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14.初めての勤め
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「さて、準備は整ったようだな。脱ぎなさい」
仙波に脱げと言われるのは二度目だが、今度は目的が分かる。
那岐は仙波の手元から視線を逸らせない。
「あの、じ……仙波様? 俺はいったいどうなるんでしょうか?」
「ベッドの上で四つん這いになりなさい」
そういう意味で尋ねたのではないと言いたかったが、命じられるまま裸になり大きなベッドに乗り上がると四つん這いになった。
仙波は那岐の右手首に紐を結び付け、反対側を天蓋付きベッドの柱に括り付けた。左手も同じようにされる。
覚悟をしたつもりだった。だが、覚悟がしきれていなかった。
那岐は不安を顔に浮かべ仙波を見た。
「な、なんで拘束なんて……」
「暴れて祥月様がお怪我をされてはいけないからの」
「暴れたりなんてしない、絶対に。縛られるとか、こういうのは俺……」
「絶対などあり得ぬ」
「そんな……」
那岐を見下ろし、仙波はふむと頷いた。
「念の為に、足も縛っておくか」
「え!?」
思わず逃げそうになった体を、仙波が叩いた。肌からはぺちりと良い音が響いた。
「大人しくしておれ」
「う……」
これが自分の勤めだと分かっているから、我慢しなければならない。けれど、不安はどうしても無くせない。
「祥月様が慣れるまでは、男の体をあまり見なくて済むようにこの方が良いかもしれん」
那岐の四肢をすべて縛ると、仙波は仕上がりに満足したように頷いた。
励むのだぞ、といつもの言葉を残して仙波は部屋を出て行った。
一人になると、那岐はベッドに突っ伏した。
紐は弛んでいるが、せいぜい四つん這いになれる程度だ。
「くそ……あの爺さん!」
拘束された反動で暴れたくなり、那岐はうつ伏せのままじたばたと両手両足を動かした。こういう行動をするところが、子供っぽいと笑われるのだ。
しばらく暴れたら疲れてしまい、両手を上に伸ばした状態でベッドに突っ伏す。
遊華楼で橘宮のトップにまでなった男の末路としてはなんとも情けないことだと、那岐は悲しみの息を吐き出した。
これまでずっと男を抱く側として生きてきた。それが逆転するなどとは思いもしていなかった。
那岐は抱く側の立場でありたかった。これは、自分の外見や性格などからそう考えてしまうだけで、決して男に抱かれる側の桃宮の者たちを下に見ているわけではない。
遊郭で過ごすうちに、性行為に対して随分割り切れるようになった。衛士に抱かれた時も、体が求める快楽を素直に求めた。
だから、那岐の気持ちはさておき、きっと愛人として順応していけるはずだ。
けれど、手足を拘束され暴力を奮われたら、この先ずっと耐えていける自信がない。
「デブでもキモくても何でもいいけど、暴力は嫌だぁ。気持ちいいのはいいけど、痛いのはなぁ。俺、打たれ弱いと思うんだよなぁ、物理的に」
不安な気持ちを紛らわすように、独り言が止まらない。
「なんか、万歳してるみたいで馬鹿みたいだ……」
拘束された手首を眺め、那岐は呟いた。
状況とギャップがありすぎて笑いそうになった時、ノックもなしにドアが開いた。ぎくりとして、体が硬直する。
ノックもせずに開けるなど、この館の主人以外に他ならない。
反射的に目を閉じた。近づいてくる気配に、心臓が早鐘を打つ。
すぐ傍まで来たのが分かったが、顔を向けられなかった。
毛足の長い絨毯では足音を聞き取れない。しばらくして、ベッドに影が落ちた。
「顔を上げよ」
ただ一言、命令された。
声は、若い。凛とした声音と堂々とした口調が、育ちの良さと高貴さを表していた。
那岐は緊張の面持ちで、声の方へ顔を向けた。自分を見下ろしている男の体を辿るように、ゆっくりと顔を上げていく。
もう少しで顔が見えるという時、顎を掴まれ顔を上向かせられた。
「ふむ……。まあ、見目は悪くはない」
那岐よりも若い男は感想を述べた。
肩より少し上まで伸ばされたさらりとした黒髪の隙間から、細長い金の耳飾りが揺れた。
綺麗な顔をしているが、少し上がった目尻で冷めたような目で見下ろされると、態度のせいか非情な印象を受ける。
この男が、第三王子の祥月―――。
那岐を身請けした、これから那岐が尽くす相手だ。
細い体は暴力を奮うようには見えず、人を嬲るような道具も手にしていない。
けれどこの男が、愛人を一人壊したのだ。那岐もどうなるか分からない。
祥月は羽織っていたガウンを脱ぎ、傍の椅子に掛けた。上等な絹の部屋着が現れる。
