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第7話「策士バレ(最悪のタイミング)」
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その依頼は、受付の声がいつもより低かった。
「……これ、ちょっと面倒です」
「面倒?」
ミラが眉を上げる。
受付係は依頼票を指で叩いた。
「街道近くの廃村で、交渉案件です」
「交渉?」
ガラムが鼻を鳴らす。「俺は殴った方が早い」
受付係は苦笑して続けた。
「相手が相手なので。殴るともっと面倒になります」
「……何がいるんだ」
「知性を持った魔族の小隊。人を襲ってはいないけど、物資を“徴収”してます」
「徴収って言い方」
ミラが言う。「略奪じゃない?」
「そうとも言えます。でも彼らは“契約”と言い張る」
受付係は小さく息を吐く。「話が通じる相手です。……ただし、油断すると持っていかれます」
リィナは鈴を握った。
(魔族…)
怖い。
でも“交渉”なら、戦闘より傷は少ない。
……そう思った自分が、甘かった。
カイが依頼票を受け取りながら、のんびり言った。
「大丈夫。僕が話す」
ガラム「任せた」
ミラ「お願い」
リィナも頷こうとした。
「うん、カイく――」
言いかけた時。
カイの横顔が、少しだけ変わった。
ふわふわが、薄い。
目が静かで、冷たい。
(……あれ?)
リィナの胸が、嫌な音を立てる。
リン、と鈴が鳴る。
緊張の音だ。
・
廃村は、風がやけに冷たかった。
壊れた屋根。
崩れた柵。
草だけが伸びている。
そこに――いた。
黒い外套の魔族が五人。
角は小さく、目は金色。
人の形をしているのに、空気が違う。
リィナは思わず一歩下がった。
(怖い…)
でも、その瞬間カイがさりげなく前に出た。
リィナを背中で隠すみたいに。
(……守ってくれてる)
その安心が胸に落ちる。
魔族の隊長らしい男が、ゆっくり笑った。
「人間のギルドか。交渉に来たのか?」
カイが答える。
「そう。あなたたちは物資を取ってる。やめてほしい」
「取っている?違うな。“借りている”」
「借りるには、返す前提がいる」
「返すとも。いつか」
魔族たちは笑った。
その笑い方が、ぞくっとする。
ガラムが低く言う。
「やっぱ殴るか」
ミラ「殴ったら終わる」
その空気の中で、カイはただ静かだった。
怖がっていない。
でも優しくもない。
リィナの胸が、少しずつ冷える。
(カイくん……?)
隊長が一歩前に出た。
「では契約だ。今後も物資を供給しろ。代わりにこの道は通してやる」
カイは首を傾げる。
「通してやる?この道は人間の道だよ」
「力を持つ者の道だ」
「じゃあ今は、あなたたちの道?」
「そうだ」
隊長が笑う。
「人間は弱い。弱いなら従うべきだ」
その言葉に、リィナの心が熱くなる。
(違う…!)
言い返したい。
でも声が出ない。
怖いからじゃない。
“場を壊したくない”から。
リィナは鈴を握りしめた。
リン。
カイが言った。
「弱いなら従うべき、は違う」
隊長が目を細める。
「では何が正しい?」
カイは淡々と答えた。
「弱いからこそ、協力する」
「協力?」
「人間は群れる。弱さを補うために」
「ふん。ではお前たちは、どうやってこの場を補う?」
隊長の目が鋭くなる。
試されている。
空気が張りつめる。
その時、カイが少しだけ笑った。
そして――
「あなたたちにとって、この徴収は“必要”?」
「当然だ」
「本当に?」
「生きるために」
「嘘だね」
冷たい声だった。
リィナの呼吸が止まる。
(嘘…?)
隊長の笑顔が消える。
「……何を言う」
カイは続ける。
「あなたたちの装備は新しい。部隊も整ってる。物資がなくて困ってる顔じゃない」
「……」
「あなたたちは“欲しい”だけだ」
「欲しいことが悪いか?」
「悪いって言ってない」
カイはさらっと言った。「交渉するって言ってる」
その瞬間。
リィナは、ぞくっとした。
(交渉…)
(これが…カイくんの…本当の顔…?)
