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第7話 星の保護、定義の更新 — 計画=二人で“楽しい”へ
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◇俺 — 春灯 佑真
庁舎の中庭で、夜の準備を進めた。
札を並べる。K-07拡張(夜気バージョン)/L-33(灯りを落とす)/S-11(しゃべらない休戦)。
中央に小さな台——D-01:Definition Update Stand(定義更新台)。
目的は一つ。計画=結果という古い定義を、計画=二人で“楽しく”到達に書き換える、公務じみた私事だ。
「夕星さん、冷えないように」
「マシュマロ、持ってきました(ぽふ)」
彼女はいつもの保温壺と、星形ランタンを提げて現れた。ランタンの灯は“ちょこん火”の弟みたいに、おとなしい。
「手順を共有する。
1)L-33で灯りを落とす
2)K-07で“休む”を宣言
3)D-01で定義の読み上げ
4)G-05(ぎゅっと5秒)
5)星が出たらS-11」
「はい、復唱します(指で空中にメモ)」
俺は深呼吸し、星形クリップを確認した。上向き——休むのは任務、遂行する。
◇わたし — 夕星 りら
「えっと、先に“やわらかい準備”もいいですか」
「許可」
「では、P-00:あたたかいの、許可。それから……S-01:笑顔プロトコル・自由角度版」
“固定笑顔”ではない。勝手に湧く笑いのほう。
胸の奥がぽわっとして、でも、暴れない。
袖を、きゅ。
春灯さんがきゅと返して、うなずく。
「始めます。L-33」
ランタンの灯だけが残って、中庭が小さな夜になった。鉢植えの間を、ねこさんが二匹てちと歩く。——監査担当(勝手任命)。
◇俺
「K-07:休むのは任務——発令」
「今日は、やわらかく始めます」
彼女の声が夜に馴染む。
「では、D-01」
台の上に、今日のために作った小さな札を置いた。
> 定義更新案
> 計画=二人で“楽しく”到達
> 達成判定:**Delight Index(DI)**≧1(※笑顔・安堵・おかしみ・甘やかしの総和)。
> 付則:事故は福祉、制度はやさしさの保管庫。
「賛成なら、袖きゅ」
きゅ。
俺もきゅで返す。猫がにゃで可決した。全会一致、可愛いは民主的だ。
「……もう一つ、俺からH-10」
胸の冷たい声がまだ遠くで鳴る。だが今なら言える。
「“不釣り合い”が怖い。だから、ときどき段取りに逃げる。逃げたくなったら、**A-01(いたみの棚)**を見て、**A-02(うれしさの棚)**を隣に開ける。速度は君と決める」
言葉は、夜気にまっすぐ落ちて、音を立てずに沈んだ。
◇わたし
わたしも、H-10。
「わたし、“恋”がまだよくわかっていません。ちゃんとしなきゃって空回りします。——でも、“楽しい”なら、わかる。達成、なら、もっとわかる」
胸の奥がぽちゃんと小さく鳴った。出る——キャンディ。
ぽと。
ひと粒だけ、落ちた。
春灯さんがすぐに拾って、小皿へ。S-90:配布式の札を添える。
事故は福祉。大丈夫の手順が、ここにはいつも並んでいる。
「こわい時は、S-11をください。しゃべらない休戦、すごく助かります」
「では、S-11の前座としてG-05」
袖をきゅ。
いち、に、さん、よん、ご。
手の中の安心が、体の外まで広がっていく。
その時——
夜の天幕に、すうっと、星が滲んだ。
星の保護。
怖さじゃなくて、たぶん“うれしいが多すぎる時”にも、出るんだ。知らなかった仕様。
◇俺
星が落ちてくるのではなく、こちらの輪郭に静かに重なる。
俺たちは、規約どおり、言葉をしまう。S-11。
並んで座る。猫が左右にくっつく。星が、肩と肩のあいだの空気を、保護で満たす。
——不釣り合い、という古い札が、ふっと色褪せた。
