今日の分を、あなたに

星乃和花

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第五話 「足りない」

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“足りない”と言った瞬間、僕は後悔した。

欲を言うのは、危険だ。
減点される。重いと思われる。
困らせる。

頭の中の古いルールが、騒ぐ。

でも、彼女は困った顔をしなかった。
笑って、頷いて、増やす?と言った。

増やす。

その言葉は、僕の中の針を一瞬だけ溶かした。
条件じゃない。点数じゃない。
ただ、欲を欲として扱ってくれる。

怖い。
でも……嬉しい。

「来てほしい」と言ったのは、もっと危険だった。

言い訳がない。
効率も、共同作業も、制度もない。
ただの欲。

でも言ってしまった。
言ってしまったから、もう戻れない。

彼女が「行くよ」と答えた。
“今日の分、持って”と。

僕は小さく頷いた。

受け取る練習。
受け取っても、僕の価値は下がらない。
その世界の感触を、少しだけ覚えた気がする。

そして、気づく。

僕はもう、彼女の“今日の分”を、回数で管理したくない。
制度にしたくない。
点数にしたくない。

ただ――

明日も、欲しい。

その欲が生まれたことが、怖いのに、
同じくらい、救いだった。
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