とある雑多な思考錯語

工事帽

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俺のお腹が痛いのは大体幼馴染のせいだ

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シクシクと痛むお腹をさする。
そう、シクシクと、痛い。
痛みの表現方法というものは意外に多い。ズキンと、ズキズキと、ジンジンと、ガンガンと、ヒリヒリと、ズーンと、ピリピリと。
音で表現するこの方法はオノマトペと呼ばれるものの一種だ。擬音語ともいう。
だが、そんな知識は痛みに耐えるためにはなんの効果もない。痛みに悶えながらも俺は必死に考える。なぜこんなことになったのかを……
事の始まりは今朝のこと。
俺の名前は新島誠司(しんじませいじ)。どこにでも居そうな普通の学生である。
特に秀でた才能もなく、かといってなにもできないというわけでもない。
強いて言えば勉強ができる方ではあると思うが、それはあくまで高校生レベルまで。大学受験を控えているからそこそこ頑張っているが、それでも全国レベルで見れば中の上程度だろう。
運動も人並みにはできるが、それも全国レベルで見れば中の下くらいだと思う。
要するに俺は普通なのだ。突出した部分のない凡人。それが俺だった。
そんな俺は現在、幼馴染の女の子と一緒に登校している最中である。
彼女の名前は神崎美琴(かんざきみこと)。
腰まであろうかという綺麗な黒髪ロングヘアーが特徴の少女だ。
彼女は成績優秀、容姿端麗、文武両道とまさに完璧美少女という言葉がぴったり当てはまるような少女である。
実際、学校での人気は凄まじく、男子はもちろんのこと女子からも憧れの目で見られる存在らしい。
かくいう俺も彼女に憧れていた時期がある。
時期がある、というのは語弊があるかもしれない。ある時期から始まって、今に至っても、憧れ続けている。
それは彼女が完璧な存在であるということだけが理由ではない。
彼女とは家が隣同士で家族ぐるみの付き合いがあった。小さい頃はよく一緒に遊んだものだ。
だから、というわけではないのだが、俺は彼女に淡い恋心を抱いていた。
しかし、その気持ちを伝えることはできなかった。
理由は簡単。俺は告白してフラれることが怖かったのだ。
自分のことを好いている異性がいるとして、その相手が自分より優れた人間であればなおさら恐怖を感じるだろう。
自分が惨めになるだけだし、相手に申し訳ない気持ちにもなる。
だから俺は告白しなかった。臆病者と言われても仕方がないとは思う。
ただ、後悔はしていない。なぜなら、今の関係を壊すくらいならこのままの関係を続けていく方がいいと思ったからだ。
結局のところ、俺は現状維持を選択したに過ぎない。
そして、だからこそ、自分の気持ちを自覚してからは距離を取るようになった。
もちろん、今まで通りの関係ではいられなくなることは覚悟していた。でも、幼馴染という関係を失う方が嫌だったのだ。
結果、知り合い以上友人未満の距離感で過ごしてきた。
それなのに、彼女は朝食を食べている最中に家に乗り込んできた。そして話があるから一緒に登校しようと言う。
一緒の登校なんて、小学校の低学年の頃、集団登校だった頃以来だ。
嬉しさよりも正直、恥ずかしいし気まずい。道行く人が俺たちを見ているような気がする。なんで美少女の隣にあんな凡人がいるのだと。
一言も口を開くことなく、隣を歩いている彼女の姿を盗み見ながら、悪い想像ばかりが頭を駆け巡る。
告白された? いや今までだって何人も玉砕してきたやつらは居た。
付き合うことになった? いやそんなことを俺の家にまで押しかけて話すとは思えない。
なら脅迫? 小さな頃の恥ずかしい行動をばらされたくなければ、いや彼女がそんなことをする必要があるだろうか。俺よりもよっぽど優秀なのに。
シクシクと痛むお腹をさすりながら、またチラリと彼女の横顔を盗み見る。そしてキレイな横顔にすっと目を逸らす。
なんの話かは分からないけれど、成績優秀、容姿端麗、文武両道な完璧美少女のお話だ。凡人の俺にどうにかできるとは思えない。なんとかして穏便に断らないと。
断る文句を頭の中で並べながら、あまりの語彙の少なさにお腹の痛みが増してきた気がした。
「ねえ誠司くん」
彼女が不意に口を開く。
「ああ」
答えながら断る文句を頭の中で反芻する。
「一緒に世界を救わない?」
「嫌だけど」
想像の斜め上のお願いに、俺は思わず直接的な言葉で断っていた。
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