その目的の為に来たと言わんばかりに、祥月はすぐに那岐の目の前でズボンの前をくつろげた。
「咥えよ」
仙波に脱げと言われるのは二度目だが、今度は目的が分かる。
那岐は仙波の手元から視線を逸らせない。
「あの、じ……仙波様? 俺はいったいどうなるんでしょうか?」
「ベッドの上で四つん這いになりなさい」
そういう意味で尋ねたのではないと言いたかったが、命じられるまま裸になり大きなベッドに乗り上がると四つん這いになった。
仙波は那岐の右手首に紐を結び付け、反対側を天蓋付きベッドの柱に括り付けた。左手も同じようにされる。
覚悟をしたつもりだった。だが、覚悟がしきれていなかった。
那岐は不安を顔に浮かべ仙波を見た。
「な、なんで拘束なんて……」
「暴れて祥月様がお怪我をされてはいけないからの」
「暴れたりなんてしない、絶対に。縛られるとか、こういうのは俺……」
「絶対などあり得ぬ」
「そんな……」
那岐を見下ろし、仙波はふむと頷いた。
「念の為に、足も縛っておくか」
「え!?」
思わず逃げそうになった体を、仙波が叩いた。肌からはぺちりと良い音が響いた。
「大人しくしておれ」
「う……」
これが自分の勤めだと分かっているから、我慢しなければならない。けれど、不安はどうしても無くせない。
「祥月様が慣れるまでは、男の体をあまり見なくて済むようにこの方が良いかもしれん」
那岐の四肢をすべて縛ると、仙波は仕上がりに満足したように頷いた。
励むのだぞ、といつもの言葉を残して仙波は部屋を出て行った。
一人になると、那岐はベッドに突っ伏した。
紐は弛んでいるが、せいぜい四つん這いになれる程度だ。
「くそ……あの爺さん!」
拘束された反動で暴れたくなり、那岐はうつ伏せのままじたばたと両手両足を動かした。こういう行動をするところが、子供っぽいと笑われるのだ。
しばらく暴れたら疲れてしまい、両手を上に伸ばした状態でベッドに突っ伏す。
遊華楼で橘宮のトップにまでなった男の末路としてはなんとも情けないことだと、那岐は悲しみの息を吐き出した。
これまでずっと男を抱く側として生きてきた。それが逆転するなどとは思いもしていなかった。
那岐は抱く側の立場でありたかった。これは、自分の外見や性格などからそう考えてしまうだけで、決して男に抱かれる側の桃宮の者たちを下に見ているわけではない。
遊郭で過ごすうちに、性行為に対して随分割り切れるようになった。衛士に抱かれた時も、体が求める快楽を素直に求めた。
だから、那岐の気持ちはさておき、きっと愛人として順応していけるはずだ。
けれど、手足を拘束され暴力を奮われたら、この先ずっと耐えていける自信がない。
「デブでもキモくても何でもいいけど、暴力は嫌だぁ。気持ちいいのはいいけど、痛いのはなぁ。俺、打たれ弱いと思うんだよなぁ、物理的に」
不安な気持ちを紛らわすように、独り言が止まらない。
「なんか、万歳してるみたいで馬鹿みたいだ……」
拘束された手首を眺め、那岐は呟いた。
状況とギャップがありすぎて笑いそうになった時、ノックもなしにドアが開いた。ぎくりとして、体が硬直する。
ノックもせずに開けるなど、この館の主人以外に他ならない。
反射的に目を閉じた。近づいてくる気配に、心臓が早鐘を打つ。
すぐ傍まで来たのが分かったが、顔を向けられなかった。
毛足の長い絨毯では足音を聞き取れない。しばらくして、ベッドに影が落ちた。
「顔を上げよ」
ただ一言、命令された。
声は、若い。凛とした声音と堂々とした口調が、育ちの良さと高貴さを表していた。
那岐は緊張の面持ちで、声の方へ顔を向けた。自分を見下ろしている男の体を辿るように、ゆっくりと顔を上げていく。
もう少しで顔が見えるという時、顎を掴まれ顔を上向かせられた。
「ふむ……。まあ、見目は悪くはない」
那岐よりも若い男は感想を述べた。
肩より少し上まで伸ばされたさらりとした黒髪の隙間から、細長い金の耳飾りが揺れた。
綺麗な顔をしているが、少し上がった目尻で冷めたような目で見下ろされると、態度のせいか非情な印象を受ける。
この男が、第三王子の祥月―――。
那岐を身請けした、これから那岐が尽くす相手だ。
細い体は暴力を奮うようには見えず、人を嬲るような道具も手にしていない。
けれどこの男が、愛人を一人壊したのだ。那岐もどうなるか分からない。
祥月は羽織っていたガウンを脱ぎ、傍の椅子に掛けた。上等な絹の部屋着が現れる。
その目的の為に来たと言わんばかりに、祥月はすぐに那岐の目の前でズボンの前をくつろげた。
「咥えよ」
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