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第8話「告白=敗北宣言」
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その日の朝は、いつもより空が明るかった。
なのにリィナの胸の中は、ずっと曇っていた。
昨日の廃村の風。
カイの冷たい目。
「天然じゃない」
「最初は扱いやすかった」
――それでも。
(会いたい)
そう思ってしまう自分が、いちばん困った。
リィナはギルドへ向かいながら、胸元の鈴を握った。
リン。
いつもの音。
でも今日は、緊張と安心が混ざっている。
ギルドの扉を押すと、いつもの鈴が鳴る。
ガラン。
そして、今日はなぜか――
「おっ」
「来た」
「来たぞ」
人の視線が、集まった。
(え?な、なに?)
リィナが固まっていると、受付係が妙に優しい顔で手招きした。
「リィナさん、ちょっとこちらへ」
「えっ」
「裏、空いてます。……話し合いが必要そうなので」
なぜ分かった。
なぜギルドが気を利かせている。
やめてほしい。
リィナが真っ赤になりながら奥へ行くと、そこには――
ミラとガラムがいた。
そして、カイもいた。
全員揃ってる。
(え、会議!?)
(私の心、会議にかけないで!?)
ミラが腕を組んで言った。
「座って」
「は、はい……」
リィナが椅子に座ると、カイが向かいの席に座った。
いつものふわふわ笑顔……じゃない。
今日は、ちゃんと“本気”の顔だ。
ガラムが短く言う。
「昨日の件な」
リィナ「……うん」
ミラ「魔族の交渉。カイの“本性”」
リィナ「……うん……」
言葉にされるだけで、胸がきゅっとする。
カイが静かに言った。
「昨日、ごめん」
リィナは首を振った。
「謝ってほしいわけじゃ……」
「うん。分かってる」
分かってる。
その言い方が優しくて、リィナはまた心が揺れる。
ミラがため息をついた。
「じゃあ本題ね。リィナ」
「は、はい」
「カイの“天然演技”、どう思う?」
直球だった。
ギルド、容赦ない。
リィナは顔を覆いたくなる。
「……えっと……」
ガラムが言う。
「嫌なら嫌でいい。無理に仲良くしなくていい」
ミラも頷く。
「リィナは回復役として貴重。精神を守るのも仕事」
(精神を守るのも仕事…)
なんでその言葉が、ちょっと救いになるの。
リィナは鈴を握った。
リン。
怖い音じゃない。
考える音。
そして――リィナは、ゆっくり言った。
「……私は」
「うん」
「カイくんのこと、怖かった」
カイの目が揺れる。
リィナは続けた。
「でも、嫌いじゃない」
「……」
「むしろ、頼れるって思った」
その言葉に、カイの肩の力がほんの少し抜けた。
「ただ……」
リィナは息を吸う。
「隠されてたのが、さみしかった」
「……」
「私だけ、仲間だと思って、安心してたから」
それは責める言葉じゃなくて、
ただの“気持ち”だった。
カイはしばらく黙ってから、静かに言った。
「……うん」
「……うん?」
「さみしくさせたのは、本当にごめん」
ミラが頷く。
「よし。リィナの気持ちは聞いた」
ガラムも頷く。
「で、次」
ミラがカイを見る。
「カイ」
「うん」
「説明して」
「……はい」
はい、って言った。
“軍師”が、従順。
リィナは思わず目を瞬いた。
カイはリィナを見た。
目を逸らさない。
「僕は、天然じゃない」
「……うん」
「天然っぽく振る舞うのは、楽だから」
痛い言葉。
でも、リィナはもう昨日で聞いている。
だから今日は、逃げない。
カイは続ける。
「人に警戒されない。情報が集まる。味方が増える」
「……うん」
「僕はずっと、それで生きてきた」
そこで少しだけ笑う。
「たぶん、それしか知らなかった」
リィナの胸が、じんとした。
(それしか知らなかった)
その言葉は、ずるい。
優しさとは違う、痛い救い。
カイは息を吐いて言った。
「でもリィナの前では、壊れる」
リィナ「……えっ」
ミラ「ほら来た」
ガラム「来たな」
やめて。実況しないで。
カイは真面目に言う。
「僕は、優しいふりもできる。でも」
「……でも?」
「優しくしたいと思ったのは、リィナが初めて」
リィナの心臓が、どくん、と鳴った。
(初めて…)
ミラが小声で言った。
「はい確定」
ガラム「確定だな」
実況やめて!!
