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ケモノはシーツの上で啼く Ⅲ

15.啼かないケモノ

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 先に達してしまったのが決まりが悪くて、柴尾は勢いよく斎賀をベッドに仰向けにした。

「早く、斎賀様の中に入りたい」
 熱のこもった目で斎賀を見つめる。

 斎賀は仕方なさげに柴尾を見た。
「軟膏は使うんじゃないぞ」

 以前尻に潤滑油として使ったインバス入りの軟膏について、釘を刺される。
「もう持ってません」

 あの出来事は、柴尾もとても反省したのだ。自室の引き出しの奥にしまってある。

 けれど、男は濡れない。朱貴から、よく解すことの大事さを教えてもらっている。何もなしでは、潤すこともできない。

「でも、どうすれば……。舐めてもいいですか?」

 それ以外に思いつかず訊ねると、軽く蹴られた。

 斎賀はいつも悠々と構えて、子供らの前では常に穏やかで優しかったのに、気に入らないことに対しては案外乱暴者だ。さっきから、それがよく分かった。
 穂積が言っていたのは、もしかしてこういう意味だったのではないかと思えた。

 斎賀は、ベッドの傍に置かれたサイドテーブルの引き出しを開けるように指示した。

 引き出しを開けると、小さな容器が入っていた。中身はジェルだった。
「どうしてこんなものを持ってるんですか?」
 素朴な疑問だった。斎賀がこのようないやらしいものを持っていることが、信じられない。
「……それは、肌の手入れ用だ」

 ベッドの傍に置いてあるからと、勝手にいやらしいものだと考えた自分が恥ずかしくなる。そんなものを斎賀が持っているはずもないのに。

 けれど、身なりには気を遣えど、自分を良く見せることには無頓着だと思っていた斎賀が、肌の手入れをしているというのは不思議に思えた。

 柴尾は斎賀の長い脚をゆったりと撫でると、斎賀の膝を左右に開いた。
 その瞬間、斎賀の体が強張った。さっきまで余裕の態度を見せていたのに、まるで警戒するような反応だった。

「嫌……ですか?」
 不安になり、訊ねた。

 この前とは違い、今はインバスの影響がない。そんな冷静な状態では、いざとなったら怖気づいてしまうのは仕方のないことだ。
 見返す斎賀の瞳は、少し動揺しているようにも見えた。

 情けない、と斎賀は小さく呟く。

「お前のせいじゃない……」
 質問に対する答えにしては、少し妙だった。

 続きをすることに少し迷っていると、斎賀の方から促された。
「気にするな。構わない」

 開き直った斎賀は、やはり男らしく堂々としている。
 それは斎賀の性格のせいなのか、それとも場数の多さのせいなのか。

 両脚を開かれ、斎賀は誘うような格好になる。顔は少し逸らされてしまった。

 柴尾はジェルを指先で掬うと、斎賀の奥へと触れた。とろりとした感触に、僅かに斎賀の体が身じろぐ。
 ゆっくりと丁寧に、斎賀の狭い場所に指を押し込めた。そこは窮屈で、押し返されるくらいだ。

 斎賀の体を傷つけないように、慎重に指を動かす。
 初めて抱いた時は、無我夢中だった。あれほど朱貴に、丁寧に解すように言われていたのに。

「以前は解すことなくいきなり挿れてしまいましたが、体は大丈夫だったのですか?」

 思う存分貫いておいて言う言葉ではないが、心配になった。
 訊ねると、斎賀からは顔を逸らしたまま視線だけ向けられる。

「インバスのせいで、それどころでもなかった」

 解すこともせず斎賀は柴尾の上に乗っかってきたが、きっとインバスの効果も良い意味で出ていたのだ。柴尾は安堵した。

 ジェルを足し、指を二本に増やす。入り口を広げるようにしながら、ゆっくりと指を抽挿させた。ジェルの濡れた音とその様は、とてもいやらしかった。
 繰り返しながら、斎賀の体の様子を見る。指を増やしていっても、問題ないようだ。

「んっ……」
 斎賀の口から、切ない声が漏れる。解す指の角度を変えたからだ。

 感じてくれている。

 嬉しくて斎賀を見るが、唇をきゅっと閉じていた。また声を抑えようとしているのだと分かる。

「斎賀様」
 呼びかけて、斎賀の反応する場所を何度も指先で押した。びくっと斎賀の太腿が震えた。

「……っ、ん」
 漏れ出す声を防ぎきれなくなったのか、斎賀は右手の甲で唇を押さえた。

「斎賀様。もう、大丈夫そうですか?」
 訊ねると、斎賀が視線だけを向けた。

 斎賀からは匂い立つような色香が漂う。
 そんなことを思ってはいないだろうが、早く挿れてほしいと誘われているようだ。
 物欲しげに、柴尾の喉がごくりと鳴った。

「………」
 手の甲で口を押えたまま、斎賀は小さく頷いた。

 自身を宛がうと、待ちきれずに柴尾は熱を持った場所へと侵入した。
「斎賀……様……っ」

 久しぶりのその場所は、柴尾を締め付けるように狭く、熱かった。
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