13 / 17
後日談④「軍医が来た(恋煩い診断)」
しおりを挟む
王城の軍医は、優秀で、冷静で、そして――やたらと仕事熱心だった。
戦争が終わってもなお、彼の頭の中の戦場は終わらない。
だからこそ。
軍医は“見逃せない”ものを見つけてしまった。
――参謀レオンの耳が赤い。
しかも条件付き。
勇者ミナと会話した時だけ。
……これは病だ。
軍医はそう判断した。
なお、その判断には“趣味”も少し混ざっていた。
(よくある。恋煩い)
(参謀の恋煩いは非常に貴重な症例だ)
軍医は白衣の裾を翻し、廊下を歩いた。
目的地は、参謀室。
そして彼は、扉の前で一度だけ深呼吸をした。
(参謀は強敵)
(しかし医療の前では平等だ)
軍医はノックした。
コンコン。
「参謀レオン。軍医だ」
扉が開いた。
現れた参謀は、いつも通り冷たい表情だった。
「……何の用だ」
「診察だ」
「必要ない」
即答。
軍医は穏やかに微笑んだ。
「必要だ」
「必要ない」
「必要だ」
「……お前は私の言葉を聞かないのか」
「医師は患者の否定を前提にする」
参謀の目が細くなる。
「……入るな」
「入る」
軍医は入った。
参謀が“入れるな”と言った瞬間に入るのは、軍医の嗜みだった。
室内には書類の山。地図。兵站表。
そして机の端に――湯気の立つカップ。
軍医は、それを見た瞬間に確信した。
(ほら、勇者の差し入れだ)
(発症している)
軍医は淡々と言った。
「参謀、耳を見せろ」
「見せない」
「では腕を」
「見せない」
「では脈を」
「見せない」
「参謀、あなたは医師の言葉に従う義務がある」
「ない」
「ある」
「ない」
軍医はにこやかに言った。
「ある。なぜなら――王命だから」
参謀の動きが止まった。
「……陛下が?」
「“参謀の体調は国益”だそうだ」
レオンの眉が一瞬だけ動く。
(王……)
軍医はポーチを開け、道具を取り出した。
聴診器。
懐中時計。
そして――紙。
「診察記録を書く」
参謀が低く言う。
「書くな」
「書く」
「……誰にも見せるな」
「それは内容による」
参謀の目が鋭くなる。
「内容とは何だ」
軍医は平然と答えた。
「参謀が“恋煩い”なら報告する」
参謀が凍った。
「……は?」
「恋煩いは放置すると悪化する」
軍医は真顔で頷く。
「症状:耳の発赤、反応遅延、抱擁衝動、過剰見回り」
参謀がゆっくり言う。
「……最後の二つは症状ではない」
「症状だ」
「違う」
「症状だ」
軍医は聴診器を構えた。
「では診察する。座れ」
「座らない」
「座れ」
「座らない」
「参謀」
軍医の声が急に低くなる。
「あなた、勇者の前では座るだろう」
参謀の視線が刺さる。
「……何故それを」
「兵士たちから報告が上がった」
参謀の表情がほんのわずかに崩れた。
「報告?」
「『参謀の耳が赤い』と」
参謀の喉が鳴る。
「……誰だ」
「全員だ」
「……全員……」
参謀が死んだ目になる。
軍医は優しく言った。
「安心しろ。城内はあなたを温かく見守っている」
「見守るな」
「見守る」
「見守るな」
軍医はさらに追撃する。
「なお“参謀の理性が迷子”という愛称も――」
「やめろ」
「受け入れろ」
「受け入れない」
軍医は笑った。
「では診察だ。耳を出せ」
参謀は硬い顔で、ほんの少しだけ耳を見せた。
軍医は覗き込む。
「……ふむ。平常時は正常」
「当然だ」
「だが発症条件がある」
参謀が言う。
「発症していない」
軍医は穏やかに言った。
「では勇者を呼ぶ」
参謀が即座に反応した。
「呼ぶな」
(今反応した。症状だ)
軍医はにこやかに答える。
「呼ぶ」
参謀が立ち上がった。
「……軍医。今すぐ帰れ」
軍医は動じない。
「患者が拒否しても医師は引かない」
参謀は低く言った。
「私は患者ではない」
「患者だ」
「患者ではない」
「患者だ」
軍医は執務室の扉に向かって声を上げた。
「勇者ミナさまー!少しよろしいですかー!」