星の下で、俺は手帳を開き、定義更新の行に丸を付ける。
> 計画=二人で“楽しく”到達
> 達成=“楽しいから”と言えること
丸印は、思ったより簡単についた。難しいのは、丸までの勇気だけだ。
やがて星は薄れた。
俺は小声で言う。
「M-34、一粒」
彼女が頷いて、ミントを半分こ。がまんの味は、今夜は“余白”だ。
◇わたし
「春灯さん、DIは、いくつですか」
「1.7(体感)」
「高い!(嬉)」
「猫の監査が入れば、2.0を超える」
猫がにゃで捺印。星の余韻が、笑いに変わっていく。
「——では、D-01・締め。読み上げます」
> 計画は、壊さず、ほどく。
> ほどいた糸は、一緒に編み直す。
> 仕上がりが少しいびつでも、二人の編み目なら、それを完成と呼ぶ。
言ってみたら、胸の中の石が、さらに軽くなった。
「ちゃんと、に代わる言葉……“いっしょに”が、いいです」
「採用。C-01:Consent to Togetherness(いっしょに条項)、追加」
条文が増えていく。規約のページが、やわらかい。
「それと、R-12:休息履行の実験」
「実験?」
「“おやすみ”を三回。今日のうちに」
春灯さんの目が、少しだけ素直になった。
わたしは星形クリップを見て、ゆっくり数える。
「おやすみ。……おやすみ。…………おやすみ」
声の間に、猫の喉がごろと鳴った。合図は、世界にも通じるらしい。
◇俺
眠ってしまいそうな夜気の中で、最後の手順。
「S-00:やわらかさの宣言」
「今日は、やわらかく終わります」
「今日は、やわらかく終わる」
宣言は短いほど、深く届く。
立ち上がると、鉢植えの縁でころとミントが一粒転がった。
「検収、合格」
「合格——楽しいから、達成だ!」
彼女が笑って、夜の空気が少し甘くなった。飴は降らない。DIは上がる。
俺たちは札を片づけ、ランタンを消し、猫監査を解散させた。
帰り道、手帳の端に小さく書き足す。
> 付記:恐れは備蓄。喜びは常備。可愛いは治安。
計画は、更新された。次は、誓いだ。
——つづく——
庁舎の中庭で、夜の準備を進めた。
札を並べる。K-07拡張(夜気バージョン)/L-33(灯りを落とす)/S-11(しゃべらない休戦)。
中央に小さな台——D-01:Definition Update Stand(定義更新台)。
目的は一つ。計画=結果という古い定義を、計画=二人で“楽しく”到達に書き換える、公務じみた私事だ。
「夕星さん、冷えないように」
「マシュマロ、持ってきました(ぽふ)」
彼女はいつもの保温壺と、星形ランタンを提げて現れた。ランタンの灯は“ちょこん火”の弟みたいに、おとなしい。
「手順を共有する。
1)L-33で灯りを落とす
2)K-07で“休む”を宣言
3)D-01で定義の読み上げ
4)G-05(ぎゅっと5秒)
5)星が出たらS-11」
「はい、復唱します(指で空中にメモ)」
俺は深呼吸し、星形クリップを確認した。上向き——休むのは任務、遂行する。
◇わたし — 夕星 りら
「えっと、先に“やわらかい準備”もいいですか」
「許可」
「では、P-00:あたたかいの、許可。それから……S-01:笑顔プロトコル・自由角度版」
“固定笑顔”ではない。勝手に湧く笑いのほう。
胸の奥がぽわっとして、でも、暴れない。
袖を、きゅ。
春灯さんがきゅと返して、うなずく。
「始めます。L-33」
ランタンの灯だけが残って、中庭が小さな夜になった。鉢植えの間を、ねこさんが二匹てちと歩く。——監査担当(勝手任命)。
◇俺
「K-07:休むのは任務——発令」
「今日は、やわらかく始めます」
彼女の声が夜に馴染む。
「では、D-01」
台の上に、今日のために作った小さな札を置いた。
> 定義更新案
> 計画=二人で“楽しく”到達
> 達成判定:**Delight Index(DI)**≧1(※笑顔・安堵・おかしみ・甘やかしの総和)。
