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そしてケモノは愛される
21.好きだ
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斎賀と志狼は相思相愛だ。
むしろ今更、穂積の出る幕はないとさえ言える。
だが、志狼の気持ちが斎賀に向いていると分かってはいても、自分の気持ちに気付いたからには伝えたくなった。
穂積はそういう我慢ができない性分なのだ。
志狼が納品に来るまで待つか。いや、いつ来るかなんて、その日にならなければ分からない。
志狼が怪我をして治療に来るまで待つか。いや、いつ怪我をするかなんて分からない。
いっそ、ファミリーの屋敷まで行こうか。だが、そこには恋敵でもある斎賀がいる。
気持ちを伝えたくなった途端、次はいつ志狼に会えるんだとやきもきしてしまう。
おかげで、今日の診療は一日中落ち着かなかった。
夕方になり患者の数が少なくなり始めると、そろそろ志狼が来てもいい頃だとそわそわし始める。患者が途切れるたびに待合室をうろつくものだから、祖母からはどうしたのかと怪訝な顔をされた。
だが、閉院時間になっても志狼は現れなかった。
どうやら、今日は来ないようだった。元々毎日来るわけでもないのだから、そう都合よくすぐに顔を出すとも限らない。
閉院時間になり先に祖母も帰り、穂積は待合室の明かりを消した。
今日の診療は終わりだ。カルテを片づけたら、もう帰ろう。
穂積が診察室に入ろうとすると、入り口の扉がノックされた。帰ろうとした矢先の訪問だ。急患であれば対応しなければならない。
「先生、帰っちゃった?」
扉の向こうから、待ち侘びた声が聞こえた。
穂積は急いで扉を開けた。
狩り帰りの志狼が立っていた。
もう来ないと諦めたところだったので、余計に喜びが増した。
「ごめん。遅くなった。まだ大丈夫?」
「大丈夫だ」
志狼は待合室の長椅子に剣を置くと、装備を外していく。
「雑魚ばかりだけど、今日は魔族の数がやたら多かったよ」
納品用のシャクリョウの心臓が入った袋だけを手にして、志狼は診察室へと入って行った。
追いかけるように穂積が診察室に入ると、志狼は机の上にシャクリョウの心臓を取り出し置いていく。今日の納品は二つだ。
明るい場所で見ると、志狼の頬に血がついていた。
「顔を切ったのか」
指で触れると、すでに血は固まっている。
「全然痛くないから平気」
志狼は何でも平気だと言う。それは少女を救った時から知っている。
穂積は触れた志狼の頬をそっと撫でた。
「……穂積先生?」
至近距離で見つめると、茶色の瞳が不思議そうにじっと穂積を見返してくる。
「会いたかった」
待ち侘びていたせいで、そんな言葉を零した。
様子のおかしい穂積に、志狼は首を傾げた。
「え? 何? そんな久しぶりでもないよ?」
穂積は黙ったまま、正面からぎゅっと志狼を両腕で包んだ。
「先生……?」
立ちつくす志狼の体を抱き締めたまま、穂積は志狼の体を後ろへ押していく。
突然後ろ向けに歩かされ、志狼がよたよたと足元をふらつかせバランスを崩した。
診察台に連れて行くと、仰向けに押し倒した。
「何する……っ」
また無理矢理に何かされてしまうと警戒した志狼が飛び起きようとするが、穂積はそれを制した。
「まだ何もしないから、聞け」
「……」
あくまで、まだ、だ。
だが、志狼の動きが止まる。
仰向けになった志狼の両脇に手を付き、見下ろす。警戒した瞳が、穂積を見上げた。
「志狼……。俺はお前が好きだ」
静かに告げると、志狼が目を瞠った。
まっすぐに志狼の顔を見下ろし、右の頬を撫でた。志狼は驚いたのか、ただ目をぱちくりと瞬かせ穂積を見上げていた。
「あ……あの……?」
ようやく志狼が戸惑いの声を漏らす。
突然そんな言葉を言われ、どう受け取っていいかが分からないようだ。