参謀が、静かに終わった。
「……お前……」
参謀の声は震えていない。
震えていないが、殺気はあった。
その時。
廊下からふわっと足音が近づく。
「はぁい」
扉が開く。
勇者ミナが入ってきた。
いつも通りの、ふにゃっとした笑顔。
「どうしたのぉ?」
軍医が深々と礼をする。
「勇者さま。参謀の診察にご協力を」
ミナがぱちぱちする。
「参謀さん、具合わるいの?」
参謀が即答する。
「悪くない」
軍医が即答で打ち消す。
「悪い」
参謀が睨む。
「悪くない」
軍医がにこやかに続ける。
「“恋煩い”です」
参謀が息を止めた。
ミナが、きょとんとする。
「こい…わずらい?」
軍医が頷く。
「恋の病です」
参謀が低く言う。
「違う」
軍医は落ち着いて言う。
「違わない」
ミナはゆっくり考えた。
「恋の病って……好きってこと?」
参謀が固まった。
軍医が穏やかに頷く。
「そうです」
ミナの目が丸くなる。
「へぇ……」
参謀の魂が抜けかける。
軍医は真顔で質問する。
「勇者さま。参謀はあなたと話すと、耳が赤くなりますか」
ミナが、じーっと参謀を見る。
レオンは無表情で、全力で耐える。
ミナはふわっと言った。
「うん。赤いよぉ」
参謀が死んだ。
軍医が追撃する。
「あなたに褒められると?」
ミナはにこにこする。
「赤いよぉ」
参謀が二回死んだ。
軍医が続ける。
「抱きしめたがりますか」
ミナが首を傾げる。
「抱きしめたがるっていうか……抱きしめる」
参謀が三回死んだ。
軍医が頷く。
「典型的です」
参謀が呻く。
「……典型ではない」
軍医が穏やかに言う。
「典型です」
ミナがふわっと笑った。
「参謀さん、典型なんだぁ」
参謀の耳が赤くなった。
軍医が満足そうに言った。
「ほら、今赤い」
参謀「……」
軍医は診断書の紙にさらさら書く。
「診断:恋煩い(重症)」
参謀が声を絞り出す。
「重症ではない」
軍医が即答する。
「重症です」
ミナが心配そうに言った。
「重症なの?だいじょうぶ?」
参謀の心が崩れる。
軍医が真面目に続ける。
「治療方針は二つ」
参謀が警戒する。
「……何だ」
軍医が言う。
「一つ。勇者さまとの接触を避ける」
参謀が即答する。
「却下」
軍医が頷く。
「予想通り」
参謀が睨む。
軍医が二つ目を言う。
「二つ。勇者さまへの告白」
参謀が息を止めた。
ミナがぱちぱちする。
「こくはく?」
軍医がにこやかに言う。
「好きです、と言うことです」
参謀が言った。
「言わない」
軍医が穏やかに言う。
「言う」
「言わない」
「言う」
「言わない」
ミナがゆっくり挟む。
「言えばいいよぉ」
参謀が固まった。
「……何?」
ミナは真顔で言う。
「好きです、って言えば、治るんだよねぇ?」
軍医が頷く。
「治ります。もしくは安定します」
ミナはふわっと笑う。
「じゃあ、言って」
参謀が完全に停止する。
軍医が笑う。
「勇者さま、容赦がない」
ミナは無邪気だ。
「参謀さん、えらいねぇ」
参謀の耳が真っ赤になる。
軍医が診断書を掲げた。
「ほら、悪化した」
参謀が小さく呻く。
「……これは、」
ミナが首を傾げる。
「赤いの、かわいい」
参謀が息を止めた。
軍医が満足げに頷く。
「重症です」
参謀は、ぎりぎりの理性で言った。
「……軍医」
「はい」
「……出ていけ」
軍医はにこやかに礼をする。
「診断は完了しました。あとはお二人で治療を」
参謀が低く言う。
「治療という言葉を使うな」
「治療です」
軍医は扉へ向かいながら、最後に振り向いた。
「参謀。私は医師として忠告します」
「……何だ」
「勇者さまを泣かせたら、症状は末期です」
参謀は短く答えた。
「泣かせない」
軍医は満足そうに頷き、去っていった。
――扉が閉まる。
静寂。
参謀室に残ったのは、参謀と勇者。
そして、診断書の紙だけ。
ミナがそれを覗き込む。
「こい…わずらい(重症)」
参謀が、死にそうな声で言う。
