天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花

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第6話「偽物天然、うっかり嫉妬する」

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その日の依頼は、街の外れの遺跡調査だった。

「討伐じゃなくて調査です」
受付の人が淡々と言う。「でも魔獣が出る可能性はあります。護衛も兼ねて」

報酬はそこそこ。
危険度は中。
そして何より――

「回復役がいると安心です」
そう言われた瞬間、リィナは少しだけ背筋が伸びた。

(私、いると安心なんだ)

あの“救い”が、ちゃんとまだ胸に残っている。

集合場所で、ガラムが腕を組んで待っていた。

「遅い」
「す、すみません!」
「冗談だ。今日の依頼、人数増える」

ミラも来ている。
そして――見知らぬ男が一人。

銀髪、長身、軽装。
剣士というより、斥候(スカウト)っぽい身のこなし。

ミラが紹介した。

「臨時の案内役。遺跡に詳しい。名前は――レオン」
「よろしく」
レオンは爽やかに笑った。

その笑顔が、妙に“慣れている”笑顔だった。

(この人……人気者だ……)

リィナがそう思った瞬間、隣でカイがふわっと言った。

「……へぇ」

声はふわふわなのに、温度だけが低い。

(え?)

リィナが見上げると、カイはいつもの笑顔だ。

(気のせいかな……)



遺跡までは森を抜ける。

草と木の匂い。
鳥の声。
足元の落ち葉。

リィナは気持ちに寄り添ってもらったあの日から、
少しだけ歩くのが楽になっていた。

(遅いままでも、いい)

そう思えるだけで、足が軽い。

……軽いのに。

今日はカイの歩幅が、ほんの少しだけ速い気がした。

(……あれ?)

リィナが置いていかれそうになって、一歩急ぐ。

すると前から、レオンが振り返った。

「大丈夫?」
「えっ、はい……!」
「足元、滑るよ。ここ湿ってる」

レオンは自然に手を差し出した。
リィナが転びそうになった瞬間を、支えようとしてくれた――

その瞬間。

すっと横から腕が伸びて、リィナの手首を掴んだ。

カイだった。

「……大丈夫。僕がいるから」

言い方が、妙に静かで、妙に重い。

レオンが目を細める。

「へぇ。過保護だね」

カイは笑う。

「うん、過保護」

認めた。

リィナは慌てて言う。

「だ、だいじょうぶだよ!私、転ばないように頑張る!」
カイ「頑張らなくていい」
リィナ「頑張るよ!」
カイ「じゃあ僕も頑張る」
リィナ「何を?」
カイ「転ばせないのを」

レオンが吹き出した。

「なにそれ。可愛い会話」
リィナ「えっ」
カイ「可愛いって言うのは僕の役目」

レオン「……へぇ?」

空気が一瞬、固まる。

ミラが遠くで肩を震わせている。
ガラムは知らん顔で前を歩いているが、口元が少し上がっている。

リィナだけが真顔で思った。

(みんな、仲良しだなぁ……)

鈍感は今日も元気だ。



遺跡は、森の奥にあった。

崩れた石柱。
苔。
冷たい空気。

入口でレオンが言った。

「足元危ない。特に回復役は落ちると終わる」
リィナ「ひぇ……」
カイ「落ちない」
リィナ「落ちる前提で言った!?」
カイ「想定は大事」
ミラ「軍師みたい」
カイ「僕、天然だよ」
ミラ「嘘だね」
ガラム「嘘だな」

即バレている。

リィナはこっそり笑ってしまった。

(カイくん、今日もいじられてる……)



遺跡の中は暗かった。

リィナが鈴を鳴らすと、淡い光が灯る。
それだけで、空気が少しだけ温かくなる。

「いい光だね」
レオンが言った。「安心する」
リィナ「ありがとう……」

その瞬間。

カイがリィナの肩に自分のマントをふわっとかけた。

「寒いでしょ」
リィナ「えっ、寒くないよ!」
カイ「寒い」
リィナ「寒くない」
カイ「寒い」
リィナ「……寒いかも」

負けた。

マントはあったかくて、少しだけカイの匂いがした。
本の匂いみたいな、落ち着く匂い。

リィナの顔が赤くなる。

(これ、仲間の距離……?)

レオンが笑う。

「すごいね。回復役に全振りだ」
カイ「当然」
レオン「恋人?」
カイ「……仲間」
リィナ「仲間です!」(即答)

レオンが目を丸くする。

「仲間でそこまで?」
リィナ「仲間って、あったかいよ!」
レオン「……なるほど」

レオンが意味深に笑った。

「君、面白いね」

その“面白いね”が、なんだか優しかった。

リィナは少しだけ肩の力が抜ける。

(この人、悪い人じゃないかも)

――その瞬間。

カイが小さく言った。

「……悪い人じゃないって思った?」
リィナ「えっ!?」
「顔に書いてある」
「か、書いてないよ!」
「書いてある」

カイの“見てる力”は、相変わらず怖い。

でも今日は、その怖さに別のものが混ざっている。

(なんか……鋭い……)



遺跡の奥。

床が抜けかけている場所で、ガラムが足を止めた。

「気をつけろ。ここ、落ちる」
リィナ「ひぇ……」
ミラ「回復役、後ろ」

リィナが慎重に歩こうとしたその時、
足元の石がぐらっと動いた。

「わっ……!」

リィナの身体が傾く。

間に合わない。

――でも。

支えたのは、カイじゃなかった。

レオンが、すっと腕を伸ばしてリィナの腰を支えた。

「大丈夫」
「えっ……!」

リィナはぎょっとして、次の瞬間、慌てて離れた。

「ご、ごめんなさい……!」
「謝らなくていい」
レオンは笑う。「回復役が落ちたら困るしね」

その言い方は軽いのに、優しい。

リィナの胸がほっとする。

(助かった……)

