向を向く。

周囲から「おお!」と声が上がる。

だが、全域は広い。矢印は多い。

ミアは一瞬だけ考え、瞬間のアイデアを“叫んだ”。

「みなさん! 矢印が直るまで――“赤い提灯の道”を目印に進んでください!」
誰かが言う。
「赤い提灯?」
ミアが即答する。
「屋台の提灯です! 赤い方が“出口”です! 白い方が“中心”です!」

簡易ルール。分かりやすい。市民がすぐに動く。混乱がほどける。

そこへ、レオンの指示が遠距離で飛んでくる。

《商店街、波を分断しろ。路地を“退避”に使え》

ミアは衛兵に合図し、路地を退避スペースにする。押し合いが消える。

矢印の修正も進む。

人が拍手し始めた。

「企画屋さん、天才!」
「監査官さんの指示、神!」
「二人、最高!」

 *ーーー*

北の広場では“顔スタンプ”が暴走していた。

スタンプ台が勝手に跳ね、近づいた人の頬に「⭐︎」を押していく。かわいい。だが、肌が弱い人には困る。あと普通に嫌。

第三隊の衛兵が追いかけ回すが、スタンプ台は小さくて速い。王都の“ゆるかわ”は機動力が高すぎる。

レオンは伝令を通じて、短い命令を出した。

《スタンプ台、追うな。囲め。布で覆え》

追うと増えるかもしれない。追わない。囲む。

衛兵が布を広げ、スタンプ台の進路を塞ぐ。

そこに、ミアが商店街から飛んでくる。

「顔スタンプは、“手首にしか反応しない札”を貼れば止まります!」
「やれ!」

ミアが札を投げるように貼る。ぺたり。

スタンプ台はふにゃ、と力を失って転がった。

周囲から、拍手と笑いが起きる。

「助かったー!」
「ほっぺの星、まあこれはこれで……」
「でも手首がよかった!」

 *ーーー*

そして最後。

南通りの“鳴くランタン”――ぴよぴよ問題。

これは、危険というより“可愛い渋滞”だった。

鳴き声に子どもが集まり、親が写真を撮り、道が詰まる。そこへ屋台が寄ってくる。屋台が増えそうで怖い。

レオンは、現場に直接行かずとも、采配で収束させた。

「鳴くランタンは、時間制にしろ。十五分鳴いて十五分休め。休みの間は“静かな光”に切り替え」
「了解!」

ミアが追加の瞬間アイデア。

「あと、“鳴き声はランタンの中”にしまいましょう! 透明の瓶に入れて、持ち帰れる“ぴよぴよ土産”にします!」
衛兵が目を丸くする。
「鳴き声を瓶に?」
ミアが即答。
「できます! 音って、保存できます!」

できるのが怖い。

だが、効いた。

子どもたちは“鳴き声瓶”に群がり、道が空く。親も納得する。南通りが呼吸を取り戻す。

 *ーーー*

一時間後。

中央広場に、レオンとミアが戻ってくると――

そこには、拍手が待っていた。

誰かが最初に手を叩き、その拍手が波になった。

ぱちぱちぱち。

王都の人々が、二人に向かって手を叩く。

「企画屋さんと監査官さん、最高コンビ!」
「事故っても、守ってくれる!」
「祭りが安心になった!」
「ありがとう!」

ミアが、きょとんとしてから、照れたように笑った。

レオンは、息を整えながら、ほんの少しだけ顎を引いた。

監査官として、礼は最小限。

だが、胸の奥が少し熱いのは、否定できない。

ミアが小さく言った。

「……指揮官さん」
「監査官だ」
「でも今日、指揮官でした」
「……否定はしない」

それを聞いたミアが、ふっと笑った。

そして、拍手の中で、オーナーがぼそっと言う。

「ほらな。最高コンビだ。夫婦みたいだ」
「違う」
「違います」

声が揃ってしまった。

拍手が、さらに大きくなった。

最悪だ。

でも――

王都が“終わらなかった”ことが、今日はちゃんと嬉しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

【完結・コミカライズ進行中】もらい事故で婚約破棄されました

櫻野くるみ
恋愛
夜会で突如始まった婚約破棄宣言。 集まっていた人々が戸惑う中、伯爵令嬢のシャルロットは——現場にいなかった。 婚約破棄されているのが数少ない友人のエレナだと知らされ、会場へ急いで戻るシャルロット。 しかし、彼女がホールへ足を踏み入れると、そこで待っていたのは盛大な『もらい事故』だった……。 前世の記憶を持っている為、それまで大人しく生きてきた令嬢が、もらい事故で婚約破棄されたことですべてが馬鹿馬鹿しくなり、隠居覚悟でやり返したら幸せを掴んだお話です。 全5話で完結しました。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...