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ケモノはシーツの上で啼く Ⅲ

14.啼かないケモノ

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 斎賀のものを味わっていると、柴尾は髪を引っ張られた。
「私にもさせてくれ」

 斎賀は身を起こすと、座った柴尾の前に前屈みになった。

「斎賀様……」
 すでに硬くなっていた柴尾自身が、温かく濡れたものに包まれる。

 斎賀が口でしてくれていると思うと、それだけでさらに自己主張しそうだ。

「……っ、ん……斎賀様……っ」
 斎賀が動くたびに、長い髪が太腿をくすぐる。

 斎賀はキスだけでなく、口淫すらも巧みだった。柴尾はたちまち翻弄されてしまう。

 初めてのくせに何故こんなに上手いのかと、柴尾のものを下から舐め上げる斎賀をじっと見た。

「なんで……そんなに上手いんですか……っ。本当に……男と経験ないんですよね?」
 あまりに上手いので、訊ねた。ぴたりと斎賀の動きが止まる。

「………。ない」

 明らかに不自然な間が気になった。
 嘘をつかれたのだと、すぐに分かった。

 斎賀ほどの美しい者なら、女性に限らず体の関係を持っていてもおかしくはない。
 こんなことで嘘をつくようには思えないが、さすがに男に抱かれていたという過去は知られたくないのだと思えた。

 それは柴尾に、一つの答えを導き出させた。

 相手は穂積に違いない。

 それなら、あり得ることだ。
 二人の親密さを考えれば、仲間という関係から肉体関係に発展していてもおかしくはない。しかも一緒に旅をして、長い期間、夜を一緒に過ごしていたのだ。

「穂積先生と……」
 口に出すと、斎賀がぎょっとした顔を上げた。

「気色の悪いことを言うな! こちら側はない!」

 想像に耐えられなくなったのか、本当の答えが返ってきた。
「ということは、男の経験はあるんですね」
「………」
 斎賀が沈黙する。

 柴尾は斎賀から目を外さない。その黒い瞳を、斎賀は気まずそうに見返した。

「嘘を……ついたわけではない。こちら側という意味でだ。……私を抱いたのは柴尾が初めてだと言えば、満足か!?」

 少し強めの口調で訊ねられる。
 満足かと訊きながらも、それ以外の答えは許さないという目だ。

 柴尾が初めて―――。

 その響きに、じわりと胸が熱くなる。
「満足……です」
 幸せな笑みを浮かべると、斎賀は顔を隠すように俯いてしまった。

 照れているのかと思ったら、口淫を再開されてしまう。それもまた照れ隠しなのか。

 斎賀を抱きしめたくなる。早く、抱きたくなる。
 それは余計に下半身を疼かせた。
「……っ、斎賀……様、やば……っ」

 まだ斎賀をイカせてないのに。そう思ったが、巧みな口淫に誘導され、柴尾は達してしまった。

 満足気に、斎賀がにやりと笑う。
「若いな」
 大人の余裕を浮かべた笑みだ。

 男としては、相手よりも先に達するなど悔しい。
 急速に追い上げられるなんて、もしかして先程の仕返しなのではないかと勘繰ってしまう。

 インバスを使われていない斎賀は、普段の落ち着き払った斎賀そのものだった。
 そんな余裕がないくらいに、斎賀を感じさせたい。男としては、燃えずにいられない。

「余裕でいられるのも、今のうちですからね。何しろ僕は若いので」
 体力は余ってます、と笑顔で柴尾は付け加えた。
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