終焉の召喚術師〜悪魔の蔓延る世界に立ち向かう少年たち〜

NovaPro

文字の大きさ
75 / 97

第十六章〜新契〜③

しおりを挟む
その後、部屋を出たエルクは外で待っていた仲間たちに出迎えられた。
彼の姿を見つけたフィールが、すかさず駆け寄ってくる。

「エルク!どうだった!?」

期待に満ちた目に、エルクは少しだけ微笑み、頷く。

「……無事に契約できたよ。これで父さんの意志を継げる。悪魔たちを―――止めてみせる」

その言葉には、これまでになかった確かな重みが宿っていた。

「……そっか。よかった!」

フィールは安心したように笑みをこぼし、胸に手をあてる。
するとその背後から、どしりとした足音とともに、バールが近づいてきた。
そして、大きな手でエルクの頭をわしっと撫で、うれしそうに呟く。

「よくやった。さすが教皇の子だな」
「ちょ、ちょっと……髪がぐちゃぐちゃになるって……!」

エルクは苦笑しながら、少し照れくさそうに―――

「でも……ありがとう」

エルクがそう言うと、バールはニッと口元を緩めてもう一度ぐしゃりと頭を撫でた。

「やめっ……本当に髪が……!」
「ははっ、そもそも整っているような髪でもないだろう?」

儀式が終わり、やわらかな空気に包まれて、エルクの顔に笑顔が戻る。
だが―――それは束の間のことでもあった。

「バール様!異常気象に関する報告が届きました!」

ひとりの教会員が急ぎ足でやってきて、報告書をバールに手渡した。
バールは表情を引き締め、目を通し始める。

「……やはり、そうか」

低く呟くと、彼は周囲を見回して全員にこう告げた。

「各支部長からの報告によれば、現在、この国アストリアにおいて異常気象が確認されているのは一か所。ここ―――アースヘルムだけのようだ」

その言葉に、みな顔を合わせる。

「どういうことだ……?」

疑問を持つエルクたちに、バールは重い口調で答えた。

「奴らは―――この中央に潜伏している可能性があるということだな」

その一言に、場の空気がぴんと張り詰めた。

「前回の襲撃以降、アースヘルムでは断続的に雨が続いていた。季節柄、さほど不自然には映らず、都市機能の充実もあって街に大きな被害はでていない。……だが、これは『偶然』ではない」

バールは報告書を閉じ、拳を握った。

「これはサタンの力―――いや、『存在するだけで世界に歪みをもたらす』とされる憤怒の王の影響だ。奴はまだこの地にとどまり、終末の日に向けて何らかの準備を進めているのだろう」

一同は言葉を失い、重い沈黙に包まれた。
そんななかで、フィールが低く呟くように問いかける。

「じゃあ……またマリアたちを狙ってくるかもしれないってこと……?それが終末の日……?」
「そう考えるのが自然だ」
「そんな……」

バールの言葉に、マリアは息を呑んだ。
その様子を見たエルクがぐっと拳を握る。

「でも『終末の日』っていつなんだ?」

エルクの問いに、ハイントスマンが静かに口を開いた。

「おそらく……『一年でもっとも日が短い日』と『新月が重なる日』であろう」
「『もっとも短い日』と『新月』……」
「数十年に一度、あるかないかじゃが―――奇しくもその日は今年、あと数週間後に訪れる」

ハイントスマンの言葉に、一同はざわめいた。
終末の日がそのときだとすれば、備えるには時間が少なすぎるのだ。

「その日は、陽が早く沈む。月の灯りすらも昇らず、世界から『自然の光』が完全に消える夜が訪れるというわけじゃ」

空気を凍らせるような重い言葉に、みながその『日』を想像する。

「悪魔たちにとって、その日は最大限に力を引き出せる日となるじゃろう。それは―――ロキにとっても好都合……いや、もっともふさわしい舞台だと、捉えておるかもしれぬ」

一同の表情が引き締まる。
誰もが黙り込むなかで、全員の胸には同じ思いが広がり始めていた。

「……で、あれば―――」

沈黙を破ったのは、バールだった。
彼は一歩前に出ると、場にいる全員に聞こえるよう、ハッキリと言い放つ。

「我々は、その日に合わせて戦いの準備を進めなければならない。エルクはオーディンと契約したばかりで、力に慣れていないだろう。これまでの訓練を継続し、さらなる強化を図れ」

その言葉に、エルクは黙って頷いた。
自身の中に流れる力を感じつつ、重責と覚悟を今一度、胸に深く刻みつける。

「各々、個々の力を高めるためだけでなく、連携の制度を上げることにも集中するように。……これからの戦いは、単独では勝てぬ。力を束ね、心をひとつにせねばならないだろう。そして―――」

バールの表情が、一層引き締まる。

「この戦いには、エクソシストやシスターたちの協力も不可欠だ。彼らの戦力なしに、終末の日を乗り越えることはできないだろう」

その瞬間、マリアやイーネがわずかに背筋を伸ばした。
静かな決意が場を満たしていき、彼らは無言ながらもそれぞれの胸に覚悟を刻んだのだ。

そして一同は、誰もがその日までの時間を悔いなく過ごすため、己のすべきことへと向かっていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...