隊長が低く笑った。
「面白い。人間のくせに舌が回る」
カイは微笑んだ。
「舌が回るのは得意」
「では条件を出せ」
「いいよ。あなたたちが徴収をやめるなら、この地域の安全の情報を提供する」
「情報?」
「この近くに“嫌がる存在”がいる。あなたたちも避けてるはず」
隊長の目が一瞬揺れた。
(当たった…)
リィナは息を呑む。
(カイくん、今…相手の弱点を…)
隊長が黙る。
周囲の魔族がざわつく。
カイは畳みかける。
「あなたたちの拠点、ここじゃないでしょ。移動してる」
「……」
「この場所に執着してないなら、やめる理由はある」
隊長が歯を見せて笑った。
「人間は恐怖で縛るのが上手いな」
カイは言った。
「恐怖じゃない。事実」
隊長の目が鋭くなる。「脅しだ」
カイは瞬きもしない。
「交渉だよ」
その言葉。
その言い方。
リィナの胸が――痛んだ。
(冷たい)
(怖い)
(私が知ってるカイくんじゃない…)
そう思った瞬間、涙が出そうになった。
(やだ)
(見たくない)
でも、目を逸らせない。
隊長は沈黙した後、ふっと笑った。
「いいだろう。徴収はやめる。だが次に会う時、お前の首を条件にする」
カイは軽く頭を下げた。
「どうぞ。僕は交渉が好きだから」
“好きだから”。
その言葉が、リィナの心に刺さる。
好き?
それが好き?
こんな冷たい会話が?
隊長が部隊に合図を出し、魔族たちは霧みたいに去っていった。
廃村に、風だけが残る。
・
帰り道。
ガラムが言った。
「助かった。殴らずに済んだ」
ミラも頷く。
「カイ、さすが軍師」
「軍師じゃないよ」
カイはふわっと笑う。「天然だよ」
その“ふわふわ”が、急に作り物に見えた。
リィナは足を止めてしまう。
胸が冷たい。
喉が詰まる。
(……カイくん)
(私、知らなかった)
カイが気づいて振り返る。
「リィナ?どうしたの」
リィナは言葉を探した。
「……すごかった」
「うん」
「でも……」
「でも?」
リィナの声が震える。
「……怖かった」
カイの表情が止まる。
ふわふわが、消える。
「……誰が?」
「……カイくんが」
言ってしまった。
言った瞬間、胸が痛い。
カイの目が揺れた。
ほんの少しだけ。
「……ごめん」
「違うの」
リィナは首を振った。
「謝ってほしいんじゃない」
「……じゃあ、何?」
「分かんない」
分かんない。
本当に分かんない。
ただ――
「私、カイくんが優しいの、好きで」
言いながら涙が落ちる。
「……ああいう顔、嫌じゃないのに」
「嫌じゃない?」
「ううん……嫌じゃない。頼れるって思った」
「……」
「でも、心がついていかない」
リィナは両手で鈴を握りしめた。
リン、と震える音。
「私、仲間だって思ってたのに」
カイの喉が、少しだけ動いた。
「……仲間だよ」
「でも、仲間って――」
リィナは息を吸って、続けた。
「仲間って、怖くならないと思ってた」
「……」
「怖くなったの、初めて」
沈黙が落ちる。
ミラとガラムが、遠くで気まずそうに歩く速度を上げた。
気づいて、置いていく。
残されたのは、二人だけ。
風が草を揺らす。
カイはしばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「……リィナ」
「……なに」
「僕は、天然じゃない」
心臓が跳ねた。
(言った)
(ついに)
カイは続ける。
「天然っぽく見せてる。……楽だから」
「楽?」
「警戒されない。敵も味方も扱いやすい」
リィナの胸がぎゅっとなる。
「……私も?」
カイが一瞬、息を止めた。
「……最初は」
その正直さが、痛い。
リィナは泣きながら笑った。
「……やっぱり」
「でも今は違う」
「違うって、何が」
リィナの声が小さくなる。
「私は、何?」
カイは答えた。
「……大事な人」