リィナは顔が赤くなる。
「……それ、どういう意味?」
リィナが聞いてしまった。
聞いてしまったからには、最後まで聞くしかない。
カイは少しだけ目を伏せてから――
言った。
「好きってこと」
世界が止まった。
(え)
(好き)
(今、好きって言った)
リィナの鈴がリン、と鳴った。
これはもう、音じゃない。
心臓の音だ。
ミラが立ち上がった。
「はい解散」
リィナ「えっ!?」
ガラムも立ち上がる。
「二人でやれ」
リィナ「えっ!?!?」
ちょっと待ってほしい。
今の告白を、会議みたいに処理しないで。
ミラが扉を開けながら言った。
「リィナ、考えるの遅いんでしょ」
「えっ」
「大丈夫。カイが待てるか試す時間」
ガラムが付け足す。
「待てなかったら殴る」
カイ「殴らないで」
ガラム「待て」
そして――
本当に、二人きりになった。
・
沈黙が落ちた。
ギルドの裏部屋の静けさは、
いつもより濃い。
リィナは、口を開けたまま閉じられなかった。
「……す、好き?」
確認するように言う。
カイは頷いた。
「うん」
即答。
リィナは頭を抱えそうになった。
(え、どうしよう)
(私、どう返せばいいの)
でも、返せないままの時間が続く前に――
カイが先に言った。
「待って」
「えっ」
「返事はいらない」
「えっ」
「今のは、ただの報告」
報告。
告白を報告って言う人、初めて見た。
リィナは思わず言った。
「……告白って、報告なの?」
カイは少しだけ笑った。
「僕にとっては、敗北宣言」
「えっ」
「策を捨てたから」
その言い方が、カイらしくて。
苦しくて、可笑しくて。
リィナは、泣きそうなのに笑ってしまう。
「……なにそれ」
「僕、勝つの得意だから」
「うん」
「でもリィナには勝てない」
勝てない。
そんな言葉、反則だ。
リィナは鈴を握った。
リン。
音が震える。
「……私」
リィナは小さく言った。
「考えるの遅いよ?」
カイが頷く。
「知ってる」
「待てる?」
「待つ」
また約束みたいに言う。
リィナは唇を噛んで、勇気を出した。
「……でも」
「うん」
「好きって言われたら」
「うん」
「私、嬉しい」
カイの目が、ほんの少しだけ潤んだ。
それが信じられなくて、リィナは目を見開く。
(え、カイくん、泣くの?)
カイは視線を逸らして、咳払いした。
「……それだけで、十分」
「十分じゃないよ」
「えっ」
リィナは自分でも驚くくらい、はっきり言ってしまった。
カイがリィナを見る。
リィナは頬が赤いまま、続ける。
「だって、私も」
言葉が詰まる。
(私も、好き?)
(好きって言っていいの?)
(でも、言わないと)
リィナは息を吸って、言った。
「私も……カイくんが好き」
カイの目が、完全に止まった。
「……え?」
「好き」
リィナはもう一度言った。「たぶん、恋」
たぶん。
そのたぶんが、リィナらしい。
カイは一瞬沈黙してから、ぽつりと呟いた。
「……たぶん、恋」
「うん……」
「それ、可愛い」
「もうっ!」
リィナが照れて顔を伏せると、カイが笑った。
ふわふわじゃない。
作り物じゃない。
ちゃんと、嬉しそうな笑い方。
そして、カイは静かに言う。
「じゃあ、契約しよう」
「えっ」
「“恋人契約”」
「こ、恋人契約!?」
リィナが真っ赤になっていると、カイは平然と続けた。
「条項」
「条項!?」
「第一条。リィナは、遅いままでいい」
「……うん」
「第二条。怖い時は、隠れていい」
「……うん」
「第三条。守られるのを、許可する」
許可。
リィナは胸が熱くなる。
「……第四条は?」
思わず聞いてしまった。
カイが少しだけ黙ってから、目を細めて言った。
「第四条」
「うん」
「僕は、リィナを独占する」
リィナの顔が真っ赤になる。
「ど、独占って……!」
「冗談」
「冗談に聞こえない!」
「半分冗談」
「半分本気じゃん!」
リィナがツッコむと、カイは少しだけ肩を揺らして笑った。
「そう。半分本気」
「……もう」
その「もう」が、嫌じゃない。
むしろ――
(嬉しい)
鈴がリン、と鳴った。
嬉しい音。
カイはその音を聞いて、目を細める。
「その音、好き」
「……知ってる」
リィナがそう言うと、カイは少し驚いた顔をして、
次に、ゆっくり笑った。
「……負けた」
「え?」
「今の言い方、僕より上手い」
リィナはくすっと笑う。
「私だって、頑張り屋だから」
「うん。知ってる」
「だから――」
リィナは小さく言う。「恋人、頑張る」
カイが目を丸くする。
「頑張らなくていい」
「頑張るの!」
「……じゃあ僕も頑張る」
「何を?」
「リィナを幸せにするのを」
直球。
策士、やめた。
リィナの心臓が大騒ぎする。
「……それ、反則!」
「反則なら、もっとする」
リィナは泣きそうになりながら笑った。
「……ほんと、ずるい」
「僕はずるい」
「自覚あるんだ」
「うん。恋だと自覚したら、もう止めない」
止めない。
その言葉が、甘くて怖い。
でもリィナは思った。
(止めないでほしい)
カイが、そっと手を伸ばす。
「手、いい?」
リィナは頷く。
「……うん」
カイはリィナの手を取った。
ぎゅっとじゃない。
ちゃんと“置いていかない握り方”。
その温度に、リィナは目を閉じた。
・
部屋を出ると、ギルドの廊下でミラが腕を組んで待っていた。
「遅い」
リィナ「ご、ごめんなさい!」
ミラ「冗談。で?」
ガラムも後ろから来る。
「決まったか?」
リィナは真っ赤になりながら頷いた。
「……たぶん」
ミラ「たぶんって何」
ガラム「殴るぞ」
カイ「殴らないで」
ミラがため息をついた。
「じゃあ噂、更新しとく」
リィナ「えっ!?」
ミラ「“恋してる説”じゃなくて」
ガラム「“恋してる確定”だな」
リィナ「やめてぇぇ!」
ギルドが爆笑した。
そして、カイが小さく言った。
「固定回復役、更新」
リィナ「え?」
カイはふわっと、でももう演技じゃない笑顔で言った。
「固定恋人」
リィナの顔が真っ赤になる。
「……もうっ!!」
でもその「もう」は、
世界でいちばん幸せな「もう」だった。
鈴が鳴る。
リン。
その音は、今日から――
ふたりの合図になった。
完
(ご愛読ありがとうございました)
(後日談あります!)
なのにリィナの胸の中は、ずっと曇っていた。
昨日の廃村の風。
カイの冷たい目。
「天然じゃない」
「最初は扱いやすかった」
――それでも。
(会いたい)
そう思ってしまう自分が、いちばん困った。
リィナはギルドへ向かいながら、胸元の鈴を握った。
リン。
いつもの音。
でも今日は、緊張と安心が混ざっている。
ギルドの扉を押すと、いつもの鈴が鳴る。
ガラン。
そして、今日はなぜか――
「おっ」
「来た」
「来たぞ」
人の視線が、集まった。
(え?な、なに?)
リィナが固まっていると、受付係が妙に優しい顔で手招きした。
「リィナさん、ちょっとこちらへ」
「えっ」
「裏、空いてます。……話し合いが必要そうなので」
なぜ分かった。
なぜギルドが気を利かせている。
やめてほしい。
リィナが真っ赤になりながら奥へ行くと、そこには――
ミラとガラムがいた。
そして、カイもいた。
全員揃ってる。
(え、会議!?)
(私の心、会議にかけないで!?)
ミラが腕を組んで言った。
「座って」
「は、はい……」
リィナが椅子に座ると、カイが向かいの席に座った。
いつものふわふわ笑顔……じゃない。
今日は、ちゃんと“本気”の顔だ。
ガラムが短く言う。
「昨日の件な」
リィナ「……うん」
ミラ「魔族の交渉。カイの“本性”」
リィナ「……うん……」
言葉にされるだけで、胸がきゅっとする。
カイが静かに言った。
「昨日、ごめん」
リィナは首を振った。
「謝ってほしいわけじゃ……」
「うん。分かってる」
分かってる。
その言い方が優しくて、リィナはまた心が揺れる。
ミラがため息をついた。
「じゃあ本題ね。リィナ」
「は、はい」
「カイの“天然演技”、どう思う?」
直球だった。
ギルド、容赦ない。
リィナは顔を覆いたくなる。
「……えっと……」
ガラムが言う。
「嫌なら嫌でいい。無理に仲良くしなくていい」
ミラも頷く。
「リィナは回復役として貴重。精神を守るのも仕事」
(精神を守るのも仕事…)
なんでその言葉が、ちょっと救いになるの。
リィナは鈴を握った。
リン。
怖い音じゃない。
考える音。
そして――リィナは、ゆっくり言った。
「……私は」
「うん」
「カイくんのこと、怖かった」
カイの目が揺れる。
リィナは続けた。
「でも、嫌いじゃない」
「……」
「むしろ、頼れるって思った」
その言葉に、カイの肩の力がほんの少し抜けた。
「ただ……」
リィナは息を吸う。
「隠されてたのが、さみしかった」
「……」
「私だけ、仲間だと思って、安心してたから」
それは責める言葉じゃなくて、
ただの“気持ち”だった。
カイはしばらく黙ってから、静かに言った。
「……うん」
「……うん?」
「さみしくさせたのは、本当にごめん」
ミラが頷く。
「よし。リィナの気持ちは聞いた」
ガラムも頷く。
「で、次」
ミラがカイを見る。
「カイ」
「うん」
「説明して」
「……はい」
はい、って言った。
“軍師”が、従順。
リィナは思わず目を瞬いた。
カイはリィナを見た。
目を逸らさない。
「僕は、天然じゃない」
「……うん」
「天然っぽく振る舞うのは、楽だから」
痛い言葉。
でも、リィナはもう昨日で聞いている。
だから今日は、逃げない。
カイは続ける。
「人に警戒されない。情報が集まる。味方が増える」
「……うん」
「僕はずっと、それで生きてきた」
そこで少しだけ笑う。
「たぶん、それしか知らなかった」
リィナの胸が、じんとした。
(それしか知らなかった)
その言葉は、ずるい。
優しさとは違う、痛い救い。
カイは息を吐いて言った。
「でもリィナの前では、壊れる」
リィナ「……えっ」
ミラ「ほら来た」
ガラム「来たな」
やめて。実況しないで。
カイは真面目に言う。
「僕は、優しいふりもできる。でも」
「……でも?」
「優しくしたいと思ったのは、リィナが初めて」
リィナの心臓が、どくん、と鳴った。
(初めて…)
ミラが小声で言った。
「はい確定」
ガラム「確定だな」
実況やめて!!
リィナは顔が赤くなる。
「……それ、どういう意味?」
リィナが聞いてしまった。
聞いてしまったからには、最後まで聞くしかない。
カイは少しだけ目を伏せてから――
言った。
「好きってこと」
世界が止まった。
(え)
(好き)
(今、好きって言った)
リィナの鈴がリン、と鳴った。
これはもう、音じゃない。
心臓の音だ。
ミラが立ち上がった。
「はい解散」
リィナ「えっ!?」
ガラムも立ち上がる。
「二人でやれ」
リィナ「えっ!?!?」
ちょっと待ってほしい。
今の告白を、会議みたいに処理しないで。
ミラが扉を開けながら言った。
「リィナ、考えるの遅いんでしょ」
「えっ」
「大丈夫。カイが待てるか試す時間」
ガラムが付け足す。
「待てなかったら殴る」
カイ「殴らないで」
ガラム「待て」
そして――
本当に、二人きりになった。
・
沈黙が落ちた。
ギルドの裏部屋の静けさは、
いつもより濃い。
リィナは、口を開けたまま閉じられなかった。
「……す、好き?」
確認するように言う。
カイは頷いた。
「うん」
即答。
リィナは頭を抱えそうになった。
(え、どうしよう)
(私、どう返せばいいの)
でも、返せないままの時間が続く前に――
カイが先に言った。
「待って」
「えっ」
「返事はいらない」
「えっ」
「今のは、ただの報告」
報告。
告白を報告って言う人、初めて見た。
リィナは思わず言った。
「……告白って、報告なの?」
カイは少しだけ笑った。
「僕にとっては、敗北宣言」
「えっ」
「策を捨てたから」
その言い方が、カイらしくて。
苦しくて、可笑しくて。
リィナは、泣きそうなのに笑ってしまう。
「……なにそれ」
「僕、勝つの得意だから」
「うん」
「でもリィナには勝てない」
勝てない。
そんな言葉、反則だ。
リィナは鈴を握った。
リン。
音が震える。
「……私」
リィナは小さく言った。
「考えるの遅いよ?」
カイが頷く。
「知ってる」
「待てる?」
「待つ」
また約束みたいに言う。
リィナは唇を噛んで、勇気を出した。
「……でも」
「うん」
「好きって言われたら」
「うん」
「私、嬉しい」
カイの目が、ほんの少しだけ潤んだ。
それが信じられなくて、リィナは目を見開く。
(え、カイくん、泣くの?)