> 付則:事故は福祉、制度はやさしさの保管庫。
「賛成なら、袖きゅ」
きゅ。
俺もきゅで返す。猫がにゃで可決した。全会一致、可愛いは民主的だ。
「……もう一つ、俺からH-10」
胸の冷たい声がまだ遠くで鳴る。だが今なら言える。
「“不釣り合い”が怖い。だから、ときどき段取りに逃げる。逃げたくなったら、**A-01(いたみの棚)**を見て、**A-02(うれしさの棚)**を隣に開ける。速度は君と決める」
言葉は、夜気にまっすぐ落ちて、音を立てずに沈んだ。
◇わたし
わたしも、H-10。
「わたし、“恋”がまだよくわかっていません。ちゃんとしなきゃって空回りします。——でも、“楽しい”なら、わかる。達成、なら、もっとわかる」
胸の奥がぽちゃんと小さく鳴った。出る——キャンディ。
ぽと。
ひと粒だけ、落ちた。
春灯さんがすぐに拾って、小皿へ。S-90:配布式の札を添える。
事故は福祉。大丈夫の手順が、ここにはいつも並んでいる。
「こわい時は、S-11をください。しゃべらない休戦、すごく助かります」
「では、S-11の前座としてG-05」
袖をきゅ。
いち、に、さん、よん、ご。
手の中の安心が、体の外まで広がっていく。
その時——
夜の天幕に、すうっと、星が滲んだ。
星の保護。
怖さじゃなくて、たぶん“うれしいが多すぎる時”にも、出るんだ。知らなかった仕様。
◇俺
星が落ちてくるのではなく、こちらの輪郭に静かに重なる。
俺たちは、規約どおり、言葉をしまう。S-11。
並んで座る。猫が左右にくっつく。星が、肩と肩のあいだの空気を、保護で満たす。
——不釣り合い、という古い札が、ふっと色褪せた。
星の下で、俺は手帳を開き、定義更新の行に丸を付ける。
> 計画=二人で“楽しく”到達
> 達成=“楽しいから”と言えること
丸印は、思ったより簡単についた。難しいのは、丸までの勇気だけだ。
やがて星は薄れた。
俺は小声で言う。
「M-34、一粒」
彼女が頷いて、ミントを半分こ。がまんの味は、今夜は“余白”だ。
◇わたし
「春灯さん、DIは、いくつですか」
「1.7(体感)」
「高い!(嬉)」
「猫の監査が入れば、2.0を超える」
猫がにゃで捺印。星の余韻が、笑いに変わっていく。
「——では、D-01・締め。読み上げます」
> 計画は、壊さず、ほどく。
> ほどいた糸は、一緒に編み直す。
> 仕上がりが少しいびつでも、二人の編み目なら、それを完成と呼ぶ。
言ってみたら、胸の中の石が、さらに軽くなった。
「ちゃんと、に代わる言葉……“いっしょに”が、いいです」
「採用。C-01:Consent to Togetherness(いっしょに条項)、追加」
条文が増えていく。規約のページが、やわらかい。
「それと、R-12:休息履行の実験」
「実験?」
「“おやすみ”を三回。今日のうちに」
春灯さんの目が、少しだけ素直になった。
わたしは星形クリップを見て、ゆっくり数える。
「おやすみ。……おやすみ。…………おやすみ」
声の間に、猫の喉がごろと鳴った。合図は、世界にも通じるらしい。
◇俺
眠ってしまいそうな夜気の中で、最後の手順。
「S-00:やわらかさの宣言」
「今日は、やわらかく終わります」
「今日は、やわらかく終わる」
宣言は短いほど、深く届く。
立ち上がると、鉢植えの縁でころとミントが一粒転がった。
「検収、合格」
「合格——楽しいから、達成だ!」
彼女が笑って、夜の空気が少し甘くなった。飴は降らない。DIは上がる。
俺たちは札を片づけ、ランタンを消し、猫監査を解散させた。
帰り道、手帳の端に小さく書き足す。
> 付記:恐れは備蓄。喜びは常備。可愛いは治安。
計画は、更新された。次は、誓いだ。
——つづく——
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