その言葉が、ゆっくり胸に落ちる。
大事な人。
“仲間”より、少しだけ近い言葉。
リィナは震える。
「大事なら、なんで隠すの」
カイは苦しそうに眉を寄せた。
「……壊したくないから」
「壊れるのは、嫌?」
「嫌だ」
即答だった。
リィナの涙が止まらない。
「じゃあ、私が怖がったら」
「……怖がらせたくない」
「でも怖かったよ」
「……ごめん」
リィナは首を振る。
「謝らないで」
「……じゃあ、どうしたらいい」
「分かんない」
また、分かんない。
でもリィナは気づいてしまう。
(分かんないって言いながら)
(私、離れたくない)
怖かった。
でも、嫌いじゃない。
むしろ――
(カイくんの全部を知りたいって思ってる)
それが一番怖い。
・
ギルドの灯りが見えた頃。
カイが小さく言った。
「……今日は送る」
「……うん」
歩く速度は、いつもの“置いていかない速度”。
でも、二人の間の空気はもう同じじゃない。
宿の前で、リィナは立ち止まった。
「……カイくん」
「うん」
「明日、会ってもいい?」
カイの目が揺れた。
「……会いたい」
「……うん」
リィナは宿の扉に手をかける。
その前に、もう一度だけ振り返る。
「……私、考えるの遅いよ?」
カイは微笑んだ。今度は本物の笑顔だった。
「知ってる」
「待てる?」
「待つ」
短い言葉が、約束みたいだった。
リィナは小さく頷いて、扉を開けた。
ガラン、と鈴が鳴る。
その音は――
“終わり”じゃなく、“始まり”の音に近かった。
=======
次回、最終話
第8話「告白=敗北宣言」
策士が、最後に“策を捨てる”。
甘々の回収、溺愛解禁です。
「……これ、ちょっと面倒です」
「面倒?」
ミラが眉を上げる。
受付係は依頼票を指で叩いた。
「街道近くの廃村で、交渉案件です」
「交渉?」
ガラムが鼻を鳴らす。「俺は殴った方が早い」
受付係は苦笑して続けた。
「相手が相手なので。殴るともっと面倒になります」
「……何がいるんだ」
「知性を持った魔族の小隊。人を襲ってはいないけど、物資を“徴収”してます」
「徴収って言い方」
ミラが言う。「略奪じゃない?」
「そうとも言えます。でも彼らは“契約”と言い張る」
受付係は小さく息を吐く。「話が通じる相手です。……ただし、油断すると持っていかれます」
リィナは鈴を握った。
(魔族…)
怖い。
でも“交渉”なら、戦闘より傷は少ない。
……そう思った自分が、甘かった。
カイが依頼票を受け取りながら、のんびり言った。
「大丈夫。僕が話す」
ガラム「任せた」
ミラ「お願い」
リィナも頷こうとした。
「うん、カイく――」
言いかけた時。
カイの横顔が、少しだけ変わった。
ふわふわが、薄い。
目が静かで、冷たい。
(……あれ?)
リィナの胸が、嫌な音を立てる。
リン、と鈴が鳴る。
緊張の音だ。
・
廃村は、風がやけに冷たかった。
壊れた屋根。
崩れた柵。
草だけが伸びている。
そこに――いた。
黒い外套の魔族が五人。
角は小さく、目は金色。
人の形をしているのに、空気が違う。
リィナは思わず一歩下がった。
(怖い…)
でも、その瞬間カイがさりげなく前に出た。
リィナを背中で隠すみたいに。
(……守ってくれてる)
その安心が胸に落ちる。
魔族の隊長らしい男が、ゆっくり笑った。
「人間のギルドか。交渉に来たのか?」
カイが答える。
「そう。あなたたちは物資を取ってる。やめてほしい」
「取っている?違うな。“借りている”」
「借りるには、返す前提がいる」
「返すとも。いつか」
魔族たちは笑った。
その笑い方が、ぞくっとする。
ガラムが低く言う。
「やっぱ殴るか」
ミラ「殴ったら終わる」
その空気の中で、カイはただ静かだった。
怖がっていない。
でも優しくもない。
リィナの胸が、少しずつ冷える。
(カイくん……?)
