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第九章〜東部の傷跡〜⑤
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「……そろそろ行こうか、ライナスのお土産も買わないといけないし」
「うん」
ベルは立ち上がり、手についたパイの粉を軽く払った。
その仕草にフィールも続き、二人はゆるやかに人混みを抜けていく。
そして広場を抜けると、ちょうど先にエルクたちの姿を見つけたのだ。
ヴァンとともに袋に入っている焼き菓子に手を伸ばし、頬張っている姿に二人は顔を見合わせて笑う。
「ふふっ……二人とも、それ、おいしい?」
ベルが声をかけると、エルクとヴァンは慌てて口元を拭き始めた。
「ち、違う……!これはライナスの土産のために味見を……っ!」
「つまり、つまみぐいってことね?」
「味見だ!」
そんな様子に、フィールは苦笑しながら一歩前に出る。
「まぁまぁ、落ち着いて?たくさん買うんだし、大丈夫だよ」
その言葉に、ベルは笑い、ヴァンはほっとしたように肩の力を抜いた。
エルクも小さく咳ばらいをし、そっと袋を背中に隠した。
「ま、ちょうどいいや。こっちの屋台が気になってたんだ」
エルクが指さした先には、カラフルな包装に包まれた焼き菓子や、香ばしいナッツのキャラメリゼ、果実のジャムを挟んだサンドクッキーなどがずらりと並んでいた。
「これ、サクサクで軽いんじゃない?見た目も派手だし、ライナスの気分も晴れるかも」
「こっちのは渋い味って書いてある。ライナスっぽい気がするけど……」
「あんまり甘いのばっかってのも―――」
エルクとフィール、ヴァンが吟味していると、ベルがずぃっと顔を出した。
「甘いやつ三つね!!」
その言葉に、三人は「また言ってる……」と、笑いながら肩を落としたのだった。
その後、寄宿舎で待つライナスのもとに、『甘いものだらけのお土産』が届いたことは―――いうまでもない。
次の日の朝、イースティアの街に澄んだ鐘の音が響くなか、エルクたちは寄宿舎を出て東支部の門前へと向かっていた。
昨日は祭りで賑わった街も、今は落ち着いた静けさを取り戻し、通りには清掃する人や片づけをする人々の姿がある。
「……ほんとに楽しい一日だったな。支部長には礼を言わないと」
目を細めながらそう言ったエルクに、ライナスはため息交じりに肩をすくめた。
「部屋は甘い匂いでむせ返りそうだったけどな」
ライナスがちらっとベルを見ると、彼女は首を傾げる。
「えっ……少し控えたつもりだったんだけど」
その言葉に、ライナスは目を見開くものの、フィールが苦笑しながら言葉を添えた。
「控えたっていうより、選びきれなかっただけじゃないかな?サンドクッキーが三種類に、ベリータルト、それからナッツのキャラメリゼを二袋。あと―――」
「おいおい、勘弁してくれ……。俺は甘さよりガツンと食えるほうが―――」
「でも全部食ったんだろ?」
エルクの言葉に、ライナスはふぃっと目を逸らした。
「……残すのは悪いだろ。……一応、感謝はしてるよ」
ベルは満足げに頷き、エルクとフィールはそのやり取りに目を細めた。
祭りの喧騒から一夜明け、日常に戻っていく朝に彼らは一歩踏み出す。
すると、門の前では酒瓶―――ではなく、湯呑みを手にしたムジカが待っていたのだ。
「おう、もう出るのか?―――ったく、若いもんは元気だな」
湯呑みをひょいと揚げながら笑うムジカの姿に、ベルがすかさず突っ込む。
「今日はお酒じゃないんですか?」
「ほぉ?これでも朝くらいは控えてるんだよ。……昨日の片付けもあって、胃にやさしいもんが飲みたくてな」
そう言うムジカに、フィールは湯呑からほんのりと梅の香りを感じていた。
ついでに酒の香りもしたことに対し―――目を逸らす。
「……支部長、昨日はありがとうございました。祭り、楽しかったです」
フィールが頭を下げると、それに続くように四人も頭を下げた。
「……礼なんざいらん。お前らみたいな若いもんが笑ってりゃ充分だ」
その言葉には、どこか父親のような包容力と歳月を積んだ穏やかさが滲んでいた。
「また来ます!ありがとうございました!」
ベルが手を振りながら言うと、ムジカは豪快に笑ってこう答えた。
「おうよ!次はもっとでっかい祭にして待ってるからな!」
こうして五人は東支部をあとにし、汽車の待つ駅へと向かった。
ほどなくして乗り込んだ汽車の中で、エルクは静かに窓の外を見つめる。
隣では、ウトウトと眠り始めたベルとフィールが寄り添うように軽く肩を預け合っており、その様子を見て軽く息を吐く。
「ほんとにいい休息だったな」
誰に言うでもなく呟いたエルクは、そのままそっと目を閉じた。
