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カーテンのかかっていない窓から差し込む朝の日差しで、強制的に目が覚めた。
電気のつかない部屋の中、リアラは、黙ったまま壁に向かい、木の切れ端で壁に一つ印を増やす。
夥しい数の印は壁一面を覆い尽くしており、もはや数を数えるという機能を果たしているのかも怪しい。
リアラがわかっているのは、そろそろこの部屋に入れられて、半年が経過している、ということだけだ。
そろそろ自分の誕生日だろう。
誕生日を迎えれば、リアラに相続された財産はすべてリアラの自由にできるものになる。
本当は怖くもなんともないはずだ。
本来ならこんな暗くてなにもない部屋に閉じ込められることなど、自分で解決できる。

しかし……この魔法制御の首輪と行動を狭める指輪のおかげでなんにも出来ない。
きちんと学校へ行って魔法の習得をしたというのに不甲斐ない。
誰が自分を裏切っていたのか、など考えたくもないがやることもない暗がりの中では嫌でも考えてしまう。
だれか…いたらにしても自分が気を許していた誰かには違いない。

それだけのために壁に開いた隙間から朝ごはんが差し入れられる。パン一つと野菜スープが大量に。
餓死させようとしているわけではないらしく、毎食質素ではあるが食事が差し入れられる。
なにをどうしたくてリアラを閉じ込めているのかまったくわからない。



彼からすれば普通のことなのだろう。
荷物があるからと、部屋の中に人が転移してきた時には驚いた。

「うわ、暗い」

部屋の中に突然現れた異分子の第一声がそれで、二言目には「……臭いな」で、リアラは体を清められていない事に思い至り、羞恥と怒りで体を震わせた。

声と共に魔法が使われているのか、近くに拳ほどの大きさの丸いライトが浮かぶ。そうして、さらりとした風が一度吹くと驚くほど清涼な空気に変わる。

リアラの首についた首輪と細く骨だけになってしまったような指に未だ外れる事なくつけられた指輪を見た彼は、なるほど、と言う様に軽くため息を吐いた。

「ウルーパー・リアラで合ってますか?」

久しぶりに呼ばれた名前に懐かしさすら覚える。
返事をしようとして、ろくに声を出していなかったせいで喉が詰まった。
かさかさの喉が痛む。
こくこくと頷くだけのリアラに、彼は疲れた顔を隠す様に制服の帽子を目深に被り直す。

「ここにサインを」

見れば彼の手には小さな荷物があった。
しかしそれは……

リアラはふるふると首を振った。
魔力が封じられていてサイン出来ない。

「はぁ、受取拒否ですかね?」

疲れた声に聞かれて、リアラは驚き目を見開く。
そんなことはない、誰からのなんの荷物か知らないが忘れさられていたリアラに当てた荷物なのだ。
受け取りたいに決まっている。

リアラは、縋るように目の前の配達員の手を掴む。
痩せ細った手を見ても彼は特になにも思わないのか、「ぁあ、そうか、魔力封じしてたらサイン出来ないのか」などと言うと、おもむろにどこかに通信し始めた。

リアラはただ成り行きをぼんやりと見つめている。

人の手が暖かいことにまだびっくりしている。

「ぁー、そうなんですか、はい、あーなるほど、はぁ」

誰かになにか聞いているようだ。
通信を終えると、リアラに視線を戻した彼はじ、と光の見えない瞳でリアラの惨状を上から下まで眺めた。

「3点ほど質問します、いいですか?」

リリアラは、無言で頷く。

「声は出ませんか?」
「ぁ゛……ぇ……ぁ」

発声しようとしたが、喉が錆びついたように動かない。
1人だったため気づいていなかったが、声を出せないようになっているようだ。

「声も、か……」

検分するような視線を感じたがリアラは顔を背けたりなどしなかった。

「魔力封じは誰かに無理矢理つけられましたか?」

リアラはその質問に、何度も頷く。

「魔力封じ外したいですか? いや、はずしてもいいですか?」

リアラは、目を丸くして目の前の男を見た。
外してくれるんだろうか、……本当に?

リアラは半信半疑で頷く。

すると、彼は「なるほど、わかりました。では後ほどで構いませんので、同意書と受け取りのサインをお願いします」と言うと、リアラに向けて魔力を放った。

魔力が全く使えなくなっているリアラはなすすべなく彼からの攻撃を受けるしかない。

「……!?」


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