隊長が一歩前に出た。
「では契約だ。今後も物資を供給しろ。代わりにこの道は通してやる」
カイは首を傾げる。
「通してやる?この道は人間の道だよ」
「力を持つ者の道だ」
「じゃあ今は、あなたたちの道?」
「そうだ」
隊長が笑う。
「人間は弱い。弱いなら従うべきだ」
その言葉に、リィナの心が熱くなる。
(違う…!)
言い返したい。
でも声が出ない。
怖いからじゃない。
“場を壊したくない”から。
リィナは鈴を握りしめた。
リン。
カイが言った。
「弱いなら従うべき、は違う」
隊長が目を細める。
「では何が正しい?」
カイは淡々と答えた。
「弱いからこそ、協力する」
「協力?」
「人間は群れる。弱さを補うために」
「ふん。ではお前たちは、どうやってこの場を補う?」
隊長の目が鋭くなる。
試されている。
空気が張りつめる。
その時、カイが少しだけ笑った。
そして――
「あなたたちにとって、この徴収は“必要”?」
「当然だ」
「本当に?」
「生きるために」
「嘘だね」
冷たい声だった。
リィナの呼吸が止まる。
(嘘…?)
隊長の笑顔が消える。
「……何を言う」
カイは続ける。
「あなたたちの装備は新しい。部隊も整ってる。物資がなくて困ってる顔じゃない」
「……」
「あなたたちは“欲しい”だけだ」
「欲しいことが悪いか?」
「悪いって言ってない」
カイはさらっと言った。「交渉するって言ってる」
その瞬間。
リィナは、ぞくっとした。
(交渉…)
(これが…カイくんの…本当の顔…?)
隊長が低く笑った。
「面白い。人間のくせに舌が回る」
カイは微笑んだ。
「舌が回るのは得意」
「では条件を出せ」
「いいよ。あなたたちが徴収をやめるなら、この地域の安全の情報を提供する」
「情報?」
「この近くに“嫌がる存在”がいる。あなたたちも避けてるはず」
隊長の目が一瞬揺れた。
(当たった…)
リィナは息を呑む。
(カイくん、今…相手の弱点を…)
隊長が黙る。
周囲の魔族がざわつく。
カイは畳みかける。
「あなたたちの拠点、ここじゃないでしょ。移動してる」
「……」
「この場所に執着してないなら、やめる理由はある」
隊長が歯を見せて笑った。
「人間は恐怖で縛るのが上手いな」
カイは言った。
「恐怖じゃない。事実」
隊長の目が鋭くなる。「脅しだ」
カイは瞬きもしない。
「交渉だよ」
その言葉。
その言い方。
リィナの胸が――痛んだ。
(冷たい)
(怖い)
(私が知ってるカイくんじゃない…)
そう思った瞬間、涙が出そうになった。
(やだ)
(見たくない)
でも、目を逸らせない。
隊長は沈黙した後、ふっと笑った。
「いいだろう。徴収はやめる。だが次に会う時、お前の首を条件にする」
カイは軽く頭を下げた。
「どうぞ。僕は交渉が好きだから」
“好きだから”。
その言葉が、リィナの心に刺さる。
好き?
それが好き?
こんな冷たい会話が?
隊長が部隊に合図を出し、魔族たちは霧みたいに去っていった。
廃村に、風だけが残る。
・
帰り道。
ガラムが言った。
「助かった。殴らずに済んだ」
ミラも頷く。
「カイ、さすが軍師」
「軍師じゃないよ」
カイはふわっと笑う。「天然だよ」
その“ふわふわ”が、急に作り物に見えた。
リィナは足を止めてしまう。
胸が冷たい。
喉が詰まる。
(……カイくん)
(私、知らなかった)
カイが気づいて振り返る。
「リィナ?どうしたの」
リィナは言葉を探した。
「……すごかった」
「うん」
「でも……」
「でも?」
リィナの声が震える。
「……怖かった」
カイの表情が止まる。
ふわふわが、消える。
「……誰が?」
「……カイくんが」
言ってしまった。
言った瞬間、胸が痛い。
カイの目が揺れた。
ほんの少しだけ。
「……ごめん」
「違うの」
リィナは首を振った。
「謝ってほしいんじゃない」
「……じゃあ、何?」
「分かんない」
分かんない。
本当に分かんない。
ただ――
「私、カイくんが優しいの、好きで」
言いながら涙が落ちる。
「……ああいう顔、嫌じゃないのに」
「嫌じゃない?」
「ううん……嫌じゃない。頼れるって思った」
「……」
「でも、心がついていかない」
リィナは両手で鈴を握りしめた。
リン、と震える音。
「私、仲間だって思ってたのに」
カイの喉が、少しだけ動いた。
「……仲間だよ」
「でも、仲間って――」
リィナは息を吸って、続けた。
「仲間って、怖くならないと思ってた」
「……」
「怖くなったの、初めて」
沈黙が落ちる。
ミラとガラムが、遠くで気まずそうに歩く速度を上げた。
気づいて、置いていく。
残されたのは、二人だけ。
風が草を揺らす。
カイはしばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「……リィナ」
「……なに」
「僕は、天然じゃない」
心臓が跳ねた。
(言った)
(ついに)
カイは続ける。
「天然っぽく見せてる。……楽だから」
「楽?」
「警戒されない。敵も味方も扱いやすい」
リィナの胸がぎゅっとなる。
「……私も?」
カイが一瞬、息を止めた。
「……最初は」
その正直さが、痛い。
リィナは泣きながら笑った。
「……やっぱり」
「でも今は違う」
「違うって、何が」
リィナの声が小さくなる。
「私は、何?」
カイは答えた。
「……大事な人」
その言葉が、ゆっくり胸に落ちる。
大事な人。
“仲間”より、少しだけ近い言葉。
リィナは震える。
「大事なら、なんで隠すの」
カイは苦しそうに眉を寄せた。
「……壊したくないから」
「壊れるのは、嫌?」
「嫌だ」
即答だった。
リィナの涙が止まらない。
「じゃあ、私が怖がったら」
「……怖がらせたくない」
「でも怖かったよ」
「……ごめん」
リィナは首を振る。
「謝らないで」
「……じゃあ、どうしたらいい」
「分かんない」
また、分かんない。
でもリィナは気づいてしまう。
(分かんないって言いながら)
(私、離れたくない)
怖かった。
でも、嫌いじゃない。
むしろ――
(カイくんの全部を知りたいって思ってる)
それが一番怖い。
・
ギルドの灯りが見えた頃。
カイが小さく言った。
「……今日は送る」
「……うん」
歩く速度は、いつもの“置いていかない速度”。
でも、二人の間の空気はもう同じじゃない。
宿の前で、リィナは立ち止まった。
「……カイくん」
「うん」
「明日、会ってもいい?」
カイの目が揺れた。
「……会いたい」
「……うん」
リィナは宿の扉に手をかける。
その前に、もう一度だけ振り返る。
「……私、考えるの遅いよ?」
カイは微笑んだ。今度は本物の笑顔だった。
「知ってる」
「待てる?」
「待つ」
短い言葉が、約束みたいだった。
リィナは小さく頷いて、扉を開けた。
ガラン、と鈴が鳴る。
その音は――
“終わり”じゃなく、“始まり”の音に近かった。
=======
次回、最終話
第8話「告白=敗北宣言」
策士が、最後に“策を捨てる”。
甘々の回収、溺愛解禁です。
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