あの日から、家族のカタチ 〜小学生の娘が母になった日〜

古波蔵くう

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第一章:幼き母の奮闘(父親、娘)

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【父親side】
 1年後、市立若葉小学校しりつわかなしょうがっこう。美咲も小学校高学年になって、拓海も小学校へ進学した。あの葬式のあと、拓海も美咲も大泣きしていた。
「お母さん……お母さん……!」
と。2人とも反抗期前の幼い子ども。私はどう声をかけたらいいのか、分からなかった。
 今は、小学4年生のクラス対抗リレーをしている。3組のアンカーが美咲だった。
(美咲、勝ってくれ!)
と願っていた。この後のプログラムは
『1年|借り物競走(母親と参加)』
と書かれている。そんな、母親のいない私の家族はどうしたらいいんだ。私の家族に『母親』はいない。去年の家族の日に亡くなった。
『優勝が決まった! 4年生クラス対抗リレーは3組が優勝!』
観客の歓声の中、私だけ暗い哀しみに落ちていく。この後の拓海が不憫で。すると、美咲が戻ってきて
「お父さん、次のプログラム拓海の番だよ!」
「あぁ……」
私は拓海の悲しむ顔が見たくなかった。すると、美咲がプログラム表を見て水筒の下に敷いた。
「分かった!」
「お父さん、あたしがやる!」
美咲が胸を張って、心臓のある方に拳を当てて
「今日からあたしが、お母さんになる!」
と宣言した。美咲は運動場の入退場口へ向かった。クラス対抗リレーの後なのに走る力があるのだろうか。私はただきょとんとしていた。
【娘side】
 あたしの名は、神崎美咲。今はクラス対抗リレーが終わって、次は拓海の初の出番なのだけど、あたしも参加している。だって、そのプログラムには、母親がいないといけないから。拓海が、目を伏せたまま、誰にも見られたくなくて立っていた。周りの子たちは、みんなお母さんと手をつないでいる。
(僕にはお母さんがいないんだ)
という現実を、突きつけられた。
その時、校門近くから、見慣れた体操服姿のあたしが走ってくるのが見えたらしい。
あたしは、拓海の前に立つと、息を切らしながらも、まっすぐ拓海の顔を見る。あたしは、拓海よりたった3つ年上だけど、すごくしっかりしてる。
拓海が戸惑いの声を出すよりも早く、あたしは、その場で、一生懸命、声を張り上げる。
「今日から、私が、お母さんになる!」
入退場口全体に響き渡った。あたしは、宣言を終えると、拓海の小さな手を力強く掴んだ。そして、拓海にだけ聞こえる声で
「行くよ、拓海……借り物競争、お母さんと一緒に、一番になろう!」
拓海は、あたしの言葉を疑うことなく、強くうなずいた。目の前に、寂しい拓海を助けに来てくれた『お母さん』がいる。それが、すべてだったみたいに。
 あたしと拓海は列に並び、スタートの合図で走り出した。借り物競走のカードが置かれたテーブルにたどり着き、あたしが引いたカードには、こう書かれていた。
『お父さんが肌身離さず持っている、奥さんの思い出の品』
拓海は、迷わず観客席の父さんを指さす。
父さんは、きょとんとしていたが、拓海の、
「父さん!」
の声で、我に返った。カードの内容を見て、すぐにあたしたちの意図を理解した。父さんは、胸ポケットに手を入れた。そして、父さんが取り出したのは、小さく輝く、白い花の形をしたヘアピンだった。それは、遺影の中で、お母さんがいつもつけていた、見慣れたヘアピンだ。あたしは、そのヘアピンを渡されると、それを体操着の胸元にぎゅっと握りしめた。あたしの瞳に、一瞬、涙の膜が張った。
「行くよ、拓海!」
あたしは、天国へ行ったお母さんの思いと、『お母さん』としての決意を胸に、拓海の手を引いて再び走り出した。クラス対抗リレーの疲れなんて、もう感じない。
あたしは、お母さん――拓海の隣で走っている。その瞬間、あたしの胸は、誇らしさと、熱い喜びに満たされた。
この日から、あたしは『お母さん』になった。
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