「読まなくていい」
「読むよぉ」
ミナはゆっくり言った。
「レオンさん、好きなんだぁ」
参謀の心臓が跳ねる。
「……違う」
ミナは首を傾げる。
「違うの?」
参謀は言葉に詰まった。
違わない。
違わないが、言えない。
ミナはふわっと笑う。
「じゃあさ」
参謀が身構える。
「好きです、って言って」
参謀が固まった。
「……ミナ」
呼び方が名前になった瞬間、
ミナの目が丸くなる。
「今、ミナって言った」
参謀の耳がまた赤い。
ミナは嬉しそうに笑って、
参謀の袖をちょこんと掴む。
「言って」
参謀は、観念した。
戦場より難しい。
和平交渉より難しい。
それでも――
「……好きだ」
声が小さい。
ミナがぱちぱちする。
「もう一回」
参謀が死ぬ。
「……好きだ」
ミナの頬がぽわっと赤くなる。
「えへへ」
その笑い方が、参謀にとっての終わりだった。
ミナはとても嬉しそうに言った。
「じゃあ治療ねぇ」
参謀が呻く。
「治療と言うな」
ミナがふわっと笑って、抱きしめた。
参謀が一瞬固まって――
ゆっくり、抱きしめ返す。
「……これが、治療か」
「うん」
ミナは優しく言った。
「だいじょうぶだよ」
参謀の胸の奥が、静かに崩れた。
(……駄目だ)
(治ってしまう)
(そして、もっと悪化する)
参謀は小さく言った。
「……軍医は二度と呼ぶな」
ミナがにこにこする。
「呼ばないよぉ」
そして、最後の一撃。
「レオンさん、耳赤いの、ほんとにかわいい」
参謀は静かに死んだ。
戦争が終わってもなお、彼の頭の中の戦場は終わらない。
だからこそ。
軍医は“見逃せない”ものを見つけてしまった。
――参謀レオンの耳が赤い。
しかも条件付き。
勇者ミナと会話した時だけ。
……これは病だ。
軍医はそう判断した。
なお、その判断には“趣味”も少し混ざっていた。
(よくある。恋煩い)
(参謀の恋煩いは非常に貴重な症例だ)
軍医は白衣の裾を翻し、廊下を歩いた。
目的地は、参謀室。
そして彼は、扉の前で一度だけ深呼吸をした。
(参謀は強敵)
(しかし医療の前では平等だ)
軍医はノックした。
コンコン。
「参謀レオン。軍医だ」
扉が開いた。
現れた参謀は、いつも通り冷たい表情だった。
「……何の用だ」
「診察だ」
「必要ない」
即答。
軍医は穏やかに微笑んだ。
「必要だ」
「必要ない」
「必要だ」
「……お前は私の言葉を聞かないのか」
「医師は患者の否定を前提にする」
参謀の目が細くなる。
「……入るな」
「入る」
軍医は入った。
参謀が“入れるな”と言った瞬間に入るのは、軍医の嗜みだった。
室内には書類の山。地図。兵站表。
そして机の端に――湯気の立つカップ。
軍医は、それを見た瞬間に確信した。
(ほら、勇者の差し入れだ)
(発症している)
軍医は淡々と言った。
「参謀、耳を見せろ」
「見せない」
「では腕を」
「見せない」
「では脈を」
「見せない」
「参謀、あなたは医師の言葉に従う義務がある」
「ない」
「ある」
「ない」
軍医はにこやかに言った。
「ある。なぜなら――王命だから」
参謀の動きが止まった。
「……陛下が?」
「“参謀の体調は国益”だそうだ」
レオンの眉が一瞬だけ動く。
(王……)
軍医はポーチを開け、道具を取り出した。
聴診器。
懐中時計。
そして――紙。
「診察記録を書く」
参謀が低く言う。
「書くな」
「書く」
「……誰にも見せるな」
「それは内容による」
参謀の目が鋭くなる。
「内容とは何だ」
軍医は平然と答えた。
「参謀が“恋煩い”なら報告する」
参謀が凍った。
「……は?」
「恋煩いは放置すると悪化する」
軍医は真顔で頷く。
「症状:耳の発赤、反応遅延、抱擁衝動、過剰見回り」
参謀がゆっくり言う。
「……最後の二つは症状ではない」
「症状だ」
「違う」
「症状だ」
軍医は聴診器を構えた。
「では診察する。座れ」
「座らない」
「座れ」