カイは視線を逸らして、咳払いした。
「……それだけで、十分」
「十分じゃないよ」
「えっ」
リィナは自分でも驚くくらい、はっきり言ってしまった。
カイがリィナを見る。
リィナは頬が赤いまま、続ける。
「だって、私も」
言葉が詰まる。
(私も、好き?)
(好きって言っていいの?)
(でも、言わないと)
リィナは息を吸って、言った。
「私も……カイくんが好き」
カイの目が、完全に止まった。
「……え?」
「好き」
リィナはもう一度言った。「たぶん、恋」
たぶん。
そのたぶんが、リィナらしい。
カイは一瞬沈黙してから、ぽつりと呟いた。
「……たぶん、恋」
「うん……」
「それ、可愛い」
「もうっ!」
リィナが照れて顔を伏せると、カイが笑った。
ふわふわじゃない。
作り物じゃない。
ちゃんと、嬉しそうな笑い方。
そして、カイは静かに言う。
「じゃあ、契約しよう」
「えっ」
「“恋人契約”」
「こ、恋人契約!?」
リィナが真っ赤になっていると、カイは平然と続けた。
「条項」
「条項!?」
「第一条。リィナは、遅いままでいい」
「……うん」
「第二条。怖い時は、隠れていい」
「……うん」
「第三条。守られるのを、許可する」
許可。
リィナは胸が熱くなる。
「……第四条は?」
思わず聞いてしまった。
カイが少しだけ黙ってから、目を細めて言った。
「第四条」
「うん」
「僕は、リィナを独占する」
リィナの顔が真っ赤になる。
「ど、独占って……!」
「冗談」
「冗談に聞こえない!」
「半分冗談」
「半分本気じゃん!」
リィナがツッコむと、カイは少しだけ肩を揺らして笑った。
「そう。半分本気」
「……もう」
その「もう」が、嫌じゃない。
むしろ――
(嬉しい)
鈴がリン、と鳴った。
嬉しい音。
カイはその音を聞いて、目を細める。
「その音、好き」
「……知ってる」
リィナがそう言うと、カイは少し驚いた顔をして、
次に、ゆっくり笑った。
「……負けた」
「え?」
「今の言い方、僕より上手い」
リィナはくすっと笑う。
「私だって、頑張り屋だから」
「うん。知ってる」
「だから――」
リィナは小さく言う。「恋人、頑張る」
カイが目を丸くする。
「頑張らなくていい」
「頑張るの!」
「……じゃあ僕も頑張る」
「何を?」
「リィナを幸せにするのを」
直球。
策士、やめた。
リィナの心臓が大騒ぎする。
「……それ、反則!」
「反則なら、もっとする」
リィナは泣きそうになりながら笑った。
「……ほんと、ずるい」
「僕はずるい」
「自覚あるんだ」
「うん。恋だと自覚したら、もう止めない」
止めない。
その言葉が、甘くて怖い。
でもリィナは思った。
(止めないでほしい)
カイが、そっと手を伸ばす。
「手、いい?」
リィナは頷く。
「……うん」
カイはリィナの手を取った。
ぎゅっとじゃない。
ちゃんと“置いていかない握り方”。
その温度に、リィナは目を閉じた。
・
部屋を出ると、ギルドの廊下でミラが腕を組んで待っていた。
「遅い」
リィナ「ご、ごめんなさい!」
ミラ「冗談。で?」
ガラムも後ろから来る。
「決まったか?」
リィナは真っ赤になりながら頷いた。
「……たぶん」
ミラ「たぶんって何」
ガラム「殴るぞ」
カイ「殴らないで」
ミラがため息をついた。
「じゃあ噂、更新しとく」
リィナ「えっ!?」
ミラ「“恋してる説”じゃなくて」
ガラム「“恋してる確定”だな」
リィナ「やめてぇぇ!」
ギルドが爆笑した。
そして、カイが小さく言った。
「固定回復役、更新」
リィナ「え?」
カイはふわっと、でももう演技じゃない笑顔で言った。
「固定恋人」
リィナの顔が真っ赤になる。
「……もうっ!!」
でもその「もう」は、
世界でいちばん幸せな「もう」だった。
鈴が鳴る。
リン。
その音は、今日から――
ふたりの合図になった。
完
(ご愛読ありがとうございました)
(後日談あります!)
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