天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花

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後日談①「恋人契約、条項が増える日(※ギルド公認)」

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ギルド酒場の夜は、いつだって“噂”が育つ。

「聞いた?」
「聞いた」
「固定回復役が固定恋人になったって」
「更新、早すぎない?」
「軍師、待てなかった説」

リィナは、その噂の中心で、今日も顔を真っ赤にしていた。

「……み、みなさん……聞こえてます……」
「聞こえるように言ってる」
ミラが涼しい顔で言う。

ガラムは酒を飲みながら、ぼそっと言った。

「殴る必要、なくなったな」
「それ、どういう意味ですか!?」
「守られたって意味だ」

説明が雑すぎる。

リィナが困り果てていると、隣でカイがふわっと言った。

「大丈夫」
「えっ」
「僕が全部引き受ける」

もうその台詞、信用できない。

(全部引き受ける=全部独占する、だから……!)

リィナがじとっと見上げると、カイは無邪気に笑った。

「どうしたの?」
「……独占欲、強めでした」
「うん」
「認めた!」
「認めるよ。だって事実だし」

平然と言い切った。

リィナは両手で頬を押さえて、ぐにゃっとした。

(うぅ……強い……)

ミラが酒杯をくるくる回しながら、楽しそうに言う。

「ねえカイ。恋人契約、条項増やした?」
カイ「増やした」
リィナ「増やしたの!?」
ミラ「何条までいった?」
カイ「今、七条」
ガラム「多い」

多いよ。

リィナは恐る恐る聞いた。

「……七条って、何が増えたの……」
カイは真面目な顔で言った。

「第五条。酒場で他の男に話しかけられたら、僕の後ろに隠れる」
「第五条から独占なの!?」
「第四条で独占してる」
「そうだった!!」

ミラが口元を押さえて笑っている。

「第六条は?」
カイ「手を繋ぐのは、帰り道だけじゃなくて“いつでも”」
リィナ「いつでも!?」
カイ「うん。転ぶから」
リィナ「転ばないよ!」
カイ「転ぶ」
リィナ「転ばない!」
カイ「転ぶ」
リィナ「……転ぶかも」

負け癖がついている。

ガラムが一言。

「女、弱い」
「違います!!」

ミラが楽しそうに続ける。

「第七条は?」
カイは少しだけ視線を逸らした。

「……“好き”って言われたら、三回は返す」
リィナ「えっ」
ミラ「可愛い」
ガラム「殴る」

カイが慌てて言う。

「殴らないで」

リィナは赤くなりながら、小声で言った。

「……三回って、何……」
カイは真顔で言った。

「不足するから」
「不足って……」
「リィナの“好き”は、僕の回復」

リィナはもう、照れて倒れそうだった。



その時、隣の席から声が飛んできた。

「おーい軍師!飲め飲め!」
「恋人できたら酒がうまいか!?」
「回復役ちゃん、軍師の面倒見てやれよー!」

酒場の笑いが一斉にこっちへ向く。

リィナは椅子の上で縮こまった。

(やだぁ……!ギルド、うるさい……!)

でもカイは涼しい顔で言った。

「面倒見てもらってる」
「おー!言った!」
「軍師がデレた!」
「回復役ちゃん、やるぅ!」

リィナは頭を抱える。

「……私、何もしてないよ……」
カイが横で即答する。

「いるだけでしてる」
「えっ」
「いるだけで、僕が落ち着く」

真面目な声だった。

酒場の騒がしさが、一瞬だけ遠くなる。

リィナは胸がじんとして、視線を落とした。

(……これ)

(これ、嬉しい)

鈴が、リン、と鳴った。

嬉しい音。

カイがその音を聞いて、少しだけ笑う。

「今の音、好き」
「……もう、知ってるって言うのはカイくんの役目でしょ」
「じゃあ僕が言う」

そう言ってカイは、平然と繰り返した。

「好き」

リィナは顔を覆った。

「……やめて……死ぬ……」
「死なない」
「死ぬ!」
「回復する」
「回復術師に回復するって言わないで!」

ミラが机を叩いて笑った。

「最高」
ガラム「平和だな」



帰り道。

夜のギルド通りは冷たい空気で、月が白く光っていた。

リィナは手袋越しに、カイの手をぎゅっと握る。

「……手、いつでも条項」
カイ「うん」
リィナ「守られてる感じする」
カイ「うん」
リィナ「……ちょっと恥ずかしい」
カイ「うん」

リィナはちらっとカイを見た。

「……カイくん、今日、あんまり“天然”じゃなかったね」
カイは少しだけ笑った。

「もう、やめた」
「えっ」
「リィナの前でだけは、やめた」

胸が熱くなる。

リィナは歩きながら、小さく言った。

「……じゃあ私も」
「うん?」
「“たぶん恋”やめる」
カイがぴたりと止まった。

「……え?」
リィナは赤いまま、でも目を逸らさずに言う。

「好き。恋。確定」
カイの目が揺れる。

それから、ふっと笑った。

「……第七条、更新」
「えっ」
カイは少しだけ、声を落として言った。

「好きって言われたら、三回じゃ足りない」
「増やすの!?」
「増やす」

カイはリィナの手を握り直して、囁く。

「好き」
「……好き」
「好き」
「……好き」
「好き」

三回どころじゃない。

リィナは泣きそうになりながら笑った。

「……も、もう!」
カイはふわっと言う。

「もう、って言う顔が好き」
「それも条項にするの!?」
「する」
「条項、無限じゃん!!」

二人の笑い声は、夜の道にふわっと溶けた。

リン、と鈴が鳴る。

その音は、今日も――
“置いていかない合図”だった。
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