「座らない」
「参謀」
軍医の声が急に低くなる。
「あなた、勇者の前では座るだろう」
参謀の視線が刺さる。
「……何故それを」
「兵士たちから報告が上がった」
参謀の表情がほんのわずかに崩れた。
「報告?」
「『参謀の耳が赤い』と」
参謀の喉が鳴る。
「……誰だ」
「全員だ」
「……全員……」
参謀が死んだ目になる。
軍医は優しく言った。
「安心しろ。城内はあなたを温かく見守っている」
「見守るな」
「見守る」
「見守るな」
軍医はさらに追撃する。
「なお“参謀の理性が迷子”という愛称も――」
「やめろ」
「受け入れろ」
「受け入れない」
軍医は笑った。
「では診察だ。耳を出せ」
参謀は硬い顔で、ほんの少しだけ耳を見せた。
軍医は覗き込む。
「……ふむ。平常時は正常」
「当然だ」
「だが発症条件がある」
参謀が言う。
「発症していない」
軍医は穏やかに言った。
「では勇者を呼ぶ」
参謀が即座に反応した。
「呼ぶな」
(今反応した。症状だ)
軍医はにこやかに答える。
「呼ぶ」
参謀が立ち上がった。
「……軍医。今すぐ帰れ」
軍医は動じない。
「患者が拒否しても医師は引かない」
参謀は低く言った。
「私は患者ではない」
「患者だ」
「患者ではない」
「患者だ」
軍医は執務室の扉に向かって声を上げた。
「勇者ミナさまー!少しよろしいですかー!」
参謀が、静かに終わった。
「……お前……」
参謀の声は震えていない。
震えていないが、殺気はあった。
その時。
廊下からふわっと足音が近づく。
「はぁい」
扉が開く。
勇者ミナが入ってきた。
いつも通りの、ふにゃっとした笑顔。
「どうしたのぉ?」
軍医が深々と礼をする。
「勇者さま。参謀の診察にご協力を」
ミナがぱちぱちする。
「参謀さん、具合わるいの?」
参謀が即答する。
「悪くない」
軍医が即答で打ち消す。
「悪い」
参謀が睨む。
「悪くない」
軍医がにこやかに続ける。
「“恋煩い”です」
参謀が息を止めた。
ミナが、きょとんとする。
「こい…わずらい?」
軍医が頷く。
「恋の病です」
参謀が低く言う。
「違う」
軍医は落ち着いて言う。
「違わない」
ミナはゆっくり考えた。
「恋の病って……好きってこと?」
参謀が固まった。
軍医が穏やかに頷く。
「そうです」
ミナの目が丸くなる。
「へぇ……」
参謀の魂が抜けかける。
軍医は真顔で質問する。
「勇者さま。参謀はあなたと話すと、耳が赤くなりますか」
ミナが、じーっと参謀を見る。
レオンは無表情で、全力で耐える。
ミナはふわっと言った。
「うん。赤いよぉ」
参謀が死んだ。
軍医が追撃する。
「あなたに褒められると?」
ミナはにこにこする。
「赤いよぉ」
参謀が二回死んだ。
軍医が続ける。
「抱きしめたがりますか」
ミナが首を傾げる。
「抱きしめたがるっていうか……抱きしめる」
参謀が三回死んだ。
軍医が頷く。
「典型的です」
参謀が呻く。
「……典型ではない」
軍医が穏やかに言う。
「典型です」
ミナがふわっと笑った。
「参謀さん、典型なんだぁ」
参謀の耳が赤くなった。
軍医が満足そうに言った。
「ほら、今赤い」
参謀「……」
軍医は診断書の紙にさらさら書く。
「診断:恋煩い(重症)」
参謀が声を絞り出す。
「重症ではない」
軍医が即答する。
「重症です」
ミナが心配そうに言った。
「重症なの?だいじょうぶ?」
参謀の心が崩れる。
軍医が真面目に続ける。
「治療方針は二つ」
参謀が警戒する。
「……何だ」
軍医が言う。
「一つ。勇者さまとの接触を避ける」
参謀が即答する。
「却下」
軍医が頷く。
「予想通り」
参謀が睨む。
軍医が二つ目を言う。
「二つ。勇者さまへの告白」
参謀が息を止めた。
ミナがぱちぱちする。
「こくはく?」
軍医がにこやかに言う。
「好きです、と言うことです」
参謀が言った。
「言わない」
軍医が穏やかに言う。
「言う」
「言わない」