――その瞬間。

空気が冷えた。

本当に、温度が下がった気がした。

リィナが恐る恐る横を見ると。

カイが、静かに立っていた。

笑ってない。
目が冷たい。

(え……)

怖い。

でもそれ以上に――
胸が痛い。

カイはレオンを見て、淡々と言った。

「……触らないで」
レオンが眉を上げる。

「え?」
カイ「彼女に」
レオン「君、何様?」
カイ「……仲間」

“仲間”の言い方が、仲間じゃない。

ミラが小声で言った。

「出た、圧」
ガラム「出たな」

リィナは固まる。

(え、どうしよう……)

レオンが肩をすくめる。

「助けただけだよ。危なかったから」
カイは微笑んだ。

笑顔なのに、目が笑ってない。

「僕が助けるから」
レオン「君、過保護どころじゃないな」
カイ「うん」

認めた。

リィナは耐えきれず言った。

「カ、カイくん……!」
カイがリィナを見る。

一瞬だけ、目が柔らかくなる。

「……怖かった?」
「えっ、う、うん……」
「じゃあ僕の近くにいて」
「……うん」

そのやり取りの間に、レオンが笑った。

「君、嫉妬してる?」
カイ「してない」
レオン「してるよ」
カイ「してない」
レオン「してる」

リィナは脳内大混乱。

(嫉妬……?)
(え、カイくんが?)
(私に?)
(え????)

ミラが手を叩いた。

「はいはい、先進むよ。回復役は真ん中」
ガラム「異論なし」



遺跡の調査は無事に終わった。

戻り道。

森の中で、レオンがガラムとミラに先に行くよう言った。

「俺、ちょっと後ろ確認する」
ミラがニヤニヤしながら言う。

「どうぞどうぞ」

露骨に笑っていた。

ガラムは「くだらん」と言いながらも歩く速度を上げた。

結果――

後ろに残ったのは、リィナとカイとレオン。

最悪の組み合わせ。

(助けて……!)

リィナが内心叫んでいると、レオンがあっさり言った。

「回復役ちゃん、君さ」
「は、はい……」
「無自覚って言われない?」

リィナは首を傾げる。

「む、むじかく……?」
「可愛いのに自覚ないって意味」
「えっ!?」

リィナが真っ赤になる。

カイが即座に言った。

「やめて」
レオン「はいはい。独占ね」
カイ「独占じゃない」
レオン「独占じゃん」
カイ「……仲間」

また“仲間”を盾にする。

でも盾の形が、もう歪んでいる。

レオンは面白そうに笑った。

「ねえ、カイ」
「なに」
「君、天然のふりしてるでしょ」
リィナ「えっ!?」

リィナが素で驚いた。

(え、天然のふり!?)
(え?え?え?)

カイが止まる。

風が葉を揺らす。
空気が静かになる。

レオンが続けた。

「君の目、さっき“本物”だった」
カイは少しだけ口元を上げる。

「……何の話?」
「嫉妬の話」

リィナの心臓が落ちそうになる。

(嫉妬……)

レオンがリィナを見る。

「この子、気づいてないの?」
カイ「気づかなくていい」
リィナ「えっ?」

リィナの声が震える。

「なにを……?」
カイはリィナを見て、ふわっと笑った。

でもその笑顔は、もう“ふわふわ”じゃなかった。

ちゃんと――強い。

「リィナは、リィナのままでいい」
「……うん」
「俺が変になるのは、俺の問題」

レオンが吹き出した。

「何それ、恋じゃん」

カイが即答した。

「恋じゃない」
レオン「恋だよ」
カイ「恋じゃない」
レオン「じゃあ何?」
カイ「……独占欲」

爆弾発言。

リィナは思考停止した。

(どくせんよく……!?)
(え、私が……!?)
(仲間で……!?)

レオンは満足そうに笑う。

「ほら。恋じゃん」
カイ「……知らない」

知らない、って言った。

軍師のくせに。

それがもう、答えだった。

リィナの鈴が、リン、と鳴った。

緊張の音じゃない。
嬉しいの音でもない。

――怖い音。

心が追いつかない音。

リィナは震える声で言った。

「……カイくん」
カイがすぐに柔らかく言う。

「ごめん。怖がらせた」
「……ううん」
「嫌だった?」
「……分かんない」

分かんない。
本当に分かんない。

でも一つだけ分かる。

(私は今、カイくんのことが……)

そこまで考えて、リィナはやめた。

怖いから。
でも逃げたいわけじゃない。

カイがぽん、とリィナの頭を撫でた。

「考えなくていい」
「……うん」
「遅くていい」
「……うん」

優しい声。

でもその優しさの裏に、
もう隠しきれない“本音”がある。



ギルドが見えた頃。
レオンがふっと笑って言った。

「じゃ、俺はここまで」
「え?」
「面白いもの見たから満足」

そう言って、レオンは森の方へ消えた。

リィナはぽかんとする。

「……行っちゃった」
カイが小さく言った。

「……二度と近づけない」
「えっ?」
「冗談」
「冗談に聞こえない!」

リィナがツッコむと、カイは少しだけ笑った。

その笑い方が――
やっと“いつものふわふわ”に戻っていて。

リィナは、ほっとしてしまった。

ほっとして――

でも胸が、ずっと熱い。



=======
次回、

第7話「策士バレ(最悪のタイミング)」

敵との交渉でカイの“冷たい軍師の顔”が露わになり、リィナが揺れます。
甘さも苦しさも増えて、クライマックス直前です。
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