【完結】清い交際なんて!~温泉旅館でしっぽり♡したかったのに夜這いしてきたのは彼女の姿だけど彼女じゃないナニかだった

染西 乱

文字の大きさ
26 / 26

23(完結)

しおりを挟む
「え? なに? んぇ……狐……?」

目を擦りながら楓は、壱成の名前ではない言葉をつぶやく。

「狐??」

後ろを振り返った壱成が見たのは、ふさふさとした黄金色の尻尾を巻いて逃げていく狐の後ろ姿だった。
手入れされた毛並みの綺麗な狐だ。
姿を消す前にちらりとこちらを負け惜しみのように振り向いて、最後に一声鳴いてから駆けて行ってしまい、完全に見失ってしまった。
狐の姿になったことで縛り上げていた縄が緩んでしまい、縄抜けされてしまったらしい。

無理矢理起こした楓を床下収納から引っ張り出す。
何が起きたのか壱成以上にわかっていない楓は、自分が寝ているのが厨房の床下だと知って驚いている。

「うわ、汚…こんなところに泊まってたのか?」

狐が逃げていくと、途端に建物は老朽化したほんとうの姿を見せた。
色々なものが薄汚く汚れている。
壁もところどころ崩れて穴が空いていて、穴の向こうに駅のあかりが見えている。地面から突き出てきた朝顔らしき蔦が絡まっているところもあれば、青く錆びついてしまっている場所もある。

二人の泊まっていた部屋のなかもどこの幽霊屋敷の部屋だといいたくなるあり様で、その中にポツンと置かれていた二人のリュックが逆に異質さを放っていた。
携帯の時計を見ると、まだ始発の電車も出ていない時間だ。

「ここにいるのはちょっと……あぶないな」

明らかにガタが来ている木造建築に留まるのは怖い。

「うーん、狐に化かされたって、コト?」

楓は壱成に背を向けて、服を着替えている。
もう体調はすっかりよくなったというので、とりあえずは安心する。
壱成もボロ切れになった浴衣を脱ぎ捨てて持ってきていた着替えに替える。

「そんな昔話みたいな……」

ありえないだろ、と言いたいが今日のこの現象はそうとしか形容できない。

始発の誰もいない電車に乗ると、疲れていたため二人してまんまと寝過ごしてしまった。
結局は予定通りの帰宅時間になっていた。

いつのまにか仁志から、メッセージが届いている。
携帯に表示されたそれを読んで、壱成は顔をしわくちゃにした。

ばかやろう!
なーんにも進展なかったわ!!



しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ワケあって、お見合い相手のイケメン社長と山で一夜を過ごすことになりました。

紫月あみり
恋愛
※完結! 焚き火の向かい側に座っているのは、メディアでも話題になったイケメン会社経営者、藤原晃成。山奥の冷えた外気に、彼が言い放った。「抱き合って寝るしかない」そんなの無理。七時間前にお見合いしたばかりの相手なのに!? 応じない私を、彼が羽交い締めにして膝の上に乗せる。向き合うと、ぶつかり合う私と彼の視線。運が悪かっただけだった。こうなったのは――結婚相談所で彼が私にお見合いを申し込まなければ、妹から直筆の手紙を受け取らなければ、そもそも一ヶ月前に私がクマのマスコットを失くさなければ――こんなことにならなかった。彼の腕が、私を引き寄せる。私は彼の胸に顔を埋めた……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】 初恋を終わらせたら、何故か攫われて溺愛されました

紬あおい
恋愛
姉の恋人に片思いをして10年目。 突然の婚約発表で、自分だけが知らなかった事実を突き付けられたサラーシュ。 悲しむ間もなく攫われて、溺愛されるお話。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...