「言う」
「言わない」
ミナがゆっくり挟む。
「言えばいいよぉ」
参謀が固まった。
「……何?」
ミナは真顔で言う。
「好きです、って言えば、治るんだよねぇ?」
軍医が頷く。
「治ります。もしくは安定します」
ミナはふわっと笑う。
「じゃあ、言って」
参謀が完全に停止する。
軍医が笑う。
「勇者さま、容赦がない」
ミナは無邪気だ。
「参謀さん、えらいねぇ」
参謀の耳が真っ赤になる。
軍医が診断書を掲げた。
「ほら、悪化した」
参謀が小さく呻く。
「……これは、」
ミナが首を傾げる。
「赤いの、かわいい」
参謀が息を止めた。
軍医が満足げに頷く。
「重症です」
参謀は、ぎりぎりの理性で言った。
「……軍医」
「はい」
「……出ていけ」
軍医はにこやかに礼をする。
「診断は完了しました。あとはお二人で治療を」
参謀が低く言う。
「治療という言葉を使うな」
「治療です」
軍医は扉へ向かいながら、最後に振り向いた。
「参謀。私は医師として忠告します」
「……何だ」
「勇者さまを泣かせたら、症状は末期です」
参謀は短く答えた。
「泣かせない」
軍医は満足そうに頷き、去っていった。
――扉が閉まる。
静寂。
参謀室に残ったのは、参謀と勇者。
そして、診断書の紙だけ。
ミナがそれを覗き込む。
「こい…わずらい(重症)」
参謀が、死にそうな声で言う。
「読まなくていい」
「読むよぉ」
ミナはゆっくり言った。
「レオンさん、好きなんだぁ」
参謀の心臓が跳ねる。
「……違う」
ミナは首を傾げる。
「違うの?」
参謀は言葉に詰まった。
違わない。
違わないが、言えない。
ミナはふわっと笑う。
「じゃあさ」
参謀が身構える。
「好きです、って言って」
参謀が固まった。
「……ミナ」
呼び方が名前になった瞬間、
ミナの目が丸くなる。
「今、ミナって言った」
参謀の耳がまた赤い。
ミナは嬉しそうに笑って、
参謀の袖をちょこんと掴む。
「言って」
参謀は、観念した。
戦場より難しい。
和平交渉より難しい。
それでも――
「……好きだ」
声が小さい。
ミナがぱちぱちする。
「もう一回」
参謀が死ぬ。
「……好きだ」
ミナの頬がぽわっと赤くなる。
「えへへ」
その笑い方が、参謀にとっての終わりだった。
ミナはとても嬉しそうに言った。
「じゃあ治療ねぇ」
参謀が呻く。
「治療と言うな」
ミナがふわっと笑って、抱きしめた。
参謀が一瞬固まって――
ゆっくり、抱きしめ返す。
「……これが、治療か」
「うん」
ミナは優しく言った。
「だいじょうぶだよ」
参謀の胸の奥が、静かに崩れた。
(……駄目だ)
(治ってしまう)
(そして、もっと悪化する)
参謀は小さく言った。
「……軍医は二度と呼ぶな」
ミナがにこにこする。
「呼ばないよぉ」
そして、最後の一撃。
「レオンさん、耳赤いの、ほんとにかわいい」
参謀は静かに死んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
辺境令嬢ですが契約結婚なのに、うっかり溺愛されちゃいました
星井ゆの花
恋愛
「契約結婚しませんか、僕と?」
「はいっ喜んで!」
天然ピンク髪の辺境令嬢マリッサ・アンジュールは、前世の記憶を持つ異世界転生者。ある日マリッサ同様、前世の記憶持ちのイケメン公爵ジュリアス・クラインから契約結婚を持ちかけられちゃいます。
契約に応じてお金をもらえる気楽な結婚と思いきや、公爵様はマリッサに本気で惚れているようで……気がついたら目一杯溺愛されてるんですけどぉ〜!
* この作品は小説家になろうさんにも投稿しています。
* 1話あたりの文字数は、1000文字から1800文字に調整済みです。
* 2020年4月30日、全13話で作品完結です。ありがとうございました!
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる