[完結]加護持ち令嬢は聞いてはおりません

夏見颯一

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29,天然の完勝?

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「私が言っているのは、彼の言いたいことが分かったということです」
「外から見ると復唱しているだけでございます」

 外から見るとやはり残念なことになっておりましたか。そんな気は薄々してはおりました。
 ディルさんとは意思疎通がいまいち出来ておりませんからね。でも、ディルさんはこのコミュニケーション能力の低さでよく王族の従者にまで上り詰めましたよね。
 もしかして、何か凄い能力をお持ちなのかもしれません。

「ええと……アウリス様の腹心の部下の方なのですよね」
「はい。消去法で選ばれましたが、腹心の部下ですので国レベルの機密情報まで存じております」
 後半はともかく、消去法って何があったのでしょうか?
 肯定と否定の中に妙な情報を挟んでくる話し方……。
「もしかして、煙に巻くその話し方が絶妙に情報を話さないから、その地位を得られたのかしら?」
「この話し方は元々で、私と話す誰もが怒りますね」
 違いました。
 広い国の人が多い場所では、本当に色々な方がいらっしゃいますね。いかに自分が狭い世界で生きていたのかよく分かります。
「直そうとは思いませんの?」
「私は特に困っておりませんよ」
「そうなの? なら、直す必要はありませんね」
「お分かり頂けて幸いです」

 良い感じに結論が付いたと思いましたが、
「本題からずれておりますし、会話は相手に理解できるよう話すものですよ」
 鋭い意見が横のウィルマから飛んできました。
 見るとなかなか私達の話が進まないことにか、ウィルマの眉間に少しだけ皺が寄っていますね。

「あら? そもそも何の話だったかしら?」
 私の記憶力は笊なので、別の話に夢中になっていたら忘れてしまいました。
「私が凄い能力を持っているのではないかという話でございますね」
「そんな感じだった気もするわ」
「違います。レーニア嬢がソニア王女と入れ替わっている事情を知った上で、王女の貴女にアウリス様がご自身の息子の婚約者にとこの国の王家に打診したと言う話でございます」
「……本当にそんな話だったかしら? 何か違う気もするわ。ちゃんと大事な話なら話して頂戴」
「いえ、本当のホントでございます。元々こういう話でございました」
「違うでしょ。貴方、ずっと煙に巻く話し方していたでしょう。間違いなく今の貴方は嘘をついているわ。正直に今まで何を話していたか答えなさい」
「さて、困りましたね……。本当に私達はレーニア様にとって大事な話をしていたんですよ」
「だからそれは嘘でしょ。もう見破られているのだから、観念して私に本当のことを話なさい」
「……では、貴女はどういう話だったと推測しておられますか?」
「貴方が特殊な能力を持っているというお話だったのではないかしら?」
「ここまで私が会話で追い込まれたのは初めてですよ。貴女の方が特殊能力がおありではないでしょうか」
「私、加護持ちですよ」
「……」

 あら、ディルさんが沈黙されましたね。
 なかなか真実を話さない強情な方ですよね。
「で、真実を話してください」
「ですから、レーニア嬢がソニア王女と入れ替わっている事情を知った上で、王女の貴女にアウリス様が息子の婚約者にと打診したと言う話でございます」
「そうではなくて……」
「ディル様のお話が真実でございます」
 とうとうウィルマは大きなため息をつきました。
「お二方とも、大事なお話なのですよ」
 怒られてしまいました。
 私とディルさんが黙ると、
「もう少し優しさが欲しいね!」
「ここまで甘過ぎるくらいに優しいというのに、貴方こそ文句があるとは恐ろしい」
 ……あちら、レイディス様達は止める方も修正する方もおられませんね。
 もしかしてディルさんがその役目をお持ちではないのかしら?
 ちらりとディルさんを見ると、
「私は給料分以外は働きませんよ」
 時間も状況も給料内ではないかしら?
 いえ、隣国での勤務形態、雇用契約内容は分かりませんね。本人が給料外と仰るのなら、これは給料外の仕事なのでしょう。
 きっと多分、プロフェッショナルはこういうものなのでしょうね。

 ウィルマの圧を受けながら、漸くディルさんは説明を始められました。
「アウリス様とオラージュ公爵は古くから親交がありまして、もしも周囲がどうにもならなくなってレーニア様がお困りになったら、アウリス様がレーニア様を助けると約束をしております」
「王侯貴族の約束にしては一方的なのね」
 どうしても王侯貴族は影響力も財力もあるので、約束するにしても何らかの対価があるのが一般的です。対価も代償もない契約は珍しいと思います。
「……レーニア様は加護持ちでいらっしゃいましたよね」
「ええ、そうよ。それが何か?」
「ええとですね……他国の王族は加護持ちの女性を妻に迎えることが、王位継承の条件となっている国も少なくありません。とは言え、王妃になる女性は王族、貴族の方が望ましいのですよ」
「つまり、王族、加護持ちの女性は価値があると」
「そうです! そういうことなのです!」
 と、いうことは……?
 うーん……。
「つまり、金」
「どうしてその発想に至るのですか!」
 ごめんなさい、分かりません。
「王妃様って普通、妖艶な美女ですよね。私には妖艶さはちょっと……」
「いつ私が美女が王妃の条件って言いましたか? 王妃の条件が加護持ちなんですよ!」
「やはり、金」
 私がそう言うとディルさんは天を仰ぎました。
 私は豊穣の加護で実りをもたらすことによって結果的に金を生むんですよ。
 そちらの方こそお分かりでしょうか。
 

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