その汽車がアースヘルムへと走り出すころ、東の地で過ごしたひとときの記憶は胸の奥で灯りを残したのだ。
そして、新たな日常が―――また始まるのだった。
「うん」
ベルは立ち上がり、手についたパイの粉を軽く払った。
その仕草にフィールも続き、二人はゆるやかに人混みを抜けていく。
そして広場を抜けると、ちょうど先にエルクたちの姿を見つけたのだ。
ヴァンとともに袋に入っている焼き菓子に手を伸ばし、頬張っている姿に二人は顔を見合わせて笑う。
「ふふっ……二人とも、それ、おいしい?」
ベルが声をかけると、エルクとヴァンは慌てて口元を拭き始めた。
「ち、違う……!これはライナスの土産のために味見を……っ!」
「つまり、つまみぐいってことね?」
「味見だ!」
そんな様子に、フィールは苦笑しながら一歩前に出る。
「まぁまぁ、落ち着いて?たくさん買うんだし、大丈夫だよ」
その言葉に、ベルは笑い、ヴァンはほっとしたように肩の力を抜いた。
エルクも小さく咳ばらいをし、そっと袋を背中に隠した。
「ま、ちょうどいいや。こっちの屋台が気になってたんだ」
エルクが指さした先には、カラフルな包装に包まれた焼き菓子や、香ばしいナッツのキャラメリゼ、果実のジャムを挟んだサンドクッキーなどがずらりと並んでいた。
「これ、サクサクで軽いんじゃない?見た目も派手だし、ライナスの気分も晴れるかも」
「こっちのは渋い味って書いてある。ライナスっぽい気がするけど……」
「あんまり甘いのばっかってのも―――」
エルクとフィール、ヴァンが吟味していると、ベルがずぃっと顔を出した。
「甘いやつ三つね!!」
その言葉に、三人は「また言ってる……」と、笑いながら肩を落としたのだった。
その後、寄宿舎で待つライナスのもとに、『甘いものだらけのお土産』が届いたことは―――いうまでもない。
次の日の朝、イースティアの街に澄んだ鐘の音が響くなか、エルクたちは寄宿舎を出て東支部の門前へと向かっていた。
昨日は祭りで賑わった街も、今は落ち着いた静けさを取り戻し、通りには清掃する人や片づけをする人々の姿がある。
「……ほんとに楽しい一日だったな。支部長には礼を言わないと」
目を細めながらそう言ったエルクに、ライナスはため息交じりに肩をすくめた。
「部屋は甘い匂いでむせ返りそうだったけどな」
ライナスがちらっとベルを見ると、彼女は首を傾げる。
「えっ……少し控えたつもりだったんだけど」
その言葉に、ライナスは目を見開くものの、フィールが苦笑しながら言葉を添えた。
「控えたっていうより、選びきれなかっただけじゃないかな?サンドクッキーが三種類に、ベリータルト、それからナッツのキャラメリゼを二袋。あと―――」
「おいおい、勘弁してくれ……。俺は甘さよりガツンと食えるほうが―――」
「でも全部食ったんだろ?」
エルクの言葉に、ライナスはふぃっと目を逸らした。
「……残すのは悪いだろ。……一応、感謝はしてるよ」
ベルは満足げに頷き、エルクとフィールはそのやり取りに目を細めた。
祭りの喧騒から一夜明け、日常に戻っていく朝に彼らは一歩踏み出す。
すると、門の前では酒瓶―――ではなく、湯呑みを手にしたムジカが待っていたのだ。
「おう、もう出るのか?―――ったく、若いもんは元気だな」
湯呑みをひょいと揚げながら笑うムジカの姿に、ベルがすかさず突っ込む。
「今日はお酒じゃないんですか?」
「ほぉ?これでも朝くらいは控えてるんだよ。……昨日の片付けもあって、胃にやさしいもんが飲みたくてな」
そう言うムジカに、フィールは湯呑からほんのりと梅の香りを感じていた。
ついでに酒の香りもしたことに対し―――目を逸らす。
「……支部長、昨日はありがとうございました。祭り、楽しかったです」
フィールが頭を下げると、それに続くように四人も頭を下げた。
「……礼なんざいらん。お前らみたいな若いもんが笑ってりゃ充分だ」
その言葉には、どこか父親のような包容力と歳月を積んだ穏やかさが滲んでいた。
「また来ます!ありがとうございました!」
ベルが手を振りながら言うと、ムジカは豪快に笑ってこう答えた。
「おうよ!次はもっとでっかい祭にして待ってるからな!」
こうして五人は東支部をあとにし、汽車の待つ駅へと向かった。
ほどなくして乗り込んだ汽車の中で、エルクは静かに窓の外を見つめる。
隣では、ウトウトと眠り始めたベルとフィールが寄り添うように軽く肩を預け合っており、その様子を見て軽く息を吐く。
「ほんとにいい休息だったな」
誰に言うでもなく呟いたエルクは、そのままそっと目を閉じた。
その汽車がアースヘルムへと走り出すころ、東の地で過ごしたひとときの記憶は胸の奥で灯りを残したのだ。
そして、新たな日常が―――また始まるのだった。
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