「言っておくが、好意じゃない。男同士でも愛し合えると言ったろう。そういう意味だ。……俺はお前を、愛している。お前がまだ誰のものでもないのなら、俺のものになれ」
むしろ今更、穂積の出る幕はないとさえ言える。
だが、志狼の気持ちが斎賀に向いていると分かってはいても、自分の気持ちに気付いたからには伝えたくなった。
穂積はそういう我慢ができない性分なのだ。
志狼が納品に来るまで待つか。いや、いつ来るかなんて、その日にならなければ分からない。
志狼が怪我をして治療に来るまで待つか。いや、いつ怪我をするかなんて分からない。
いっそ、ファミリーの屋敷まで行こうか。だが、そこには恋敵でもある斎賀がいる。
気持ちを伝えたくなった途端、次はいつ志狼に会えるんだとやきもきしてしまう。
おかげで、今日の診療は一日中落ち着かなかった。
夕方になり患者の数が少なくなり始めると、そろそろ志狼が来てもいい頃だとそわそわし始める。患者が途切れるたびに待合室をうろつくものだから、祖母からはどうしたのかと怪訝な顔をされた。
だが、閉院時間になっても志狼は現れなかった。
どうやら、今日は来ないようだった。元々毎日来るわけでもないのだから、そう都合よくすぐに顔を出すとも限らない。
閉院時間になり先に祖母も帰り、穂積は待合室の明かりを消した。
今日の診療は終わりだ。カルテを片づけたら、もう帰ろう。
穂積が診察室に入ろうとすると、入り口の扉がノックされた。帰ろうとした矢先の訪問だ。急患であれば対応しなければならない。
「先生、帰っちゃった?」
扉の向こうから、待ち侘びた声が聞こえた。
穂積は急いで扉を開けた。
狩り帰りの志狼が立っていた。
もう来ないと諦めたところだったので、余計に喜びが増した。
「ごめん。遅くなった。まだ大丈夫?」
「大丈夫だ」
志狼は待合室の長椅子に剣を置くと、装備を外していく。
「雑魚ばかりだけど、今日は魔族の数がやたら多かったよ」
納品用のシャクリョウの心臓が入った袋だけを手にして、志狼は診察室へと入って行った。
追いかけるように穂積が診察室に入ると、志狼は机の上にシャクリョウの心臓を取り出し置いていく。今日の納品は二つだ。
明るい場所で見ると、志狼の頬に血がついていた。
「顔を切ったのか」
指で触れると、すでに血は固まっている。
「全然痛くないから平気」
志狼は何でも平気だと言う。それは少女を救った時から知っている。
穂積は触れた志狼の頬をそっと撫でた。
「……穂積先生?」
至近距離で見つめると、茶色の瞳が不思議そうにじっと穂積を見返してくる。
「会いたかった」
待ち侘びていたせいで、そんな言葉を零した。
様子のおかしい穂積に、志狼は首を傾げた。
「え? 何? そんな久しぶりでもないよ?」
穂積は黙ったまま、正面からぎゅっと志狼を両腕で包んだ。
「先生……?」
立ちつくす志狼の体を抱き締めたまま、穂積は志狼の体を後ろへ押していく。
突然後ろ向けに歩かされ、志狼がよたよたと足元をふらつかせバランスを崩した。
診察台に連れて行くと、仰向けに押し倒した。
「何する……っ」
また無理矢理に何かされてしまうと警戒した志狼が飛び起きようとするが、穂積はそれを制した。
「まだ何もしないから、聞け」
「……」
あくまで、まだ、だ。
だが、志狼の動きが止まる。
仰向けになった志狼の両脇に手を付き、見下ろす。警戒した瞳が、穂積を見上げた。
「志狼……。俺はお前が好きだ」
静かに告げると、志狼が目を瞠った。
まっすぐに志狼の顔を見下ろし、右の頬を撫でた。志狼は驚いたのか、ただ目をぱちくりと瞬かせ穂積を見上げていた。
「あ……あの……?」
ようやく志狼が戸惑いの声を漏らす。
突然そんな言葉を言われ、どう受け取っていいかが分からないようだ。
「言っておくが、好意じゃない。男同士でも愛し合えると言ったろう。そういう意味だ。……俺はお前を、愛している。お前がまだ誰のものでもないのなら、俺のものになれ」
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