天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花

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エピローグ「鈴の音が、家になる」

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ギルドの掲示板には、今日も張り紙が増えていた。



ー・ー・ー・ー・ー
【お知らせ】
ギルド酒場の備品に関する注意
・回復薬の補充は計画的に
・包帯の持ち出しは申告制
・ロープは用途を明確に
(※恋人契約に使用しないこと)

――ギルド長
ー・ー・ー・ー・ー



リィナはそれを見上げて、固まった。

「……えっ」
後ろからミラの声がする。

「おはよ。生きてる?」
「生きてるけど……ギルド長、何書いてるの……!」
ガラムが横から覗く。

「恋人契約にロープ使うなって」
「使わないよ!!!」
カイがふわっと現れる。

「使わない」
リィナ「本人が言うと逆に怪しい!」
カイ「大丈夫」
ミラ「大丈夫って言う人ほど危ない」
ガラム「殴る」
カイ「殴らないで」

いつもの朝。

いつもの、騒がしさ。

でもリィナは最近、この騒がしさが好きになっていた。

それはたぶん――
“守られている”じゃなくて、“ここにいていい”に近い安心だった。



その日の依頼は小さかった。

街の外れの森で、薬草採取の護衛。
魔獣は出ない。
たまに小さな害獣が騒ぐくらい。

リィナは荷物袋を抱えて、森の道を歩く。

隣にはカイがいる。

当然みたいに。

当然みたいに、手を繋いでいる。

(第六条…だったっけ)

いや、今はもう条項の番号が分からない。

増えすぎたから。

でもその“増えすぎ”が、嫌じゃない。

リィナはふっと笑った。

「ねえ、カイくん」
「うん」
「私たちって、普通じゃないよね」
カイは迷いなく言った。

「普通じゃない」
「やっぱり」
「でも、安心は増えてる」
「……うん」

それが欲しかった。

ずっと。

おっとりしてる自分がコンプレックスで、
頑張って追いつこうとして、
“置いていかれないように”って必死だった。

でも今は、置いていかれない。

置いていかない人が、隣にいる。

リィナは小さく言った。

「……私さ」
「うん」
「カイくんに出会って、救われた」
カイの指先が、少しだけ強く握り返す。

「僕も」
その声が、あまりにも静かで、真剣だった。

リィナは足を止めて、カイの顔を見上げた。

「……カイくんは、私のことを扱いやすいって思ったんだよね」
「……最初は」

過去は消えない。

でも、カイは目を逸らさなかった。

「でも今は」
リィナが続きを待つ。

カイは、少しだけ息を吸って言った。

「扱えない」
「えっ」
「君のせいで、僕は崩れる」
「……それ、困る?」
「困る」
「やっぱり」
「でも」
カイはほんの少し笑った。

「嬉しい」

その言葉が、胸の奥に落ちた。

“策士”は、いつも勝ちたがる。
でもこの人は、負けることを選べる。

リィナは、鈴を握った。

リン。

小さな音が、森の空気に広がる。

「今の音」
カイが言う。
「好き」
リィナは笑う。

「私も」

二人の間で交わされる言葉は、いつも短い。

それで十分だと思えるようになったのは――
ちゃんと、信じられるようになったからだ。



ギルドに帰ると、酒場は今日も賑やかだった。

「おーい回復役ちゃん!」
「軍師さまー!」
「手ぇ繋いで帰ってきたぞ!」

ギルドの民度が今日も元気。

リィナは顔を赤くして小さく抗議した。

「み、見ないでください……!」
ミラが椅子に座ったまま言う。

「見せてるんだから見られる」
ガラムが頷く。

「隠してない」
カイがさらっと言う。

みんなが笑う。

リィナも笑う。

笑うことが、怖くない。

それが嬉しい。



夜。

寮の廊下は静かで、灯りが少しだけ落とされている。

リィナは部屋の前で立ち止まる。

向かいの扉は閉まっている。
でも、気配はある。

(いる)

それだけで安心してしまう自分に、リィナは小さく驚く。

(私、こんなに誰かに寄りかかれるんだ)

扉を開けて、毛布にくるまる。

カイにもらった毛布。

その時――

コンコン。

やっぱり、ノック。

リィナは笑って扉を開けた。

「……鳴ってない?」
カイが言う。
相変わらず真面目な顔で。

「鳴ってない」

リィナがわざと真面目に返す。
「じゃあ、鳴らす」

鈴を握って、リン。

静かな合図。

カイが息を吐く。

「……よかった」
「そんなに心配なの?」
「うん」
「……私、もう大丈夫だよ」
カイの目が揺れる。

「嘘じゃない?」
「嘘じゃない」

リィナは頷いて、続けた。

「怖い時は言うし、無理な時は休むし」
「うん」
「頑張りすぎる前に、頼る」
「うん」
「だから……」
リィナは少しだけ照れて、小声で言う。

「……置いていかないでね」
カイはすぐに答えた。

「置いていかない」
迷いのない声。

それが、いちばんの魔法みたいだった。

リィナは毛布の端を握って、囁く。

「……好き」
カイが静かに返す。

「好き」
リィナが笑う。

「条項、増える?」
カイは少しだけ考える顔をした。

「……増やさない」
「えっ」
カイが目を細める。

「もう、増えなくても大丈夫だから」
その言葉に、胸が熱くなった。

リィナは涙が出そうで、笑った。

「……なにそれ」
カイは少し照れた顔で言った。

「君が、ここにいるから」

ここ。

部屋じゃない。
ギルドでもない。

“隣”のこと。

リィナは鈴を握った。

リン。

優しい音。

「おやすみ」
カイが言う。
「おやすみ」
リィナが返す。

扉が閉まる。

でも、不思議と寂しくない。

向かいにいる。
置いていかない。

それだけで、眠れる。

リィナは毛布にくるまって目を閉じた。

リン、と鈴が鳴る。

それはもう、戦闘の合図じゃなくて――
“帰ってきた”の合図。

そしていつか。

ギルドの張り紙に、また増えるのかもしれない。



ー・ー・ー・ー・ー
【お知らせ】
回復役リィナと軍師カイ:部屋割り変更
(※安全面を考慮し、同室とする)

――ギルド長
ー・ー・ー・ー・ー



リィナはきっと叫ぶ。

「安全面って何!?」と。

そしてカイはきっと、いつもの顔で言う。

「半分本当」
って。

鈴が鳴る。

リン。

その音は、今日も――
ふたりの家になっていく。
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